2017年7月30日日曜日

脳腫瘍 WHO 改訂のポイント

改訂履歴    
2017/07/30 初版
2018/01/20 改訂 
● 脳腫瘍の WHO 分類に基づいた glioma の検索
○ IDH 変異
・IDH 変異の内訳は IDH1, IDH2 変異がそれぞれ約 96%,約4% で,IDH3 変異は現在のところ見つかっていない
・変異型 IDH の約90% は IDH1 のコドン 132 がアルギニン(R) からヒスチジン(H) に変わった R132H
・IDH R132H 以外の変異型 IDH1として R132C (2.8%), R132S (1.4%), R132G (1.1%), R132L(0.6%)がある
・IDH2 にも R172K (2.8%), R172M (0.8%),  R172W(0.6%),  R172S(0.2%) がある

○ 成人の glioma の成り立ち
・成人の浸潤性膠腫には 2 つの type がある
・IDH 変異を出発点とし WHO grade II また は III の腫瘍として発生,悪性度が増して膠芽腫に至る
・IDH 変異の下流に TP53 変異,ATRX 変異が加わると diffuse astrocytoma, anaplastic astrocytoma が生じる.また IDH 変異の下流に 1p/19q co-deletion が加わると,oligodendrocyte 系の腫瘍が生じる
・IDH 非依存性で,TERT promoter 変異など別の遺伝子異常が腫瘍発生に関与し, 前駆病変を介さず de novo に膠芽腫として発生

・変異型 IDH の中で最も頻度の高い R132H は特異変異抗体 IDH1R132H の免疫染色で検出可能
・De novo のglioblastoma 以外の astrocytoma, oligodendroglioma は IDH1 R132H 陽性,p53, ATRX に相互排他的な染色性を示す
・IDH の変異がない (IDH-wildtype) と診断するには IDH1 の 132, 172 のコドンのいずれにも変異がないことを示すが,免疫染色陰性でも R132C などの可能性を除外できない
・ただし, 55 歳以上の glioblastoma では IDH 変異の確率は 1% 以下であり,IDH1 R132H (-) -> glioblastoma, wildtype と診断可能
・新 WHO では IDH 変異のない grade II or III  invasive glioma は存在しないというスタンス → IDH wildtype の診断は慎重に(IDH wildtype の glioblastoma や localized な glioma を見ている可能性)
・Glioblastoma, IDH-wildtype である epithelioid glioblastoma. 30 歳以下に多い.GFAP 発現弱く,50% に BRAF V600E 変異あり

・小児の浸潤性膠腫で正中線上,特に橋に発生した腫瘍はびまん性内在性橋神経膠腫と呼ばれ,ヒストン H3.3 をコードする H3F3A or HIST1H3B/C に変異があり,リシン → メチオニン (K27M).Diffuse midline glioma, H3 K27M-mutant という名称(WHO grade IV)

・限局性 well-circumscribed type の glioma はBFRA 遺伝子変異による

○ まとめ
・Invasive glioma を見たとき
→ IDH1 R132H (+), ATRX(-), p53(+)  → astrocytoma, grade II-III, IDH mutant / glioblastoma, grade IV, IDH mutant
→ IDH1 R132H (+), ATRX(+), p53(-) (+ 1p/19q co-deletion) → oligodendroglioma, grade II-III
→ IDH1 R132H (-) → IDH wildtype → atrocytoma, IDH wildtype(ただし wildtype と言い切るためには DNA sequencing が求められるため,検索が出来なければ NOS とする)
例外:55 歳以上の glioblastoma については IDH 変異がほとんどなく glioblastoma, wildtype と診断可能















2017年7月24日月曜日

子宮頸癌取扱い規約 病理編【1. はじめに】

2017/07/24 1st edition. 

