2017年5月30日火曜日

胃生検のやっつけかた【1. はじめに】

2017/05/30 1st edition.
2017/07/07 Last updated. 

○ 誰を対象にしているのか
・この文章は病理医を始めて 1 - 2 年目の先生,病理診断に興味のある消化器内科の先生
・必要な背景知識は医学部の学生の下から数えて何番目程度の人に設定
・臨床検査の学生さんや興味のある看護師さんでも読める,と思いたい

○ 胃生検は難しい?
・胃生検も難しいと言われることもあるが,それを言い出すと全部難しい
・どの臓器でもそうだけど,ちゃんと手順を追って標本を見ていけばそんなに難しくない

○ 胃生検では病変を大きく 5 種類に分ける
・胃生検では Group 分類を用いるが,施設によっては使用しないところもある
・胃の Group 分類
 Group 1:癌じゃない!明らかに良性!(含むポリープ)
 Group 2:よくわからん.よくある鑑別診断は癌 vs 再生異型あたり
 Group 3:腺腫
 Group 4:よくわからん.少なくとも腺腫以上の病変.よくある鑑別診断は腺腫 vs 癌
 Group 5:癌

○ なぜ悩むのか
・悩むべきポイントはだいたい一緒で,Group 2, Group 4 あたり
・Clear cut に診断できる術があるわけではないが,ある種の考え方というのがあって,そのロジックに従うと大きく外すことはない

○ 若い先生の悩み
・A 先生は癌といったのに,B 先生は腺腫と言われる
・胃生検は検体数が多くてみんなが見ているにも関わらず,診断基準が比較的曖昧
・曖昧なんだけど,大体は一致している,だいたい一致はしているけれど,微妙にずれている.
・ここに書いてあることはどどんぱせんせが日常業務で実践していることで多少意見の相違があるかも
・もし違うことを指摘された場合は,もともとの基準が曖昧なところもあり,あまり議論をしても意味が無いことが多い
・よって,基本的には素直に上司に従った方が無難

○ わかりやすくするための配慮
・必ずしも適切ではない表現を使用している部分がある
・この文章を読んだあとにきちんとした教科書を読んで,知識を固めていくこと  

○ 内視鏡所見との対比について
・本来は内視鏡所見との対比をすべきだが,この文章ではあえてしていない
・どどんぱせんせがそこまでの知識を持ち合わせていないのと,検査センターでの診断についてはそこまで細かい情報が得られないことが多いから
・もっとも細かく丁寧な診断を行うためには重要であることにはいうまでもない

胃生検のやっつけかた【7. レポートの記載の仕方】

2017/05/30 1st edition.
2017/07/07 Last updated. 

○ Gastritis vs inflamed gastric mucosa
・非腫瘍性病変の場合,炎症の見られる胃粘膜組織に対して gastritis と書くか,inflamed gastric mucosa と書くかは流派による
・どどんぱ先生は inflamed gastric mucosa というところで習ったし,気に入っている
・胃粘膜組織は通常でも炎症細胞浸潤が見られており,いわゆる胃炎と正常胃粘膜の差は実は明確ではない
・よってどの程度炎症細胞浸潤が見られると gastritis にすべきなのかが難しく,所見を客観的に記載した inflamed gastric mucosa の方が望ましいと思っている
・どちらを使ってもよいが,突っ込まれる可能性があり,こればかりは仕方ないとあきらめる

○ 例1
診断:Atypcial glands, indefinite for carcinoma, Group 2, stomach, biopsy
所見:胃生検1個
粘膜筋板を含む胃底腺領域粘膜で採取されている検体は少量である.腺窩上皮は核が腫大,クロマチンの増加が見られ,軽度の極性の乱れを伴っている.腺管構造は概ね保たれているが,一部乳頭状構築を作る部分も認める.間質の慢性炎症細胞浸潤は軽度である.

* Atypical glands の所見で,再生異型,癌との鑑別が必要な病変.Deep cut 及び免疫染色を行い追加検討する.

胃生検のやっつけかた【6. 癌との鑑別が難しい時にやるべきこと】

2017/05/30 1st edition.
2017/07/07 Last updated. 

○ なにはともあれ deep cut 5 枚
・難しい要素として病変が小さい場合は deep cut をするだけで診断がつくことがおおい(深切りにまさる特染なし!)
・deep cut をつける際に,p53, Ki67 を追加で出すとよい(deep cut 前・後かは検体の性状による → 要はどっちでもよい).腫瘍が sig, por1/2 を疑う文脈だと加えて AE1/AE3 を出すと鉄壁
・p53, Ki67 の評価は難しいが,いずれも表層まで陽性になっていればより癌として強いニュアンスを持つ
・あとは自分が腫瘍部と非腫瘍部の形態的な解離と免疫染色の染まり方の解離が類似していれば腫瘍性がより示唆される

○ Group 2 の付け方
・Group 2 を付ける場合には,基本的に「再生異型」vs 「腺癌」の鑑別が難しい場合が多い
・Group 2 が多いようだと,あまり読めていないということになる
・細かい記載は → 「○再生異型 vs 癌」を参照
・これはある種の考え方ではあるが,腺癌といえるパターンを増やしていって,これは腺癌とは言えないという例外で診断する方法,また再生異型のパターンを増やしていって,これは再生異型とは言えないという例外で診断する方法,そしてそれらのいずれにも当てはまらない場合を Group 2 とするのが現実的
・要するにたくさん症例をみなさいというなんとも言いようがない,という身も蓋もない話

