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2026年3月30日月曜日

15 年目の悲劇

# 卒後は 17 年目,病理は 15 年目

自分は 2009 年に大学を卒業しているので,2026 年 4/1 現在だと,卒後 17 年目になる.卒後 15 年目のとか,20 年目の,みたいなタイトルの本を見るが,その節目を超えてさらなる大台に突入してしまった感じはある.

初期研修期間の 2 年を除けば,病理歴は 15 年目になる.病理を始めた時期が 2011 年頃で,気持ち的にはその当時と何ら変わりはないのだが,そこそこの実力と引き換えに体力は徐々に衰えていく感じはまぁ確かにある.

# 病理を始めたときに思い描いていたこと

病理を始めたときに,「コンピュータで病理診断ができるようになる未来」を考えていた.もちろん,今でいう AI なんて思いつくはずもなく,プログラムを組んで画像解析をすれば診断ができるはずだと考えていた.そのためには病理診断を行うにはどういう要件が必要で,それを明確にすることが必要だった.

しかし,現実はそうでもなく,偉い先生が「こう思うからこう診断する」という風に捉えざるを得ないくらいの,気分に近い診断もあったりして,一筋縄にはいかないことも知った.この診断基準の闇については,分子生物学的な知見や観察者間の変動に関する検討が導入され,だいぶ解消したように思う.形態的根拠が主流で,免疫染色は参考所見と考える当時からすると本当に隔世の感がある.

# 偉そうにできない

加算の要因を除けば,結局,病理診断は資格や経験年数よりも実力がものをいう世界で,しかも分野が多岐にわたるので,ちょっとニッチで特殊な分野について数年頑張ればトップクラスになれる要素がある.そのニッチで特殊な分野に需要があるかと言われると,ニッチで特殊であるが故に,多分ない.

専門医を取得前後の若い病理医の先生くらいであればマウントをとることはできるが,それ以降で専門を持っている先生に対しては,かなわない.一見矛盾することを言うと,病理医として一人前になるのには病理医専属で 10 年くらいは必要であるが,一部の分野の専門性という意味では数年あれば十分と言える.ずっと後輩の先生から教えてもらって,「なるほど!」と納得することや,「先生,こういうのは当たり前ですよ!」と言われることが少なからずある.昔はこうだったんだけどなぁ...

# 理想と現実の狭間

そもそも大学を卒業して医師免許を取得した時点で親孝行はしたし,もういいかなと思っていたのもあって,今はピークを過ぎた暇つぶしみたいなところが無きにしもあらずではある.病理医を始めたときは,定年間近の先生たちがバリバリ診断をしている姿をみて,あそこまで辿り着けるのだろうかと思っていた.

だいぶ正直に言うと,当時思っていたレベルには大体到達しているように感じている.しかしだ,ゴールポストが圧倒的に動いている.分子病理学の知識がどんどん必要になってきている.今はがんと遺伝性疾患に対してだけど,今後絶対に非腫瘍性疾患もゲノム検索の対象になってくる可能性が高いし,学ぶことはどんどん増えてくる.

正直わかんねーと言いながら,なんとか勉強していっている感じだけど,定年間近の先生たちみたいに振り落とされる日が来るんだろうな.実際,分子病理専門医の取得を諦めた先生はそこそこいる,特に形態診断を重視してきた診断界隈で.研究系の先生は頑張って取っている人が多い印象.

# 次の十年

とりあえず遅いとわかっていながら今更ながら AI なるものの勉強を始めてみた.どのように病理診断と画像解析に活用できるのか,QuPath や HALO AI とにらめっこしながら様々なものを試しているところ.

そして,病理診断を次の十年後も続けているだろうか,という謎はある.その時に病理診断のあり方がどうなっているのか.正直五年後すら想像することが難しくて,でもそれは楽しみかもしれない.

2025年3月5日水曜日

対立する所見が見られたときの病理診断の進め方

# Introduction

一般的には,病理診断においては A, B, C, D, ... という所見があって X と診断するというように所見を集めて,通常は一つの診断を目指していく.多くの症例では X に至る A, B, C といった所見は同じ方向を向いており,大抵はストレートに診断をすることができる. 

とはいえ,しばしば対立する所見が見られることがある.

# Conflicts always occur - a majority vote?

A, B, C, D は X を示唆する所見だが,E のみが Y を示唆する所見である場合,どうするか.多数決で X とすべきか?それとも X > Y とすべきか,はたまた大逆転で Y と診断すべきか.実際病理診断の専門家でも悩ましい話題で,症例検討会などでも取り上げられやすい例である.この投稿ではそのような対立する所見を呈する症例でどのように診断を進めていくかを考えていくことにしよう.

予想通り?かもしれないが,多数決で決めるのはあまりおすすめしない.なぜならば各所見の重みや診断の特異性は大きく変わるからである.例えば,扁平上皮癌の診断において,角化の所見はかなり特異性が高い一方で,核腫大は腺癌でも尿路上皮癌でも見られる.核腫大は癌とする根拠としては特異性がやや高いが,扁平上皮への分化という点では特異性はほぼない.

# Breakdown of a diagnosis

X という診断をするために必要な病理学的所見である A, B, C, D, ... はいわば分解した要素といえる.ここでは X という診断名を崩してみよう(できないことも多いが).扁平上皮癌であれば,上皮性+悪性腫瘍+扁平上皮への分化という形に分解できる.

  • 上皮性:細胞接着性がある
  • 悪性腫瘍:核異型が強い
  • 扁平上皮への分化:角化,細胞間橋
というように,それぞれの構成要素に対応した所見を対応させることができる.逆に,所見を分類することで,診断にはどういう要素が含まれているのかを考えることもできる.こういう分解と集結を行うことで診断するために必要なことは?を整理することができ,テキストを読んでいて,診断基準を意識して読むことができるようになる.

蛇足だが,一般的な病理診断のテキストには「X という診断には A, B, C, D, ... という所見がみられる」という記載が多い.しかし,では X と診断するために必要な所見はなにか,すなわち診断基準はなにかについては,WHO bluebook 以外では,はっきりと書いていない.特に非腫瘍性疾患についてはそういう曖昧な記載が多い.意外に思うかもしれないが,ふんわりとした中で病理診断はしていて,みんなそういうもんだと思っている.そういう曖昧さが良さでもあり極端な個人の意見を貫きやすい背景となって結果的にパワハラで多くの病理レジデントが辞めていく原因にもなっている.

# Approach to Conflicting Findings

ここで本題に入るのだが,対立した所見が見られた場合,どのように診断を進めていくのか.一つの解決法としては,想定している診断名に対して,その所見がどの程度特異性があるのかを見ていく.例えば理学的所見はマクギーなどの身体診察の本や文献では各身体所見が実際の診断に対してどの程度の感度・特異度を有しているかデータとして揃っている.本来であれば病理学的所見に対してもそのようなデータが整備されていることが望ましいが,病理診断自体がかなり幅が広く(現時点では)現実的ではない.

ただ,定量化は難しくとも定性的には判断は可能で,標本から読み取れる情報と病理診断のテキストを眺めながら,そして診断基準を分解しながらそれぞれに特異的な所見,感度の高い所見を整理して並べてより特異性が高い方を採用するということを多くの病理医は無意識にやっている.もちろんできていない人もいるにはいるが,そういう人はだいたい「診断のセンスがない」みたいな言われ方をされている.一応重ねて言っておくが診断はセンスではなく基本的事項の積み重ねである.

そしてもう一つ重要な視点として臨床情報がある.直近の投稿で総合的なアプローチをすると言った.その中には臨床経過などの臨床情報を加味することも含まれている.病理組織学的にそれらしいと思っても,臨床情報が否定的であれば少なくとももう一度その診断を考え直すべきである.その過程で特異的な所見がなければ,確定診断を控えたほうが無難.それくらい臨床情報は重要.結局のところ,多少稀なものであってもよくある場所や年齢によくある経過でよくある疾患が発生するのであるから.

# What to do then

結局のところ,壮大なテーマを掲げた割には結論は無難なところに落ち着くのだが,こうすれば解決するという魅力的な解決策というものはなくて,あるのは丁寧に一つ一つ吟味していく作業.その過程でとある疾患に対して特異的な所見を引き出し,鑑別診断と比べてよりどちらがふさわしいかを検討する.そして鑑別ができなければ所見診断に留めるのも一つ.特に情報量が圧倒的に不足しがちな生検検体では確定診断ができなくても仕方ないし,下手に強く言ってしまうと間違えたときに大きな問題になってしまう.




今どきの病理診断の勉強の仕方

# Study surgical pathology in 2025

4 月から専攻医が新しく入ってくるので,専攻医(後期研修医)が病理診断を学習する上でどういう風にすれば良いかなと考えてみる.テキストを中心として,自分が病理診断のトレーニングを始めたときとの違いについても軽く触れながら.それにしても,後期研修医は今は専門医機構扱いになって専攻医と呼ぶのが一般的になったのか.名前がコロコロ変わるなと感じ始めた時点で RG(老害)認定されそうだからリアルでは口には出さないけど.

# テキスト

基本となるテキストはやはり外科病理学一択になるかな,ちょっと古くなってきたけど,それでも 2020 年発行でまだ新しい情報が多くてしばらくは基本書として十分使える.その前の版から 14 年かかっているので,次の改訂までは更に 5 年以上の時間がかかるだろう.残念ながら今の病理学会にはこの本を 5 年程度ごとに改訂するほどの体力は残っていないし,商業的にもこの販売ペースだと難しいだろうか.

外科病理学に加えて,最新の情報は WHO 及び AFIP で十分,というか特に WHO の充実っぷりが半端ない.今はある程度診断基準が整備されていて,昔のような「〇〇先生が言ったからこれはがん」という状況は少なくなった.もっとも遺伝子異常に基づいて定義された疾患が多くなって,一般病院どころか大学病院ですら診断できないという誰得??という状況になってしまったのだが.

# 講習会

講習会の数は 10 年前と比べて格段に多くなった.昔は IAP のセミナーくらいしかなかったが,今では病理学会の希少がん講習会を始めた多くの講習会,パスポートなどの講習会,さらにはコンパニオン診断関連での製薬会社主催の講演会,といった具合に様々な講習会が開催されている.頑張ればほぼ毎週何かしら日本語で講習会が開催されている.昔は自分も講習会的なことをしていたことがあったが,これだけ講習会が多いと「講習会疲れ」を起こすので,やっていないし,多分今後もやらないだろうな.

