2018年10月31日水曜日

病理医は余っているのではないか問題~続き

はじめてのひとは
http://dodompa3.blogspot.com/2018/09/blog-post_20.html

あたりから読み始めてもらえるとストーリーが掴めそうです.

1. 病理と臨床の 11 月号の「今月の話題」

病理と臨床の今月の話題として,「表で見る 病理専門医最新情報」が掲載されている.前回の投稿で入手できなかったデータも含めてある程度網羅的に掲載されており,これを含めて書き直すと
専門医人数 前年度からの増加分 その年の病理専門医の合格者数
2007 1929 N/A 92
2008 2052 123 90
2010 2029 -23 81
2011 2078 49 83
2014 2292 214 74
2015 2317 25 61
2016 2365 48 74
2017 2405 40 71
2018 2479 74 100

のようになる.昔に遡るほど,年の間隔が大きくなっていることに注意.確かに記事の指摘しているように,この調子でいけば 6-7 年程度で,病理専門医 3000 人を超えることは可能と考えられる.

この記事では地域の偏在について主な焦点を当てているが,地域間の偏在なんて要素は結構どうにでもなる要素であったりするので,どどたん先生はあまり興味ない.

2. 男女比について

m f
18 1591 310
28 1849 513
30 1903 580
H18 年では女性比率が 16.4% だったのに対して,H30 年では 23.4% に増えている.H18 - H28 の 10 年間で 5.3% up(0.53%/year)だったのに対して, H28-H30 の 2 年間で 1.7% up (0.85%/year) と女性医師の比率が増えている.要は女医の増えるスピードが上がってきている (f''(x)>0) .

医師全体に占める女性の割合である 21.1% をすでに超えているのと,女性医師の比率が毎年のように上がっていることを考慮すると,病理診断科は皮膚科や麻酔科などと並んで,女医に好まれやすい診療科になりつつあると言えよう.

今年の専門医受験者数 100 名のうち,55 名が男性,45 名が女性であることを踏まえると究極的には 40-50% 程度,今後 10 年間で少なくとも 30% を超えるだろうことは容易に想像ができる.

特に productive age / childbearing age である女性の場合,就業に対する配慮を今から考えておかないと,病理医をうまく確保することはできないかもしれない.そしてこのことは必ずしも女医自体にとって有利に働くとは限らなくて,女性の敵は女性と言われるように,女医の就業に対する配慮に一番反対しているのが他の女医であることは少なからず見受けられる.病理を目指そうとしている女子医学生はこの点を意識しておいた方がよい.この科なら楽勝だ,なんてことはどこにもないというわけで.

3. 65 歳率について

H30 年の病理専門医の 65 歳率は 21.9% であり,これも着実に増加している.65 歳率がなんたるかは書いていないが,おそらく 65 歳以上の医師についてだろうということで議論を進める.高齢化率については経時的なデータが必要で,与えられたデータだけでは議論ができない.もちろんその時を切ったデータは重要なのだが,未来を予測するためには過去から現在までのもう少し細かい推移データがほしいところ.

さて H28 でいうと,日本の医師全体のなかで 65 歳率が 25.1% であり,それに対応するデータとして病理専門医の 65 歳率は 19.9% である.マイナス 6% である.

多くの診療科では定年を迎えると,特に外科系では診療科を転科することも多く,産業医や老健,リハビリ病院など違った展開をしていることが多い.定年後にもう働かないという人も稀にいてもちろんその人の自由でありなんてことはない.

日本全体の 65 歳率が 25.1% の中で病理専門医で約 20% で平均データに比較的近いということは 65 歳を過ぎても病理医を続けている人が多いことになる.もちろんこれは日常の感覚と一致している.そして 65 歳以上の人がなかなかやめないことで,病理専門医の数を維持しているとも言える(要するに in を増やして out を減らした状態で 3000 人を目指そうということ).そのために平均年齢自体も経時的には緩やかに上昇している.

理想的な in/out balance ができていれば,平均年齢が大きく動くことはほぼないはず.ちなみに H28-30 についてはある程度理想的な in/out ができたとも言えなくもないが,それでも 65 歳率が上がっており,これには具体的なデータの分析が望まれる.

