2023年2月11日土曜日

病理診断科への勧誘

# 勧誘の必要性

そろそろ新規の勧誘をせねばということで種を撒く意味を込めて,今日はちょっと病理診断科の魅力について話をしみてみようかと思う.その前に病理と臨床の校正の原稿や他にも執筆する原稿があるが仕方ない.ちなみにここでは勤務時間の調整がし易いとか子育てしやすいから,とかそういう安直な議論はしない.なわけ無い.

どこから始めるか悩みどころだけど,まずは現状の認識から.


# 病理診断従事する医師

結構異論はありそうだが,多分病理診断に従事している人は大体 3000-4000 人程度と考えられる.専門医の番号が 3000 番台半ばであり,レジデントは当然専門医を持っていないし,専門医を持っている人でもほとんど研究にシフトしている人もいるため実際の数は不明である.

そして他の診療科と違うのが定年後もよくも悪くもダラダラと働き続けられることで,体力等に応じて病院や検査センター等働き方を選べるという点にある.自分の知っている限りでは 80 歳を超えても働いている人がちらほらいる.いい加減流石に止めてほしいけど.他の診療科に比べて手技的な要素よりも知識,経験的な要素が大きく,知識の寿命が比較的長い.もちろん新しいことが常に生み出されているのは病理に限らず,常に update が必要だが,基礎ができていれば講習会をちらほら聞くだけでも十分なことが多い.


# 病理診断科の特性

診療科としての特性上,患者を見ないのだがそれをメリットと感じるかデメリットと感じるかは人それぞれである.ただし,初期研修を終了しかつ病理診断に対して本腰を入れてやっている人ならわかってくれると思うのだが,病理診断科はれっきとした「臨床」にほかならない.外野からは顕微鏡を見ているだけと思われるかもしれないが,顕微鏡を通して見える風景を臨床的なコンテクストでどのように解釈するのかその価値判断が臨床医の先生がやっている診療そのものである.表面的なものだけにとらわれずにもう少し深いところを覗いて見てほしい.

もう一つ,すべての診療科を対象にして臨床医と対等に議論ができるという点は特筆すべきポイントである.自分は学生の時からいろいろなことを勉強したい,理解したいという漠然な欲求を持っていて,残念ながら能力がついていかずに試験の成績もいまいちであった.例えば皮膚科や整形外科の領域は学生のときはマイナー科目で,正直疾患の体系の理解すら危うい感じであった.もちろん今だって完璧かと言われると微妙だが,少なくとも疾患については教科書を参照しながらある程度は語ることができる.多分臨床にそのまま進んでいたら行く診療科にもよるけど分からないまま「それは専門ではないので」と扉を閉ざすことになっていたかもしれない.

もちろん他の診療科を批判しているわけではないし,それぞれ(進まなかった自分には分からないが)魅力を持っているはずである.みんなちがってみんないい.


# 他の診療科との違い

すべての診療科を俯瞰する診療科として放射線科や総合診療科,ある程度集団が限定されるが産婦人科や小児科もあるだろう.手技を含む診療を捨てた代わりに,確定診断を担うという立ち位置を獲得し臨床医と対等に議論をする事ができるのが病理診断の魅力と言える.

学生や初期研修医の先生が我々の仕事を 1 から 10 まですべて覗く機会はあまりないかもしれないが,自分の診断業務の中では,標本を見る 3,調べ物 3,切り出し 2,おしゃべり(症例のディスカッション)2 くらいの配分になる.勤務施設によるが,大学などでは症例に関する議論をすることが多い.それは病理医同士や,床医に電話をすることもある.自分は臨床医への電話の敷居がとても低いので,ちょっとカルテを調べてわからないことは直ぐに電話をしている.その時に病理診断報告書を見るだけでは伝わりにくいちょっとした tips を織り交ぜてついでに情報提供をするのが良好な関係性を作るポイントなのだがそれはまた別のお話である.


# 病理診断業務としての勉強

そして,業務の中では本を読んだり文献を調べたりという要素がかなり多く占める.特にレジデントのときにはそれで時間がかかるといっても過言ではない.もちろん病理学的所見については丁寧に教えているが,それを聞いてさらに自分で調べて納得し,鑑別診断を含めた周辺情報を仕入れるということが診断技術向上のために必要である.業務とは勉強を含めた総合的なものと言える.