ちなみにだが,講習会が増えたのは COVID-19 の蔓延が原因なのでは?と考えている.現地での講習会ができない+オンライン「のみ」の配信は意外とコストが安く済むのと品質自体は変わらないので今後もスタンダードであり続けそう.正直講習会をオンラインでするのは寝てしまう以外のデメリットが思いつかないわ.

# トレーニング

結局技術が進んでもやるべきことはあまり変わらない.固定→切り出し→診断というプロセスは同じ.コンパニオンや遺伝子診断といった付加的な検索は増えた,というかむしろそれが主流になっている.興味深いこととして,自分が病理を始めた頃は免疫染色が主流になっていて,免疫染色だけで良悪性や組織型を決定する病理医を Brown Pathologist なんて揶揄していたが,最近は Brown どころか遺伝子異常の検索で形そのものがなくなってきている.まぁ要するに molecular pathologist になるのだが.

一般的に言えることだが,技術が進歩すればするほど基本的なことが重要になってくる.病理でいうと固定がきちんとできているか,形態的に良性悪性をきちんと判定できているか,遺伝子検索をするにあたって腫瘍を含む領域を正確に認識できているか.高度な技術や知識は代替ができやすいが,基本的な技術を塗り替えるのは難しい.ホルマリンや HE 染色が長年にわたって使われ続けているという事実を見るだけでも説明は不要.

# 病理解剖をなんとかしたい

病理解剖の診断基準の不透明さは今に始まったことではないが,臨床診断と病理解剖診断の乖離が著しくなってきている.というか非腫瘍性疾患については,病理解剖学的に発信することは限定的で,多くは臨床経過をなぞるような記載になりがち.多くの非腫瘍性疾患は病理学的に定義されたものではないからしょうがないのだが,それでもガイドラインみたいなのがほしい.例えば臨床的に敗血症と診断されていれば病理学的にも敗血症があったという前提で議論を進めて良いとか(本当はどうかはわからないけど).

# AI との関わり

現在,病理診断において自分はだいぶ AI に頼っている.2025 年 3 月現在では,頼っているというよりもどうやって頼ったら効率のよい結果が生まれるかと試行錯誤をしていると言ったほうがよいか.現時点では,google 検索を大幅にアップデートしたような使い方になっている.実際あまり馴染みのない疾患の概要を掴むには非常に良い.自分が十分知っているテーマについては深みが足りないかな,ちょっとずれているかなという印象を持っている.

AI の技術自体は文字通り日進月歩で進んでいるので,AI-based の診断が来る時代は決してそう遠くない.この流れを否定しても何も始まることはなくむしろどう取り込むかが課題になる.あと数年くらいで generic な病理診断アプリが開発されるのでは?という雑感.

ただ,課題点として,病理診断の専門家であるためには AI が吐き出している情報をある程度合理的に理解し判断できる必要があり,相当な勉強量が求められる.固定ができているかとか基本的なことと,最終的なアウトプットに関する理解,これらの両極端を専門家として実践できる必要があるため,勉強しなくて良いとかではなくて,(多少の方向性は変われど)常に勉強が必要になるだろうと思うとちょっと憂鬱かしらね.

実際に AI を User のレベルでどう活用できるか考えながら仕事をしていると,技術の進歩は結構ゆっくりだなと思いがちだが,外野からすると多分光の速さで物事が変わっていっているように見えるんだろうな.

# 結局のところ,,,

そんなに変わらないかなというのが現時点での感想.結局やらないといけないことは同じで,それに新しいことが加わっている.しばらくは大変だろうが,できることが増えるということで喜ばしい変化と考えるよいかしらね.

2025年3月4日火曜日

病理診断における周辺状況からの総合的アプローチ

 # Introduction

 「コンフィデンスマンJP」で紹介された言葉の引用から始める.

 > 目に見えるものが真実とは限らない。何が本当で何が嘘か。

これの意味するところは,

  • 目に見えるものだけが真実ではない
  • 目に見えない部分に真実が隠れている場合がある

そして,究極的な真実は誰にも完全には分からない.病理診断において, 「真実は闇の中」では済まされないため、診断基準を設け線引きを行っている.そして,真実は簡単には姿を現さず、病理医は必死にその兆候を探している.

以前のブログ投稿([参考](https://dodompa3.blogspot.com/2023/03/1.html))で「病理診断は数学の証明に近い」と述べた.前立腺癌を帰納法的パターン(経験則に基づく診断)で診断をする.実際は、帰納法的アプローチを拡張した「総合的なアプローチ」で診断を行う.具体例で見ていく.

# Diagnostic Criteria for H. pylori

病理組織において,H. pylori 陽性の判断は、標本上で H. pylori の菌体を探し出すことに基づく.ここに検出の難しさがある.H. pylori は小型の螺旋状桿菌で形態的に特異な特徴が少なく,数が少ない場合、単独での検出は困難である.よって,年間何千件と提出されて来る検体から H. pylori をもれなく適切に探し出すためには前提条件を絞らざるを得ない.言い換えると,「いそうな文脈」 つまり H. pylori 自体の特徴だけではなく、臨床情報や好発部位といった背景も診断の判断材料が重要と言える.

まず病変の局在部位から考える.基本的には「胃粘膜に存在する」と考えられており,大腸などの他の腸管粘膜には H. pylori は存在しない(ただし、十二指腸までは議論の余地あり).よって,大腸生検では H. pylori 陽性と判断されず、通常は言及すらしない(※大腸癌との関連性についての一部報告も存在:[PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38427927/).

次に,組織学的文脈について考える.H. pylori が存在しやすい文脈としては,好中球を含む炎症細胞の浸潤及び腺窩上皮の再生性変化(慢性活動性胃炎)が挙げられる.逆にいなさそうな文脈としては腸上皮化生が認められる胃粘膜であり,腸上皮化生粘膜で H. pylori を見たことはほぼない.ただし,再生粘膜と腸上皮化生が混在しているときに,再生粘膜の方だけに H. pylori が見られることがあるので,腸上皮化生の存在自体が H. pylori 検出できないと判断してはいけない.

究極的には H. pylori の菌体を確認することが決定打になるのだが,周辺情報を適宜裏読みしながら検索することで,効率的かつ間違いにくく診断をすることが可能となる.もう一つ,以前にも出した前立腺癌を例にとって考えてみよう.

# Prostate Carcinoma Diagnosis

前立腺癌の診断のアプローチは弱拡大での評価が重要であった.「癌は騒々しく、良性腺管は穏やか」という格言が示すように、腺管の集合体としての挙動に注目する必要がある.一方で,個々の腺管で癌かどうかを判断するのは非常に難しく,1~2 個程度の腺管からなる癌は見逃されるリスクが高い.これらの非常に小さな腫瘍でもある程度経験を積めば個々の腺管での診断も可能だが,その有用性は限定的で実際には腺管群全体の評価が実用的である.

一般的に,評価単位の視点でいうと,個々の細胞よりも、組織単位や臓器単位での評価が、悪性度の把握において明確となる.小さい検体が多い生検検体であっても,一個の腺管よりも周囲の状況を踏まえてなるべく組織構築として評価をしていくことで,情報量を増やし,診断精度を挙げていくことが可能となる.これは特に前立腺癌のような異型の弱い腺癌に対して有効なアプローチと言えよう.

# Total Approach

総合的アプローチの概念の導入する.単一の所見だけでなく、周辺情報も含めた多角的な評価が病理診断において非常に有用.総合的な判断はここの情報をどの程度重視するかで主観が入りやすいことが欠点で,結局わからないということになりがちだが,それでも「間違えにくい」という観点からは有用.正解を出すことも大切だけれども,間違えないことも同じくらい,いやそれ以上に重要といえよう.


2024年11月4日月曜日

2024 年度病理専門医試験の総括(疾患当てクイズ編及び病理解剖)

どどたんせんせは毎年病理専門医試験で公開された問題を集計してデータベースを作成しています.そのデータベースからいくつか抽出して考察をしてみる.まずは疾患あてクイズから.

# 最近の平均点の傾向

平均点は過去 24 年間をたどると多少変動があるものの,おおむね 3.3 - 3.8 点程度を推移している.直近でいうと,少しずつ平均点及び中央値が下がっている.

過去 5 年間での平均点の平均の推移
  • 2020 3.79
  • 2021 3.58
  • 2022 3.73
  • 2023 3.57
  • 2024 3.51

過去 5 年間での平均点の中央値の推移
  • 2020 4.055
  • 2021 3.825
  • 2022 3.925
  • 2023 3.775
  • 2024 3.755

難化傾向とも言えなくはないが,平均点の差は出題内容と併せて見るにほぼ誤差と言える程度であり,良質の問題からなっている.後述するように全体的に安定した問題セットであり,病理診断の実力を測定するに格好の出題である.若干の難問を除いて少なくともここ数年は安定した出題になっており,来年度の受験生はオーソドックスな勉強で全く問題ないと言える.

# 正答率の高かった問題

  • Infective endocarditis
  • Invasive lobular carcinoma
  • Condyloma acuminatum
  • Sebaceous carcinoma
  • IgG4-sclerosing cholangitis
  • Low-grade appendiceal mucinous neoplasm
  • Metastatic carcinoma
  • Adenocarcinoma
  • Cholangiocellular carcinoma
  • Angiosarcoma
  • Splenic infarction
  • Medullary carcinoma
  • Trichilemmal cyst
  • Amebic colitis
  • Solid pseudopapillary neoplasm
  • Salivary duct carcinoma
  • Lichen planus
  • Glioblastoma, IDH-wild type
  • MALT lymphoma

4.5 点以上の得点の問題を取得した問題を提示している.これらは骨髄の癌転移以外は全て過去に出題されている問題であり,その多くは過去数年で出題されている.そして過去に出題されているときよりも正答率が上昇しているものが多い(多くの人が試験対策をしている).もちろんここに掲示されている問題はいずれも基本的かつ重要な疾患であり,過去に出題されているかどうかによらず専門医レベルとしては解答できなくてはいけない.

このように,病理専門医試験では同じ問題が繰り返し出される.もちろん日常の診断を丁寧に行っている人にとっては簡単と感じるかもしれないが,多くの人が取れる問題で取りこぼさないためにも過去問のレビューは必要である.言い換えると,多くの人が「試験対策」を行っている現状での得点率であり,8-9 割程度の得点を取れる人でなければ試験対策は必須と言える.