○ Group 4 の付け方
・Group 4 を付ける場合には,基本的に「腺腫」vs 「腺癌」の鑑別が難しい場合が多い
・「○腺腫と腺癌の違いについて」で述べたように腺腫とされる病変は実は少ないと思われる
・だから腺腫からはずれるものを全て腺癌にしてしまえば Group 4 はほとんど発生しなくなるが,そこら辺は施設間の差がある(→ 強く取りすぎという意見も)
・どこまでを腺腫とするか,どこからを癌とするかは指導医と要相談(病理診断というのはある種の記号で,極論どちらでも良く,臨床医と連携が取れていれば実際はどういう診断をしていても)
・生検であれば鑑別が難しい,という記載は許容される.
・手術検体,ESD 検体については多少味をつけて腺癌としても良いと個人的には思っている

胃生検のやっつけかた【5. 悪性病変と紛らわしい病変のみかた】

2017/05/30 1st edition.
2017/07/07 Last updated. 

○ 再生異型 vs 癌
・再生異型と癌の鑑別は永遠のテーマ(きのこ vs たけのこ,みたいな感じ)
・厳密にわからない場合は Group 2 になるのだけれども,ここでは再生異型をより考える所見を記載してみる

○ 再生異型をより強く疑う文脈
 ・深部では核の腫大が強くても,同様の腺管が表層に向かって分化していき,最表層では明らかに非腫瘍性の腺上皮の様を呈している場合はより再生異型を疑う
Point: 深部よりに異型腺管が見られていても,ただちに癌としないこと
・拡大でみた場合に核の腫大が強くても,弱拡大にして腺管構造の不整や極性の乱れが目立たない場合は再生異型をより疑う
・好中球などの炎症が強い場合は再生異型をより疑う(注意:これは例外はたくさんある)
・腺癌を再生異型と判定してしまうケースよりも,再生異型を腺癌と判定してしまうケースが多い気がする

・それを防ぐためには「腺癌の特徴;核の大小不同,極性の乱れ,腺管構造の不整」を一つずつ潰していくしかない

○ キサントーマ vs 印環細胞癌
・困ったら免疫染色をすればよい
・なんだけど,キサントーマの存在を知らないと,印環細胞癌と答えてしまうリスクはある
・間違えないためには強拡大にして核と細胞質をちゃんと確認
 → 月なみだけど,印環細胞癌は粘液で,キサントーマは脂質.粘液があると核は偏在し,脂質があると核は中心部によることが多い.当然キサントーマの核は小型で異型は目立たない
・わからないときは免疫染色(CD68 陽性の組織球と,AE1/AE3 の印環細胞癌あたりを鑑別に)

○ リンパ腫(特に diffuse large B cell lymphoma)vs 低分化な腺癌
・迷ったら免疫染色をすればよろしい.以上
・頻度からすると腺癌のほうがよっぽど多いので,たまにみるリンパ腫に気づけることが重要
・リンパ腫の増殖パターンは独特で,個在性,核の多形性が強い,あと necrotic debris が多い印象

胃生検のやっつけかた【4.明らかな悪性・腫瘍性病変のみかた】

2017/05/30 1st edition.
2017/07/07 Last updated. 

○ 腺癌 adenocarcinoma
・病理総論で言う腺癌でよい.胃型,腸型に分けることになるけれども,(正直言うとほとんどが腸型であり,実際上はとりあえず)腺癌といえばあまり問題ない
・分化型(pap, tub1, tub2)及び未分化型(por1, por2, sig)に分けることが多いが臨床的に必要なことであり病理学的に言及する必要はない.分化・未分化というキーワード自体に違和感がある
・細胞異型,構造異型から診断f
 細胞異型は核が腫大し,大小不同,クロマチン濃染,極性の乱れが強い(± 核小体明瞭,核分裂像)があり,
 腺管構造の不整については,胃生検においける乳頭状構造は癌が示唆されやすく,また少なくとも切れ方による変化ではない「癒合腺管」については腺癌(中分化)としてよい
・細かい組織型については本をよむこと.大体は読めば分かる
・手つなぎ癌:細胞異型は弱い腺癌としてある意味有名.どどんぱせんせ的な解釈としては手を繋いでいる時点で,腺管構造の不整が強くそれだけで腺癌と診断できる

○ 腺腫と腺癌の違いについて
・腺腫 adenoma とされている病変は実は少ない.胃癌では adenoma-carcinoma sequence が確立されていないことになっているので,もし腺腫と腺癌の合併を疑った場合には全部を腺癌としなくてはいけない
・どどんぱせんせい的には(腸型)腺腫というのは「細胞質は好酸性,核は一様に腫大しておりクロマチンも濃染.極性の乱れは軽度,の比較的単調な腺管が密に増殖している」という風に解釈している
・よって細胞異型,構造異型から少しでも腺腫を逸脱しているような病変(例えば,乳頭状構造を呈している腺腫)なんかは比較的癌よりに診断している
・生検検体で,腺腫と診断するのは慎重になったほうがいいかもしれない(EMR, ESD 検体で腺癌が出てくることはままある).もっとも腺腫と腺癌の鑑別が難しいような病変は(腺腫と診断してしまって)少々ほっといても大して進行はしない
・ただ,腺腫 vs 腺癌は施設間の差もあるため,上記を念頭において上司に従うのが無難

