2017年12月27日水曜日

病理診断を学ぶ 〜 皮膚

2022/01/01 掲載されている本について情報をアップデートしました.
がとりあえず大きな変更はありません.

2021/05/05 掲載されている本について情報をアップデートしました.
* 日本語の本を中心として新しい本がどんどん出版されていますが,正直全て買う必要があるのか微妙な感じです.著者が結構かぶっていたりするので,実際に手にとってみて良さそうなものを買ってみると良いでしょう.

皮膚病理は難しい,というか病理医が細かく知る必要はない気がする.という元も子もない前提をさしておいて,幾つか本を紹介してみる.皮膚病理は結構たくさん本があって全て紹介していると発散しそうなので,幾つかに絞って,かつ洋書は大御所のものに限ることにする.

まず最初の第1歩としては,,,

改訂新版 皮膚病理学 (2012)

この本は 2012 年と書いてあるが,2000 年以前のかなり古い本.出版元が変わってカバーだけ差し替えた感じだけど,本質的には変わっていない.皮膚科自体が古い用語を好む領域なので(多分幾つかあると思うのだが,免疫染色などよりも形態学的診断が好まれるから,とか炎症性皮膚疾患などは遺伝子異常等とはあまり関連がないことなどか?→あまり関係がない,というのはちょっと言い過ぎた.関係があっても組織学的診断には反映されにくいとしておこう),実際問題新しい概念というのはそんなに登場していなくて,この古い本でも有用.申込書の臨床診断に書いてある診断名を理解できない人は少なからずいるはず.そういう時に便利.

皮膚科サブスペシャリティーシリーズ 1冊でわかる皮膚病理 (2010)

はじめに言っておくと,決して一冊では分かるようにはならない.この本を嫌っている人が少なからずいて,結構重要な疾患にもかかわらず,鑑別診断でわずか数行コメントするに留まっているものがそこそこあるということ.まぁ写真もきれいだしきちんと載っているので結構有用だとは思うのだけれども,一冊で十分というのははっきり言って言い過ぎ.まぁ色々載っているので便利ではある.

実践皮膚病理診断 (2017)

この本は 2017 年に出たばかりの比較的新しい本.この本の良いところは炎症性皮膚疾患の分類法.炎症性皮膚疾患については Ackerman (surgical pathology じゃない方)のアルゴリズムが有名だけれども,superficial perivascular dermatitis とすべきか spongiotic dermatitis とすべきかとか,悩むことがしばしばあって,このアルゴリズムは結構使いにくい.著者らは,ハイブリッド診断として,どこの所見から入っても診断にたどり着くように工夫をこらしている.もちろんこれが全て,というわけではないのだが,なかなかわかりやすいと思う.比較的新しい診断アルゴリズムで結構おすすめ.

皮膚病理組織診断学入門(改訂第3版) (2017)

この本はとても有名で,3 版になってから一回り大きくなった.この本は結構昔からあるので愛用している先生は多いのでは?鑑別診断が丁寧に書いてあるので取っ掛かりがつかめたら,そこを頼りに鑑別がしやすい.ただ,謎なのがなぜ病名がアルファベット順にしているのか.ただ,実際にはこれ,調べようとするとき意外と分かりやすかったりする.

みき先生の皮膚病理診断ABC (1) 表皮系病変 (2021)
みき先生の皮膚病理診断ABC (2) 付属器系病変 (2007)
みき先生の皮膚病理診断ABC (3) メラノサイト系病変 (2009)
みき先生の皮膚病理診断ABC (4) 炎症性病変 (2013)


みき先生の本の素晴らしさは特に言及する必要はないと思う.まぁこんなにありふれた疾患に対して鑑別診断も含めて丁寧に記載している事自体がすごいということ.ここで細かく説明するよりもとりあえず本を手にとって見て欲しい.何かが変わるはずだ.ちなみに表皮系病変から update されている.


皮膚病理について,これ一冊でという比較的まともな本が何冊も登場してきた.特に付属器腫瘍の本は網羅的でよく書けている.病理診断リファレンスも網羅的だが,腫瘍・非腫瘍を一冊で網羅しようとするのはなかなか難しいように思う.いずれもとてもおすすめの本


確かに良さそうに思うのだが,正直皮膚病理の本が何冊もあってもしょうがない.ここまで買う必要があるのかという疑問も出てこなくはない.

皮膚科医をターゲットにしているせいもあって,和書はほんと挙げればキリがない.気が向いたらまた追記することとして洋書を数冊提示して終わることにしよう.

