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2021年11月8日月曜日

診断チェックのポイント

# 診断のチェックとは

診断のチェックには

  • 診断内容の質的チェック
  • 体裁(誤字脱字,内容相互の矛盾)に関するチェック
があり,セカンドとして診断医がチェックする場合は両者を確認している一方で,検査センター等で事務あるいは臨床検査技師がチェックする場合はほぼもっぱら後者になる.

ここでは,後者の内容を中心に,どどたん先生がどういう点に着目して診断内容をチェックしているか簡単に紹介してみようと思う.

# 診断文面の構成

これから話をすることは,腫瘍の手術材料を想定している.

病理診断報告には一般的な病理診断報告は次のような項目が含まれている.

・組織型
・腫瘍の局所的な浸潤 → Ly, V, Pn/neu, INF, int/med/sci
・腫瘍の広がり → pT
・切除断端:VM, HM, PM, DM, ow, aw
・背景病変や付属で切除された検体 → pN, pM

各項目ごとに見てみよう.その前に重要なこと.

その診断がその患者さんのものかどうかを確認すること.この手の間違いは極めてクリティカルである.

# 組織型
 
表記のチェックをするときに組織型の齟齬を指摘するのは難しい.報告書のみをみているだけだと間違いを指摘するのは不可能であり,結局書いてあることをそのまま是認するしかないというのが実際である.

するとせいぜい確認できるのは診断欄に記載している組織型と所見欄に記載している組織型が同一のものかを確認するくらいだが,一つだけ重要なポイントがある.

臨床診断と病理学的診断で良悪性がずれていないか.

良悪性の不一致は特段問題はないのだが,明らかに臨床的に良性を謳っている病変で,悪性と返している場合,そしてその逆は診断のチェックに回したほうが無難なことが多い.

# 腫瘍の局所的な浸潤

局所的な浸潤の記載は,脈管,神経侵襲であったり,間質量,浸潤様式に直結する.とはいえ,このような局所の浸潤は最終的なステージの記載には影響しないことがほとんどである.

ただし,脈管侵襲や浸潤様式がステージに影響すると判明しているのは自分の知っている限りでは次の通り.

・消化管 ESD 検体での浸潤癌
・精巣腫瘍
・膀胱 TUR (?)

文面のチェックだけではこれらが適切に評価できているかは不明であるが,消化管 ESD や精巣腫瘍については Elastica 染色や D2-40 染色などで脈管侵襲を見つけ出す努力がなされていてほしい(これは施設の方針にもよるが...).

# 腫瘍の広がり

これはほぼそのまま pT 分類に直結する.詳細は UICC や規約を参照せねばならず,ここで一言で言うのは難しい.pT 分類を理解するために参考となるような考え方を列挙する.

消化管を除く,多くの臓器の T 分類は 1-2 は腫瘍の大きさで規定されており,3-4 になってくると,その臓器特異的な,メルクマールとなるような構造物への浸潤を flag としている.例えば肺であれば胸膜を突き破るか,前立腺であれば精嚢へ浸潤するか,など.UICC の T 分類を眺めると,腫瘍がいかにして進展していくのか,その様が垣間見える.

甲状腺は例外的で年齢に寄り Stage が異なる.規約によってその cut off の年齢が微妙に異なっているから注意が必要.

# 切除断端

ある程度一人でサインアウトができるような病理医は切除断端がわからないということは恐らくないが,漏れる可能性がある.

# 背景病変・リンパ節

きちんとした?報告書であれば背景病変に関する記載が充実している方がよいが,まぁなくても良い.

リンパ節転移については,領域リンパ節意外は遠隔転移になるので,一応リンパ節は規約を見て確認しないといけない.


書いていてあまりパッとしない文章だが,今後 rewrite することを考えてとりあえず公開しておく.

2021年9月26日日曜日

病理診断における戦略的なもの その 2

 # わからないから始めるときは頻度の高いものから順に

これは自分が決めている,いわゆるマイルール的なもので,全くわからない場合は頻度の高いもの(及びそのバリエーション)から順に検討することにしている.一応病理専門医であり「全くわかりませんでした,手の出しようがありません」が許されるのはレジデントや学生までである.結果的にわからなくても常にその場でできる最善を尽くして少しでも前に進み,華々しく散る.散り方もプロでなくてはならない.

胃癌,膵癌は病理組織学的には確定は難しく,すると確定が可能で年齢的にも起こっても良さそうな肺癌,膀胱癌,婦人科癌あたりを攻めることになる.もちろん,Alcian blue や PAS 染色などで粘液を検出する努力は怠らない.すると大体 10 種類くらいの免疫染色はせざるを得ない.