4. 意外といらないデータ

男女参加なのか?と同県別の男女のデータが熱心に載せているが,あまり必要性を感じない.

結局何がいいたいかというと,増やすのはいいけれども,受け皿はちゃんと考えているの?ということ.どこぞの博士号大量生産したはいいけど,ポスドクすらつけずにましては常勤職も無理でなんてコンビニバイトしている人が問題になっているけど,病理もそうならない?ということで,偉い人はちゃんと受け皿を考えておいてねー.

2018年10月8日月曜日

Welcome to どどたん's salon

1. Welcome to dodotan's salon!

Dodotan Sensei (DS):やぁみなさんこんばんわ.どどたん先生のサロンへようこそ.ゆっくりしていってね.
Participants (Ps):はーい.
DS:あれ,そこにいるのは,病理で研修を始めて2年目でそこそこあるいは微妙で美人で有名な S 美先生じゃないか.
Esumi (ES):あー,どどたん先生,こんばんわ.お久しぶりです.お元気でしたか?
DS:ありえないくらい元気だよ!えすみ先生は?
ES:うーん,まぁ元気といえば元気なんだけど,ちょっと最近悩みがあって...
DS:あー,恋の悩みね.尽きないよね.
ES:そうじゃないんです.なんか病理医に向いてないんじゃないかと最近思い始めまして..
DS:誰しも通る道だよ.みんな病理に向いていないと思う時期があるんだ.でもずっと続けるでしょ.そしたらもう臨床に戻る意欲がなくなる.すると,ほら不思議,私病理しかできないということになるんだよ.そうやって一人前の病理医の完成さ!
ES:先生ふざけないでください!
DS:ふざけてないよ.本当の話だよ.
ES:それよりもちょっとは私の悩みを聞いてくださいよ!

講習会のやり方

1. 講習会,講演会について
これらは同じようなものとして扱われることが多いような気がするけど,個人的には講習会の方がより実践的な雰囲気のような気がする.実際に調べてみても確固たる違いというものはないようだ.

それはさておき,今回は講習会についてのお話.

2. 何を目的とした,誰を対象にした講習会か
今回東京で受講した希少がん病理診断講習会についての話.この手の講習会は企画がとても難しいと思う.それは普段から診断業務としてほぼ毎日見ている,見させられている先生から,年に数度あるいは数年に一度くらいの頻度で見ている先生,さらには初期研修医上がりのペーペーの先生から,30年選手の大ベテランまで参加者がいて,ある意味病理業界の縮図の様相を呈していた.

今回 4 コマの講習会を聞いていて,一番良くできていたと思うのは脳腫瘍の講義で,ちょっと厳しいなぁと思ったのは小児と骨腫瘍.軟部腫瘍についてはまずまずといったところ.

ここのところの感想は人によって多少違うかもしれないが,少なくとも一緒に受講した先生の感想もだいたい同じ感じであった.その時の結論としては我々が希少がん病理診断講習会の内容と,病理学会が希望している講習会のあり方に齟齬があったんだろうということ.

2'. ちょっと脇にそれる
希少がん病理診断講習会というもの自体は世界的な潮流からすると,ずれているあるいは遅れている.世界基準バンザイとも,世界が正しいとも言うつもりはないけど,今は希少がんは中央診断なりで集約化し,そこで大規模研究をするのが普通.個々の小規模な病院で診断するものではない.実際ヨーロッパなんかはそうやって EU 全体で症例を集約して,アメリカに対抗する新しいデータをコンスタントに出し続けている.Giant cell tumor of bone を数百例集めることなんて,日本では無理.

その観点からすると,比較的狭い,リソースの乏しい日本ではそういう希少がん症例を自施設で診断できるようなトレーニングをすることではなく,集約化するシステムを構築すべきだと思う.はっきり言って集約化するシステムの土台はすでにある.検体検査を含めて検査センターを利用していない病院はほぼないはずで,その検査センターのシステムに乗っかる形で,集約化すれば良いだけの話.色々な柵があるかもしれないけれども,それが一番現実的.