WHO Classification of Skin Tumours (Who Classification of Tumours: International Agency for Research on Cancer) (2018)

腫瘍の分類においては WHO 分類を無視することは出来ない.Keratoacanthoma などの分類で日本とは考え方が異なる部分もあるが,原則的 WHO 分類に従うべき.

Lever's Histopathology of the Skin (2014)

リンクを貼っておいていうのも何だが,Lever は少し読みにくい.他の本に比べて写真が少ないので何を言っているのかがわかりにくいことがある.ちなみに皮膚科の大御所の先生たちは Lever 自身が書いた版を使って勉強しろと言っている.古本で amazon に転がっているので興味のある人はどうぞ.

・McKee's Pathology of the
Skin (2019)

分子生物学的なことなどを含めて,おそらくマッキーが一番詳しいと思っている.写真も大きく内容もとても詳しいので,皮膚病理の最後の砦として調べ物をするには最適.ちなみにマッキー先生はもう引退している.

Weedon's Skin Pathology (2020)

現時点でどれか一冊洋書をと言われると,この本がお勧め.これは一冊にまとめているので重たくて腕が抜けそうになるが,情報量は当然多い.ちなみにどの本もそうで,特に炎症性皮膚疾患はその傾向が強いけれど,著者によって分類方法が結構変わってきたりする.どれが正解というのもないので別にいいんだろうけれども,非専門家としてはどれか一冊に軸足を置いておいたほうが良いと思う.Weedon, Mckee もどちらも最近改訂されており,いずれか一冊で十分だし,皮膚病理が好きであれば両方とも持っておいても損はない.

Inflammatory Dermatopathology: A Pathologist's Survival Guide (2016)

炎症性皮膚疾患の診断の仕方を記載した良書.コンパクトで著者いわく週末かければ読めると言っているが,non-native の日本人としてはまず週末だけでは集中力が持たない.この本は結構現実的なラインで話を勧めている.Spongiotic dermatitis と psoriasiform dermatitis は時として鑑別が難しくどちらとしても良い(所見をきちんと記載すること)など現実的なことを言ってくれている.Sample report が秀逸.Cleveland Clinic ではこういうふうに書いているのかというのはとても参考になる.Clinicopathologic correlation is recommended. がやたらと多いのは気になったけど笑.


皮膚の軟部腫瘍の比較的数少ない本.High-Yield series と同じスタイルの本.皮膚軟部腫瘍に関する本は非常に少なく,貴重な本.皮膚軟部腫瘍は皮膚 WHO bluebook の他に軟部腫瘍のテキストにも記載がある.

あとは個人的な趣味に走る.

Pearls and Pitfalls in Neoplastic Dermatopathology (2016)
Pearls and Pitfalls in Nonneoplastic Dermatopathology (2016)


この本の良いところは鑑別診断について丁寧に記載しているところと,病変の典型的な所見と経時的な変化を細かく書いてあるところ.母斑などは経時的に呈する像が変わることがよくあるけれども,その所見も丁寧に記載されている.


病理診断を学ぶ 〜 骨軟部領域

2022/07/03 掲載されている本について情報をアップデートしました.

あまり改訂と呼べるような内容の本はない印象.

2021/05/05 掲載されている本について情報をアップデートしました.
* 新刊本の更新程度です.腫瘍について genetic な情報については常に更新されるのでどの本をとっても最近とは言えません.とりあえずなるべく新しい本を見るのが良いと思われます.

骨軟部領域ははっきり言って日本語の本が少ない,とても少ない.日本語の本もあるにはあるけれども,かなり限定的で悪性腫瘍しか扱っていないだとか記載が少ないだとかで詳しく調べるには不向き.さらに非腫瘍性骨関節疾患に至っては一冊しかない,しかも絶版.

そういう behind な状況の中でおすすめされるのはやはり洋書になる.非腫瘍性骨関節疾患,骨腫瘍,軟部腫瘍の順に本を提示していく.

Orthopaedic Pathology (2009)

非腫瘍性骨関節疾患の代表的な教科書の一つ.そもそも非腫瘍性骨関節疾患は非特異的な所見が結構多くて臨床病理相関が極めて重要.もっというとレントゲンをある程度読めないといけないことと,整形外科の疾患について(Perthes 病とかPaget 病とか)ある程度知識がないと読み進めるのは難しい.

他には

Orthopaedic Pathology (2015)
Non-Neoplastic Diseases of Bones and Joints (Atlas of Nontumor Pathology) (2011)

あたりが有名でよく書けていると思う.Non-Neoplastic Diseases of ... は AFIP のシリーズなのでこっちは比較的入手可能.