もしこれでだめなら,cytokeratin を出しながら,本当に癌でよいかの再検討と epithelioid な形態を示す軟部腫瘍,組織球系腫瘍について検討を行う.リンパ腫ではないことを最終的に否定した上で poorly differentiated carcinoma や undifferentiated sarcoma などで締めくくるが,その前に多くの症例が引っかかってくる.

ちなみにこの症例についてカルテは見ようとは余り思わなかった.もちろん普段は診断のヒントを求めてカルテや画像をよく見るのだが,原発不明癌の場合は臨床医も結構よく見ているので我々病理医が探して新しい情報が得られることは少ない,という経験による.

# ストーリーを思い描けること,わからない時でも動けること

わからない時でも動くというのは BLS, ACLS のトレーニングに近い.わからない時にやるべきことはパターンごとには同じようなことが多くて,でもパターンがそこそこ多いのであまり言語化して一般的に語られることは少ない.

病気を覚え,理解するので精一杯なレジデントに対して多くを要求するのは酷であるが,ある程度学習の一段落がついたら,ストーリーを意識しながら免疫染色を出してみると良い.もしこの染色が陽性だったら,もし陰性であったら..多くは陽性であることを期待して出すだろうが,陰性のときの次の一手を考えるか,上司に聞いてみると勉強になる.明らかに高分化型脂肪肉腫と思っていた症例でもし MDM2 が陰性であったときには何をするのか?その問答の中に教科書には書かれにくい,あるいは行間に存在する診断のポイントが見えてくるはずである.

その中で陽性でも陰性でも次の行動が変わらないようであればそれが本当に必要か再度考えてみると良い.

# 戦略的なもの

自分が見ている限りでは多くの病理医は今言った戦略的なものに沿って診断を行っている.プロとして業務で行う以上はなんとなく,ではいけない.恐らくだが,診断のできる病理医というのは多少の差はあれ,大体このような視点を持ち合わせていることが多い.

病理診断における戦略的なもの その 1

 # 免疫染色の出しすぎ?

つい先日,ある症例について若い先生から質問を受けた.

ここからは症例についてはフェイクが入っている.

(臨床的にも疑われている)乳癌のリンパ節転移を疑って免疫染色を行ったけど,結果が芳しくなかったのでどうしたらよいかという内容.とりあえず組織をササッと見て,あれとこれとそれと免疫染色を 10 種類近く指示をしたら怪訝な顔をされた.「そんなに免疫染色を出す必要あるんですか?」と言わんばかりに.

# 免疫染色をよく出す

これは恐らく技師の中でも比較的言われがちであるが,でも個人的に「免疫染色を出しすぎ」と文句を言われたことは今の職場になってからは少なくともない.それはオーダーする免疫染色それぞれに対してその必要性について臨床検査技師としばしば discussion をしており,なぜ必要なのかを理解してもらった上で出しているからである.あとは(技師が理解しているかどうかまではわからないが)大体において,最終診断までたどり着いていたという実績があるからだと思っている.

確かに少ない免疫染色で診断を行うのはスマートかもしれないが,一番の目的は診断を出すことである.目的と過程が混同すると最終的な目的地がなんのかわからなくなってしまう.少ない枚数の免疫染色でコスパは良いが結局診断がつかなかった,では意味がない.

その場,その場でいちばん大事な目的が何であるかを忘れてはいけない.

# 状況を見極め,戦略的に立ち向かう

病理診断は実地臨床の中で比較的「静 static」な動きをしている.一分一秒を争うようなことはないし,迅速診断だって 10-20 分程度のオーダーで動いている.時間的な制約が緩い分,リソースが無限大にあるような錯覚を覚えてしまう(仕事の組み方も).しかし,そうではない.

免疫染色を行うと 1-2 日程度は消費してしまうし,休日は病理部自体が inactive でありその分は何もしなくても過ぎ去る.しかも免疫染色用の標本を切り出すたびに元のブロックはどんどん消費されてしまう.ちょこちょこ出すよりも一気に出すか未染標本の切り余りを作っておくほうがよい.現在ではがんゲノムや他のパネル検査のために病変量をある程度確保する必要があり,下手に粘るよりも途中でリリースしてパネル検査に委ねるほうが診断よりも先にある治療という点において,正解に近いこともある.