○ はじめに 
・主に気づいたところを中心に適宜取り上げていく,neuroendocrine など新しくても頻度の低いものは除いた
・リンパ節の番号など,病理医にとってはあまり本質的ではないところは省略している
・よって完全ではないところに注意(変わっていなくても取り上げている可能性がある)

○ 病理診断報告書の記載について 
・組織学的余後因子:進行期が重要で,異型度は関係ない.脈管侵襲は「あり,なし」で記載し,静脈,リンパ管の有無や程度に関しては不問
・腫瘍径の評価:Conization 後の子宮摘出検体は病変がほとんど含まれていないことが多く,conization 検体に基づいて決定
・治療効果判定:descriptive な記載が求められるが,grading はない

○ 検体の取扱い 
・LEEP 検体で分割切除された場合は,体部側,膣側断端を結んだ線に平行になるように分割する

○ 診断の取り扱い 
・TNM 分類は UICC 8th ed. に準ずる
・TNM 分類の判定に迷う場合は低い方に分類
・Conization, 組織診,細胞診の結果は臨床検査であり,手術検体における pTNM 分類には加味しない.ただし,手術検体に癌がない,あるいは手術検体よりも「臨床検査」の方が異型が強ければ,pT は術前検査の結果を入れる

○ 組織学的分類 
・2014 年の WHO 分類の変更の際に細胞診の判定に用いられていた LSIL, HSIL が組織診断にも採用された
・微小浸潤扁平上皮癌や微小浸潤腺癌は組織分類から削除(進行期で判定するため IA の扁平上皮癌,腺癌)
・腺異形成 glandular dysplasia は削除
・内頸部型粘液性腺癌 → 通常型内頸部腺癌へ変更,最小偏倚腺癌は(悪性腺腫)は胃型粘液性腺癌の亜型となった
・明細胞腺癌,粘液性腺癌,類内膜腺癌,漿液性腺癌,中腎性腺癌の「腺」がなくなり,明細胞癌,,,となった
・組織学的異型度について,G1-3 に分類
 腺癌は充実性成分 10% 以下+核異型軽度から中等度は G1,50% 以上+核異型高度は G3, その中間は G2.ただし,胃型粘液性癌,漿液性癌,明細胞癌は全て高異型度のため分類しない

子宮頸癌取扱い規約 病理編【3. 腺系病変】

2017/07/24 1st edition. 

○ 上皮内腺癌 vs 腺異形成 
・WHO 2014 では腺異形成は削除され,規約もそれに準じている
・従来腺異形成と診断されていたものは low grade cervical glandular intraepithelial neoplasia (low-grade CGIN) か卵管上皮化生や反応性異型が含まれているとのこと.ちなみに上皮内腺癌は high-grade CGIN と同義
・腺癌は ER(-), Ki67 index 50% over, 通常 p16(+, diffuse, strong). 卵管上皮化生は p16 (+, weak), ER(+). 以上から紛らわしい症例は ER, Ki67, p16 で鑑別をせよとのこと

○ 最小偏倚腺癌 minimal deviation adenocarcinoma 
・胃型粘液性癌 mucinous carcinoma, gastric type へ変更.頚管腺型は usual type, 腸型は intestinal type になった
・分葉状頚管腺過形成,幽門腺化生が発生母地
・HIK1083, MUC6, claudin 18, CA-IX 陽性,p16 は基本陰性,p53 がびまん性に陽性

子宮頸癌取扱い規約 病理編【2. CIN と SIL の関係】

2017/07/24 1st edition. 

○ CIN と SIL の関係 
・細胞診の SIL としては CIN1 = LSIL, CIN2, 3 = HSIL と読み替え可能
・CIN2, CIN3 の区別について:WHO 2014 では CIN2, CIN3 を分ける意義は乏しいとし,HSIL と一括して記載しているが,CIN3 になると conization になってしまう(≒ 流産しやすい)ため,妊娠,出産希望の女性患者の場合には可能な限り CIN2 と CIN3 を区別するよう要請があるかもしれないと記載されている.日本では産婦人科医からの要望が強く,従来通り CIN2, CIN3 を区別して記載する