○ EBV 関連胃癌は分かればよし
・胃癌取扱い規約では gastric carcinoma with lymphoid stroma みたいな診断で EBV 感染がなくてもつけてよいことになっているがまぁ EBV 感染を証明できなければ普通は付けない
・癌であることには変わりないので仮に間違えてもダメージは少ない
・他の腫瘍でもとりあえずリンパ球が高度に浸潤すること自体が予後がよいみたいな良い方がされている(Cf. 乳腺の carcinoma with medullary feature)
・組織学的には高分化腺癌+豊富なリンパ球の場合と低分化腺癌+豊富なリンパ球の場合があって EBER1 in situ hybridization をして EBV の DNA を検出することが出来る(いわゆる I 型の潜伏感染)
・ちなみに LMP1 や EBNA2 といった抗体は II, III 型で発現するので EBV 関連胃癌では基本的にやっても無駄

○ リンパ腫にも注意せよ
・胃には H. Pylori 感染からの MALT lymphoma は有名,他には diffuse large B cell lymphoma もある
・MALT lymphoma を診断する前に,「リンパ球の単調さ」に気づく必要がある.普段見ている検体はリンパ球,形質細胞,好酸球などかなり多彩な炎症のはず.その炎症細胞が同じような顔つきをしているリンパ球に置き換わっているのがまず弱拡大で気づくべき印象.その次に腺管破壊 (lymphoepithelial lesion; LEL) があるかをみていく.LEL 自体ははそれこそ慢性胃炎でもたまに見られることがあるので,LEL のみを根拠に MALT lymphoma を考えていくと多分行き詰まる
・MALT lymphoma の組織診断:胃の MALT lymphoma の治療の第一はあればピロリ菌の除菌,と言うくらい反応性変化との境界は不明瞭.よって見える組織像も典型的なリンパ腫から,う~ん等なるようなものまである.わからない場合はわからないとした上で,GELA histological grading system なんかを参考にgray zone であることを伝える
・MALT lymphoma の免疫染色の解釈:どどんぱせんせい的にはだだだと CD3, CD5, CD20, CD79a, CD10, bcl-2, Ki67, AE1/AE3, κ,λ あたりを出しているが,κ,λ でうまく染まることは少ない印象.MALT lymphoma には特異的なマーカーがないので難しいが,CD20 陽性細胞が多ければ可能性を示唆し,CD20 陽性細胞による腺管破壊(断片的な AE1/AE3 陽性細胞)が見られれば,一応確定としている
・Diffuse large B cell lymphoma の診断はリンパ節のそれに準ずる.細胞接着性の乏しく,かつ大小不同の強い異型細胞を認識することがポイント

○ GIST vs 平滑筋腫 vs 神経鞘腫
・粘膜下層には Cajal の介在細胞というのがいてその細胞由来で gastrointestinal stromal tumor (GIST) が起こる
・生検あるいは EUS-FNA で採取されてくる
・形態的にはばらけた spindle cell 病変で,粘膜筋板がばらけたものと鑑別が必要だが,GIST の場合は単調な腫瘍細胞であることがポイント
・形態学的には正直 GIST と平滑筋腫の鑑別は厳しい.まあ昔は間違えられるくらいだったし
・免疫染色では鑑別に挙がる平滑筋腫,神経鞘腫をカバーするように出す.すなわち AE1/AE3, Desmin, αSMA, CD34, S100, c-kit, Ki67
・基本的に GIST であれば c-kit 陽性,たまに CD34 陽性.平滑筋腫であれば Desmin, αSMA 陽性,神経鞘腫であれば S100 陽性.いずれにせよ Ki67 index はおおまかには増殖能の参考
・ちなみに言うと筋系マーカーは特異性が低いものもあるので,2 種類上陽性で初めて筋への分化があるという

○ 他の癌の胃への転移はまじで注意
・普通の腺癌じゃないなと思ったら必ず既往を確認
・正直言うとどどんぱ先生は何度か転移を見落としている(よくあるケースが,腺癌と診断できたものの,実は転移だった)
・乳癌,肺癌あたりは意外とよくあるので,典型的な胃癌の腺癌に当てはまらない場合は積極的に免疫染色を出してみると良い
・あと胃生検では稀だが,内膜症というパターンもあるので,間質も含めて違和感を感じたら ER, PgR, CD10 あたりを出すとよい

胃生検のやっつけかた【3. 明らかな良性・反応性病変のみかた】

2017/05/30 1st edition.
2017/07/07 Last updated. 
○ 良性病変のほとんどが非特異的かつ所見診断
・疾患特異的な所見はないことが多い
・いろいろ考えた方はあるけれども,基本的には臨床診断に無理に合わせる必要はない
・具体的には内視鏡診断でポリープと書いてあっても,特徴的な所見がなければ必ずしもポリープと書く必要はない
・逆にポリープのように見えても,内視鏡診断でポリープとして採取されていなければ所見記載に留めるのが無難

○ 炎症の程度を評価
・炎症細胞の種類は重要:リンパ球,形質細胞は普通,好酸球も少量はいる.好中球,好酸球が含まれているのか,どの程度?
・好中球が含まれていると,なんからの急性炎症が示唆される(ピロリの検索を!)
・軽度,中等度,高度と半定量的に表現されるが,いまいちピンとこない場合は「シドニー分類」を眺めながら書くと良い

○ よく使うキーワード
・以下のキーワードはどれも疾患特異的とは言い難い.所見のボリュームを増していかにも的なレポートを仕上げるために必要なもの.以下の変化が混在して見られることはとてもよくある