そういう知識がまず足りない人(臨床研修で整形外科的な処置に巡り会えなかったり,整形外科を回らなかった人)には

病気がみえるvol.11 運動器・整形外科 (2017)
整形外科 (国試マニュアル100%シリーズ) (2011)

あたりが有用.どちらもよく書けているので,両方とも買っても損はない.

非腫瘍性骨関節疾患の教科書は英語でもそんなに多くはなくて(細かいことを言うとあるのはあるんだけれども,腫瘍,非腫瘍を扱った本の多くは腫瘍にボリュームを割いていて,非腫瘍をメインとした教科書は少ない,ということ),あとは絶版だけど(一応リンクは張っておく)石田先生の本が超有名.

非腫瘍性骨関節疾患の病理 (2003)

この本はかなりわかりやすいと思うけれども,石田先生自体が超絶優秀な人なので(余談になるけど,大昔の病理と臨床か Pathology International には確か病理専門医試験の合格体験記が載っていたような気がする.石田先生の合格体験記を見るとすごい,at a glance),我々凡人には理解できないところもあると思われる.整形外科の教科書を見ながら勉強すること.

骨腫瘍については比較的本が多い.全部紹介してもキリがないけれども

Soft Tissue and Bone Tumours (World Health Organization Classification of Tumours) (2020)

この本はおすすめというよりも,分類学の要の本なので,骨軟部腫瘍を専門にするのでなければ最低でもすぐ見れるところにおいておけば良いと思う.専門的に見ようと思うのであれば是非購入すべき.

Dorfman and Czerniak's Bone Tumors, 2e (2015)

骨腫瘍のかなり大きなテキストで,ボリュームは多いけれども,比較的地に足の着いた記載があるのが特徴(悩ましいときも素直に悩ましいと書いてある).初めて見る疾患はここらへんまで調べれるとよい.

Diagnostic Pathology: Bone (2021)

Amirsys 社の箇条書きシリーズ.このシリーズは骨に限らず他の巻もそうだけど,名だたる執筆陣を確保していて素直にすごいと思う.値段が爆高なのが困るけど.今回からちょっとだけど非腫瘍性骨関節疾患が入ってきており,少し充実している.

Practical Orthopedic Pathology: A Diagnostic Approach: A Volume in the Pattern Recognition Series, 1e (2015)

この本は実は読んだことがないけれども,有名な pattern recognition series の一つ.改訂される気配がない.

日本語の本では石田先生の本がとても良く書けている.

骨腫瘍の病理 (2012)

ただ,これ残念なのが前回の WHO が改訂される直前に出た本であること(ただし良悪性を含めて本質的に変わるものではないし,controversial なものは適宜言及されているので実際には問題ない).

軟部腫瘍について有名なのは

Enzinger and Weiss's Soft Tissue Tumors: Expert Consult: Online and Print, 6e (2019)

だけど,これ診断名が微妙に WHO と異なっている(これはもう完全に流派の違い,どちらでつけても問題はないと思うけれども,一応 WHO に従ったほうが無難).消化管,軟部腫瘍で有名(最近 Rosai and Ackerman Surgical Pathology を書いた)Goldblum 先生が editor をしている.

Modern Soft Tissue Pathology: Tumors and Non-Neoplastic Conditions (2016)

GIST で有名な Miettinen 先生も軟部腫瘍について本を書いている.なんとなく,Enzinger の方が詳しい気がするけれども,多分 Enzinger は多くの病理検査室に常備してあるので,自分で買うのはこっちにしても良いかも.内容は Enzinger とそんなに変わらないけれども,写真は若干小さい.どれか一つと言われたらやっぱり Enzinger にはなるけれども.ちなみにやっぱり GIST については手厚い記載がなされている.

Biopsy Interpretation of Soft Tissue Tumors (Biopsy Interpretation Series) (2015)
Practical Soft Tissue Pathology: A Diagnostic Approach: A Volume in the Pattern Recognition Series (2018)
Diagnostic Pathology: Soft Tissue Tumors (2019)

三冊同時に提示したけれども,biopsy interpretation, pattern recognition, diagnostic pathology シリーズの一員でいずれも結構丁寧に書いてあっておすすめの本.まぁ他の本もそうだけど値段がめちゃくちゃ高いのが難点.


一番新しい本ということで.著者自体がだいたいかぶっているので,正直そんなに内容に差はない.なんだかんだいって腫瘍は WHO に集約されてしまう.

【結論】
骨軟部腫瘍は勉強しだすととても奥が深いので,あまり関わる気がなければ石田先生の日本語の本で済ませるのも一つ.そしてどの本も書いている人は同じ人だったり,同じ流派の人だったりするので,どれを選んでも多分あまり変わらないと思われる.