# 正答率の低かった問題

その中で平均点が 2.0 を切った疾患は以下の通りである.
  • Mixed neuroendocrine-non-neuroendocrine neoplams
  • Ductal hyperplasia
  • Peutz-Jeghers polyp
  • Parosteal osteosarcoma
  • Glomus tumor
  • Small cell carcinoma
  • HSIL
  • Lipoblastoma
  • Endometriosis
  • Follicular hyperplasia
  • Anterior lobe of pituitary gland (normal histology)
  • Inverted papilloma
  • Epidermoid cyst
  • Right lung S6 (normal anatomy)
Ductal hyperplasia は 2001 年を最後に出題されていなかった(その時の平均点は 3.01 点).Glomus tumor のように過去に出題されてはいたが,胃の出題は初めてなど,比較的稀な臓器での出題が見られた.子宮頸部細胞診の HSIL は何度も出題されているが,細胞診として出されると正答率は比較的低めである(気持ちはとても良くわかるが).気管支擦過の Small cell carcinoma も細胞質を少し認識すると腺癌と間違える可能性もある.

これらの疾患について次のような傾向にまとめられる.
  • 新規出題(過去に出題例がない)あるいはかなり昔の出題からのリサイクル
  • 異なる臓器(≒好発ではない臓器)での common な疾患
  • 正常構造,反応性,良性疾患の出題

# 今回新規に出題された問題

  • Anterior lobe of pituitary gland (normal histology)
  • C3 nephritis
  • Endometrial stromal breakdown
  • Intramuscular lipoma
  • Lipoblastoma
  • Myxofibrosarcoma
  • Parosteal osteosarcoma
  • Secretory carcinoma
  • Adenomatoid odontogenic tumor
  • Follicular hyperplasia
  • Intracholecystic papillary neoplasm
  • Thymic cyst

分類の仕方によって多少違いはあるが,2001-2023 までの過去の出題例から見て新規出題と思われる疾患を抽出してみた.唾液腺の secretory carcinoma は 2009 年に乳腺の secretory carcinoma として出題されている.Endometrial stromal breakdown は HE だけで診断するのはちょっと難しいような感じもあるが,正答率はやや高めである.C3 nephritis はかなり難しいとは思うが,蛍光抗体と併せて出題されるとそこまで難しくはない.比較的新しい疾患は組織形態像ではなく特殊検索などにより定義されているため,HE のみでは出題しにくく,免疫染色や FISH などが出されるとすぐわかってしまうという難しさがある.そのため「診断に有用な免疫染色は?」みたいな変化球的な出題になりがちである(例:mantle cell lymphoma -> cyclin D1, Burkitt lymphoma -> MYC, well-differentiated liposarcoma -> MDM2).

今回の問題セットで印象的なこととして,intramuscular lipoma, lipoblastoma, myxofibrosarcoma, parosteal osteosarcoma が出されている.報告書にも記載されているが,骨軟部腫瘍で新規出題がなされている.もちろん正解できたらすごいが,わからなくてもしょうがないと思っている.Intramuscular lipoma は well-differentiated liposarcoma との鑑別が必要になるし,後 3 者は骨軟部腫瘍の専門施設でないとおそらく見ることはないだろう.対策をすること自体は否定しないが,骨軟部腫瘍は放射線画像を含めてある程度読める必要があるのと,組織像が疾患同士で overlap しうるので,研修環境にいなければ無理に勉強しなくてもいいように思う.

# 病理解剖問題は安定した定番の出題

多発性骨髄腫 → アミロイドーシス → 心不全及び多臓器不全 → 死亡というシンプルな出題であった.病理解剖で経験しなくとも,骨髄生検や胃生検などで類似した経過をよく経験するので,自験例の病理解剖としてみたことがなくてもおそらく解答自体は可能なはず.

骨髄腫とアミロイドーシスの関連を言及できていない受験生がいたと報告書に記載があるが,それは流石にまずい...

強いて言うなら,アミロイドーシスの 5 亜型を全て完璧に述べるのは難しいかもしれないが,少なくとも 2-3 種類は答えられるはずで,部分点を狙いに行くことで十分合格点に達せられるようにできているはずである.

# フローチャートの問題

何度も言っているが,病理専門医試験の出題委員は試験の専門家ではないし,どうやら病理専門医試験自体は統括されていないように見える.それは特に病理解剖問題の出題や模範解答に年ごとのばらつきが強いところに見られる.従来であれば多発性骨髄腫 → アミロイドーシスというシンプルな矢印になっていたし,アミロイド生成・沈着という過程を示すような項目が中心に来ることは稀である.

病理解剖の主病変・副病変,及びフローチャートについては何をどのように書くべきかについてはきちんとした公式の定義自体は存在していないように見える.病理剖検輯報の記載方法が唯一のルールであるが,これも網羅的とは言い難い.この問題については何年も前から様々な人が声を上げているが多分解決されないだろう(病理解剖に本質的な意味での再現性や客観性を求めると,病理解剖自体が成立しなくなるか,非常に限定的な意味合いしかもたなくなってしまうので).

# 今後の対策

今回の分析では過去問を完璧にすることで 86% の問題は正答を得られる可能性があることが分かり,疾患当クイズ (I+II 型) については現行の過去問やクイックレファレンスなどの勉強方法で十分である(2023 年は 82%).ただ,懸念される点としては,試験対策としての完成度が上がるほど出題する側としては対策をせざるを得なくなり難化傾向に繋がりがちである.

さらに近年では疾患概念の変遷に伴って,従来の疾患名を答える問題だけではなく遺伝子異常を答える問題や,正常構造や良性疾患等の従来あまり出題されなかった疾患,切り出しや迅速診断などより実務に即した問題が出題される傾向にある.病院で病理診断のトレーニングをしている人にとっては通常業務を聞かれていることになり,より有利になるが,研究と同時にトレーニングをしている人には少し厳しいかもしれない.

正常構造を問う傾向は今後も続くと思われ「病理と臨床 2017年臨時増刊号 病理診断に直結した組織学」などで知識の補強を行うことが望まれる.

なお,I 型の○✗問題については,過去問+αで新しい問題が出題されている.法律関係や保険診療関係は学習をしようとしても幅が広くなるかつルールが変更されるので,深入りはおすすめしない.トレンドはあるにはあるが,せめて過去問をカバーする程度にしたほうがコストパフォーマンスの観点からは必要十分である.

病理解剖についても近年は比較的素直な(言い換えれば臨床情報を読めば主病変・副病変の大方が判明するような)出題になっている.病理専門医試験の中で,臨床的な知識と経験が要求される問題であるため,日頃から臨床病理相関をつける癖をつけることと,もし内科的知識が足りないという自覚があるのであれば,シンプル内科学など,網羅的な内科の教科書を通読することをおすすめする.

2024年6月6日木曜日

病理診断のスタンスの変化

 # 仕事終わりの 22:30

バドミントンが終わって,仕事の(病院業務ではない)メールを返し終えて,ガストで一息つきながら,臨床細胞学会に行こうか行くまいか悩み中のところ.もう前日まで差し掛かっているのにね.

病理診断の専攻医の先生たちにそこそこ読んでもらっているようだが,最近は病理診断自体に対して興味が尽きたのか?笑あまりネタとして投稿することは少ない.専攻医の先生たちとの interaction を通してブログや記事のネタを書いていたというのもあって,今は専攻医の先生の指導から離れており,それも記事を更新するというモチベーションが少なくなった理由かもしれない.

# 病理診断のトレンドの変化

病理診断にもトレンドの変化はある.自分は卒後 15 年以上経ってしまった.未だにわからないことや誤診をすることもちょこちょこあり,良く言えば進歩なのかもしれないが,15 年もやってそれかよ,と言われそうで怖い.さすがに他の診療科に転科する気力はないので今の状況で定年まで惰性で続けるしかないのだが.

さて,前置きが長くなったが,病理診断のトレンドの変化について概説してみようかしらね.

  • 「病理解剖→手術材料診断→生検診断」
  • 「免疫染色,FISH, PCR → CDx → CGP, methylation profile etc」
  • 「3 段階分類 → 2 段階分類」
  • 「良悪性 → 境界悪性・リスク分類」
  • 「形態ベースの疾患単位 → 遺伝子変異ベースの疾患単位」
書こうと思ったけど,手も疲れて眠くなってきたので,とりあえずトピックだけ書いておこう.他にあるかしらね.病理診断が進化するのはしょうがないというかそういうもんなんだけど,自分がいつまで追いついけるのかだんだん自信がなくなってくるよね.






2024年3月17日日曜日

病理医としてのキャリアパス:中間点

# 次はいずこへ

どどたんせんせはいわゆる around 40 で,この職場で留まるべきか次にどこかに行くべきかをそろそろ悩まなくてはいけない感じなっている.ある程度 public なこういうブログで書くべきかは悩ましい感じもするが,ごく普通の人の普通のキャリアパスについての具体例があってもいいかなと思っている.

初期研修が終わってから大学病院を転々として,その間に学位を取らずにのほほんとしてきているが,流石にそれはまずい?ということで大学院に入りおなして,学位を取ろうとしているところ.正直言って学位に興味があるわけでもないのだが,ここまでやっておいて取らないというのも変な話なので一応終わりに向けた活動に舵を切ろうと考えているところ.

# モラトリアム

大学の中では多分学位を取らずにいるということはモラトリアムに近いとも言える.まあ診断業務+他の雑務が忙しければモラトリアムどころじゃないかもしれないけど,アカデミックに上にいかなければ免除されている雑務も少なくない.上に行ったところで大学だと給料の上昇もたかが知れているので,昇進をするモチベーションはあまりないというのが正直なところ.

よってある程度合理的な範疇でモラトリアムを謳歌しているところで,でも多分それもそろそろ終わりにしないといけない.

# 晩年助教は迷惑?

最近切に感じることとして,歳を取った状態で昇進せずにとどまり続けるのは他の先生に対して迷惑なのでは?と感じている.他に昇進する要件を満たしている先生がいるけど,自分がいる中で昇進をするとバランスが悪くなる.大学は診断能力ではなく,研究実績で昇進するところなので後者がなければいくら診断ができても昇進はできない.当然のことではある.

なので,ある程度実績を積んで自分自身が昇進していく他はないのだろうな,という感じで,そうでなければ去るのが他の人にとっても良いのだろうという結論.

ちなみに筆頭は少ないけれども,大学病院にいる特権?でなぜだが共著はそこそこある.全く知らないわけではないけど,アドバイスやコメントをしたものがいつの間にか論文になっている.