3. さて講習会で何を求めるか
どどたん先生が講義をする場合は,準備するにあたって,どういうタイプのものを求められるかを常に意識している.それはつまり,知識を授けるタイプの講習会か,それとも考え方を授けるタイプの講習会か.両者を混ぜたような講義はしばしば学習者にとって負担が大きく破綻することが多いけれども,そうせざるを得ないこともままある.

知識を授けるタイプの講習会というのは,要するに教科書を読み解くのを一緒にやりましょうということで,教科書に書いてあることを適宜説明を補いながら,背景や周辺知識を交えてなるべく記憶に残りやすいように配慮する.看護学校などで行っている病理学の講義がまさにそれに当たる.

考え方を授けるタイプの講習会というのは,実際にする機会はほとんどないけれども,病理でいうと標本の読み方を教える.野球でいうとバットの振り方みたいなものか.もちろんある程度の知識があることを前提にするけれども,それをもとに実際の標本を目の前にしてどのように考えていくのか.いきあたりばったりな見方ではなく,ある一定の戦略を持って見ていきましょう,というもの.

4. 脳腫瘍の講義は見方に,骨腫瘍は知識に焦点を当てていた
脳腫瘍の講義がわかりやすかったと感じた理由は知識はそこそこにしておいて,どのように見るのか,よく診断で迷う点をピンポイントにスポットを当てて,そこの疑問を解決(あるいは解決できなくとも良いという根拠)を提示していたため,聞いていてなるほどな,と思えることが多かった.

一方で骨腫瘍の講義は学生の講義を聞いているようだ,という感想も聞かれた.つまり知識を与えられることを主目的にしたもの.それはちょっと仕方ない側面もあって,例えば軟骨性腫瘍を知っているだけ答えなさいと言われたら,普段骨腫瘍を見ない人は enchondroma, chondosarcoma ... くらいしか挙げられないし,診断の根拠はと言われたら教科書を見たくなる人が多いと思う(他に clear cell chondrosaroma, mesenchymal chondrosarcoma, dedifferentiated chondrosarcoma, 腫瘍とするか異論はあるが synovial chondromatosis など).レントゲンをほとんど見たことのない人に溶骨性病変で辺縁に骨硬化が見られ,,,などと言っても多分理解できる人はほぼいなくて,ぽかーーんとみんなしていたはず.

もちろんいくら希少がんといってもどこの大学病院でも扱っている脳腫瘍と,大学病院によっては手を出していない骨腫瘍を同列に論じて,講師の批判をするのは粋ではないこと(どちらの先生もとても優秀な人で人間的にも,多分素晴らしい)はわかっているが,満足度と講義の手法というのは関連しているのではないかと思った次第.

5. 講義のやり方を変えられる人は実は少ない
上記のことをわかっていても,実際に講義をする場合は目的別に内容を変更できる,という器用なことができる人はなかなかいない印象.誰を対象にした講義であれ,みんなどことなく知識主体か考え方主体かに偏っている印象.

2018年10月4日木曜日

特殊染色のオーダーについて〜結合組織染色の流派について



特殊染色のオーダーについて
http://dodompa3.blogspot.com/2018/10/blog-post_26.html
の続きの小話.Elastica Masson 染色についてもう少し突っ込んだ話が聞きたいというリクエストが会ったが,

ちなみに,基礎的な知識はここあたりに詳しい.
http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/~pathology/templates/staining/ECMstaining.html

1. 結合組織染色には流派がある

結合組織染色のオーダーの仕方にも流派がある.流派という言葉に違和感があれば,施設間によって相違があるといえばよいだろうか.良く言えば,我々のスタンスとしてどのような染色であったとしてもきちんと評価ができる必要があるとも言えるし,悪くいうと,施設によってバラバラで,統一性が乏しくて結構面倒だとも言える.

2. 静脈侵襲評価目的の悲劇

いきなり話がずれるが,結合組織の中で細網線維はほぼ鍍銀染色一択でほかをルーチンで染めることはほぼない(あってもその variation がほとんど).