改訂に当たってざっと探してみたが,あまり変わりはない.結局腫瘍は WHO 分類に集約されてしまうので,本自体の個性がなくなりつつある.そのなかで唯一挙げるとすれば Dorfman は個性が光る本でちょっと古いが持っておく価値は十分ある.

病理診断レポートの行く末

http://www.jikei.ac.jp/news/20170720.html
https://www.asahi.com/articles/ASK7N76MDK7NULBJ01K.html

# Who reads pathology report?
医療従事者が関与する事故の中で病理診断レポートを読んでいなかったということはたまに聞く話.これは病理だけではなくて放射線画像診断や,もっというと検査全般について言えることだろう.

どどたん先生も幾つかの病院で仕事をしていて,臨床医が病理診断レポートを読んでいない,ということはよく聞くけど,なかなか問題の根は深い.

例えば,普段総合病院の整形外科にかかっている患者さんが,検診の胃カメラで所見ありで精査をしてほしいと来たとする.その際に整形外科の「かかりつけ」の先生に対して,「胃カメラをうけたい」というと,その先生は消化器内科を紹介するか,あるいはフットワークが軽ければ自分で上部消化管内視鏡検査の依頼を出してくれるかもしれない.

外来にかかった場合でも,検査のみの場合でも,もしかしたらその消化器内科の先生は「病理検査の結果は整形外科の先生から聞いて,もしなにか異常があればまた紹介器内科を受診してください」というかもしれない.そして,当の整形外科の先生としてはあくまで自分は紹介器内科を紹介しただけ(あるいは上部消化管内視鏡検査をオーダーしただけで),見てもせいぜい上部消化管内視鏡の検査レポートくらいで付属する病理診断報告書のことはあまり意識に上らないかもしれない...

# Who takes the risk?

院内だろうが,院外だろうと基本みんな仕事を押し付けようとする.我々病理医だって病理診断報告書が適切に読まれているかどうかなんて知る由もないし,最低でもオーダーした医師(研修医?他科の医師?)に連絡さえすれば無罪放免だと思っている.実際問題として大して記載されていないカルテを見たところで,本当の主治医が誰なのかわからないことはたまにあること.

この「見忘れ」問題を防ぐためには,電話をかけてみたり,紙で渡してみたりするだけでは不十分で,本質的には当院にかかった患者さんは一体誰が(どこの診療科が)主治医として機能しているのか,ということを明確にしないといけない.

でもこれには反論が容易に予想され,普段は近医の中で薬をもらっている患者さんが,肌がカサカサするということで,皮膚科を受診し塗り薬をもらっているだけだったとしよう.それでも何かあったときは皮膚科の先生が対応するのは困ると言われればまさにその通り.

他にもリンパ腫の生検で頚部からの検体採取は好まれやすく,血液内科からしばしば耳鼻科へコンサルトがなされるけど,採取した検体について,耳鼻科の先生に話をしてもしょうがないことがある.

# Generalist is required though...

こういう文脈からも総合診療医というのが求められている気がするのだけれども,それは病院という枠組みを超えてもっと大きなフィールドで活動をしないと,患者さんの受療行動全貌を把握はできないのだろうと思う.

冒頭に挙げた慈恵の例でも分かるように結構難しい問題.仕事を増やすと他の仕事ができなくなるし.どどたん先生は悪性のでた症例を一覧表にしてオーダーした先生に渡して,サインを貰って返してもらうのが良いのではと思っていたが,慈恵の人たちが提示していた解決策の一つに,患者へレポートを渡す,というのは賢いなと思ってみた.

どどたん先生は常日頃から診療というのは患者自身が問題意識を持って主体的に関わることで成立するものと考えている.これは小児であろうが認知症のお年寄りであろうが,それぞれの理解度に応じて積極的に関わっていくべきだと思っている.若干めんどくさいこともあるけれども,これはとても重要で本質的だと考えている.

その視点からも患者が自分でレポートを読んで(読んだつもりになって),そこから次の受療行動につなげるというのはとても建設的.放射線画像診断や病理診断の報告書を患者に渡したがらない医者がいるもの知っているけれども,ぜひこの選択肢が選ばれる社会になって欲しいと思う.