# 他の人達の就職先

気になるのが同年代で他の病理医はどういうところに就職しているのかということ.サンプル数は多くないし,バイアスだらけだけれども,大体の先生は市中病院に就職し一人あるいは複数人の病理医として活躍している.

話を聞いていると,結構それはそれで大変そうだが,あまり悪くはなさそう.自分は市中病院で部長をできなくはないだろうけど,自由度が低くなりそうな気配はある.基本的にやっていること自体はどこであっても大きくは変わらない.

# 自分の思う市中病院での働き方

管理職になるのか,一スタッフとして働くのかによるけど,組織診が年間 4000 - 5000 件程度の「ごく普通の」病院だと,多分半日で仕事を終えて,外来やってみたりとかエコーやったりとか変なことをしてそうな自信はあるな.多分スタッフははらはらどきどきするだろう.

2023年8月20日日曜日

最近の話

 # The second visit this year

そろそろカンボジアに定期的に訪問するようになってきている.今回の目的は切り出し周りの整備を中心に他の用事が少々.後になってわかったことだが,なるべく大きな声で色々なところに声をかけた方が良かったかもしれない.

切り出し台の無影灯をいかにして再現するかが問題であったが,その答えの一つとして,フィギュア用の撮影ボックスという答えを考えてみた.実際に使ってみると意外とよいが,大きな検体はやはり難しい.違う方法を考えてみねば.

と思っていたところ,デスクライトをつなげると無影灯として機能するという話を聞いた.これは是非実践してみたいところ.

# My problems are not always their problems

なぜ行って実際に行動しないと改善しないか.そんなの行かなくても遠隔で指示すれば行けるじゃないかと思うかもしれないが,実際はかなり厳しい.色々原因はあると思うんだけど,一番の原因は

捉えている問題が自分と相手は根本的に異なっている

どうしても目の前にある問題に対して取り組みがちで,人によって立場によって,同じ風景を見ていたとしても問題は異なって見えてしまう.

自分としては切り出し図のシェーマなしで標本を見ることは暗闇の中でライトなしに車を運転するかのごとくで,正気の沙汰でないと思っている.しかし,別に障害物などないし,まっすぐ進めば目的地にたどり着くと考えると,ライトは別になくても困らないのだろう.

別の例を挙げるなら,中心静脈カテーテルを挿入するときにエコーを必要とするか否かで,昔やっていたときはエコーを使うなど邪道という考えであったが,今ではエコーを使わない方が邪道になっている.

時代や場所が変わると常識も変わる.現在からランクアップするためには変わらないいけないが,その必要性はしばしば変わってから認識することになる.先見の明がある人は変わる前から必要性を認識できるらしいが.

# Hierarchical relationship

この手の支援で大事にしていること.可能な限り同じ目線で話をすることと,こうしたらいいと思ったことは丁寧に理由を含めて説明をすること.どうしても自分たちが上で支援される側が下という構図になりやすい.というかそういう構図になってしまうのだが.

実際問題として,レジデントの中で極めて優秀な人が何人かいる.知識も非常に豊富で考え方がスマート.そういう人に対しては教えるというよりも進捗を確認しつつ,成長を邪魔しないという態度のほうが良い気がしている.

# How to improve it

前項でも述べたように自分たちが認識している問題点を必ずしも彼らが問題として認識しているわけではない.マクロ所見を記載しないことについては,どうせ自分が見るしという事情があるような感じがする.他の人が見たときにどうやってこの切片が断端だと認識することが可能だろうか?とか半年後にこの切片がどこに相当するかどうやって記憶しているのか?と何度も何度も何度も形を変えて問いただしているのだが,一向に変わらない.

子供を叱るわけではないが,論理的な説得が無効の場合はしょうがないので感情にある程度任せるしかない(怒るとエネルギーを消費するのであまり怒りたくはないのだが).キレるときはケースベースドにならざるを得ない.マクロ写真を消去したことが発覚したときにはことの重大さを理解してもらうために敢えてキレてみた.次は切り出しのシェーマを作製していなくてどこを切ったか分からなくなるときかしら.

しかし,なんで切り出しのシェーマを書かないんだろう(他の病院でもほとんど書いていないことは理解している).

2023年3月5日日曜日

初期研修医から後期研修医 1 年目の先生に向けた病理診断の考え方

# プロローグ:高校数学で学んだこと

初期研修医から病理後期研修医の一年目向けのお話.高度なことはさておき高校数学(や人によっては倫理・現代社会)では証明をする際におそらく 3 つの考え方を習ったはずである.

  • 演繹法
  • 帰納法
  • 背理法

それぞれ平たく言うと,演繹法は直接証明するやり方,帰納法はこれまでみんなそうだったから次もそうだという論法(正確には n = 1 のとき成立し,かつ n = k のときに n = k+1 でも成立することを示す),背理法は選択肢が 2 つしかないときに片方を否定すれば結果的に残りの選択肢が正しいという論法である.

どどたん先生は大学入試からもう何年も経ってしまってだんだん忘れてしまっているが,若い先生はまだ比較的記憶に新しいはず.

# 病理診断の進め方のロジック

病理診断は数学ほど厳密ではないのだが,ある種の証明みたいなもので,状況証拠(肉眼所見や組織学的所見)から論理的に組み立てていって診断の証明を目指していく作業に他ならない(数学は世の中の役に立つ一例).

よって数学が苦手で証明の方法を考えるのすらきついというの人は診断学のウェイトの大きい病理診断はちょっときついかもしれない.とはいえ数学が苦手でも得意でもそれなりのところに到達するのでご安心を.

病理診断という行為自体が演繹法,帰納法,背理法を組み合わせて,なんとか特定の診断に辿り着こうとするプロセスである.こう考えると場当たり的にテキトーに診断しているように見える病理診断の過程が少し明るくなる?(ならない?)

# 具体的に考えてみよう

通常は演繹的な考え方をしていることが多い.つまり a, b, c, d, e の所見がある,だからこういう診断になる,と.この考え方はストレートなので理解しやすい.特に典型的な肉眼・組織像や臨床経過をたどる場合には余計なことを考えずに演繹的にアプローチしている.

ただ,典型的な組織像でない場合は,積み重ねた所見の先に想定される正解が存在しないことがある.そういう場合はどのように考えているのだろうか.

# 鑑別診断を挙げる

これは病理診断に限ったことではないのだが,鑑別診断を挙げている.臨床医学においても鑑別診断を常に考えることの重要性は日頃から掲げられている.想定される疾患群を網羅するような鑑別診断を挙げて,組織学的所見や免疫染色,臨床所見などを駆使して否定していく.

鑑別診断は経験的にどちらかというと否定していく作業が主体となりがちである(積極的に pick up ができればそもそも鑑別診断を挙げる必要性がなくなる).このような作業は背理法の考え方に似ている.特定の疾患 A であることを証明するために鑑別となる B, C, D, E を否定するという具合に.もっとも A であることを示唆する状況証拠を整えつつ(演繹的に考えつつ),B-E を否定しにかかる(背理法的考え方)という合せ技にちかいのだが.

# 通常の診断は演繹法+背理法

ちょっと乱暴なまとめ方だが,通常我々病理医は演繹法+背理法で診断にたどり着くことが多い.このように診断の手順を頭の中で整理することで診断に必要な要件は何か,手持ちの材料でどうやって証明すれば良いかが自ずと見えてくる.

この考え方が不十分だとたくさん所見は書いてはいるが,結局終着点が見つからずに診断が発散してしまう.実際,診断がうまくいっていない人を見ていると,この手順がごちゃごちゃになって必要な所見がうまく整理できていないというパターンがある(もちろんそれ以前に標本からの形態学的な理解が乏しい例が多い).

# 帰納法的なアプローチはいずこへ?

最後の帰納法は病理診断では何に相当するのか.ある種の経験値に近い.昔こういう診断をしたからこうかな,と言った具合である.厳密さを求める数学でいう帰納法とはだいぶ異なりるが,〇〇の場合は××が多いといった議論ができるのも経験があるからであって,帰納的ではある.

帰納的なアプローチの考え方は実は多くの先生が意識的あるいは無意識にやっているはずだが,なかなか教科書や文章として書かれることが少ない.前立腺癌の診断を例に取り考えてみる.

# 前立腺癌の定義は二相性の消失

前立腺癌の定義は二相性の消失というのは多くの方が知っていると思うが(知らなくても今覚えればそれで十分),個々の腺管を見ても二相性を消失したように見える非腫瘍性腺管が多くある.実際対物 20 倍で見ていると,二相性がなくこれは癌では??と悩むことが多い.

このように演繹的なアプローチでいくと,前立腺癌の場合は確実に壁にぶつかる.またよくクリスタロイドがある,腺上皮細胞の核に明瞭な核小体が見られるなどとも言われるが,すべての症例でそう見えるわけではないので難しい.

では,ということで基底細胞(✗筋上皮細胞)を否定すれば良いと考え免疫染色で二相性を否定すれば癌と言える(背理法的な考え方).実際,一部の施設では前立腺針生検で全例免疫染色をやっている.個人的にはさすがにやりすぎじゃないかと思うが.

# 前立腺癌は弱拡大で見るのがポイント

では HE 染色だけで診断する場合はどう考えているのか.最初どどたんせんせが前立腺生検を見始めた時は演繹的に二相性を真面目に探して変なところを癌として判定したり,明らかな癌を見落としたりしていた.

指導医の先生から「弱拡大で見ると良い」と言われ,そして「癌部分は騒々しく良性は穏やかだ」と教えてもらった.最初言われたときには何が言いたいのかわからなかったが,次第に一個一個の腺管を見て癌と判断しているわけではなさそうだなと理解した.

そしてグリーソンスコアのシェーマをなんとなく眺めていたときにようやく合点がいった.

# 癌の頻出パターンは決まっている

結局のところ前立腺癌として出現するパターンは決まっていて,多くの症例では小型の腺管が密集する形で増殖しており,種々の程度に拡張した腺管が癌である確率は(否定はしないが)相当低い.

もちろん最終的には二相性を確認することが決定打になるのだが, 前立腺癌の増殖様式は非常に特徴的だから低倍で見るのが良い.専門医を受験する前の先生たちにとっては当たり前の話と言われたらそうかもしれないが,当時のどどたん先生にとっては非常に斬新だった.

