2018年11月15日木曜日

どどたん's salon 〜 病理診断における誤診とは

〈誰もいなくなった病理診断室にて,どどたん先生と Esumi 先生が何やら話をしている〉
Dodotan Sensei (以下 DS):やあえすみ先生,今日も相変わらず美人だね.
Esumi (以下 ES):辞めてください,先生.そういうのはセクハラになるらしいですよ.
DS:芸術作品を見て,美しいといって起こられることはないだろう.素直な感想を言ってなにが悪いんだい?
ES:じゃあ先生はブスな人を見たら,本人の目の前でブスっていうのですか?
DS:確かに.なかなか鋭いな..
ES:それはさておき,先生聞いてくださいよー.
DS:どした?また太ったの?
ES:だからーーーーー,それがまたセクハラなんですよ!!
DS:まぁ確かに.で?
ES:この前盛大に誤診をしてしまって...上級医の先生が見つけてくれたから大事には至らなかったんですが,これ一人で診断していたらと思うとゾッとしてしまって.
DS:まぁよくあるよ.どどたん先生も肉芽腫とHodgkin リンパ腫,卵巣の顆粒膜細胞腫とカルチノイド,卵巣の明細胞癌と Yolk sac tumor を誤診したことがある.ホジキンは再生検までしてきて,それで,始めて気がついたな.
ES:よく覚えていますね.ってか,怖くならないんですか?
DS:怖くならないと言ったら語弊があるけど,まぁ人間誰しも間違いはあるからね.間違いからは逃れられないんだよ.
ES:でも患者さんの治療方針が違うじゃないですか,とくに肉芽腫とリンパ腫では大違いですよ.
DS:まぁ確かにHodgkin リンパ腫を見落としたときには流石に凹んだけどね.まぁ最近だと盛大にやらかしかけたのは Yolk sac tumor を明細胞癌としたときだね.このときはダブルチェックがあってよかったと思った.
ES:でも間違えたら怖くてなんか診断するのが億劫になってしまいます.
DS:まぁちょっと慎重になるくらいがちょうどいいんだよ.こういうのはイケイケドンドンよりも,なにか間違えているのかもと若干疑心暗鬼になる方がよい.

1. 誤診の筆頭格はやはり見落とし

ES:そういえば誤診ってどういうタイプがあるんですか?
DS:タイプっていうのは難しいなぁ.間違え方もいろいろあって,しかもその間違いのインパクトも様々だから一概には言えないよ.でもね,自分を含めて他の先生たちの誤診症例を見ていると大きく2つのパターンに分かれると思っている.
ES:2つのパターン?
DS:そうそう.一つは単純な見落とし.例えば胃癌の por, sig の見落としだったり,胆石症で切除された胆のうに癌を見落とした,などね.こういうのはどうせ良性だろうという先入観だったり,純粋に標本を見るのに費やす時間が少なかったりするのが原因となることが多い.
ES:じゃあゆっくり時間をかけたり,あとはセカンドチェックを導入すれば減りますね.
DS:まぁダブルチェック体制というのはこういうポカミスを防ぐためにあると個人的には思っているよ.まぁそれだけではないけどね.

2. 見落とし以外の誤診の多くはえいや!ってするとき

ES:単純な見落としは時間をかけるとか複数人で見るとかで解消できそうですが,もう一つの誤診のパターンはなんですか?
DS:もう一つは,思い切りの良さだよ.これは癌に違いない!とかこれは良性だ!と言い切ってしまうことによる誤診.
ES:あー,私もたまにあるかもしれません.悩んだ末にこれにしよっ,えいやって決めてしまうことが.
DS:そういうのって不思議なんだけど,診断を書くまではすご~く悩むんだけど,レポートを書ききった瞬間に終わったー!みたいに晴れやかな気分になってしまう.例えて言うなら,出来の悪い学生が試験終わりに気分爽快になるのと似ている.受かったか落ちたかまだわからないのに,なに気分爽快になっているんだよー!って感じ.
ES:試験終わりの感覚はなんか身に覚えが...なんか試験が終わると全てから開放されますよね.
DS:本当は診断を出したあとも悩むべきなんだろうけど,結局忘れてしまう.もちろん悪いことではないし,仕方ないんだけどね.でも2つに1つになってしまうとえいやって瞬間が必ず存在する.あれ,,,サイトケラチン陰性だけど,上皮性っぽいから癌でいいか!とかね.
ES:うーん,でもサイトケラチン陰性なら普通癌としないような気も..
DS:いろいろせっつかれて焦っていたら,普段しないようなことですらやってしまうのが人間なんだよね.基本みんなしうると考えて良いと思う.
ES:その2つないし3つくらいの鑑別診断のなかで間違えるということですね.
DS:まぁそういうこと.もちろん正解は明後日の方向にあったということもあるけどね.

3. 誤診をなくすためには

ES:結局誤診ってなくならないんでしょうか?
DS:そりゃ減らす努力はできるよ.賢くなればよい.
ES:そんな元も子もないことを言わないでくださいよ..
DS:まぁ月次な言い方だけど,誤診のパターンを理解しておくことは重要だよね.どういうタイプの誤診があるか,ということ.間違いやすいパターンでは最初から予防線を張ることができる.
ES:なるほど.
DS:あともう一つは,なるべく言い切らないことかな.ここは難しいんだけどね.玉虫色の答えを言っても誰もハッピーになれないからな.
ES:そうですよね.結局なにがいいたいかわからないこともありますし.
DS:そうそう.これも月次なんだけど,間違える時に安全に間違えるというのが重要だよね.全くわからないときは敢えて,傷が浅い方に間違える.どう診断したって同じ治療法や余後であればとりあえずいいや,と考える方法.さっきも言ったけど,みんな誤診は絶対にするんだよ.にんげんだもん.その時にいかに意識して無難な方に転ぶかということが重要なんだ.
ES:わかりました.これから気をつけて転びます.
DS:いや,えすみせんせいはまだいいんだよ,レジデントなんだから.レジデントの間は上が責任をとってくれるから盛大に転ぶべし.間違いは若いうちにやっておかないと後々すると恥ずかしいからね.まぁ年取ってから間違うこともあるからいいといえばいいんだけど.

病理医としてのキャリアパス:中間点

# 次はいずこへ どどたんせんせはいわゆる around 40 で,この職場で留まるべきか次にどこかに行くべきかをそろそろ悩まなくてはいけない感じなっている.ある程度 public なこういうブログで書くべきかは悩ましい感じもするが,ごく普通の人の普通のキャリアパスについての具体...