2017年12月25日月曜日

病理総論:病因論,老化と死

【病理学とは】

★ Pathology = pathos + logos
  • pathos = 苦難,病気
  • logos = 理,ことわり,学問
★ 病院における病理学の役割
  • 病理(病理診断科)は 1 診療科として扱われている(標榜診療科)
  • 患者さんから採取された小さい組織(生検)や手術検体の細胞・組織学的診断
  • 治療方針の決定や治療効果(・予後)判定など幅広く関与
★ 病理学を学ぶ意義
  • なんでこの患者さんは点滴をしているのだろう
  • なんで発熱しているのだろう
  • なんでこの癌の人はなんですぐなくなってしまうのだろう,でもあの癌の人はこんなに長生きなんだろう...

【病因論】

★ 病因 etiology とは
  • 病気の原因を病因という
  • 外因 外部から生体に対して障害性に働くもの
  • 内因 生体側の因子で病気にかかりやすい準備状態
★ 外因には次の要素がある
  • 栄養障害 核酸過剰摂取(痛風),ビタミン欠乏(脚気)など
  • 物理的因子 外傷,熱傷,放射線障害など
  • 化学的因子 重金属中毒,医薬品など
  • 生物学的因子 ウイルス,細菌など
★ 内因には次の要素がある
  • 一般的(生理的)素因 年齢,人種,性別など
  • 個人的(病理的)素因  アレルギー,糖尿病の易感染性など
  • 遺伝・染色体異常,内分泌障害,免疫
どどたん先生のコメント:内因と外因を区別することができることが重要(変えようとしてできるものはたいてい外因,変えようとしても変わらないものは内因).時に厳密な区別ができないこともあるけれども,大まかな概念として知っておくことは,臨床上非常に重要.

【内因(内的要因)】

★ 素因とは
  • 素因とは,先天性 or 後天性に身体の中にある,病気に対するかかりやすさをいう
  • 一般的素因 年齢,性別,人種,臓器など,ある切り口から,人間を集団的に見た場合の共通の素因.例 高齢者 → 動脈硬化が多い
  • 個人的素因 遺伝的あるいは後天的(後から!)に得た個人の特性.例 アレルギー体質 → アトピー性皮膚炎や喘息になりやすい(必ずなるわけではない!!)
★ 遺伝・染色体異常
  • 親から子へ受け継がれる遺伝子や染色体の異常により起こる
★ 内分泌障害
  • 生体機能の調整を行うホルモンを産生する内分泌器官の機能障害(亢進 or 低下)により起こる → 詳細は各論で
★ 免疫
  • 微生物や毒素などに抵抗し,疾病を予防する仕組みである免疫機能が亢進 or 低下することにより起こる

【外因(外的要因)】

★ 栄養障害
  • 生命を維持するため,栄養素の摂取が必要 → 3大栄養素(タンパク質,脂肪,炭水化物) + 水,無機物(ミネラル),ビタミンも必要
  • 体内に摂取された各栄養素が生理的限界を超え過剰 or 不足 → 代謝に障害(* 代謝:生命維持のための一連の化学反応)
★ 物理的因子
  • 身体外部からの物理的な因子(熱,力など)により様々な疾患が起こる
  • 例 高山病(気圧),熱傷・凍傷(温度)
★ 化学的因子
  • 化学物質を体内に取り込むことで中毒や疾患が起こる
  • 例 一酸化炭素中毒,公害病(水俣病など)
★ 生物学的因子
  • 病原微生物が体内へ進入することで起こる
  • 例 細菌,ウイルス,真菌,寄生虫
どどたん先生のコメント:栄養障害は外因(これはよく間違えるけど,ご飯は外から入ってくるものなので)!物理的因子と化学的因子は混同しやすいので注意,また医原病は公害,職業病といったたぐいは外因に分類される

【医原病・公害】

★ 医原病 iatrogenic disease

  • 検査あるいは治療が原因となって引き起こされた病的状態.例 ステロイドによる糖尿病,骨粗鬆症,内視鏡検査での出血,注射針による神経障害
  • 社会的に問題になったもの SMON(スモンという整腸剤;キノホルム → ビタミン B12 欠乏→神経障害),薬害エイズ(HIVを含む輸血製剤による)
どどたん先生のコメント:薬剤性で表舞台から去った薬も再評価されて戻ってきているものもある(上記に挙げたキノホルムや,他にはサリドマイドとか).キノホルムも薬害問題は被害の悲惨さからも問題として根深いけれども,薬は毒に,毒は薬になりうるわけで医療従事者としては常に柔軟な発想を持つことが必要.