ところが,膠原線維や弾性線維はいくつか染色法が存在していて,それぞれ好みがある.少しいい方を変えよう.ルーチンでよく出すので,複数の染色を混ぜてオーダーすると,オーダーする我々にとっても,オーダーを受ける技師側にとっても手順や評価方法が煩雑になってしまうため,大体施設によって結合組織染色は大体これ!と決まっていることが多い.

そしていくつかある中で,何を基準に決めるかということになるのだが,実際に我々が結合組織染色をオーダーするのは(腫瘍を多く扱っている施設であれば)静脈侵襲の評価目的であることが多い.すると,しばしば「結合組織染色 ≒ 静脈侵襲を評価するための染色」という認識になってしまう.その観点からは

・EVG 染色
・Elastica Masson 染色
・Elastica HE 染色
・Victoria blue 染色
・・・

などがあるが,これらの染色を同等に列挙している根拠は「静脈(あるいは動脈)壁内の弾性線維さえ見れればそれで okay だ」といっていることにほかならない(そのノリで線維化の評価のために Elastica HE 染色を出したりするという謎オーダーも出てしまうことがある).

施設による好み ≒ 流派で,どうやら東大系列は EVG 染色が好きで,慶應系列は Elastica Masson 染色が好きなようである(気になったら上司がどこでトレーニングを受けたか聞いてみると面白い).そして,三つ子の魂百まで,というように最初に教わった染色にこだわる傾向にある.同じ流派で占められる病院は全く問題ないのだが,外人部隊のような病院ではしばしば種々の結合組織染色が飛び交いカオスな状態になる

3. 結局どれも対して変わらない

Elastica HE 染色は HE 染色に弾性染色をかぶせているので,通常の HE 染色の延長線上で評価ができ,わかりやすいが,逆を言うと弾性線維しか見ていないので,情報量は比較的少ない.Victoria 染色も同様.

個人的には EVG 染色が Elastica Masson 染色よりも好きで,膠原線維,弾性線維の他にEVG 染色の方が筋組織も評価できるため,情報量が多いと思っている.

2018年10月3日水曜日

特殊染色のオーダーについて

よく,臨床検査技師の学生と話をしていると,なんでこういう染色をする必要があるのかよくわかっていないことが多い.と思っていたのだけれども,最近色々な人と話をしていて,学生だけじゃなくて実際に病理部で仕事をしている臨床検査技師も完全には理解しているわけでないのでは,という疑問を抱くようになった.

教科書には特殊染色の手法とともに,何がどのように染まるのか,ということがある程度書いてはいるけれども,それだけでは不十分で,なぜこの病変の場合にこの染色を用いる必要があるのかまである程度踏み込んで考えて行かないといけない.例えば線維化をみるには Ag, EVG, Azan 染色のどれでも良さそうだが,なぜこの染色を選んでいるのか,など.

その前にまず HE 染色でわかることとわからないことについて簡単に整理をした上で,本題に入ることとしよう(今回は免疫染色については敢えて取り上げない).

1. HE 染色で何がどこまでわかって何がわからないのか
HE 染色は全ての基本であるとされる.主にはヘマトキシリン染色で核を染色し,エオジン染色で細胞質を染色する.色々な構造物が適度に染め分けられるため,まず最初に選択する染色になっている.多くの組織学的な形態像の描写や診断基準というのは HE 染色をベースにしている.また画像処理も HE 染色を基準にしていることが多い.それは人間の目から見たら僅かな違いでも画像処理をすれば確定的な差として検出できるから.

究極的に眼を凝らしてみれば,特殊染色はほぼ不要,という結論になってしまうが,実際には鑑別が難しい場合は多々ある.その区別を簡便にするため種々の特殊染色が用いられている.例えば弾性線維は HE 染色では染まらないことになっている(見る人が見れば染まらない繊維状構造物として認識できる)ため特殊染色で確認する.またアミロイドなどの沈着物も硝子化の区別が難しく,ここは Congo red 染色の得意とするところ.

感覚としては HE 染色で 7-8 割くらいの精度で診断をし,残りを特殊染色で確認あるいは補足するというのが古典的な病理診断のやり方である.現在ではそれに免疫染色や FISH, PCR などが加わっており,比率に関しては症例ごとに異なっていているが,とりあえず HE 染色で方向づけをするという姿勢は今も同じである(今後どうなるかはちょっとお楽しみなところ).