・再生性変化 regenerative change
 腺窩上皮の核が,「一様に腫大,核小体明瞭,クロマチンの濃染はあまりない,極性の乱れは目立たない」のがポイント
 そのような変化が見られる場合に再生性変化という
 びらんからの再生だけでなく,炎症による反応性変化に対して使っても良い
 Cf. 再生異型:再生性変化の中で核の腫大が強くて,異型があるようにみえるものをいう.矛盾しているように見える用語だが,再生異型といった場合は「良性だ」と主張していることになる

・過形成性変化 hyperplastic change
 腺窩上皮の細胞質の丈が長くなっている様を見て,過形成性変化という
 過形成性ポリープの部分像としても見られる
 それ以外にも再生性変化,腸上皮化生と合わせて出てきても良い

・腸上皮化生 intestinal metaplasia
 杯細胞が出現.+ Paneth 細胞まで出現したら完全型腸上皮化生と呼ぶこともある
 余談だが学生実習では腸上皮化生を見てみんな「小腸」あるいは「大腸」と答えてしまう

・浮腫状変化 edematous change
 どうでも良い変化なのだが,見られれば記載したほうが良い

・線維筋症 fibromusculosis
 間質内を膠原線維+平滑筋細胞が増生するもの
 結腸なんかだと粘膜脱症候群で有名な所見.もちろん胃生検でも見られても良い

・毛細血管の拡張 ectatic capillaries
 内視鏡的に発赤が見られて生検と合った場合に書いてあげると親切
 よく採取時の artifact で血管が拡張しているという意見もある
 (どちらが正しいとも言えないので,とりあえず上司に従うこと)

・間質の肉芽組織様変化 granulation like change
 間質が肉芽組織(小血管の増生+線維芽細胞の増生±炎症細胞浸潤)様に変化したもの
 過形成性ポリープの部分像としても出てくることはありうる

○ よく見るポリープ
・まだまだたくさんあるだろうけど,どどんぱせんせいがここ一週間で見たものを掲げる

・腺窩上皮型過形成性ポリープ hyperplastic polyp, foveolar type
 教科書的には「腺窩上皮の過形成+間質の肉芽組織様変化」と書いてある
 どどんぱせんせいがある病変を腺窩上皮型の過形成性ポリープだと診断するためには
 「まず臨床的にポリープとし認識していること,
  腺窩上皮が過形成性変化±再生性変化±腸上皮化生があること,
  間質が浮腫状変化を示している±肉芽組織様変化を呈していること」
 を基準にしている.
 臨床的にポリープとして認識していない場合は所見記載に留める

・胃底腺ポリープ fundic gland polyp
 教科書的には「腺窩上皮の短縮+拡張した胃底腺の増生」と書いてある.
 どどんぱせんせいがある病変を胃底腺ポリープと診断するためには
 「まず臨床的にポリープとし認識していること,腺窩上皮の変化は問わない
 (過形成でも再生性変化でも,腸上皮化生でもよい),
 胃底腺が部分的にでも拡張し,不規則に増生していること」
 を基準にしている.
 弱拡大で見たときに胃底腺の分布が正常とは異なるという印象(不規則な増生)があれば小さい検体でも積極的に診断している
 多発した胃底腺ポリープを見ることがある.その際は家族性腺腫性ポリポーシス (FAP) や PPI 内服の既往を確認すべし

・キサントーマ xanthoma
 泡沫状細胞が間質内に浸潤していること.
 キサントーマとするかどうかについては程度問題のこともあるので,臨床的にキサントーマとして診断されていなければ,とりあえず所見記載にして可能性を言及する程度が無難かと
 月並みな表現だが,印環細胞癌と間違えないこと

○ 胃潰瘍を生検してきました,という場合のポイント
・生検で胃潰瘍と言い切るために必要な要素
 「壊死滲出物,肉芽組織,再生上皮」の 3 つ
・胃潰瘍として採取されてきた検体の多くは非特異的な所見で,上記 3 要素を満たしていないことが多い
・臨床的には癌かどうかが全てなのでこだわる必要はない
・悪性所見がないことを書いた上で,上記 3 要素を満たしていないが,潰瘍辺縁組織としても了解可能,程度の記載がベター

○ ピロリを探せ
・Helicobacter pylori は HE 染色よりも Giemsa, Warthin Starry 染色あたりの感度,特異度が高いようだが,Warthin-Starry 染色を出そうものなら臨床検査技師から大クレームがやってくる
・よって通常は HE 染色± Giemsa 染色で評価している.細かい説明よりも実物を見たほうが早い
・ピロリ菌がいやすい環境を熟知(腺窩上皮に過形成性変化,腸上皮化生が乏しいこと,好中球浸潤が強く,上皮内浸潤も見られること → chronic active gastritis)すること,ただし,そうでないところにもいることはある
・基本的には腺上皮内にいるpyloriだけを検出し,粘液中のピロリ菌は拾わないほうがいい(呼気試験や血中・尿中ピロリ抗体の検査結果と不一致が生じやすい)
・健診で行われた胃生検や検査センターでは言及されない限り,ピロリ菌の有無についてはコメントしない(大人の事情「胃生検でピロリがいるってわかっているのになんで,追加でピロリの検査をするのか!」とか「生検組織でのピロリ菌の検査お金かかるの?」といったたぐいのクレームがくるため)