○ CIN1, LSIL 
・CIN1 は平坦な病変で, 60% は消退,30% は遷延,10% は HSIL へ移行
・コイロサイトーシス:そもそも HPV 感染を表す形態学的な「所見」に過ぎなくて腫瘍 (CIN1) とすることに違和感がある人がいたが,組織像のみでの鑑別は難しいことも多く,再現性も低い,また鑑別に臨床的な意義が乏しい
・以上から WHO 2014 では HPV 感染と腫瘍性増殖をあわせて LSIL とした
・腫瘍性増殖の時に基底層より 1/3 に留まるまでの増殖を言うが,異常核分裂像,多形性など明らかな異型が見られれば CIN2/HSIL と記載(従来は基準を厳密に適用すると CIN1 と判定されていたもの)
・これと関連して,25 ページの表は分かりにくくて,CIN1 と HSIL がかぶっていて,この規約でも CIN1/HSIL という category があるようにみえるけど,本文中を読み解いていくと,(従来の規約で!)CIN1 となった症例は,今回の規約では HSIL とし,さらに CIN1 ではなくて CIN2 とする,ということなので,CIN2/HSIL と記載することになっている
・Condyloma も LSIL, CIN1 に含まれている

○ 講演会で個人的に聞いたことを踏まえた感想 
・LSIL は HPV 感染を指すのみで,HSIL は DNA に組み込まれた腫瘍性増殖を指す
・だから腫瘍性増殖が見られたら,もはや HSIL となる,ということになる,だから CIN1/HSIL という表記が成立しうる,とのことであった
・でもこの取扱い規約を見る限りは,CIN1/HSIL と記載する余地はなさそうで,なんか規約に書いて有ることとは違うが,,,,

2017年7月3日月曜日

1. はじめに

2017/07/03 1st edition.
2018/5/29 Last updated.

○ 膀胱生検は診断のある程度方向性が決まっている  
・基本的にはいずれも癌の診断が主体で,病理総論的な読み方・考え方で概ねいける  
・悩みどころ,注意すべきところがいくつかあるが,いくつかのコツを掴めば診断はスムーズ  
  
○ 若い先生の悩みどころ  
・尿路上皮癌って扁平上皮癌とどう違うの?同じにしか見えない! (どどたん先生もよくわかんない) 
・尿路上皮癌の G1, G2, G3 ってどこにも載っていない! (旧規約だから) 
・尿細胞診はいつまで経っても Class III ばっかり.新しい報告様式はどうなっているの? (これは後日に) 
・こんな疑問に答える診断マニュアル ? 

○ 診断にあたっては膀胱鏡所見を!
・病変が平坦か乳頭状なのかは治療を行う上でとても重要
・もし迷ったら,膀胱鏡的に「乳頭状」と書いてあれば乳頭状としてよい

○ この診断マニュアルの方向性は少しずつ変わってきている  
・当初は胃生検,結腸生検等これが見れないと飯が食えないというマニュアルを目指していた  
・教科書を参照することを前提に,網羅性よりも,扱う疾患に濃淡を付けて,強調すべきところを強調するようにしていたつもり(いわゆるボン・キュッ・ボン like な note)  
・実際見てくれる人が病理医とは限らず臨床の先生もいることがわかってきたので,臨床病理相関も少し意識することにしてみた  
・それでも,まずは病理組織標本から start する病理診断学というスタンスは一貫している

3. 慎重に対処すべき病変たち

2017/07/03 1st edition.
2018/5/28 Last updated.

〇 Urothelial papilloma の診断は慎重に
・乳頭状増生で,尿路上皮の異型がないように見える場合(umbrella cell が被覆している)は urothelial papilloma とつけたくなる
・Urothelial papilloma は比較的まれな病変でしかも若年者に多いとされる
・膀胱鏡をする年齢層が高齢者に多いことを考えると,安易につけずに non-invasive papillary urothelial carcinoma, low grade を見ている可能性を考慮したほうがよい
・癌のように見える良性病変に注意も参照のこと