染色のオーダーは少なくとも日本でよく使うと思われるものをあげ,特によくオーダーするものについて,目的別に総論的なまとめ方をしてみた.化学的な背景知識的なものは京都大学や武藤化学あたりに詳しく書いてあるし,そもそも自分もそこまで詳しくないので,ユーザー側の視点で論じていく.

2. 線維化をどのように見るか
線維化というのは基本的に膠原線維の増生(種々のタイプがある)を指していることが多いが,細網線維も III 型コラーゲンなので,実はものとしては同じグループに入る.線維化を見る場合によく使う染色は EVG, Azan (or Masson Trichrome),Ag 染色で,Azan と Masson Trichrome は線維組織は同じように染色されるため,ここではまとめて,Azan 染色で代表させる.

線維化の程度を評価する際に最も簡便で汎用性が高いのは EVG 染色で,膠原線維が赤色に染まるだけでなく,平滑筋や骨格筋が茶褐色に染まり,しかも弾性線維が紫色に染まるので,非常に情報量が多い.この染色だけで線維化の程度に加えて動脈か静脈かの判定が比較的容易になり,また膠原線維なのか平滑筋組織なのかという HE 染色ではわかりにくい意外としょーもない悩みも解決できる.

ではなぜ Azan 染色も使うのかというと,(感覚的な問題でもあるのだけれども)Azan 染色は線維化を検出する上で,EVG 染色よりも感度が高い.これは見る側の感覚の問題でもあるのだけれども,Azan 染色は EVG 染色に比べて膠原線維と背景の構造物とで色のコントラストが付きやすいので,細かい線維化もわかりやすい.だから,肝臓や心臓の線維化で早期あるいは細かい病変を検出するときに向いている.裏返せば,バリバリの肝硬変やどかっと来ている陳旧性心筋梗塞をわざわざ Azan 染色で評価する必要がなく,EVG 染色(もっといえば HE 染色)でも可能だということ.

細網線維はとても細かいので,HE 染色で認識するのはほぼ不可能.だから Ag 染色を使うのだけれども,細網線維の評価が必要なのは現時点では脾臓と骨髄で,特に骨髄は線維化の評価をする際には Ag 染色が必須である(線維化の程度が強ければ Azan 染色でも評価せよとなっている).肝臓でも肝細胞索に沿って分布しているので,変性が強いときなどに染めるとわかりやすい(肝細胞が急に脱落しても細網線維は残っていることが多いため).

こうやってなぜ必要なのかということを考えると,自然と臓器ごとにオーダーされるセットが決まってくる.すごく細かくなるけど,左心室の染色で EVG 染色をオーダーする場合と,Azan 染色をする場合では何を見たいかというスタンスが変わってくる.EVG 染色だと心筋の線維化ざーっと見るのに加えて,一緒に入っている冠動脈も評価しようと考えるかもしれないし,Azan 染色の場合は線維化を重点的に評価しようと考えるかもしれない.

3. 粘液をどのように見るか
粘液の分類は結構難しくて,上皮性の粘液は酸性粘液と,中性粘液に分かれて,さらに酸性粘液は sialomucin と sulfamucin に分かれてそれぞれ分布が違って,,,間質粘液は,,,というのが教科書的な区分だけど,最近は MUC シリーズの免疫染色が簡単にできるようになってきて,あまり細かい分類を特殊染色ですることはなくなった.

現在では我々病理医が特殊染色に求める粘液の評価というのは,ほぼ粘液を有しているかどうかの一点と言っても過言ではない.つまり粘液のように見える別のもの(グリコ-ゲンや脂肪)ではないことを確認する意味合いが強い.あとは胃生検でルーチンに PAS 染色をしていることがあるがあれは sig や por といった低分化腺癌の見落としを防ぐため.染まれば色にコントラストがつくので,ぱっと目に入りやすい.染まるか染まらないかという視点だけで考えていると,胃生検に PAS 染色は不要だという考えに至り,実際に染めてない施設も少なからずある(ココらへんは理念の問題).