○ クローン病
・クローン病で胃生検をされることがたまにあるけど,なかなか特異的な所見は乏しい
・肉芽腫が検出できればそれでいいけど,出てこない場合は悩む.そんなときに以下の所見があれば比較的いいやすい(確定的ではない!)
・Focal enhanced gastritis:比較的きれいな胃粘膜内にぽつんと好中球浸潤からなる炎症の focus が存在すること.他には炎症がないのにぽつんとあるため違和感をいだきやすい

○ ランタン沈着症
・病気自体は恐らく前からあるが,ここ最近論文を含めて流行った病気(?)
・透析患者でホスレノール(炭酸ランタン)を内服している人の胃生検で好酸性の沈着物が見られることがある
・とりあえず病的意義はないみたい,いまのところは
・質量分析までする必要はない.ホスレノール内服の既往があればランタン沈着症とすればよいし,なければ,可能性について言及する程度

○ Endocrine cell nest
・内分泌細胞が集簇して粘膜固有層内に胞巣を形成することがある
・A 型(自己免疫性)胃炎で出やすいとされるが,もちろんそれ以外でも出うる
・Endocrine cell nest が多い文脈だと,腺頚部の内分泌細胞も増えていることが多い

胃生検のやっつけかた【2.胃生検を見る前に必要最低限の組織学的な知識】

2017/05/30 1st edition.
2017/07/07 Last updated. 


○ 胃粘膜固有層 = 腺窩上皮 + 固有胃腺
         → 固有胃腺 = 胃底腺領域・幽門腺領域・噴門腺領域
・胃底腺領域:胃底腺は壁細胞(赤っぽい;ミトコンドリア),主細胞,副細胞,他内分泌細胞
・幽門腺領域:幽門腺は円柱状の粘液細胞からなる腺管
・噴門腺領域:噴門腺は形態的には幽門腺と同様で見た目だけで判別することはほぼ不可能

Point:記憶の節約のためには,とりあえず「壁細胞が赤い」と覚えておけばなんとかなる.内分泌細胞は HE では認識しにくい.粘膜下層より下の固有筋層,漿膜下脂肪織,漿膜についてはとりあえず生検では知らなくて良い(万が一固有筋層が採取されていれば,穴が開いている可能性があるため直ちに主治医に連絡を).

○ 実際の診断に当たっての注意
・腺窩上皮と固有胃腺の比率は部位によって異なるが,胃生検されるような人ではそもそも正常なんてほとんどないので,あまり気にする必要はない
・どの領域にも腺窩上皮は含まれているはず.ただし,びらん状変化でほとんど含まれていない場合もある
・流派によって「採取部位」と「粘膜筋板の有無」を明示しろと言われることがある
 → 胃生検の所見を書く際に「胃底腺・幽門腺・噴門腺」のいずれの領域か
 → 粘膜筋板の有無は粘膜固有層がきちんと全て描出されているかの指標となる
・固有胃腺がない場合は「表層胃粘膜組織」と記載

2017年5月27日土曜日

食道生検のやっつけかた【1. はじめに】

2017/05/27 1st edition.  
2017/12/25 Last updated.  

○ 誰を対象にしているのか 
・この文章は病理医を始めて 1-2 年目の先生,病理診断に興味のある消化器内科の先生あたりを対象にしている
・必要な背景知識は医学部の学生の下から数えて何番目程度の人に設定しているので,臨床検査の学生さんや興味のある看護師さんでも読める,はず

○ 食道生検は難しい?
・よく食道生検は難しいと言われることもあるが,それを言い出すと全部難しいことになる
・どの臓器でも同じだけれどもちゃんと手順を追って標本を見ていけば,そんなに難しくはない
・食道生検特有の難しさとしては逆流性食道炎などの炎症に伴う異型が挙げられるが,ある程度割り切った考えた方をすれば迷いは減る


○ 食道生検では病変を大きく 3 種類に分ける
・胃生検は Group 1-5 までに分類されている
・食道生検では「良性・反応性,悪性,その他のよくわからない病変」の 3 種類に分けるが,本質的な考え方は Group 分類と同じ
・世の中どんなに考えてもわからないことはたくさんあるわけで,はっきり言って悩んでもしょうがない

○ なぜ食道生検の診断で悩むのか
・悩むべきポイントはだいたい一緒で,腫瘍性なのか反応性なのかは常に悩まされる
・Clear cut に診断できる術があるわけではない
・経験が少ないとどうしても明快な答えを出そうとしてしまいがち

○ わかりやすくするために
・単純化,理解の容易化のために必ずしも適切ではない表現を使用している部分がある
・この文章を読んだあとにきちんとした教科書を読んで,知識を固めていくこと

○ 内視鏡所見との対比について
・本来は内視鏡所見との対比をすべきと言われているが,このマニュアルではあえて内視鏡所見との対比は重視していない
・どどたん先生がそこまでの知識を持ち合わせていないのと,検査センターでの診断についてはそこまで細かい情報が得られないことが多いから
・またこれを言うと反論されそうだが,食道生検は腎生検,皮膚生検,骨軟部領域ほどには臨床病理が重視されていない(ちなみに消化管の腫瘍性病変自体が病理総論の腫瘍の考え方で大方説明できる)


食道生検のやっつけかた【6. 病理診断報告書の記載の仕方】

2017/05/27 1st edition.  
2017/12/25 Last updated.  
○ レポートに書く内容はまちまち
・実は生検検体でレポートに書かかなくてはいけない内容は実は決まっていない
・ガイドラインがあるわけではないので,各人(というか大学ごとの)の流派による
・検査センターのレポートを読んでいても,書き方は実に様々