それからは癌の出現パターンを理解したら,指導医の先生と癌のマッピングでずれることがほぼなくなった.指導をするときには「ここにクリスタロイドが~」とか「核小体が明瞭で~」などと取ってつけたような文言を加えるが,実際に診断をする場合には,こういうパターンは癌のことが多いから癌だ,といった帰納的なアプローチに近い考え方をしている.

# 帰納的なアプローチがしやすい場面は多い

癌であってもなんであっても病理診断をする以上は再現性の高い診断基準があって,基本的にはそれに従っている.色々とあれこれ悩んだとしても報告書にはあたかもこの疾患を最初から考えていたような書き方をすることが多い(結論がきちんと決まっているのであれば余計なことを書くと混乱を招くため).

ただ,普段指導をしていてもなぜこれが良性なのか,なぜこれが悪性と判断するのかと形態的な根拠をうまく説明できないことがしばしばある.診断報告書に記載するキーワードだけ積み重ねていくと癌になるはずなのに実際は良性と診断している.

もちろん言語化をより明瞭にすれば解決できるかもしれないが,その手の説明の難しい病変の中には帰納的にアプローチをしているものも少なくない.いつもこの検体はこういう風に診断しているからこうなんだと言いたくなるようなもの.

実際の診断にあたっては,演繹法+背理法をベースにして,経験的なものである帰納的なアプローチを織り交ぜながら,様々な証明方法を組み合わせて病理診断を行っている.

# エピローグ:帰納的に経験値を積む

帰納的なアプローチは経験がないとなかなか難しいが,その経験値を上げるお勧めの方法としては、取扱い規約の写真を読むことが挙げられる.分量的に程よくまとまっているのと、どこの病理検査室にもあるので手に取りやすく,まず最初の一歩として勧めやすい.次は鑑別診断シリーズの写真を斜め読みするのもよい.

もちろん自験例として経験した症例にまさるものはないのだが,全体像を把握して悪いことは何一つない.



2023年2月11日土曜日

病理診断科への勧誘

# 勧誘の必要性

そろそろ新規の勧誘をせねばということで種を撒く意味を込めて,今日はちょっと病理診断科の魅力について話をしみてみようかと思う.その前に病理と臨床の校正の原稿や他にも執筆する原稿があるが仕方ない.ちなみにここでは勤務時間の調整がし易いとか子育てしやすいから,とかそういう安直な議論はしない.なわけ無い.

どこから始めるか悩みどころだけど,まずは現状の認識から.


# 病理診断従事する医師

結構異論はありそうだが,多分病理診断に従事している人は大体 3000-4000 人程度と考えられる.専門医の番号が 3000 番台半ばであり,レジデントは当然専門医を持っていないし,専門医を持っている人でもほとんど研究にシフトしている人もいるため実際の数は不明である.

そして他の診療科と違うのが定年後もよくも悪くもダラダラと働き続けられることで,体力等に応じて病院や検査センター等働き方を選べるという点にある.自分の知っている限りでは 80 歳を超えても働いている人がちらほらいる.いい加減流石に止めてほしいけど.他の診療科に比べて手技的な要素よりも知識,経験的な要素が大きく,知識の寿命が比較的長い.もちろん新しいことが常に生み出されているのは病理に限らず,常に update が必要だが,基礎ができていれば講習会をちらほら聞くだけでも十分なことが多い.


# 病理診断科の特性

診療科としての特性上,患者を見ないのだがそれをメリットと感じるかデメリットと感じるかは人それぞれである.ただし,初期研修を終了しかつ病理診断に対して本腰を入れてやっている人ならわかってくれると思うのだが,病理診断科はれっきとした「臨床」にほかならない.外野からは顕微鏡を見ているだけと思われるかもしれないが,顕微鏡を通して見える風景を臨床的なコンテクストでどのように解釈するのかその価値判断が臨床医の先生がやっている診療そのものである.表面的なものだけにとらわれずにもう少し深いところを覗いて見てほしい.

もう一つ,すべての診療科を対象にして臨床医と対等に議論ができるという点は特筆すべきポイントである.自分は学生の時からいろいろなことを勉強したい,理解したいという漠然な欲求を持っていて,残念ながら能力がついていかずに試験の成績もいまいちであった.例えば皮膚科や整形外科の領域は学生のときはマイナー科目で,正直疾患の体系の理解すら危うい感じであった.もちろん今だって完璧かと言われると微妙だが,少なくとも疾患については教科書を参照しながらある程度は語ることができる.多分臨床にそのまま進んでいたら行く診療科にもよるけど分からないまま「それは専門ではないので」と扉を閉ざすことになっていたかもしれない.

もちろん他の診療科を批判しているわけではないし,それぞれ(進まなかった自分には分からないが)魅力を持っているはずである.みんなちがってみんないい.


# 他の診療科との違い

すべての診療科を俯瞰する診療科として放射線科や総合診療科,ある程度集団が限定されるが産婦人科や小児科もあるだろう.手技を含む診療を捨てた代わりに,確定診断を担うという立ち位置を獲得し臨床医と対等に議論をする事ができるのが病理診断の魅力と言える.

学生や初期研修医の先生が我々の仕事を 1 から 10 まですべて覗く機会はあまりないかもしれないが,自分の診断業務の中では,標本を見る 3,調べ物 3,切り出し 2,おしゃべり(症例のディスカッション)2 くらいの配分になる.勤務施設によるが,大学などでは症例に関する議論をすることが多い.それは病理医同士や,床医に電話をすることもある.自分は臨床医への電話の敷居がとても低いので,ちょっとカルテを調べてわからないことは直ぐに電話をしている.その時に病理診断報告書を見るだけでは伝わりにくいちょっとした tips を織り交ぜてついでに情報提供をするのが良好な関係性を作るポイントなのだがそれはまた別のお話である.


# 病理診断業務としての勉強

そして,業務の中では本を読んだり文献を調べたりという要素がかなり多く占める.特にレジデントのときにはそれで時間がかかるといっても過言ではない.もちろん病理学的所見については丁寧に教えているが,それを聞いてさらに自分で調べて納得し,鑑別診断を含めた周辺情報を仕入れるということが診断技術向上のために必要である.業務とは勉強を含めた総合的なものと言える.

業務の中に勉強が含まれることには副次的な効果がある.参照する文献は必然的に英語が多くなるのと,病理診断において保険診療はほとんど関係ないので(厳密にはあるが),英語の教科書の内容をそのまま使える.多少の違いを無視すれば病理診断は global といえる.学生の頃熱心に英語の勉強をしていて,社会人になってから使う機会がないから錆びるかなと思っていたが,参照する教科書の多くが英語で,結局日々,維持向上している.ただ最近は ChatGPT や Bing AI, Bard が登場してきて雲行きが怪しくなっているが(それもまた別の話).


# 収入面のお話

収入面に関する議論は避けて通れないのでここで言及する.昔は病理は稼げない,実家が太くないと病理医をやっていられないと言われた時期もあった.でもそれは病理学の研究者としての話で,病理診断医として働く限り,他の診療科とはそこまで変わらない.ただし,病理専門医を取るまでは一人前とみなされないので一人で sign out ができないなどの制約がつくことが多い.個人的には不満で,臨床医は専門医の有無に限らず独立して診療をしているのに,病理医は非専門医は常に仮免扱いなのは不公平だと思っていた.

でも考え方を変えると,専門医取得後は独占的になり,他の人の参入を実質的に締め出せるので,頑張って欲しいところ.昔は 5 年だったが 4 年,3 年と研修期間が短くなってきている.でも試験の内容は 5 年の時から変わらないので大変かもしれないが,きちんとステップを踏めば確実に到達するし少し時間がかかっても構わないと個人的に思っている(専門医機構は受験回数の制限等と不穏なことを言っているが).

専門医取得後は検査センターなどで働くとかなりコスパがよい仕事が得られる.莫大な収入というわけではないが,単価は相当高い傾向にある(検査センターで働いている人は時給換算で 20000 万円/hr 程度の働き方をしていることが多く,やりようによっては 3-6 万円 /hr といった働き方も十分可能).


# 落ち葉拾い(顕微鏡を見るのが苦手?)

そろそろ落ち葉拾いをして,畳み込みをかける.顕微鏡を見るのが苦手とか教科書を読むのが苦痛だから病理は合わないという人をちらほら見かけるがそれはもったいない.

実際,自分は病理学実習まで顕微鏡の両眼視ができなかった.片眼が弱視なのもあってそもそも両眼視すること自体を諦めていた.でも実習中のある瞬間に両眼で立体的に見ることができて感動したというのは入るきっかけになった理由の一つ.顕微鏡が苦手と言っている人でも殆どのケースで一ヶ月見続けていれば次第になれてくるので全く問題ない.

メガネでもなんでも見ることさえできれば病理診断をするのには問題ないし,今後は WSI でパソコン画面で診断ができる可能性が高い(実際 PMDA 認証を受けている機器が数種類あって,するかしないかは別にして可能である).


# 落ち葉拾い 2 (本を読むのが嫌い?)

後教科書を読むのが苦手という人が多いが,自分も教科書を cover to cover で読むのはあまり好きではない.峰先生や electric mouse みたいな変人のみができる所業.しかし,教科書を読むのは苦手でも分からないことに対していろいろな方法で調べることが嫌いな人は少ないと思っている.

わからないことを調べて解決するという体験から得られる快感とそういう積み重ねが自信につながる.わからないものを理解したいという欲求は誰でも持っているものであり,仕事として真正面から取り組めるのは病理のメリットと考えている.


# まとめ

もちろん強制するものではないし,強制はできないのでせいぜいどうですか?という程度に留まる.この記事を読んで,どこかにひっかかるところがあれば是非見学にいらしてください.お待ちしております.


2022年12月11日日曜日

病理専門医試験の総括(病理解剖編)

# 今年の病理解剖の試験は違った

例年の病理解剖試験はリード文(臨床経過)を読めば,主病変の診断がわかるような問題設計がなされていたが,今年は過去十年程度ではおそらく初めて?リード文だけでは主病変が判明しない問題であった.例年からは主病変はリード文でほぼ決まってくる症例ばかりであった.

その一点において,過去とは異なるため少し難易度が高く感じることがあったかもしれない.詳細は実際の標本が閲覧できる状態(剖検講習会)まで待つ必要がある.


# しかし主病変は過去に出題された IVL であった

血管内 B 細胞性リンパ腫 IVL 自体は過去にも出題されている(2002 年).その点においては過去問を丁寧に潰しておけば,IVL の概念自体を知らなかったということにはならないと思われるが,20 年前の問題まで丁寧にレビューすべきかという疑問は残る.