また,要するに粘液があるかみたいんでしょ!的な視点に立つと,Alb+PAS 染色という選択肢も出てくるし,肺生検だとそういうオーダーの仕方をしていることもある.

一つ注意点としては,間質粘液(例えば皮膚の mucinosis や大動脈の myxoid degeneration)を見るときは Alb 染色しか染まらないので,PAS 染色を出しているときにはあれおかしいと思うのが無難.ただし,皮膚の場合は PAS 染色で基底膜を見たり,角層内の真菌を見たりしている可能性があるから間違いと決めつけられない.

4. 菌体をどのように見るか
細菌や真菌に対して,基本的に病理診断のスタンスは菌の有無については判定するけど,同定は原則しない.ただし,合理的にそれしか考えられない場合(例:胃のピロリ菌や大腸のスピロヘータなど)はそのように記載している.

細菌を見るときには Gram 染色でブラウンホップス法が見やすいが,正直言うと球菌か杆菌かで勘弁してほしいのが本音.真菌については Grocott 染色か PAS 染色を行ってだいたい Aspergillus か Candida かまれだけど Mucor についてコメントをするくらい.PAS 染色だと死菌は染まりにくいあるいは染まらない傾向にあるので,Grocott 染色を出すあるいは併用している(通常見る範囲内であれば極論 Grocott 染色だけでいいはずだけど,なぜか PAS もだしていて,ついでに他のものも見ている).

ピロリやスピロヘータについては,Warthin-Starry 染色が綺麗にできれば言うことはないけれども,だいたい Giemsa 染色で見ている.染まる!だけならトルイジンブルー染色でもいけるはず.お金が潤沢にある施設は免疫染色でやっているらしい.

梅毒は最近少ないながらも増えてきている印象.正直抗体を買ってほしい.Warthin-Starry ぐらいしか有効に染める手立てがないので.

抗酸菌については Ziehl-Neelsen 染色一択.これ染まらないことのほうが多いと考えた方がよい.我々は乾酪壊死を伴う類上皮肉芽腫や臨床的に結核感染を疑っているキーワードがあればオーダーする(HIV 感染などで,リンパ球が極端に減少している場合は組織反応が起こりえなくて肉芽腫を作ることができないこともあるから).経験上は否定のために出すことが多い.そしてもう一つ結果の解釈で問題となるのがコンタミ.極めて少ない数でも陽性と判定していることが多いため,陽性コントロールで結核菌がうじゃうじゃしている場合,それがちょっと標本上に乗っかってしまっただけでも陽性となってしまうので,菌の集まり方など,陽性コントロールと比べて慎重に判断する必要がある.

5. 沈着物をどのように見るか
沈着物の代表格はアミロイドで,現在 Congo red 染色と Direct Fast Scarlet 染色の2つが代表格.一応 DFS 染色の方がよく染まるなんて言っていることもあるが,これらの染料自体が purified されていないのでロットによって染まり方が違うなどとも言われている(ロットによる違いは免疫染色の抗体なんかでも言われているが).これだけ技術が進歩した現在でもアミロイドの存在証明をする第1歩が Congo red 染色であるのは若干びっくりだが,これは仕方ない.偏光下での観察では apple green などとも言われているが,結構光り方は微妙で,きれいな apple green にならないこともしばしばある.あと膠原線維がよく共染しやすいので,Azan 染色や EVG 染色と合わせてオーダーすることもある(アミロイドは Azan, EVG 染色でそれぞれくすんだ青色,くすんだ茶褐色を呈する).

他のカルシウムは von Kossa 染色,ビリルビンは Hall 法(EVG 染色でも結果は同じ),などの特異的な染色はここではとりあえず省略する.

6. 特殊染色のオーダーはなるべく最小のオーダーで最大の情報量を得るように組み合わせる
特殊染色のオーダーの組み合わせというのはある程度型みたいなのが先人の知恵で決まっていて,この臓器はこれ,〇〇を疑ったらあれとあれ!みたいに大体決まったものを出す.それ以外にも確実にするために同じ染色を複数出したり,例えば皮膚生検なんかで真菌を見たい,基底膜の肥厚の程度を見たいなど複数の目的をもって PAS 染色にしたりと,考えながら出している.