○ 平坦な病変は慎重に 
・平坦な病変の癌は urothelial carcinoma in situ となるが,これをつけると治療の選択が限られる(基本的には膀胱全摘が視野に入ってくる)
・生検, TUR で全て平坦でかつ,細胞異型が高度であれば urothelial carcinoma in situ となる.少しでも papillary な増殖があれば papillary urothelial carcinoma の土台で戦わせた方が無難
・上皮のびらん状変化が強い場合,ある程度の異型細胞の量があれば urothelial carcinoma in situ とつけるか,atypical epithelium としてフォローアップを促すのが無難(これはurothelial carcinoma in situ を否定できない異型上皮であって urothelial dysplasia とは書かないほうが良い)
・異型の弱い平坦な尿路上皮病変:urothelial dysplasia とする(定義上では urothelial carcinoma in situ, low grade とはしない)が,結構人により範囲が曖昧な気がする.これは取扱い規約が悪くて,規約の写真はあんまり異型のない上皮も載っている

○ 尿路上皮の異型は low grade / high grade で分ける.G1-3 は一応古いことになっている 
・非浸潤性の乳頭状尿路上皮癌は low / high grade で分ける
 Low grade:異型が弱く,核分裂像が少ないもので傘細胞が見られて良い
 High grade:異型が強く,核分裂像もぱらぱら,大小不同が強いもの
 両者の中間的なものはどうしても発生するのでそのときはどどたん先生は G2 相当としている
 (この解き方だと,G2 が何であるかを知る必要はないことになる(笑))
・平坦な尿路上皮内癌は基本的に high grade でよい,というか low grade と考えられる病変は実際には urothelial dysplasia に入れていることが多い.むしろ high grade ではないものを urothelial carcinoma in situ としない方がよい
・日本を代表する泌尿器病理医である某先生は「浸潤しそうなら high grade, しそうにないなら low grade」と言っていたが,どどたん先生には理解は難しい
・旧分類は一応併記:旧分類の G1-3 は再現性が低いことと,みんなが G2 に分類してしまい予後との相関が不明瞭であるため,一応現行規約では併記程度の扱い

○ 癌のように見える良性病変に注意  
・von Brunn's nest:
 上皮下の間質内に胞巣を作る.拡張した嚢胞状構造であれば cystitis cystica, 腺様構造であれば cystitis glandularis となる(両方見られれば cystitis cystica et glandularis)
 たまに浸潤癌と間違われる
・Inverted papilloma:
 内反性といって異型の乏しい尿路上皮が比較的大きな胞巣を形成し,上皮下に嵌入するように増殖
 浸潤性尿路上皮癌とたまに間違えられる(間違えた困るが...)
 通常尿路上皮癌は小胞巣を形成しパラパラ浸潤するので,大きな胞巣を作らないことが多いのが鑑別ポイント
・Urothelial papilloma:
 乳頭状構造を示す腫瘍の鑑別診断として重要だが!これは頻度がとても低くかつ若年に多い傾向.少なくとも高齢者の腫瘍であればとりあえず,papillary urothelial carcinoma としておくのが無難

○ 尿路上皮癌は腺,扁平上皮に分化することもある  
・尿路上皮癌はときに腺癌あるいは扁平上皮癌に分化することがある
・ほとんど腺癌あるいは扁平上皮癌であったとしても一部に明らかな尿路上皮癌があれば,urothelial carcinoma with glandular/squamous differentiation として診断
・腺癌あるいは扁平上皮癌のみからなっているときには,他の腫瘍の浸潤を rule out する必要がある(よくあるのが子宮頸部癌あるいは結腸直腸癌からの直接浸潤)

○ 小細胞癌はちょっとでもあったら小細胞癌(今のところは)  
・現行の取扱い規約では小細胞癌成分があれば何があろうと small cell carcinoma として報告することになっている(small cell carcinoma 成分が予後を規定するため)
・しかし,WHO 2016 の基準では small cell neuroendocrine carcinoma という名前になっていて,腫瘍の大半を占めないとつけられないことになっている
・何れにせよ,成分の多寡を記載する方が良い

○ 普通の尿路上皮癌じゃない場合  
・前立腺癌の膀胱浸潤に注意:前立腺尿道部の生検の場合は前立腺癌の膀胱浸潤の可能性もある
・大腸癌,子宮体癌・s頸癌の直接浸潤に注意:まぁ大体臨床的にわかっていることが多いが,申込書に記載されていないときもあるので,変だなーと思ったらカルテを見るか,免疫染色へ go

2. 尿路上皮とは,上皮性腫瘍の大まか区分け

2017/07/03 1st edition.
2017/9/14 Last updated.