残念ながら yes と言わざるを得ない.これは病理解剖問題に限らず,I+II 型問題でも過去の問題が再度出題されることはある.ただし,疾患概念自体が変化し出題にそぐわない問題も含まれており,ある程度の取捨選択は必要である(病理専門医試験を受験しようとしている人にとってはその程度の差は十分に吸収できるであろう).


# 他の細かい話

例えば,脳梗塞の存在は肉眼所見等から類推可能であるが,膜性腎症や IVL については標本(WSI) から読み取って診断をする必要がある.WSI 自体は多くの施設や研究会等で採用されていることから見たことがない人はまずいないと思われるが,細かい操作方法は機種により異なる.現実的にはある程度の練習はしてもよい.

前立腺癌がオカルト癌として入っているのは定型的であろう.

フローチャートは例年通りで,がんから始まって最終的には呼吸不全,循環不全から死亡という定型的なストリー展開である.

GIST のようなリスク層別化されている腫瘍は副病変に入っている.高悪性度の場合は主病変に入れるべきかという疑問が残るが,おそらくその点はあまり心配しなくてもよい.定義のはっきりしないものはある程度採点時に考慮される(過去にも模範解答で副病変の肺炎が直接死因になったことがありそれも物議を醸した).

あと模範解答に免疫不全?と?を入れるのは個人的にどうかとは思う.受験生が使うのならまだしも模範解答に不確定な要素を含めるのはあまり良いとはいえない.


# 今後の傾向と対策

近年ガラスの標本から WSI に変化したことで出題の傾向が変わりうる.

WSI での出題が可能になったことで 100 枚以上同一の品質で作製する必要がなくなり,結果として,さらに希少な疾患や微小な病変の出題が可能になったため,これまでに出されなかった疾患が出題される可能性は考慮される.

最終的には各年の出題委員の意向に左右されるのだが,例年としては主病変はわかりやすいように,仮にわからなくても所見がきちんと記載できるような出題設計がなされている.

例えば,SLE や強皮症,ALS などの全身の臓器所見をきちんと暗記していなくても一つ一つの標本や肉眼所見を丁寧に拾っていけばある程度記載できるような配慮がなされている.特に近年では主病変は多くは過去に出題されている疾患がほとんどであり,過去に出題された疾患を YearNote や内科学の教科書を見ながら整理するだけでも十分過ぎるお釣りが来るはずである.

# おまけ

昔は同一症例で多彩な病変を含む解剖症例が選択されていたが,現在ではそのような症例を選ぶことが難しいらしく,複数の症例から組み合わせられているとされる.よって剖検症例の創作感が強くなり,本当にこんなに病変があっていいのだろうか?と思うかもしれないが,あくまで試験として対峙する必要がある.



2022年12月7日水曜日

病理専門医試験の総括(疾患当てクイズ編)

どどたんせんせは毎年病理専門医試験で公開された問題を集計してデータベースを作成している.そのデータベースからいくつか抽出して考察をしてみる.

# 全体的には正答率は上昇する傾向

言うまでもなく,病理専門医試験では同じ問題が繰り返し出される.そのため過去問を丁寧にレビューすることが点数を上乗せするために必要になる.

多くの疾患では過去に出題されたときよりも正答率は上昇している.正答率が 4 点を超えるようなもともと正答率が高めの疾患は多少変動する程度である.そのため,究極的にはよくある疾患は全員が応えられるために出題しにくくなるが,それでも全員解答できる事を考えると,学習の基本は過去問によるべきである.


# 過去に出題されたものの今回正答率を下げた問題

その中で正答率が明らかに下がった疾患は以下の通りである.

  • Adenomatous goiter
  • Amyloidosis
  • Asbestosis
  • Endometrial stromal sarcoma, low grade
  • Langerhans cell histiocytosis

問題の問われ方も多様化しており,疾患自体は知っていても設問に答えられなかった可能性がある.これらの疾患の共通点を指摘することは難しいが,例えば endometrial stromal sarcoma, low grade は leiomyoma/leiomyosarcoma との鑑別が難しくなることもあるし,Langerhans cell histiocytosis はある程度 working knowledge として鑑別診断に加えておかないと診断自体が難しい.教科書を参照できない状況下で診断を下すためにはある程度の経験を要する.


# 今回新規に出題された問題

分類の仕方によってだいぶ異なるが,2001-2021 までの過去の出題例から見て新規出題と思われる疾患を抽出してみた(亜型等での新規出題は除く).

  • # Mucous cyst
  • # Spirochete
  • # IgG4-related sclerosing cholangitis
  • # IgA nephropathy
  • # Granulomatous orchitis
  • # Adenomyosis
  • Serous tubal intraepithelial carcinoma
  • # Extramedullary hematopoiesis
  • Osteochondroma
  • # Toxoplasma infection
  • # Eosinophilic esophagitis
  • Metastatic clear cell carcinoma
  • # Lactating mammary gland
  • # Gynecomastia
  • T-lymphoblastic lymphoma
  • # Atrophic vaginitis

T-lymphoblastic lymphoma は ALL としては過去に出題されている.今まで(過去 20 年間に) IgA 腎症が出題されていなかったこと自体もびっくりだが,見てわかるように新規に出題される疾患の多くは非腫瘍性・良性疾患である.しかも日常診療で遭遇しうる絶妙なラインを問うている.特に今年はこの傾向が目立っている.

これは単に試験勉強ができているだけではなく,日常診断をきちんと行っているか,そして正常構造をきちんと把握しているかどうかという基本的な実力を問うている.あとは,腫瘍は遺伝子異常で診断される頻度が増えたため,古典的な HE 染色で診断というパターンが減っていることも考慮される.

特に細胞診の atrophic vaginitis は陰性症例として流され普段病理医の診断の場に登ってこない施設もあるかもしれない.病理専門医である以上は陰性症例であってもきちんと把握してその責任を果たしてほしい,というメッセージなのかもしれない.

# 今後の対策

今回の分析では過去問を完璧にすることで 82% の問題は正答を得られる可能性があることが分かり,疾患当クイズ (I+II 型) については現行の過去問やクイックレファレンスなどの勉強方法で十分である.

高得点を望む人や余裕のある人は「病理と臨床 2017年臨時増刊号 病理診断に直結した組織学」などの正常組織の復習するとさらに点数が上乗せされるであろう.

本記事ではあまり言及をしなかったが,I 型の○✕問題ではがんゲノム医療関連の出題も増えている.○✕問題は配点が少なくコストパフォーマンスが極端に悪いのだが,分子病理専門医を見据える意味でも勉強して損はないので,腰を据えてじっくり学習するのも良いと思われる.

法律関係や保険診療関係は学習をしようとしても幅が広くなるかつルールが変更されるので,深入りはおすすめしない.

2022年10月9日日曜日

国際協力的ななにか

 # Improvement of macroscopic pictures.

前回カンボジアに 2 年ぶりに行った時に,デジタルカメラを置いてきた.デジタルカメラと言っても,ASC サイズのミラーレス一眼レフカメラである.本当は full size の一眼レフカメラが良かったのだが,まぁ手元にあったカメラで使い道も特にないしいいかという感じ.マクロ写真撮影用カメラとしては十分なスペックである.

スマホでマクロ写真を撮るのでなくて,マクロ写真をこうして撮影してほしいという要望を込めて実際に切り出しを一緒に行ってこう使ってほしいと具体的なデモンストレーションをしてみた.

そこからしばらくして,様子を見ているときちんと使いこなしている!接写の写真も撮影しているし,検体の記録としては問題ない.さらに嬉しいことに,切り出し図を書くためにタブレットを導入しようかと考えているとのこと.ここ 2 年間その必要性を懇懇と説いてきたが,思わぬところで急に理解してもらえたような気がしている.

# How about other hospitals?

KSFH へ見学に行った時に病理部を見せてもらって,切り出しや診断の部屋などを見て回った.その時は特になんとも思わなかったが,後でふと写真撮影台がないことに気づいた.別の病院の先生に聞いてみたところ,他の病院がどうやっているか話し合う余裕はなく昔の話しかわからないと前置きをしつつ,一般的には肉眼写真は珍しい症例や特殊な症例などしか撮影しないと言っていた.

切り出しの段階でどうやって当該症例が珍しいのかを判断しているのか疑問に思いつつも,面倒を見ている検査センターでやっている手術検体の写真は全例撮影というのは結構彼らにとっては普通では無いことなのかと理解できた.そのようなトレーニングを受けて来なかったらそりゃ面倒だと思うに違いない.こういうのは実際に行ってみないとわからない.

# Quality Control

2021 年のコンサルテーション症例のうち自分が彼らの意見に同意したのは 50% であったのに対して,今年はそもそもコンサルテーションされる症例が少ないのもあるが,75% を超える同意である.実感としても大外しはしないし,残りの 25% も全く違うというわけではなくて,このように診断したほうがよいのでは?という修正も含まれている.もちろんこれはだめ!っていう大外しも若干は含まれている.

本当は 2020 年からやっておけばよかったと後悔しているが,とりあえずまぁデータを取得しておいて良かった.こうしないと振り返り自体が難しくなる.

# What's next?

次に考えているのは症例報告.資金的にも経験的にも自分ひとりでは不足しているので,両者ともに面倒を見てくれるメンターを確保済.まだこれと言える症例に出会っていないが,なんとかして結びつけたいところ.


2022年9月19日月曜日

スイスを行った旅行記みたいなもの 3

 # 落ち葉拾い

  • 飛行機に乗る際にはとても楽な格好をしたほうがよい.下はジャージと上はシャツという非常にラフな格好で飛行に乗ったが,完全に正解であった.一つ後悔すべきはスリッパを忘れたこと.これがあれば完璧だった.薄手のブランケットを持っていったけど,いらなかったかな.とはいえあまり荷物にもならないので次も持っていこうとは思う.
  • 思ったほど仕事はできない.滞在中にいろんな仕事を片付けてしまおうと意気込んでいたが,当然できない.これはもう諦めて仕事をしないほうが生産的の様に思った.
  • 現金はほぼ不要.変な話日本人の先生とご飯に行った時に割り勘にする時に使ったくらいでほかはクレジットカードの決済でいけた.引き落としのときがちょっと不安ではある
  • スイスは携帯電話がつながる必要がある.いわゆるフリー wifi のほぼ全ては SMS で認証をすることが法律で義務付けれられているようで,そのためには携帯電話をつなげる必要がある.契約次第だがフリーなのに余計なコストがかかる可能性がありちょっとめんどくさい.sim を契約する手間や面倒さを考え,結局楽天モバイルをそのまま使った
  • 9/7 以降の話,という前提で.PCR 検査が不要になったので,非常に行きやすくなった.MySOS アプリを入れて事前認証をするほかはほぼコロナ前の旅行と同様になっている.羽田空港でまあまあ歩かされた他には特に特段トラブルはないし,全体的にはほぼ許容範囲内と言える.
  • 運良くコロナにかからずに済んだが,正直どこに感染リスクがあるかはわからず,マスクはなるべくしておいたほうが良い気がする.特に海外では uncontrollable な要素が多いので.