○ 1 つの記載例を提示
・どどたん先生はまず次のように所見を記載している
・まず粘膜筋板の有無を記載(粘膜筋板を確認することによって粘膜固有層の全層が含まれていることを確認).ただ食道粘膜ではあまり書かない傾向
・上皮の変化,間質の変化(浮腫状変化,線維化,炎症細胞浸潤の種類と程度)について記載.
・あれば真菌・ウイルスなどに言及する
・最後に癌がなければ「悪性所見なし」で締めくくる

○ 診断名の書き方の1例
例:Inflamed esophageal mucosa, esophageal biopsy.
炎症だけで癌がないとき
炎症が起きている原因が特にわかれば compatible with 〜 でつなげてもいいが,わからない時は無理に書かないほうが無難

例:Esophagitis, esophageal biopsy.
上に同じ.
この書き方は胃生検なんかでも gastritis と書くのが好きな人向け(ココらへんも嗜好による)

例:Inflamed esophageal mucosa with reactive change, esophageal biopsy.
炎症及び炎症に伴う上皮の核腫大が見られていて,これが炎症に伴う反応性変化と考えられる時

例:Squamous cell carcinoma, esophageal biopsy.
通常の癌のとき
浸潤については所見でコメントするが,診断文面にはあまり書かない(明らかにあれば積極的に言いやすいが,生検だけで否定はできないので).

例:Atypical epithelium, see comment, esophageal biopsy.
異型上皮の場合のコメント
なぜ癌とできないのか,なぜ良性と言いきれないのか,コメントを読んでほしいという意味を込めて see comment をつけている


食道生検のやっつけかた【5. 悪性病変と紛らわしい病変のみかた】

2017/05/27 1st edition.  
2017/12/25 Last updated.  
○ 逆流性食道炎(炎症による反応性変化)
・逆流性食道炎では好酸球浸潤(あるいは好中球浸潤)が高度に見られる
・炎症によって上皮が破壊された場合,修復するために周囲の残存する上皮細胞が増生して,いわゆる反応性変化と呼ばれる一連の形態学的変化が出現
・反応性変化では核が腫大し,クロマチンも濃染する
・腫瘍の核異型と同じように見えるが,よくよく考えれば当然の話しで,反応性変化でも腫瘍性変化でも細胞が増えるというプロセスは共通しているので,同じように一応は見える
・しかし,反応性変化は癌と比べて核の腫大の程度が比較的一様で,極性の乱れは目立たない
・もっとも鑑別に難しいことは多々あり,じゃあそんな時教科書で調べることに加えて,打つ次の一手が必要になる

○ 癌との鑑別が難しい時にやるべきこと ~ Deep cut (深切り)
・生検はとても小さい組織だが,検体がなくならないように,あまり削られていないこともある
・「臨床的に癌として認識」された検体に腫瘍がないと判断したら,思い切って deep cut をする
・どどたん先生は deep cut 5 枚をオーダーするのが好き(病院によっては削りすぎてなくなることがあるので,連続切片 serial section を切るのがおすすめ)

○ 癌との鑑別が難しい時にやるべきこと ~ Ki67, p53 染色をする
・Ki67 染色は細胞の増殖活性を,p53 染色は細胞の核が陽性になると,一応 p53 遺伝子に変異があることになっている(一応,ね)
食道の扁平上皮での有用性はいまいちなところもあるが,一応セットで出している
・評価方法も実は決まったものはないのですが,Ki67, p53 いずれも陽性細胞が多い場合に「より癌を疑う」という程度
 → もっというと,最表層まで Ki67, p53 陽性細胞がいると怪しい
 → Ki67, p53 染色を参考にして,HE 染色に戻って再検討する

○ 癌との鑑別が難しい時にやるべきこと~再生検を依頼する
・変性が強い組織などでは確定診断が困難な時もある
・その場合は良性・悪性とも判定せずに再生検を依頼するのが無難
・その病変が「良性である」ということと,「良悪性がわからない」ということでは臨床的な対応も含めて話が大きく変わってくる

○ それでもわからないときの言い訳の仕方~なぜわからないのか,ポイントを明確に
・わからない時はなぜわからないのか,病変が特殊なのか,炎症が強くて評価が難しいのか,検体が少ないのか,変性が強いのかなど理由を明確に述べる必要がある
・でないと我々だけではなく,臨床医が次に何をすれば良いのかがわからない
・病理診断によって,臨床医が次にどういう行動を起こすべきか,ある程度規定できるような書き方をする必要がある

○ Atypical epithelium という用語
・現在の取扱い規約(第 11 版)では atypical epithelium という記載が登場した
・WHO 2010 では low/high grade intraepithelial neoplasia が採用されており,第 10 版ではそれに準じていたが,今回の改訂で,WHO に反する形になった
・WHO 分類では子宮頚部の異形成と同じように,基底層から順に細胞が増殖し全層性増殖から浸潤へ進展するという理論に基づいて,異型細胞の層の厚さで low grade, high grade を分けていた
・しかし,日本の消化管病理医たちは low grade と分類される中にも細胞異型からは癌と言える病変(あるいは結果的に浸潤癌となった症例)を経験しており,low/high 自体の分類に意味がないという主張
・だから low/high という区分けではなく,「癌」あるいは「癌を否定出来ない異型上皮」という区分にした方が現実に即しているというのが一応の趣旨とどたん先生の理解