ルーチンで異なるオーダーをしている場合は是非オーダーした人に聞いてみると思わぬ発見があるかもしれないし,ないかもしれない.

転職の悩み

1. 病理特有の状況

医師に転職はほぼつきもので,同じところに定年までとどまっている,ということは昔からほぼなかったし,恐らくこれからもない.時代のトレンドとしてこれからも活発化していく流れになるであろうというのは想像に難くない.

臨床の先生の転職と病理医の転職というのは若干事情が異なる.その一番大きな要因は,病理医の業界自体が非常に狭くて知り合いの知り合いでほぼすべての人に到達できるということ(実際に試みたことはないけど,2 人くらいかいせば確実にたどり着けるという確信はある).そのため身分を隠したり,ほんとうの意味で新規に行くということは結構難しい.はじめまして!でも,実は裏で身辺調査が行われていたりする.

なので,変な噂を立てられたりしたら途端に転職先が狭まってしまう.これは特に地方で顕著であり,地方では病理医を必要としている病院はほぼ中規模以上で,大学病院などの関連病院になっている.なので,そういうところに就職する際には必ずと言っていいほど医局に対して配慮が必要となるし,医局の意向が無視できなくなる.

2. 関東地方は比較的気が楽

自分は関東といくつかの地方しか知らないけれども,関東のほうが動きやすいと言える.

よく言うのはなにか犯罪を犯して逃げるのならば東京や大阪のほうが見つかりにくいと言われている.言い換えれば,木を隠すなら森という発想で,関東,特には病理医が一番多くいるから,関東にいるほうが一番目立たなくていい.

もちろん東大や慶應など伝統のある医局制度も残っているが,そうでない病院や大学もたくさんあり,ある意味選択肢は多い.地方から東京に出てきたけれども戻りたくないとういのは,ある種の居心地の良さがあるのかもしれない.もちろん居心地が良いかはいる病院次第というところが非常に大きいが.

3. 辞める,辞めないのジレンマ

転職を考えたときに,必ず問題となるのが,残ることのメリット,デメリット,そして転職することのメリット,デメリット.残るメリットがなく,転職することのデメリットがなければ基本的には異動を妨げることは何一つない.

しかしながら,多くはメリット,デメリットが錯綜しており,ときに判断を鈍らせる.判断を鈍らせる要因というのはたくさんあって,その多くは未知なるものに対して過大あるいは過小評価をしてしまうこと.それによって,評価が大きく歪んでしまう.

また自分では対処しにくい問題(上司が怒るかもしれない)に対しては過大評価してしまいがちで,変な脅しが来るかもしれないと考えると慎重にならざるを得ない.先程述べたように狭い病理の業界ではトラブルを起こすと敬遠されるかもと考えると結構二の足を踏む.

4. Think simply.

しかし,だ.実際にどどたん先生が見た,結構あれーーという辞め方をした人でも,人格的にちょっとヤヴァいかも,という人でも結構普通に仕事をしているし,そこそこの病院のそこそこのポジションにいたりする.多くの場合,そのようなトラブルは昔話になって美化されることが多い.変な話だけど.

でも多分それは「木を森に隠せているから」で,もっと black なことを言うと,隠しきれなかった人は多分違う診療科で頑張っているからだろうか.

2018年10月1日月曜日

病理専門医試験結果についての分析(追加あり)

1. 「ぱそ太郎先生による分析」の分析
https://twitter.com/pathotaro/status/1046621316646809601
平成30年度病理専門医試験
 非3年制受験者 94人
 3年制受験者 33人
  欠席者2名
 非3年制合格者数 (推定)74人
 3年制合格者数(推定)26人
(3 年制の合格者数については「実名→厚労省の医師確認サイト」で,受験者の卒業年度をもとに推測されているようだ)

https://twitter.com/pathotaro/status/1046403218224295936
病理学会で公開されている、
平成30・31年度各種委員会抱負と課題公開http://pathology.or.jp/news/pdf/houfu_180805.pdf
の専門医資格審査委員会によると平成30年度専門医試験受験生は合計127人で、うち3年制受験生は33人とのこと。