2022年9月17日土曜日

スイスを行った旅行記みたいなもの 2

 # ヨーロッパ病理学会

内容的なものは多分書いてもすぐ陳腐化しそうでとりあえず置いておくにしても,すごく印象的だったのが,誰もマスクをしていないということ.正確にはマスクをしている人はいたけど,感覚的に 20 人に 1 人くらいで,屋内でも屋外でもあまり変わらない印象であった.ただ,つけている人をよく観察すると N95 マスクに近いような,ごついマスクを付けている人が多かった.そうそう,あとは会場の受付のスタッフはマスクを付けていた.

そこで会った病理医の先生にちょっと聞いてみたところ,「規制自体は撤廃されているからつけていない人が多い.自分は心配だから室内ではつけているけど」とのことで,一応マスクを持ち歩いているようだった.

後日談としても会場でコロナが集団発生という話も聞かないから,結局は大丈夫なのだろう.ヨーロッパにいると,どうしてもコロナなんかもう問題ではない,過ぎ去ったイベントだという印象を強く持つ.

# スイスの物価

言うまでもないが,非常に高い.比較のために Coca cola zero 500 mL ペットボトルの値段を定点観測していたが,ホテルの自動販売機だと大体 5 CHF くらいで為替は刻一刻と変わっているが,大体 700 円くらい.スーパーとかだと比較的値段は安めで,1.5 CHF 程度で購入可能だがそれでも,210 円で日本よりも明らかに高い.日本の 3-4 倍くらいと言う認識がちょうどよさそう.

スイスの人もやはり高いと認識しているようで,ジュネーブでは国境を超えてフランスに買い物に行くみたい.国境を超えると安くなるというのも変な話だが,全然価格が異なるそう.

# スイスの言語

公用語とされているのはドイツ語,フランス語,イタリア語で,結構場所によって話される言葉にだいぶ差がある.とりあえず英語は通じるが,バイリンガルとはいえないような人も少なからずいる.

バーゼルからジュネーブに移動する際に電車の中で途中から聞こえてくる言語が変わったことは気づいていたが,どこらへんが境界なのか興味のあるところではある.

フランス語を duolingo で勉強していて,ジュネーブでフランス語を少しだけ披露するととても喜ばれた.本当はもう少し話したかったけど,フレーズが出てこなくて残念.おそらくあと 1-2 年くらい勉強をすればいけそうなきがしている.

# 学会の中

学会の講演やポスターはまぁ一般的なもので新しいと感じた話題がいくつかあったほかは特段なく,あまり言及するほどでもないが,一つ挙げるとすると,

企業展示の多くがデジタルパソロジーと NGS を中心とした遺伝子パネル検査の 2 つが主流となっていたこと.他にごく少数の染色機器や顕微鏡があったくらい.オリンパスの人と話をしたけど,特に目新しい話題は出てこなった.

# 検査センターへ

ジュネーブにある,とある検査センターに訪問をさせてもらった.なんと時差ボケで 2 時間遅刻をかますという大失態をしたが,とりあえずなんとかなった.なんとかなってないかもしれないけど,遅刻したものはしょうがないので,ごめんなさいを繰り返すのみ.

検査センターは検査センターでなかなか興味深い話を沢山聞けたけど,多分 compliance の問題があってちょっと難しいそうなので詳細は省略.

# 結局学会に行ってよかったのか

当院(当科)はどうやら,国際学会は筆頭でも自腹か研究費をとって行けという方針になった?ようで,しょうがないのでしばらくは自腹でいくことになりそう.そのために検査センターの標本を眠い目をこすりながらぼちぼち診断をしている.検査センターに文句を入れたらコスパの悪い外勤を切ろう,そうしよう.

そこまでして国際学会に参加する意義があるのかと言われそう.個人的には多分あるんじゃないかと思って約 7 年くらいなるべくコンスタントに参加をしてきた.結果的にはありそうな雰囲気はあって,昔某放射線科の先生に言われたことは間違いではなかったのかなという気はしているが,本当の正解は誰にもわからない.

# 海外が better とは限らない

一応自分としては日本では他の大学への同一ポジションでの平行移動はしないと決めていて,次行くとすれば市中病院か検査センターか廃業(産業医?etc)と決めている.これまで複数回平行移動をしてきて,大学病院がどういうものかは十分分かっているし,経験の多様性という意味でもこれ以上よそを経験することで得られるものと異動による不連続を考えると,異動することのメリットが上回ることはさほどない.

他のオプションとして考えているのは,海外で病理医として働くというライン.某国であればすぐ行っても歓迎されそうだし,そうじゃない別の国でもいいかもしれない.資格上あるいはポジションの問題もあり,すぐには実現しないとは思うが,とりあえずアンテナは張り巡らせておく.

ただ,海外だからより自由で payment もいいという考えは多分捨てたほうが良さそう.フランスの病理診断事情を聞いていた時に,あれこれ日本と同じじゃない?と変に納得しながら聞いていた.おそらくどこの国でも大体の傾向は同じで,多少の差がある程度なんだろうと思う.どこにいても自由でかつ不自由.


2022年9月15日木曜日

スイスを行った旅行記みたいなもの 1

 # スイスは遠い

ヨーロッパ病理学会に演題を出してみたので,まあ行く必要があるかと言われると本当は微妙なのだが,とりあえず行ってみた.

比較的直前寄りだったので,ちょうどよいチケットがなく,また途中寄りたいところもあったので,かなり変則的なチケットになった.

# 日本→ドバイ→チューリッヒ

会場はバーゼルであったのだが,バーゼルまで行くチケットは非常に高く,折衷案としてチューリッヒ行きのチケットとした.それでもだいぶ高いけど.直行便のチケットを買う裕福さもなく,ドバイ経由の安いチケットに.

ドバイまでの飛行機はほぼ満席であった.よくよく見てみると,ドバイまで行ってそこからヨーロッパ各地へと飛ぶフライトがあるように見えた.ハブ空港までまずはお客さんを一括で乗せてそこから各地へトランジットさせる感じ.日系の航空会社ではなかったが,機内ではマスクをするように乗客にアナウンスしていた.

ドバイについたのは夜中だが,プライオリティパスの使えるラウンジは激混みと言える位混んでいた.料理もカレー的なものとデザートでお世辞にもバラエティ豊富とは言えないが,あるだけ全然マシと言えよう.シャワーもあるが,きちんと記入して置かないといけない上に,適宜顔を出して自分の名前がどこらへんにあるのかをチェックしないといけない.慣れればなんともないがちょっと面倒.

あとドバイの物価は非常に高い.ちょっと計算してみたが空港価格とはいえ日本で買うものの 4-5 倍はする.どうせ機内食も出るだろうしとここは我慢.

チューリッヒについたときにちょっとしたトラブルがあった.ポスターの筒が行方不明.Baggage lost へ行き確認してもらい戻って待つ,来ない,また行くを二回くらい繰り返し違うレーンに置いてあったことが判明.そりゃわからんわ.

# チューリッヒ→バーゼル

チューリッヒについてから電車でバーゼルに向かう.大体 1 時間くらい.チケットは結局 SBB mobile で買うのが便利だということがわかった.バーゼルに宿泊する場合は BaselCard というものが配られ,市内の交通機関は無料で使える.チェックイン前でも有効のようで,バーゼル駅までのチケットを買えばあとは宿泊者である旨を証明できれば ticket control のときも問題ないようだ.結局色々考えたがチケットは SBB mobile で購入した.意外と簡単であった(安くはなかったけど).

これは有名な話だが,スイスでは改札がないので,基本的にチケットを持っていれば十分.一度 ticket control があったが,スマホの QR コードを提示しそれをスキャンし終わりという感じ.一応正規で購入しているため問題はないはずなのだが,こういう違いは結構気になってしまう.多分一度やれば問題ないかと.

チューリッヒもバーゼルもみんなだいたい英語を話せるので問題ないが,電車内の掲示がドイツ語のみのものも多く,何書いてあるのかよくわからないという現象がしばしば起こる.重要な掲示は英語,ドイツ語,フランス語,イタリア語で書いており,実質は特に問題ない.

2022年7月24日日曜日

情報をいかに取得するか

 # 病理診断でもなんでも結局は同じこと

このアカウントではというよりも自分自身があまり HPV ワクチンや新型コロナウイルス感染症のワクチンに興味がない.興味がないというよりも,いわゆる陰謀論のような議論に参画するほどの暇はないしワクチンを推進するほどの運動をしているわけでもない.職場でもそうだが,そういう議論とは距離を置いている.というわけで端的に結論を言うと

結局ワクチンは打ったほうが良さそう

ということで,自分はコロナのワクチンは 3 回打っているし,とりあえずマスクもしている.

# 適切な情報を取得するということ

Twitter を眺めていると,よく「コロナに関する情報を収集するために twitter をはじめました」という発言を見かけるが,自分からすると twitter は新型コロナウイルス感染症にまつわる情報収集としては適切とは言い難い.

一応自分も軽く skimming をしているが,基本的には Yahoo! ニュースなどのニュースで発表される情報と自分の病院の感染症診療科の先生たちの言っていることが情報源になっている.なぜか.Twitter で流れてくる情報は玉石混交していて情報の信頼度という意味では必ずしも高くはない.自分で吟味して取捨選択をする必要があり,そのコストを考えるとあまりコスパが良いとは言えない.

よくニュースサイトの情報に嘘が含まれているという陰謀論を語る人がいるが,それは情報に対する態度として適切ではない.そもそも一般的に流れている情報には少ならからず嘘が含まれていると考えたほうが良い.100% 正しい情報もなければ 100% 間違った情報もなく,0-100% の間を動いている.嘘ではなくても後々間違っていることが分かることもよくある.

