年月日 | 専門医人数 | 前年度からの増加分 | その年の病理専門医の合格者数 |
2005 年 | 1647 | N/A | 52 |
2011年9月1日 | 2128 | N/A | 73 |
2012年9月1日 | 2188 | 60 | 72 |
2013年9月1日 | 2232 | 44 | 56 |
2015年2月1日 | 2276 | 44 | 74 |
2015年9月1日 | 2319 | 43 | 61 |
2016年8月18日 | 2362 | 43 | 74 |
2017年10月1日 | 2405 | 43 | 71 |
2018年9月10日 | 2483 | 78 | N/A yet |
355 | (2011-2018) 481 | ||
期間中に retire したであろう人数 | 126 |
(http://pathology.or.jp/senmoni/board-certified.html より wayback を用いて過去のデータをさかのぼって収集)
(2005 年分については https://www.medis.or.jp/8_hpki/pdf/150124sawai.pdf より)
1. 実は病理医は余っているんじゃないか問題
ちょっと机上の空論で考えてみた.データは上記の要領で収集した.データ自体の日付がバラバラで本当の意味での統一性は乏しいが,参考程度に.さてここから少し遊んでみる.
481 人の新規参入者中 355 人 (2011-2018) が純粋に増加した人数になるので,retire した人を考慮し計算すると,毎年,新規合格者数の 73% が増加し,27% 分は retire している.つまり合格者数の 7 がけが全体の増加数に近い.
これまでの病理専門医試験の合格率は回によってばらつきがあるものの,概ね 8 割程度を推移している.2018 年度の病理の専攻医登録数は 114 人(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000199728.pdf)だから,毎年この程度の人数が応募すると仮定するならば 114*0.8*0.73 = 66 人が毎年増加する見込みとなる(ちなみに専門医試験自体の合格者の見込みは 91 人).
すると,めでたく 3000 人を超えるのは 2026 年で,そのときに 3011 人になるだろう.もちろんこの中にはいわゆる団塊の世代交代や病理人気?が功を奏する場合などは全く考慮していない.単に数字の計算.
2. 需要は果たして増えるのか?
これは少し難しくて,需要は確実に増えている.自分の病院でも前任地の病院でも確実に毎年右肩上がりで増えている.
https://sites.google.com/site/kawagoepath/byouri-i-boshuu
親切に多年度に渡って提供してくれている埼玉医科大学総合医療センター病理診断科のデータを例に考えると,20 年で組織診及び細胞診の検体数が倍になっている.免疫染色の件数も倍どころではないくらいに増加し明らかに業務量の増加が見られ,需要は確実に増えていると断言できる.そのかわり,剖検例が如実に減少しているのも手に取るようにわかる.日本の実情を表した,典型的なデータと言えるだろう.
3. 需要の増加 ≒ 収入の増加 ≠ 雇用の増加
ここから少し暗い話をすると,検体の需要の増加はほぼ直結して医業収入の増加につながる.特殊なリンパ腫以外は原則的に持ち出しはほとんどないし,そもそも病理診断に関するコストはかなり低い.
ところが雇用の増加につながるかというと,そこは実は難しい.パソ太郎先生が指摘しているように(https://twitter.com/pathotaro/status/1042539766103732224),病院の収入上は管理加算 2 を目指すのが目標で,その目標を達成するために,常勤病理医 2 名確保までは積極的に動くだろう.
2 名が充足したらどうなるか.充足してしまえばそれ以降は追加のコストでしかない.病理なんて加算がとれる 2 人で十分でしょ?それ以上必要なの?と首元まで出かかっている病院幹部は少なからずいると思う.
例えば臨床科の場合は人数の多寡がかなりダイレクトに病院収入に関係する.なぜならばある程度の手術や検査は人数が揃わないとそもそもできない,ということがあるから.一人しか外科医がいない状況下では緊急手術の対応は難しいかもしれないし,PD なんてできやしない.しかし,ある程度までは人数が増えれば増えるほど高難易度(≒高収入)の手技ができる可能性が高くなり,それが病院収入へと貢献する.
しかし,病理の場合は何人増えようとも減ろうとも,やっていること自体は変わらない.検体数が増えたとしても 2 人でできればそれに越したことはない.追加で人を雇うよりも時間外を含めて頑張ってもらったほうが割がいいという判断になりうる(多少の時間外手当を払っても,あるいは医者だから払う必要がないか!?).
4. ちょっと特殊な事情
少し話がずれる.臨床医からすると,病理医の数が増えたら結果がより正確に,より早く返ってくるのではという期待を込めていることがあるかもしれない.しかしそれは間違い.
病理医側からすると,多くの場合人数が増えれば double check をより厳格にしたりとかして single sign out に比べて時間がかかるようになる,確実に.確かにより正確になるかもしれないけれども,それは臨床医からしたらはっきり言ってどうでも良い細かい所見が詳しくなる程度で,「癌ですか!良性ですか!」レベルを志向する臨床医からするとはっきり言ってどうでもよい.
5. 病理診断のあり方は
ここではあまり言及しなかったけれども AI の発展(https://twitter.com/sugikota/status/1042658637619945473 すごいね,これ)より,病理診断のあり方が根本的に変わる可能性もあるけれども,免疫染色みたいに根本は変わらず,積み上げみたいに変わる可能性もある.ただ,AI 自体は病理医不足を解消するために動いている感があるので,若干は危機感を抱いたほうが良いと思う.人手不足だから職にあぶれないから将来性があるという言い方をする人もいるけど,そもそもなんで人手不足なんだとか,人手不足が解消されたらもう需要は開拓できないかのかとかいろいろ考えると,闇フレーズではある.
おそらく微妙に職にあぶれる人が出てくることはないとは思うけれども,皮膚科や眼科みたいに微妙に就職しづらいという可能性は十分にある.
ちなみに病理がなくなるなくならない(https://twitter.com/Edoshino26/status/1042359392098648066)という話ではなくて,需要と供給の関係の是非についてのお話.市場を大きくするのは我々にとってもとても重要なこと.供給を増やす努力はそこそこうまくいきかけていて,病理専攻医が順調に増えている.しかし,検査センターや管理加算の足かせ,病院収入への貢献問題があって需要の開拓は意外と思うように進んでいないかもと考えると,結構道のりは険しい.
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