と推測されているが,
http://pathology.or.jp/side/pdf/KAIHO367_0928.pdf
によれば,出願 124 名,受験者数 122 名,合格者数 100 名,合格率 82.0% となり,上記は 94+33-2 = 125 であり,受験者数については,若干の齟齬がある.会報誌を確実に正しい情報だという前提で再計算すると,

【平成30年度病理専門医試験】
 非3年制受験者 94人 → 逆算すると,89 人?(89+33+2 = 124 人)
 3年制受験者 33人 (根拠)専門医資格審査委員会
  欠席者2名 (根拠)会報誌
 非3年制合格者数 (推定)74人 (根拠)パソ太郎先生の分析(合計 100 人から逆算?)
 3年制合格者数(推定)26人(根拠)パソ太郎先生の直接カウント,合計 100 人は会報誌を根拠

上記を想定すると,非 3 年制 74/89 = 83%, 3 年制 26/33 = 78% となる((74+26)/(89+33) = 0.819 で,全体としても compatible である).

2. 上記の結果をどう解釈するか
これまでの病理専門医試験でもそうだが,4 年(あるいは 3 年)ですぐに受ける人は意外と少なくて,それ以上の病理診断専従の期間を経て専門医を受験する人が相当するいると言われている.

特に最近では剖検症例がなかなか揃わずに受験までたどり着かないという例も少なからずある(正直この制度はやめたほうがよいと思うが...).

これは 3 年制の方が合格率が低いという結果になり,3 年ではやはりトレーニングの期間が短いのでは?という印象を覚えざるを得ない.病理診断というのは経験,知識の蓄積という側面があり,ひらめきや手先の器用さは直接的には寄与しにくい.

2' 3 年制の受験者数が少ないことについて

もう一つ危惧すべきことについて,3 年制の受験者が 33 人であったとのこと.プログラム登録者数の全体像が手元に資料がないため,厳密な比較はできないけれども,毎年の受験者数(80-90 人)を考慮すると,病理 4 年目の先生のうち相当数(少なくとも半分以上)が今年受験できなかったことになる.これはとてもまずいことであり,3 年のプログラムでは受験資格を満たせませんと公式にアナウンスしているようなものである.

旧来の 4 年あるいは 5 年のトレーニングが必要だと考えている人が多くて,その傾向をなんとなく反映させたものなのだろう.これは病理を専攻に考えている考えている人にとっては negative な情報である.

3. 試験内容について
いわずもがなだが,molecular pathology の色濃さがだいぶ反映されてきた試験になっている.遺伝子変異あるいは免疫染色の抗体について問われた問題はざっとピックアップしただけでも

乏突起膠細胞腫 IDH, 1p/19q 共欠損
マントル細胞リンパ腫 cyclin D1
小リンパ球性リンパ腫  CD23
Kaposi 肉腫 Human herpes virus 8
類上皮肉腫 SMARCB1/INI1
網膜芽腫 Rb 遺伝子
孤在性線維性腫瘍 STAT6
滑膜肉腫 SS18-SSX

これだけ見られており,比較的軟部腫瘍が多い印象.やはり勉強するときは遺伝子変異をセットで勉強する必要がある.端的にいうと,良性腫瘍ですら(多形腺腫 PLAG1, HMGA2)遺伝子変異があるわけで,覚えることが多いように見えるが,上記出題された遺伝子変異はいずれも診断上極めて重要な変異であり無理をせずとも覚えることになろう.

4. 出題率の低かった問題
ココらへんは,大体疾患名を見れば検討がつくが,やはり頻度の低いものの正答率が悪いのはある意味当たり前.こればかりはしょうがない.満点を取る試験でもないので,別にできない問題があっても何ら不具合はない.

全体としては皮膚や骨軟部腫瘍の点数が低い傾向にある.

病理医としてのキャリアパス:中間点

# 次はいずこへ どどたんせんせはいわゆる around 40 で,この職場で留まるべきか次にどこかに行くべきかをそろそろ悩まなくてはいけない感じなっている.ある程度 public なこういうブログで書くべきかは悩ましい感じもするが,ごく普通の人の普通のキャリアパスについての具体...