○ 尿路上皮とはなにか?特徴があるようでない上皮 
・尿路上皮=移行上皮であり,表層には傘(表層)細胞 umbrella cell がかぶさっている
・尿路上皮は重層するように見えるが,全て基底膜と連続している
 (例:集合写真ではみんな顔が映るように背の高さを違わせているが,全員地面に足がついている)
・尿路上皮は角化や腺腔構造,線毛など明瞭な構造がなく,もともと特徴が乏しい
・尿路上皮が腫瘍化した場合にしばしば尿路上皮の形態学的な特徴がなくなることがある → Uroplakin 等の免疫染色で一応認識できるが,尿路上皮に特異的といえるマーカーは少ない(なぜか CK5/6 や p63 といった扁平上皮のマーカーが陽性になる)

○ 膀胱の上皮性腫瘍は flat か papillary かがとても重要 
・非浸潤性の尿路上皮癌は
 平坦な病変:urothelial carcinoma in situ
 乳頭状増殖:non-invasive papillary carcinoma, low/high grade
 の 2 種類に分けられる
・乳頭状病変だと認識しやすく TUR されやすいが,平坦な病変だと TUR しにくくなるためどちらの病変なのかは重要
・しかし,浸潤してしまえば平坦なのか,乳頭状かどうかは関係なく,invasive urothelial carcinoma (定義上 high grade だが,たまに臨床医から grade は?と聞かれる → high grade ですと答えれば良い) になる

○ ちょっとでも乳頭状構造が見られれば papillary urothelial carcinoma とする  
・乳頭状尿路上皮癌は一応膀胱鏡下で認識しやすく,TUR という治療が選択できる
・よって腫瘍上皮に線維血管間質の介在が見られれば(上皮の間に間質を含むことが「乳頭状」の定義になる)きれいな乳頭状構造ではなくとも,papillary urothelial carcinoma として診断
・丈の低い場合は「低乳頭状 low papillary」という用語を用いることができる
異型の弱い乳頭状尿路上皮病変:乳頭状構築がきれいに出てくれば,上皮の異型は弱くとも積極的に non-invasive papillary carcinoma, low grade とつけやすい(上皮の異型が強ければ high grade)
・ちなみに異型の弱い乳頭状尿路上皮病変については WHO 分類で papillary urothelial neoplasm of low malignant potential となっているが,定義や区別も若干曖昧であり,現行の取扱い規約では合わせて non-invasive papillary urothelial carcinoma, low grade としている.どどたん先生的にも,low malignant potential の病変は再現性が低い印象を持っており取扱い規約の方針に賛成している

前立腺生検のやっつけ方【3. Gleason score の判定,免疫染色の活用】

2017/07/03 1st edition.
2017/9/14 Last updated.

○ Gleason score は 3, 4, 5 のみで判定  
・Gleason grade は 1-5 まであるが,1,2 は基本的に基本的に専門家以外はつけない暗黙の了解(たまに講演会で Gleason score 2 とされるものをみるがかなり例外的な扱い)
・3 = well differentiated, 4 = moderately differentiated, 5 = poorly differentiated に相当する
・大まかに言うと
 Gleason score 3 1 個の腺管が全周性に線を引いて追える
 Gleason score 4 癒合腺管,篩状腺管,hypernephroid, 不明瞭な腺腔形成(≒ 癒合腺管)
 Gleason score 5 充実性増殖,索状配列,孤在性増殖,面疱壊死(≒ 腺腔形成の見られないもの+腺管内に凝固壊死の見られるもの → 面疱壊死という.意外とこれを 5 に分類しわすれることがある)
 * 細胞質内の空胞は腺腔形成とはしない(充実性増殖巣に細胞質内の空胞が見られていても腺腔形成とはせずよって Gleason score 5 になる)