業務の中に勉強が含まれることには副次的な効果がある.参照する文献は必然的に英語が多くなるのと,病理診断において保険診療はほとんど関係ないので(厳密にはあるが),英語の教科書の内容をそのまま使える.多少の違いを無視すれば病理診断は global といえる.学生の頃熱心に英語の勉強をしていて,社会人になってから使う機会がないから錆びるかなと思っていたが,参照する教科書の多くが英語で,結局日々,維持向上している.ただ最近は ChatGPT や Bing AI, Bard が登場してきて雲行きが怪しくなっているが(それもまた別の話).


# 収入面のお話

収入面に関する議論は避けて通れないのでここで言及する.昔は病理は稼げない,実家が太くないと病理医をやっていられないと言われた時期もあった.でもそれは病理学の研究者としての話で,病理診断医として働く限り,他の診療科とはそこまで変わらない.ただし,病理専門医を取るまでは一人前とみなされないので一人で sign out ができないなどの制約がつくことが多い.個人的には不満で,臨床医は専門医の有無に限らず独立して診療をしているのに,病理医は非専門医は常に仮免扱いなのは不公平だと思っていた.

でも考え方を変えると,専門医取得後は独占的になり,他の人の参入を実質的に締め出せるので,頑張って欲しいところ.昔は 5 年だったが 4 年,3 年と研修期間が短くなってきている.でも試験の内容は 5 年の時から変わらないので大変かもしれないが,きちんとステップを踏めば確実に到達するし少し時間がかかっても構わないと個人的に思っている(専門医機構は受験回数の制限等と不穏なことを言っているが).

専門医取得後は検査センターなどで働くとかなりコスパがよい仕事が得られる.莫大な収入というわけではないが,単価は相当高い傾向にある(検査センターで働いている人は時給換算で 20000 万円/hr 程度の働き方をしていることが多く,やりようによっては 3-6 万円 /hr といった働き方も十分可能).


# 落ち葉拾い(顕微鏡を見るのが苦手?)

そろそろ落ち葉拾いをして,畳み込みをかける.顕微鏡を見るのが苦手とか教科書を読むのが苦痛だから病理は合わないという人をちらほら見かけるがそれはもったいない.

実際,自分は病理学実習まで顕微鏡の両眼視ができなかった.片眼が弱視なのもあってそもそも両眼視すること自体を諦めていた.でも実習中のある瞬間に両眼で立体的に見ることができて感動したというのは入るきっかけになった理由の一つ.顕微鏡が苦手と言っている人でも殆どのケースで一ヶ月見続けていれば次第になれてくるので全く問題ない.

メガネでもなんでも見ることさえできれば病理診断をするのには問題ないし,今後は WSI でパソコン画面で診断ができる可能性が高い(実際 PMDA 認証を受けている機器が数種類あって,するかしないかは別にして可能である).


# 落ち葉拾い 2 (本を読むのが嫌い?)

後教科書を読むのが苦手という人が多いが,自分も教科書を cover to cover で読むのはあまり好きではない.峰先生や electric mouse みたいな変人のみができる所業.しかし,教科書を読むのは苦手でも分からないことに対していろいろな方法で調べることが嫌いな人は少ないと思っている.

わからないことを調べて解決するという体験から得られる快感とそういう積み重ねが自信につながる.わからないものを理解したいという欲求は誰でも持っているものであり,仕事として真正面から取り組めるのは病理のメリットと考えている.


# まとめ

もちろん強制するものではないし,強制はできないのでせいぜいどうですか?という程度に留まる.この記事を読んで,どこかにひっかかるところがあれば是非見学にいらしてください.お待ちしております.


病理医としてのキャリアパス:中間点

# 次はいずこへ どどたんせんせはいわゆる around 40 で,この職場で留まるべきか次にどこかに行くべきかをそろそろ悩まなくてはいけない感じなっている.ある程度 public なこういうブログで書くべきかは悩ましい感じもするが,ごく普通の人の普通のキャリアパスについての具体...