★ 公害病 pollution-caused disease

  • 大気汚染,水質汚濁,騒音など環境破壊による「公害」が原因
  • 4 大公害病
    • 水俣病 1956年 熊本県水俣湾 有機水銀
    • 第二水俣病 1964年 新潟県阿賀野川流域 有機水銀
    • 四日市ぜんそく 1960-1972年 三重県四日市市 亜硫酸ガス
    • イタイイタイ病 1910-1970年代前半 富山県神通川流域 カドミウム

どどたん先生のコメント:医原病,公害病も外因の一つであることはよく看護師等の試験で問われる.4 大公害病は一般常識に近い知識なので原因物質とともに大まかに覚えておく.

【職業癌】

★ 職業がん

  • 特定の職業に従事し,その作業環境に存在する発がん物質の暴露により生じる腫瘍
  • 仕事をしていなくても家族や周辺住民が罹患する例もあり,複雑な問題になっている

★ アスベストと中皮腫,肺癌

  •  クボタショック.2005年6月に兵庫県尼崎市の大手機械メーカー・クボタの旧工場の周辺住民にアスベスト疾患が発生するという報道を契機として,社会的なアスベスト健康被害(中皮腫,肺癌,肺気腫など)の問題が急浮上
  • 問題点 アスベストは現在新規の使用を禁止されているが,まだ建造物内に残っており,建物解体時など今後もしばらくは暴露は避けられない

★ 胆管癌とジクロロプロパン

  •  20-30 歳前後の印刷会社従業員に胆管がん(肝門部胆管)が多発して死亡していることが 2012 年に明らかになり,印刷機の洗浄物質に含まれる 1,2-ジクロロプロパンとの関連が指摘された
  • 問題点 従業員の健康を守るべき産業医の存在意義を問われている

どどたん先生のコメント:職業癌は本来は最も避けなければならない病気の一つ(そもそも仕事をして病気になるのは管理上とてもまずい)だが,過労死も含めて社会的に問題となっている

2017年12月24日日曜日

病理診断を学ぶ 〜 解剖学,組織学

2021/05/05 掲載されている本について情報をアップデートし,いくつか追加しました.
【ここで載せている本について】 
  • 病理診断を実践するためには健全な解剖学及び組織学の知識が必要
  • 実際のところ,解剖学については細かい筋肉や神経の名前までは求められることはないものの,組織学については学生の時に習った内容以上のレベルが求められる
  • ここで紹介している本は基本的に全ておすすめできる本(★ 5 つレベル)で,これらから自分の合うものを選んで常に手元に置きながら勉強すると上達は早い,,かも!
入門組織学 (2013)

この本を侮ることなかれ.病理診断のトレーニングを始めたばかりの人(学生,研修医にかかわらず)基本的な組織学の知識が欠落していることが多い.それは自分もそうだったので特に非難するつもりはないけれども.病理診断に必要な組織学の約 80% 程度を容易に提供してくれるとても良い本.組織学の試験対策としては少し物足りないかもしれないけれども,業務をこなす上ではとりあえずこれらくらいの知識が入っていれば十分.バカにせず丁寧に読むこと.


悪くはない本.どちらかというとアトラス的な立ち位置.正常構造を知るには良いが少し内容が薄い印象.レジデントの先生に聞いてみてもうーんという感じの返事であった.バーチャルスライドを見た人はいなさそう.


Q シリーズの新組織学もなかなか悪くない本だけれども,上記の入門組織学の完成度及び読みやすさが群を抜いているので,少し色あせて見えるところ.この Q シリーズは発生学,解剖学と合わせて同じテンポで説明しているので,相互性を重視するならこの本もおすすめ.あるいは入門組織学からの二冊目として購入しても良い.

どうでもよいが,Q シリーズはたまに改訂されているようだがどこが変わったのかよくわからない.


この伝統ある本も両藤田氏が引退して執筆者が変更になってから急に今風の本になってしまった.まぁ古い本の方が味があるといえば味があったのかもしれないけれども,流石に古風すぎるのと説明が若干おかしいところがあるので改訂自体は歓迎すべきとおもう.この本は昔の本を持っている人はそのままで良くて,病理部にあれば個人持ちする必要はないと思う.基本的なこと(そもそも膠原線維ってなんだっけ?)を知りたくなった時や知らない解剖学的用語が登場した時に調べることが多い気がする.

組織細胞生物学 (2015)(洋書 Histology and Cell Biology 2019)

少しレベルの高い本.分子生物学的な知見を踏まえた,組織学の本.最初に使う本ではないけれども,(特に免疫染色のからみなどで)少し突っ込んで知りたくなった時に使う本.個人として一冊もっておくと何かと便利.