○ 所見記載すべきこと 
・採取された部位ごと(右 1 番,右 2 番は別)に記載
・1 番多い成分+ 2 番目に多い成分を記載し合計する(例:5 が 1 番,4 が 2 番 = Gleason score 5 + 4 = 9).細かい規定があるので詳しくは規約を参照
・腫瘍の長さ and/or 全体の column にしめる割合(60% などと記載)
・Overall score を計算.Total の Gleason score を記載することを求められている(がどどんぱ先生は面倒なのであんまり,,,)
 これは Gleason score 3 + 4 = 7 と 4 + 3  = 7 では予後が違う,という主張が根拠
・生検検体中に腺管がないことは指摘:前立腺組織が含まれていないとそもそも評価したことにならないので所見として記載

○ 小さい病変の見つけ方 
・数個程度の腺癌を見つけるのは難しいが,実際の診断ではそのような小さな腫瘍腺管を見つけることも要求される
・小さい腺癌は小さいながらも独自の集まりを形成しており,弱拡大で見ると背景の腺管とは気色が違う病変として認識される(なんとなく集まっている感じ)
・何度も言うが細胞異型に注目しすぎるとわからなくなってくる
・数個の腺管程度で腺癌と確定するのはなかなか勇気がいるので,その場合は免疫染色で裏を取る

○ 免疫染色は参考程度に  
・前立腺癌で頻用される免疫染色は p63, 34βE12, P504S (AMACR) の 3 つ
・筋上皮マーカー p63 は核,34βE12 は細胞質に陽性になり,前立腺癌では二相性が消失するため陰性となる.p63 と 34βE12 は相補的で両方染めるとわかりやすいのでカクテル抗体(p63 + 34βE12)を用いる施設も
・P504S (AMACR) 前立腺癌の細胞質に陽性となる
・結論:p63, 34βE12 陰性で,P504S 陽性であれば前立腺癌.部分的に所見が異なる場合は atypical glands に留める(P504S は染まらないことはたまーにあるかな)

前立腺生検のやっつけ方【4. 背景病変,TUR-P について,所見記載方法】

2017/07/03 1st edition.
2017/9/14 Last updated.

○ 背景の前立腺にも一応注意を払う 
・腺癌について述べてきたが,癌を見つけるためには正常(あるいは前立腺肥大)の組織に見慣れていることが重要で,日頃からどこまでが非腫瘍性なのかを認識しておくと有用(良性の所見は多彩)
・萎縮腺管にも注意:小型の腺管ばかりに注意が注がれていると,萎縮腺管も注意が必要.萎縮腺管の多くは腺管の丈が短く,小型ながらも拡張しているように見える
・前立腺肥大を意識:増えているのは腺だけじゃない.腺が結節状に増生するのに加えて,間質も平滑筋細胞とともに増生することが多い (fibromucular hyperplasia).ちなみに言葉にうるさい人は前立腺過形成だよ,と指導してくるので一応注意(肥大=細胞体積が増大,過形成=細胞数が増大)

○ TUR-P の標本の作り方・みかた〜全部は面倒なので見ない  
・前立腺肥大に対して行われた TUR-P に対してどれくらい作るのかというのは結論は出ていないが,10-12 g くらい作れば良いとされている
・施設によっては全部標本を作製しているところもある
・TUR の標本は断片的になっていて,はっきり言って見にくい,見逃しても仕方ない.そういう気持ちで見る(心の声:小さい腺癌なんて見逃しても誤差だよ,誤差)
・心の声も重要だが,基本的に癌はどこをどう切っても癌に見えるため(深達度を無視すれば)あまり診断上問題となることは少ない
・ここからは施設ごとの対応だが,全ての標本に対して免疫染色を行っておくと見逃しの可能性が減る

