2017年11月3日金曜日

病理診断を学ぶ 〜 病理組織診断学全般

2022/01/01 掲載されている本について情報をアップデートしました.
2021/05/05 掲載されている本について情報をアップデートしました.
【ここで載せている本について】
  • 病理診断を専攻しようとする専門研修医に対する本です.学生向けの本ではありません.間違って買わないようにしましょう.
  • もちろん学生だから読んではいけないということはなくて,病理診断部に出入りしていて,実際の病理診断に対して馴染みのある人や意欲の高い人はいるでしょう.
  • 将来的に病理を志すのであればここの本を買って読んでみるのも一興.
  • ただ,その前に基本的な知識は必要で,病理学を学ぶ,に書いてある本を参考にして 1-2 冊入門書を読んでからにしましょう.
  • 臨床各科と違って病理診断は知識や技術があれば資格の優先順位は低いです.がんばってください!

ここに書いてある本の中で,Differential diagnosis in Surgical Pathology と Quick Reference はおすすめ.後は病院にあれば敢えて買わなくても,,,ってところで,経済的に余裕があれば全部買っても決して間違いではない.

スパルタ病理塾: あなたの臨床を変える!病理標本の読み方 (2020)
おすすめ度:★★★★☆

いわゆる病理診断の初学者が数ヶ月~ 1 年目に学ぶようなことを書いてある.もちろんこれ一冊で十分というわけではないが,なかなか良くまとまっておりよい.病理のローテートを始める研修医や病理診断の実際を知りたい医学生におすすめ.

ベクトルと分類については少しややこしいというかわかりにくいので(おそらく著者なりに考えたやり方??),そこらへんは理解し難ければ飛ばしても構わない.

本当はどどたん先生がこういう本を書きたかったというのもあるけれども,少し先を越された感じ.

The Practice of Surgical Pathology: A Beginner's Guide to the Diagnostic Process (2017)
おすすめ度:★★★★☆

Quick Reference を書いた人と同じ人による病理診断学の入門書.なかなか良くかけていて,初心者が知りたいことや間違えやすいところがよーく載っている.ただ,この本,多分本当の初心者が読んでも絶対にわからない.だって英語だもん.

半年くらい病理診断のトレーニングをした後に,この本を開いて読んでみると,あぁ,こういうことなのかと納得してもらえることが多いと思う.そんな本.

2017 年に第2版が登場して内容が少し増えたけれども本質的にはあまり変わらない印象.

最近では日本でも入門的な本がちらほら出始めてきたため,あえてこの本を読む必要はないかもしれない.

Quick Reference for Surgical Pathologist (2017)
おすすめ度:★★★★★
アメリカの Amazon のレビューで total game changer と呼ばれたこの本.痒いところに完全に手が届いている.鑑別診断で迷ったときに免疫染色で何を出すかとか,特殊染色の項目の一覧とか,診断基準の参照とか,外科病理学を実践する人に必要な全てが揃っている,と言っても過言ではないくらいこの本の完成度が高い.

一応第 2 版が発売されているが,第 1 版をおおむね踏襲しており,内容がアップデートされている.

Gattuso's Differential Diagnosis in Surgical Pathology (2021)
おすすめ度:★★★★★
英語のアブストラクトを読むのが苦でないのであれば,ぜひこの教科書を第一に参照する本として使うと良い.病理診断に関する英語表現が得意になるし,そもそもこの本は読みやすい.一つ一つの項目が端的に記載されていて,箇条書き形式なので,途中で読んでいてわからなくなることがない.骨髄に関する記載がないため,それについては別の本を参照する必要があるが,それ以外については通常遭遇する外科病理学についてはほぼ完全に網羅されている.もちろん一冊の本で全て,というわけには行かないけど,通読も含めてかなり現実的な厚さの本.

定期的に改訂されており,情報もおおむね update されている(WHO に準拠できていないところもあるけれどもそれは出版スケジュールの都合もあるので仕方ない).まぁ章によって多少の内容のむらはあるけどそこは仕方のないところ.2021 年改訂版が出版予定.

外科病理診断学 原理とプラクティス (2018)
おすすめ度:★★★★★
内容としては昔真鍋先生が出した,外科病理学入門の再販と言っても過言ではない.真鍋先生は形態学というよりもパターン認識をとても重視していて,真鍋先生の書く本はパターン認識がベースになっている(専門としている肺と皮膚はいずれもパターン認識ベースの本).内容は比較的現代的に寄っていて著者もいわゆるあっち系の本をよく書く人たちが担当しているが,それでも真鍋先生のエスプリは残っている印象.

この本は正直,病理初めて1年目の人にはおすすめしない.というのもパターン認識というのは悩んだときに攻める方法の一つで,すべての場合においてパターンで分類しているわけではないから.パターン認識を勉強するとこれがすべてかのように感じてしまうので,ここだけ注意が必要.2年目以降に読むと良い.内容的には問題ないので文句なしの五つ星.

外科病理学 (2020)
おすすめ度:★★★★★
剖検と細胞診以外の組織病理診断に関する全て載っている唯一の日本語の本.

待望の新刊.2020 年の春の病理学会に合わせて出版をしようとされていたのだろうが,学会が web 開催になったのと,コロナの影響でしょうがないかな,というところ.

フルカラーの本であることや記載が update されていることから,確実におすすめできる(ただある程度の経験がないと読んでも多分楽しくないと思う).別にこの本が全てとまでは言わないが,日本語の本で all in one の情報が詰まっているものは他にない.執筆する先生もかつてはこの本を使って調べ物をしてきたはずだから,ユーザーの視点も確実に入っているはず.