カラー図解 人体の細胞生物学 (2018)

この本は,カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版の姉妹版として発行された本で,人体に限った分子生物学について記載している.トータルで 300 ページ未満で意外と読みやすい.分子生物学の本は結構分厚かったり記述が詳しくて,挫折してしまいがちだけど,この頁数であれば,なんとか行けそう.これらの時代,病理診断には分子生物学的な知識は必要不可欠で,まず最初にレビューするには格好の本.


病理と臨床という雑誌の増刊号.この雑誌はそもそも病理医による病理医のための雑誌みたいなもので,増刊号も結構我々のニーズを満たしてくれるいい本を出している.増刊号は正直全部買ってもいいくらい痒いところに手が届く感じ.でもこういう本って本当は文光堂にお願いするんじゃなくて,病理学会が先導して積極的に出していくべきだと個人的に思っている.

話がそれたけど,この本も少しレベルが高い.実際に診断をしている最中に気になったことなどを調べるのに向いている.雑誌なので?多少の誤植があるがそこはご愛嬌.すぐ売り切れになるので早めに購入の検討を → 人気の高い本はたまに再販されることがあるようだ.


病理診断に使える,組織学のアトラスはあまりいいのがない,というのが正直なところ.なぜかというと,組織学アトラスとして販売されているものには HE 写真が少なくて特殊染色がとても多いから.我々は HE 染色を基本にして診断をしているので,例えば心筋の線維化をみるのもまずは HE 写真がほしいところ.でも多くのアトラスは Azan 染色あたりを出してこれでもか!って具合に線維化を示している.その中で「機能を中心とした図説組織学」は病理医が書いているだけあって HE 写真が多いのでおすすめ.他は本屋さんか図書館でめくりながら使いやすいものを選ぶと良い.

Histology for Pathologists は少しレベルの高い本.ある程度基本的な組織学の知識が頭に入っている前提で更にわからない病変を調べるときに有用.持っておいてもいいし,病理部にあればそれを使っても良い.

最後に解剖学を中心とした本を幾つか...


解剖学のとっかかりとして最適.ここでは病理学,病理診断を学ぶために有用な本という位置付けなので周辺の領域の本については通読を求めてはいないのだが,(一度解剖学を学んだという前提ではあるが)通読が現実的な本.難しいことを書いてあるわけではなく,いわゆる基本的な教科書の位置付け.専門家からすると入門書だが,一般の人にとっては習得すべき目標となる.

入門組織学と双璧をなす本と考えてもらって良い.まずどれかと言われると,ここからスタートすると良い.



この本はかなりおすすめ.解剖学,組織学,生理学(+生化学)を網羅し,臓器別にまとめてある.一通り概観が出来るので,とても見やすい.正直それぞれの専門書レベルに細かく載っているかと言われると微妙なところがあるけれども,それでも絵も豊富でとてもよい(もっというと講義の資料に使いやすい).


解剖学アトラスは必要.病理解剖をする時や外科材料の切り出しを行う時のオリエンテーションを確認する時に.どどたん先生にはなかなか理解しにくいがこれらの解剖学の本はしょっちゅう改訂されている.一体に何を変えようというのであろうか苦笑(細かいことを言うと,解剖学における事実自体は変わらなくても,治療法などの進歩により臨床的な意義が変わってくることはあり,それによってスポットの当たり方が変わることはよくある,それにしても改訂しすぎ).最新の版は少し高いので,1つか2つ古い版くらいであればなんの問題もなく使えるので,中古にこだわりがなければおすすめ

Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice, 42e

有名なグレイズ・アナトミー.我々病理医は解剖学の専門家ではないので,他の分野の本こそちゃんとしたものが実は必要.どういうことかというと病理診断に関する最新の知識は簡単に Pubmed や医中誌などで引っ掛けられる(∵検索ワードが簡単に思いつくから).でも解剖学に関する疑問点をうまく引っ掛けられるような検索ワードが思いつく人はそんなにいないと思う.だから病理以外の分野を調べようとすると,ちゃんとした教科書があると助かる,という話.病理診断に特化した組織学の本はいくつかあるけれども,病理診断に特化した解剖学の本は実はない.だから最後の拠り所としてグレイズ・アナトミーが一冊あるととても有用(これに関しても個人持ちの必要はないと思う).

** 解剖学の本は実際はあまり使うことはないので,必ずしも個人持ちする必要はないが,買って読むと得られるものが結構多いと思う.全て買えとは言わないが一冊くらいあるといいかも.





久しぶりに本を読んだ

# Read a book.

『症状を知り、病気を探る 病理医ヤンデル先生が「わかりやすく」語る』 を読んで見た.流し読みだけど。まあまあよくかけてると思う.反跳痛が内蔵痛から体性痛に変わっているところなどは比較的的確な印象.まあこういうのが受けるのかといえばそういう感想.