食道生検のやっつけかた【4. 明らかな悪性・腫瘍性病変のみかた】

2017/05/27 1st edition.  
2017/12/25 Last updated.  
○ 明らかな悪性病変もとりあえずそれでいい
・食道生検で出現する病変の多くが扁平上皮癌,食道胃接合部であれば腺癌あたり
・まれに癌肉腫だったり,小細胞癌だったり,他の腫瘍の転移(意外と腎癌や肺癌が多い)だったりすることもあるが,あまり細かいことを言うと本筋から外れるので,とりあえず扁平上皮癌と腺癌に分けて話を進めていく
・その前に癌とするために必要なことについて簡単に触れておく.ココらへんは病理総論の知識のおさらいになってくる

○ 癌と診断する根拠は?
・扁平上皮癌でも腺癌でも同様だが,癌と診断するために共通の要素 → 異型がある!!!!!こと
・明らかな癌であれば悪い!あるいは悪そう!と思えるが,何をもって悪い!と言っているのかの根拠を,所見として記載する必要がある
・標本を読めるというプロセスは,癌と診断する根拠をきちんと述べることができ,かつ実際に標本に適応できるということになる

○ 細胞異型と構造異型
・大きく細胞異型,構造異型に分けられる
細胞異型:核が大きい・形が不整である,クロマチンが濃い,N/C 比が高い,極性が乱れている,あたり
構造異型:元の組織の構築からどれだけ隔てられているか.単にぐちゃぐちゃだから悪い,という認識は適切ではない
・細胞異型・構造異型を合わせてある一定の基準を超えたものが癌として診断され,その癌の基準を満たさず,また良性とは言い切れないものを異型上皮として扱う
癌とする基準:実際問題として癌の基準はなにかと言われて,これ!と言うのは難しくて,ある程度の症例を通じて「この程度なら癌でいいのか」と実感する必要がある

○ 扁平上皮癌のみかた
・扁平上皮癌の特徴は?と言われてスラスラ出てくるような人は普通の教科書を読んでも何ら問題ない
・癌一般の特徴は一つ上の段で述べた
・特に食道の扁平上皮癌を診断する際に気をつけることは,浸潤癌にならなければ構造異型はまずほとんどないということ
・よって細胞異型だけで癌であるかどうかを判定する必要があり,そのために「(特に早期の)扁平上皮癌の診断が難しい」と言われる原因の一つになっている
・ポイントはただ一つで,核クロマチンの増加と大小不同,核型不整に注目すること
・上皮内を増殖する細胞がクロマチンがしっかり濃染されていて,核が大小様々で,核の形に不整が出てくれば癌と診断

○ 上皮内癌で扁平上皮癌とつけることの悩み
・食道粘膜の上皮内癌はしばしば見るが,診断名は squamous cell carcinoma である
・しかし,(特に食道における!!)上皮内癌は形態学的に細胞間橋や,層状分化,角化など,扁平上皮としての特徴的構造がはっきりしないため扁平上皮癌とは言いにくい
・ちなみに CK5/6, p63, p40 といった扁平上皮のマーカーは陽性のことが多く,話としては何一つ間違ってはいないが,,,
 Cf0. CK5/6, p63(最近は p40 が流行り)は扁平上皮癌のマーカーとして頻用されているが,特に p40 以外は扁平上皮癌に特異的ではないことに注意 
 Cf1. 皮膚において扁平上皮癌 squamous cell carcinoma というと,浸潤癌を指すことになるので注意
 Cf2. 上皮内腺癌は形態的に腺への分化を有している
・どどたん先生も違和感があるが,世の中そうなっているとしか言いようがない


○ 腺癌のみかた
・扁平上皮癌に比べると比較的簡単だが,それは構造異型が比較的出現しやすいから
特に乳頭状の構造は正常では出現することはほとんどなく,癌と診断しやすい傾向
・また切れ方による変化ではない癒合腺管を見つけたら基本的には癌と診断
 → 古典的には腺管が癒合するとき,間にある間質が消失するために浸潤とみなす
 → 斜めに切れるとしばしば腺管は癒合様に見える
・判断が難しいのは腺管構造の不整が乏しい,高分化とされている腺癌だが,最終的には核異型が決め手
・腺癌と診断するための詳細な考え方は胃生検を参照のこと

○ 癌と診断するためには癌ではない別のものをたくさん見る必要がある
・癌と診断するためには癌ではないものもたくさん見る必要がある
・癌と迷う病変の中には「癌と紛らわしい良性病変」もたくさん含まれている
・また癌を否定するためには,それが癌ではない何かを知っている必要がある
・例えば,よく若い病理の先生は結節性筋膜炎を診断する時に迷う(実際に症例に遭遇すればわかります).これは結節性筋膜炎自体に関する知識よりも,結節性筋膜炎に見える結節性筋膜炎ではない別のものをちゃんと理解しているかどうかに寄る.知識は多ければ多いに越したことはない

○ 食道の spindle cell lesion は平滑筋腫のことが多い
・胃,結腸直腸でみられる spindle cell tumor の多くは GIST であるが,なぜか食道では平滑筋腫のことが多い
・もちろんどうせ免疫染色を染めるから別にわからなくてもいいんだけどなんとなく頭に入れておくと便利
・ちなみに GIST だと c-kit が原則的に陽性(他には DOG1, PDGFα),平滑筋腫であれば αSMA, Desmin あたりが陽性になるので,免疫染色である程度 clear cut に区別される(紛らわしいこともあるけど)