レジデントの先生はできればこの本を cover to cover で読んで,専門医試験に備えたいところ(無理でも写真だけを斜め読みするので良い).

Rosai and Ackerman's Surgical Pathology (2017)
Mills and Sternberg's Diagnostic Surgical Pathology (2022)
おすすめ度:★★★

定期的に更新されている病理診断のバイブル的存在.Ackerman については外科病理学の広辞苑とも呼ばれており,この本に書いていない項目は殆どないとも言われている(詳しく書いてあるかどうかは別の問題で,やはり専門書にまさることはない).

両者の本いずれも写真が少なめ,文章多め.それはまあ仕方ない.Ackerman の方は暫くの間 Rosai のほぼ単著になっていたが,Rosai が引退した後は複数の editor による共著になってしまった.新しい本は本自体が薄くなっていて,基本的には前版を踏襲したような印象が強い.

Sternberg は 2022 年に新版が出版される.

昔は教科書自体が少なかったので,Ackerman や Sternberg も有用だと思われるけど,今では AFIP に加え,WHO もあるし,Elsevier や Amirsys (→ Elsevier に変わった)あたりが病理診断シリーズをかなり積極的に出版していて,こういう単著の本の時代は終わったのかなと思っている.昔に比べてどんどん本が厚くなってしまって,通読可能な量でなくなってきたのも理由としてある.

病院にはおいておいたほうがいいのかもしれないけど,正直個人持ちするのなら,,,外科病理学で良い気もしている.+ WHO 分類と AFIP でほぼ網羅できるはず.

Pathology Survival Guide シリーズ

Montgomery らが主導して書いている新しい病理診断学のシリーズ.神経生理学の本もあったりして,病理診断だけでもないように見える.

とりあえず学会の書店で見て,かつ自分でも何冊か購入して,パラパラ見たけれども,本の構成が AFIP に非常に似ている笑これ訴えられないのかな?というくらい→その後出版された本ではレイアウトが大幅に変わって,AFIP らしからぬ感じなっている.

英語を母国語としている人にはいいのかもしれないけど,すぐ側に AFIP があることが多い一般的な病理検査室にとってはどの程度有用かは微妙なところ.さっと読むのであれば日本語でもある程度は揃っているので.

内容自体はごくごくまとも.興味があればまずは学会の書店でめくってみては?

・AFIP シリーズ 5th series のみ掲載

おすすめ度:★★★★★
AFIP は 4th シリーズで,約 20 年すべてのシリーズを網羅させた.2020 年からは下垂体腫瘍から始まる 5th series が登場している.2021 年にかけて大幅にラインナップが出揃っている.なお 5th series からは腫瘍と非腫瘍は特に区別されていない.

WHO の本が普及する前は AFIP が辞書あるいは最終的な拠り所みたいな立ち位置だったけど,WHO が本格的になってからは若干 AFIP が色あせてきた.しかし,腫瘍,非腫瘍も含めてここまで丁寧に書いてある本はなかなかなくて,AFIP に書いてあるといえば,一般的には正しい(あるいは一般的に受け入れられている説だ)という認識.

AFIP シリーズを出版する AFIP が解体してしまって,どうなるのか不安視されていたけど,とりあえず発行は継続される模様.自分で買うべきかについてはなかなか難しいが,昔と違って必ずしも買わなくても良いと思うけど,とても良く書けているので巻を選んで個人持ちするのは十分ありな選択肢.

どうでもよい情報だけど,AFIP はアメリカで買うと実はかなり安い.アメリカに行く予定があれば,ホテルに着くようにしておいて,受け取るのも1つ.
どうやらそういうのはなくなったみたい.

・WHO シリーズ 5th edition のみ掲載

おすすめ度:★★★★★

Who Classification of Tumours のシリーズで,腫瘍の分類をしている本.病気の分類は人によって様々で流石にそれじゃいかんだろうということで,WHO が公式に病気の分類をしているという話.でも実際は仲良しの人たちが集まってある種の流派を作って分類している,という側面があるが,それでも腫瘍の分類の標準化という点では極めて大きな功績を作っている.

この本が良いかどうかというよりも,疾患の定義をしている本なので,もし迷ったり困ったりした時は必ずこの本に戻る,という性格のもの.自分で全部揃える必要は無いと思うが興味のある分野については買うのがおすすめ.

特に 5 版になってから,ガイドブック的な要素が強くなり,非常に読みやすい本になった.正直腫瘍については WHO だけで事足りるし,原則的に WHO 分類に沿って診断をするのが現在のスタンダードとも言える.マニュアルとしても使えるし,アップデートされた知識を手に入れるための教科書としてもおすすめできる.

(ただし,編集者や著者の間で葛藤があったようで,詳細に書きたい人がいる一方,教科書ではないという編集委員の意向もあるようだ)

・Diagnostic Pathology シリーズ
おすすめ度:★★★☆

各巻著名な先生がたが執筆しており,箇条書きであるため読みやすい.最初にサマリーが記載され,その後詳細な記述がある.写真は正方形に近くアノテーションもあり,比較的見やすい.

ただ,記載が重複しており,正直なところ(ほんの厚さに比べ)情報量が多いとはいいがたいところもある.悪い本ではないが好みが分かれるところ.積極的にアップデートされている点は評価できる.

買うなら非腫瘍性疾患がおすすめ.


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