ちょうど講演会の 1 時間番組を聞いているような感じの内容で,深いわけではないけれども,

ちなみにヤンデル先生自体は twitter 芸人から卒業?あるいは休止中とのことらしい.ブログ芸人?になるのか.

# Expand knowledge.

色々勉強する方法はあれど,個人的には一番は本を読むことと思っている.どんなに頑張って実際にやってみてもルールを知らないと上達しない.

というわけで,今皮膚病理の本を読んでいるところ.ところが社会人になると意外と勉強の時間が取れないことに気づく.というか再確認.あるいは時間があっても,やる気力が残っていない...

なにか期限があれば頑張れるんだろうけれども苦笑

2017年12月23日土曜日

病理診断を学ぶ 〜 消化管

2022/01/01 掲載されている本について情報をアップデートしました.
2021/05/05 掲載されている本について情報をアップデートしました.
* 消化管病理の本は全体的にあまりアップデートはされていないようです.WHO blue book が 2019 年に出版されているため,それを反映した本が出てくる可能性はあります.

消化管病理の本は正直言うと日本の本がよく書けている.わからないことがあれば J-Stage や医中誌辺りで検索をすればわかりやすい総説がたくさんある.そのことを前提にした上で洋書を中心に紹介していく.少なくともどどたん先生が読んだことがある本のみを提示しているので,重要な本でも抜けているものがあるのは了承してほしいところ.

Digestive System Tumours (World Health Organization Classification of Tumours) (2019)

WHO は基本.最近改訂されており比較的参照しやすい.

Fenoglio-Preiser's Gastrointestinal Pathology (2017)

消化管病理学では大御所の本.細かい病変についてもよく書けている.あとは他の本も同様だが,日本の基準と欧米の基準とは違うことがある(特に癌の基準)ため,その基準をそのまま当てはめるとなかなか難しいことがある.

Morson and Dawson's Gastrointestinal Pathology (2013)

Fenoglio-Preiser's とほぼ同様の立ち位置の本.同じ項目について 2 冊読み比べてみたけれど,書いてある内容はどちらもほぼ同様.

Non-Neoplastic Disorders of the Gastrointestinal Tract (AFIP Atlases of Tumor and Non-Tumor Pathology, Series 5) (2021)

AFIP の評価は高くて一定しているが,その中でも非腫瘍性病変のシリーズは他に本がなかなかない上で貴重.特に消化管生検は非腫瘍性病変も結構多いので,細かい病変を調べる時に有用(2021 の 5th series はまだ見ていない).

箇条書きスタイルで有名な Amirsys (現在は Elsevier) の消化管シリーズ.全体的によく書けていると思うけれども,イマイチ網羅性に欠ける印象.

Odze and Goldblum Surgical Pathology of the GI Tract, Liver, Biliary Tract and Pancreas (2022)

この本は消化管だけではなく,肝胆膵も入っているためお得.どれか一冊と言われると,この本を購入するのも良いかと思われる.

臨床に活かす病理診断学 第3版: 消化管・肝胆膵編 (2018)

これらの本はどちらかというと入門的な本.消化管病理は病理診断の基本であるため,こういう本から導入するのも悪くはない選択肢である.


この本は読んだことがないのだが,新しい本ということで一応取り上げた.非腫瘍性疾患に関する本.


2017年12月11日月曜日

これからの展望

備忘録を含めてここに記載.

これからすべきこと.
病理学の論文の review をする
やっつけシリーズを完成させること
病理専門医試験の出題傾向
病理学総論の内容を転載すること
病理学各論の内容,(なにをどこまで?)を執筆すること
細胞診試験対策資料の作製
▶ やっつけしりーず,病理専門医試験の出題傾向は blog にアクセスにして,病理学総論,各論,細胞診試験対策は PDF にして link からアクセスしたほうがよいか.

方向性
病理学,病理診断学を学ぶ医学生,看護学生,臨床検査の学生,病理専門の研修医に役立つような情報

著作権との兼ね合い
書く内容は原則オリジナルとする.
pubmed 等のサイトに対して積極的にリンクを貼る
また画像に関しては極力病理学会などの画像にリンクを貼るようにする.



病理医としてのキャリアパス:中間点

# 次はいずこへ どどたんせんせはいわゆる around 40 で,この職場で留まるべきか次にどこかに行くべきかをそろそろ悩まなくてはいけない感じなっている.ある程度 public なこういうブログで書くべきかは悩ましい感じもするが,ごく普通の人の普通のキャリアパスについての具体...