食道生検のやっつけかた【3. 明らかな良性・反応性病変のみかた】

2017/05/27 1st edition.  
2017/12/25 Last updated.  
○ 明らかな良性病変はとりあえずそれでいい
・明らかな良性についてはあまり詳しく述べる必要はない
・しかし,まだ専門医を取得していない人は指導医のチェックがある
・はっきり言って次に書く項目は抜けていたとしても致命傷ではないが(CMV, HSV は重症くらいか),良性と診断する前に次のポイントを確認しておく.いわゆる転ばぬ先の杖的なもの

○  炎症細胞浸潤の有無については要注意
・胃生検や結腸直腸生検では炎症細胞浸潤というのは通常あるものなので,気にしないかもしれない
・しかし通常は食道粘膜扁平上皮に炎症細胞浸潤(リンパ球,好中球,好酸球など)はないので,少量でもあれば記載する必要がある
・それは原因はなんであれ,食道粘膜障害を示唆する所見になるからである

○ 角化,顆粒層の出現
・顆粒層や角層は通常皮膚で見られる構造物
・これが食道粘膜に出現するというのは端的にいうと「皮膚のような構造物になっている」ことになる
・言い換えれば,慢性的な刺激に対して皮膚のように防御している状態が示唆される

○ Glycogenic acanthosis
・上皮細胞内の細胞質が明るくなることがある
・PAS 染色を行うと紫色の顆粒が見え,グリコ-ゲンを多く含む扁平上皮の過形成(≒数が増える)だが,病的意義は乏しい
・内視鏡所見ありとしてまれに生検される
・どどたん先生は臨床医が glycogenic acanthosis として採取したと明示しない限り記載していない(病的意義が乏しいのと,glycogenic acanthosis 自体がそもそも程度問題でもあるため).

○ Candida, CMV (+ HSV) を見逃さない努力
・食道炎の原因は色々あるが,真菌・ウイルスはなるべく HE でも見つける,あるいは疑う努力をすること
・普通は内視鏡所見でわかるはずで,内視鏡の所見の記載を読み落とさないように(内視鏡の写真を見て判定できるようになれ,とまでは言わない).
・もちろん PAS,グロコット染色で比較的容易に判別できるが,ルーチンで染色を行わない施設もある
・特に,免疫不全の患者ではサイトメガロウイルスは見つけないと治療方針が変わってくるため,一言でも「臨床的に疑われる」という文言を見つけた場合には CMV 染色を行うべき(早期の CMV 感染では形態学的には証明できない)
・Candida, CMV, HSV 感染については教科書あるいは典型症例を頭に叩き込んでおかないと,いざ見かけたときに対応できない

食道生検のやっつけかた【2. 食道生検を見る前に必要最低限の組織学的な知識】

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 ○ 病理診断は異常所見と正常所見を行ったり来たり
・正常な組織学について知らないことには,異常についてはわからない
・異常がわからないことにも正常がわからない
・異常所見と正常所見を行ったり来たりしながら勉強することになる
・このマニュアルには写真がないので,正常組織アトラスを片手に読むこと

○ 食道粘膜の構造
・食道壁の構造は他の消化管と同じく,内腔側から粘膜固有層,粘膜筋板,粘膜下層,固有筋層,外膜
・食道は縦隔の中にあるため,他の消化管と異なり,漿膜がないのが特徴
・膜の構造物はないのだが,固有筋層よりも外側を表現する名前がないので,外膜としている
→ Point 「粘膜固有層,粘膜筋板,粘膜下層,固有筋層,外膜」

○ 消化管粘膜の構造の比較的簡単な覚え方
・なぜこんなことを言うかというかと,どどたん先生は病理専攻し始めて 1 年くらいは消化管の構造を覚えれられなかった.こういう用語的なものはさっさと覚えたほうが後々うまくいく
・「肉眼的に見える」のは上皮を含む粘膜固有層と固有筋層で,まずこの2つを覚える
・粘膜筋板は粘膜固有層の直下にある薄い平滑筋からなる構造物で,肉眼的には見えない
・粘膜下層は粘膜固有層と固有筋層の間にある疎な結合組織で,神経や血管が入っていく
 → 蠕動運動をうまく行うためにはこういう遊びが必要
・手術検体を触ってみると粘膜下層のために,ずるずるとずれるような感じがする
・比較的どうでもいいこと:固有筋層は食道の上部側と下部側で,それぞれ骨格筋,平滑筋と異なっているが,生検では通常固有筋層は採取されいないのであまり関係ない

○ 食道粘膜扁平上皮は同じ扁平上皮でも皮膚と同じで違う
・食道粘膜は他の消化管と違って粘膜固有層の上皮は扁平上皮からなっている
・しかし皮膚の扁平上皮とは異なり,通常「角化もしないし,顆粒層もない」のでこれらが出てくると異常ということになる
・あと少量だが,メラノサイトも含まれており,悪性黒色腫の発生母地になったりもする

病理医としてのキャリアパス:中間点

# 次はいずこへ どどたんせんせはいわゆる around 40 で,この職場で留まるべきか次にどこかに行くべきかをそろそろ悩まなくてはいけない感じなっている.ある程度 public なこういうブログで書くべきかは悩ましい感じもするが,ごく普通の人の普通のキャリアパスについての具体...