○ どどんぱ先生的前立腺針生検の診断の仕方 
・4 倍で風景を見るように,あたかも気球から地上を眺めるように見る(背景の前立腺はゆったりしていて,おだやか,とかゆったりしている,と表現される)
・すると小型の腺管が密集するところがある(そうぞうしい,とよく表現される)
・拡大を上げて(10 - 20 倍程度)腺管の二相性が消失しているのを確認,Gleason score をつける(一本ごとに記載)
・難しい場合は免疫染色,それでも難しい場合は atypical glands と記載
・心の声:1か所でも前立腺癌を見つければ後は無罪放免だ!(大きな声では言えないが,検査センターで診断された前立腺針生検で複数箇所に癌がある場合,抜けていることがままある)

○ 最後に 
・Ductal carcinoma 等についてはとりあえず言及はしていない.
・非腫瘍性病変についてもあまり言及していない(こちらは後々の改訂で追加予定)

前立腺生検のやっつけ方【2. 前立腺生検のみかた】

2017/07/03 1st edition.
2017/9/14 Last updated.

○ 前立腺癌の分類は他の癌とは少し違う 
・病理総論的には前立腺癌は基本的に(いつくかのまれな例外を除いて)腺癌
・前立腺の領域では Epstein 先生たちがあまりにも有名で,ある種の独特な世界を作っている → https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26956509
・腺癌の grading の根拠となる Gleason score は何年かに一回「びみょー」な変更がされている.多分見比べてみないとぱっと見分からない

○ 前立腺生検は弱拡大で見る 〜 細胞異型は評価しにくい  
・一般的には次の 2 点が重要だと言われている
 1. 前立腺は弱拡大で見ること
 2. 癌の診断には二相性の消失が重要
・理由ははっきりと書いていないことが多いが「前立腺癌は細胞の異型だけでは評価できない」 (→細胞異型はあることもないこともあって,細胞異型がなくても腺癌であることを否定できない)
・病理総論の細胞異型,構造異型のうち,構造異型で評価することが多い
・(細胞異型を見ないで)構造異型を評価するためには弱拡大の方が認識しやすい
・どどんぱ先生は弱拡大 → 強拡大で評価するのが面倒くさいから初めからある程度倍率を上げてみているけど,それでも普通は対物 10 からせいぜい 20 倍までしかみない.

○ 前立腺の構造異型とは?  
・構造異型を端的に表したものが Gleason score の図(Gleason Grading system diagram)
・Gleason Grading system diagram を眺めると分かるが,前立腺における腺癌というのは基本的に小型の腺管を指している
・つまり小型の腺管が密に増殖することが前立腺における腺癌の基本形態で,癒合腺管や孤在性増殖,面靤壊死など特殊な構造が Gleason score 4, 5 あたりで認識できる
・結果として細胞異型を細かく見るよりも,小型の腺管の密な増殖(≒構造異型)を評価することが重要で,弱拡大で見た方が見つけやすい

○ 前立腺の 1 腺管レベルでの癌を示唆する所見 
・前立腺癌の勉強し始めの際に個々の腺管単位での良悪性の判定方法を習う人も多いはず
・言われているほど実際にはあまり有用ではないが,それでも知っておくと癌であることをひと押しするのに役立つ
・二相性の消失:前立腺は外分泌腺なので,内腔の腺上皮細胞と外側の筋上皮細胞を有する.そのうち筋上皮細胞が消失することが癌の特徴(実質は定義になっている)ということ
 → 1 腺管単位で見ていくと二相性の消失が HE レベルで確認しにくいことも多い
・腺癌細胞の核には明瞭な核小体がある:腺上皮に細胞に細胞異型がほとんどない腺癌もあるので,結局は構造異型を頼ることになる
・腫瘍腺管には crystalloid (針状の結晶物)や酸性粘液があればより腺癌を示唆する
 → 100% ではないが,ほぼ 100% に近い所見.ちなみにアミロイド小体(丸い層状の沈着物)があると腺癌は否定的

病理医としてのキャリアパス:中間点

# 次はいずこへ どどたんせんせはいわゆる around 40 で,この職場で留まるべきか次にどこかに行くべきかをそろそろ悩まなくてはいけない感じなっている.ある程度 public なこういうブログで書くべきかは悩ましい感じもするが,ごく普通の人の普通のキャリアパスについての具体...