# 効率的な情報取得

自分は一応医者ではあるけれども,ワクチンの詳細な仕組みやこの新型コロナウイルス感染症の細かいことはわからない.勉強すればある程度は理解できるとは思っているが,そのためにはウイルス学から始まる基本的な教科書を読み込んで,さらにその上で mRNA ワクチンに関する歴史的経緯や他のワクチンの適応事例などを勉強し,さらにさらに感染症疫学についても勉強をする必要がある.

「私はコロナについて理解している」と主張をするにはそれくらいの勉強が最低でも必要.もともと公衆衛生や感染症を専門にしてきた人なら比較的親しいのかもしれないが,自分は病理学,病理診断で感染症病理は比較的遠い領域にいるので正直難しい.

そういう状況だとどうやって情報を取得すべきかというと,結局ある程度は無批判に誰かの主張を受け入れざるを得ない.否定するための知識や経験を持っていないのだから.はっきりいうととある主張に対して適不適かの取捨選択などすらできない.そういう状況下では「この人なら大丈夫そうだ」という人を数人立てて,その人達の主張していることの足し算あるいは平均値を出してそれを無批判に受け入れることにする.

大丈夫そうだと選択する根拠というのは難しくて,国の機関はとりあえず大丈夫そうだと判断している.というか国を信用できない状況では自身の安全も含めて危ない状況と言えるわけで,そうなったら自分は多分日本を脱出しているだろう.アメリカや中国を信じるのかと言われると微妙で,信じるというよりも国の状況がだいぶ違うので彼らの出したメッセージがそのまま日本にいる自分が受け取ってよいかは悩ましい.

# 得られた情報と得られなかった情報

得られた情報について議論をすることはもちろん,得られなかった情報についても思いを馳せる必要がある.本来は出てもいい情報が出ていないのはなぜか.そういうところから現在の状況を推定し,自分が取るべき行動を考えていく.

コロナに関しては,個人レベルでできることは残念ながら限られていて,手洗い,マスクをする,ソーシャルディスタンスを保つ,そしてワクチンとその程度.余談だがうがいについては殆ど言わていないな.むかしインフルエンザの予防でもっとも費用対効果が高いのは手洗いだと学んでそこから手洗いはなるべくするように心がけていたが,今回のコロナではうがいはだいぶ順位が下がっている.

# 結局大多数に従うのが得策

色々思案をしていても,結局大多数の人に従うのが一番であることが多い.株で一儲けみたいなときには

2022年7月23日土曜日

国際協力とは~ その 6

 # 大体言いたいことは言ったような気がする

約 3 年ちょっとの間でやってきたことのあら方を言い終えたような気がする.他にも色々あったとは思うがだんだん忘れつつあるので,やはり記録は必要かな.

ちなみに免疫染色も最初は ER, PgR, HER2 くらいだったのが今ではだいぶメニューが増えて日本の一般病院クラスの抗体は揃っている.SMA が上皮に染まったのを見たときにはえーって言ってしまったが.

次には締めとしてカンボジアの病理医の育成における自分が感じる問題点を列挙して終わることにする.

# 病理診断の勉強はほぼフリーアクセス

現在,病理診断に関する知識のアプローチは世界中どこにいてもほぼ簡単にできる.誰であってもだ.大きな声では言えないが,sci-hub もあるし,WHO bluebook も copy が出回っているのでそういうのにアクセスすればほぼ無料で最新の知識が手に入る.

そういう時代なので,細かい知識を伝授するような講義はあまり意味をなさない.もっとも知識を得るためには前提知識が必要なので,そういう論文やテキスト等の文献を読むために必要な知識の伝授は必要.

知識面だけでは病理診断を行うには不十分で,経験と統合したものの考え方が必要.特に後者は哲学的要素が入ってくるかもしれない.どのように診断を進めていくか,どのように臨床病理相関をつけるか.

齟齬が生じた時にどこまで診断に言及をすべきか,最終的な患者の利益を考えた時にどういう検索をすべきか.我々がやっている病理診断は単に組織像を記載し組織型を確定するのではなく,臨床病理相関を俯瞰した上で,どのような病理学的情報を提供できるかを考えること.だから病理診断は検査ではなくれっきとした臨床医学であり,診療科の一つとして数えられている.

# 踏ん張りが足りない

自分がカンボジアの先生たちと話をして感じるのはこの臨床病理相関を俯瞰するという考え方が足りない.それ以外は正直言うと組織診断もだいたい合っているし,ぱっと見はよく出来ている.病理診断をより rigid なものにするためには「臨床病理相関を俯瞰して診断をする」という態度が必要で,こういうのは教科書を読んでもなかなか身につかないし,経験ある病理医がマンツーマンで丁寧に指導をする必要がある.

臨床病理相関を俯瞰するのは結構大変.文献を読み込み,カルテを参照したり,臨床医と話をしたり,自分で放射線画像を読み込んだりする必要がある.たかだか一例を診断するためにそんなに時間をかけるの?と思われるかもしれないが,必要なら三時間でも四時間でもかける(その代わりに簡単な症例は秒で終わらせる,メリハリをすごくつけている).

そういう泥臭い作業を自分は踏ん張りと呼んでいる.そういう踏ん張りができるようになったとき,踏ん張りどころがわかった時に一人前と呼び,一流と認識する.そういう踏ん張りが出来るような病理医を一人でも多く育てることが今後の課題と考えている.それはカンボジアに限らず自分の病院でもそうなんだけどね.

2022年7月22日金曜日

国際協力とは~ その 5

 # いわゆる口コミ

最初は全ての症例の診断書に目を通して,怪しいのがあったら写真を撮って送ってもらうようにしていたが,流石に自分も忙しく全てに目を通すというのは難しく,途中からコンサルテーション症例のみにした.片手間でやるのは難しい.

そこから数年の間に口コミ?で日系の病院に紹介をしてもらえたようで,顧客が増えてきた.そして日系以外の外資系の病院からの検体依頼も来るようになってきた.当該の検査センターでは今色々な問題を抱えているようだが,少なくとも顧客から依頼があるという状況は希望があるわけで,ポジティブに捉えるようにしている.

最近のコンサルテーション症例自体が少なくなってきており,その症例もほとんど診断の確認程度で,致命的なエラーはほとんどない.正直言うとゼロとは言わないが

# 更に本格的に

ちょうど検査センターを始めて 1 年くらいでコロナに突入しており,検体が減ったりいくつかの検査センターは閉めたりしており,受難になっているが,2022 年現在では自分が顧問をしている検査センターはとりあえず生き延びている状況である.

経営についてはとりあえず彼らに任せて自分が興味があるのはカンボジアの国内で local の病理診断はきちんとしている,まともであるという印象を強烈に植え付けること,そして引いてはカンボジアの医療水準自体を引き上げること

病理診断が的確であることは,腫瘍非腫瘍いずれにせよ根本的に重要なことで,自分としては的確な病理診断は臨床のレベルを引き上げると信じている

カンボジアでの病理診断の水準向上は臨床細胞学会が主体で行っており,彼らがやっていることはどちらかというと明るいところでの活動で,自分がやっているのはスポットの当たらない暗いところでの活動に近い.謝礼は結局もらっていない(もらっても良いのだが,機器の減価償却や新規機器の購入,ランニングコストもありとりあえず件数だけカウントして保留にしている)が,営利企業のアドバイザーでボランティアとは言い難いのであまり表彰されることはないだろう.まぁそれも一興.

去年は second generation に対してオンラインで切り出し方法についての網羅的なレクチャーをやったりと,お金にならない仕事もたくさんしている.もっとも検査センターでのまあまあいいお金になる仕事もたくさんやっているが.

コロナ禍でカンボジアには行けていなかったが,目的を達成するためにはやはり実際に行って指導をする必要があると痛感しており,そろそろ行く準備を考えているところ.

2022年7月21日木曜日

国際協力とは~ その 4

 # カンボジアの病理診断の信用度の低さ

ちょうど first generation の先生が卒業をするというタイミングで開業をする!?というのでそのお手伝いをすることにした.その当時は早くね??と思ったのだが,後々他の人から話を聞いたところからするとまぁさもありなんというところだったみたいだ.

うさたん (@88usagi) からの紹介で,とある日系の病院に病理検体を出してくれないかとお願いするために挨拶に行った.そこの当時の院長から放たれた一言は強烈だった.「カンボジアの病理診断は信用できない」とのこと.脳腫瘍の検体を出した時に「solitary fibrous tumor or meningioma」という診断が帰ってきたとのことで,確かに臨床的なマネジメントの方向性はだいぶ違う.そういう critical であるべきところの爪が甘いというのが気に食わなかったようだ.

他にも協力してカンボジアの脳外科医を育てたのだが,彼は専門医を取ってからその専門医を売りにして頚椎カラーを販売する会社を作って,手術をすることを辞めてしまったそうだ.そうやって手塩にかけて育てても目の前の実利に走って使命感がないということに対して半ば諦めのようなものを感じていたように見えた.それでもその当時の院長は一から病院を立ち上げたやり手であり,相当な苦労をしているはずである.彼なりの悩みが出たんだろうなと思っている.

その当時の院長に対して自分は否定的な印象を持っていたが,確かに「使命感がない」というのはその通りかもしれないなと感じたのは事実.実際数少ない first generation の卒業生の中でも病理診断に従事していない人がいるし,カンボジアの病理医でも inactive な人がいる.自分が頑張らねばという意志が若干希薄のように感じる.ここらへんは国民気質でもあるのでそれを変えようとするのはあまり正しいとは言えず,その,彼らの文脈の中でどのように改善できるかを考えるのが得策なのだろう.

# 転機が訪れる

年末くらいにその病院から生検検体を出したいという申し出があった.その半年前くらいに「カンボジアの病理診断は信用できない」と言われた経緯があるので何様??と思っていたが,どうやらもともと生検診断を契約していた検査センターの病理診断でトラブルが続いたようで,そこから変えたいという話のようだった.

そこから生検の診断がコンスタントに出てくるようになり,比較的経営状態が改善してきた.難しい症例や手術検体は日本に送るようなのでそこまで大きな問題はなく経過していった.

15 年目の悲劇

# 卒後は 17 年目,病理は 15 年目 自分は 2009 年に大学を卒業しているので,2026 年 4/1 現在だと,卒後 17 年目になる.卒後 15 年目のとか,20 年目の,みたいなタイトルの本を見るが,その節目を超えてさらなる大台に突入してしまった感じはある. 初期研...