ちょうどいま病理解剖のまとめをしようとしているところで,いつものごとく壁にぶち当たっている.これは何年やっても,何回やってもおなじことであり,ある種の様式美に近い.
理由は単純で,病理解剖をまとめるのにルールが存在しないから.腫瘍であれば癌取扱い規約があり,非腫瘍性病変でも,腎生検や皮膚生検などはテキストがある.しかし病理解剖に至ってはまともなテキストと呼べるものが清水道生先生が出している本かあるいは病理と臨床の増刊号くらいしかなくて,それもどちらかというと病理解剖の手技に特化したものであり,病理組織学的な所見のまとめ方についての記載はあまり手厚くない.
また病理学会が独自に剖検のまとめ方についての細かいルールを規定しておらず,ある程度 official と言えるものは病理専門医試験の模範解答くらいである.その解答ですら年によってばらつきがある始末.何をどのようにまとめるかについては,和食から洋食,中華料理くらいの差があると言っても過言ではない.
2. ルールのない世界での discussion はルールのない格闘技と一緒
外科病理検体の病理診断は規約や文献的な記載をもとにした,ある程度建設的な議論は可能.あるていど,だが.しかし,病理解剖の報告書のまとめについては上記の通りルールがない.ルールがない中での discussion はしばしば不毛で,私はこう思うがまかり通る世界.ルールのない格闘技はただの喧嘩と一緒で大きな声の意見が勝ってしまう.
もちろん明らかな急性心筋梗塞を覆すのは難しいけど,炎症の程度や粥状動脈硬化症の程度の判定を軽度から高度にひっくり返すことは簡単.例えば 80 歳の老人の腹部大動脈に粥状動脈硬化が見られるが,自分の経験した症例の中で比較的軽いためそのように書いても「いや,ここにもそこにも粥腫を形成しているので高度である」と言われると反論する余地がない.なぜならばすべての根拠は自身の経験によるから.
3. それでもなんとなくのルールはある
とはいうものの,大筋についてはゆるやかな決まりがあってそこらへんは全員で共有している.例えば臨床診断については(右心不全)など括弧書きでする,とか敗血症は 3 臓器以上の炎症で脾炎を含む,癌については必ず主病変に含めるなど.これは剖検週報のルールと一部かぶっている.
でもそれはルールの中でもとても基本的なもので,ストレートな症例だったときの話になる.それ以外の困った事例(はっきりとした死因がない,肺炎はあるけどどの程度ひどければ死因として提示すればいいのか)については細かい決まりがなく,人によって意見が違う.人によって意見が違うだけではなく,そもそも患者さんによってはよくこの肺で生きていられるな!と思わざるを得ないこともしばしばあるので,規定しにくい.
3' 剖検のフローチャートについて
とある優秀な先生が言ったこと.フローチャートの矢印の確からしさが 80% だとすると,矢印 5 本を連ねると,0.8^5 で 32% の正答率になってしまう.だからこんなフローチャートは意味がないと.
フローチャートは思考の整理には有用かもしれないけれども,これが正しいという保証はどこにもない.
4. 上級医と戦うためには
病理解剖報告書の上級医のチェックについては完全に相手次第で,相手が悪ければ何を書いても文句を言われる始末.そもそも勝てるような試合ではないので,最初から戦わないのが本来の正解.指導医との相性が悪ければ,もうそこで諦めるしかない.
その前提で話を進めると,(試験対策ではない!)病理解剖のレポートのまとめ方の原則は客観的事実をきちんと列挙することと,それをグルーピングしてなるべく無難な結論に持っていくこと.臨床病理相関の意義付けについてはとりあえず,可もなく不可もなくなことを書いて,上級医に任せてしまうのも一つ.
(ちなみに専門医試験対策は簡単で必ずわかりやすい,致死的な主病変が出てくるのでそれに従って要素を拾い出せばたいてい答案は書ける.)
外科病理検体の病理診断は規約や文献的な記載をもとにした,ある程度建設的な議論は可能.あるていど,だが.しかし,病理解剖の報告書のまとめについては上記の通りルールがない.ルールがない中での discussion はしばしば不毛で,私はこう思うがまかり通る世界.ルールのない格闘技はただの喧嘩と一緒で大きな声の意見が勝ってしまう.
もちろん明らかな急性心筋梗塞を覆すのは難しいけど,炎症の程度や粥状動脈硬化症の程度の判定を軽度から高度にひっくり返すことは簡単.例えば 80 歳の老人の腹部大動脈に粥状動脈硬化が見られるが,自分の経験した症例の中で比較的軽いためそのように書いても「いや,ここにもそこにも粥腫を形成しているので高度である」と言われると反論する余地がない.なぜならばすべての根拠は自身の経験によるから.
3. それでもなんとなくのルールはある
とはいうものの,大筋についてはゆるやかな決まりがあってそこらへんは全員で共有している.例えば臨床診断については(右心不全)など括弧書きでする,とか敗血症は 3 臓器以上の炎症で脾炎を含む,癌については必ず主病変に含めるなど.これは剖検週報のルールと一部かぶっている.
でもそれはルールの中でもとても基本的なもので,ストレートな症例だったときの話になる.それ以外の困った事例(はっきりとした死因がない,肺炎はあるけどどの程度ひどければ死因として提示すればいいのか)については細かい決まりがなく,人によって意見が違う.人によって意見が違うだけではなく,そもそも患者さんによってはよくこの肺で生きていられるな!と思わざるを得ないこともしばしばあるので,規定しにくい.
3' 剖検のフローチャートについて
とある優秀な先生が言ったこと.フローチャートの矢印の確からしさが 80% だとすると,矢印 5 本を連ねると,0.8^5 で 32% の正答率になってしまう.だからこんなフローチャートは意味がないと.
フローチャートは思考の整理には有用かもしれないけれども,これが正しいという保証はどこにもない.
4. 上級医と戦うためには
病理解剖報告書の上級医のチェックについては完全に相手次第で,相手が悪ければ何を書いても文句を言われる始末.そもそも勝てるような試合ではないので,最初から戦わないのが本来の正解.指導医との相性が悪ければ,もうそこで諦めるしかない.
その前提で話を進めると,(試験対策ではない!)病理解剖のレポートのまとめ方の原則は客観的事実をきちんと列挙することと,それをグルーピングしてなるべく無難な結論に持っていくこと.臨床病理相関の意義付けについてはとりあえず,可もなく不可もなくなことを書いて,上級医に任せてしまうのも一つ.
(ちなみに専門医試験対策は簡単で必ずわかりやすい,致死的な主病変が出てくるのでそれに従って要素を拾い出せばたいてい答案は書ける.)
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