多くの状況では臨床医は病理診断の結果を待つことができる.術直後すぐに化学療法は始められないので,手術検体が 1-2 週間程度時間がかかることは問題ないことが多い.その一方で生検は時間的制約及び検体の制約(多くの場合は小さい)があり,置かれた状況について的確に把握して次の一手を進めないとゲームオーバー(診断できません)となりかねない.

# 検査前確率,検査後確率

病理診断自体は比較的主観が入りやすいため,診断自体を数式の計算で決めることは少ない.スコアリングもあるが,それは多くの場合は診断が決定している前提での grading が多く,現状では主診断自体(例えば腺癌か扁平上皮癌か)をスコアリングによる多数決で決めてはいない

しかし,概念的には検査前確率,検査後確率の考え方が重要で,病理診断,特にこの文脈で考えると,免疫染色を行うことで検査後確率がどのように変わるかに着目する必要がある.

# 一回目の免疫染色で失敗しているということ

条件付き確率の考え方に近いと思っているが,一回目の免疫染色で失敗しているという事実は,(想定していた特定の疾患,例えば乳癌の)検査後確率を大きく引き下げていることになる.

すると,臨床的には乳癌の転移を考えていたのだが,免疫染色で乳癌の可能性が否定されると,検査前確率が(あまり想定されていなかった)肺癌,胃癌,膵癌,膀胱癌,卵巣癌,子宮癌 etc とほぼ同等になってしまう.

免疫染色を行ったばかりに振り出しよりもさらに後ろに戻ってしまう(もちろん乳癌が否定されたということは重要なことではあるのだが).



2021年9月16日木曜日

正しい病理診断とは

途中からテーマが少し移動して締めくくる文章になっている.

# 診断基準がすべて

病理診断において(もちろん一般臨床もそうだけれども)昔と異なり現在では腫瘍を中心に診断基準が整備されており,原則的にその基準に沿って診断をしている.臨床だとガイドラインという名のもとに何冊もの本が出版されている.その結果,昔でいうと診断者間にブレがあったり,大御所がこう言ったらこう,という病理診断にも標準化がもたらされ,標準的な診療なるもの寄与している.

(標準的という言葉は,普通で取るに足らないものという誤解を生みがちだが,現代医学の叡智を結集した最高水準というニュアンスに置き換えても遜色ない.種々の事情で標準的にならない医療も世の中にはあちこちに存在している)

特に病変に特徴的な遺伝子異常の同定は破壊力があり,例えば,いくら横紋筋肉腫に見え筋系マーカーが陽性になっていたとしても,MDM2 遺伝子の増幅が見られれば,多くの専門家は脱分化脂肪肉腫の脱分化成分を見ているのだろうと考える.遺伝子異常が見つかる前はほぼ全員が横紋筋肉腫と答えていたであろうに.

こういう話をすると,なんだ,病理医って基準に沿って白黒つけるだけの仕事なのね,という誤解を招きそうだが,違う.まぁその程度の理解しか出来ない医学生や研修医を誘っても教育に苦労しそうなのが目に見えているので,「そうですね,お先真っ暗だよ」といってかわすこともしばしばある.

# 診断基準があるようでないもの

診断基準が整備されればされるほど,診断基準がないものをどう診断するかという問題に焦点が当たりやすくなる.そして一見診断基準がありそうだけれども,その根本のところの基準が極めて主観的になっているものも少なくない.

例えば腺癌と診断をすれば,分化度や亜型に分類する.しかし,腺腫と腺癌を区別する基準は細胞の異型,平たく言えば顔つきの悪さによることになるが,どの程度だと腺腫でどの程度だと腺癌かということを言語化することは難しい.

もちろんある程度の水準に達した病理医間での一致率(いわゆる κ 係数)は非常に高いのだが,正直自分は腺腫と腺癌をどこで区分するのか明確には出来ていない.特に adenoma-carcinoma sequence が確立されている大腸癌などでは強く感じる.

このような,言葉にできない何かがあるからこそ,病理診断のトレーニングは実践をしながら上級医から所見の評価方法について feedback を受けてその道に沿うように少しずつ修正をするのがよい,ということになっている.

言語の習得に似ているところがある気がしていて,本で勉強すべきことと実践すべきことがある.

# 闇多き病理解剖

一般的な組織診断と細胞診断は診断基準がだいぶ確立されてきた一方で病理解剖については21 世紀のこのご時世でも診断基準ができそうな気配すらしない.仕方のないことではあるが由々しき事態である.

これまで何度も言ってきたように,病理解剖の報告書は必ず結論が決まっている.それは

患者は死亡している

ということである.これだけは絶対にぶれないし,そういう意味では間違った結論に誘導されることはありえないので一見するとあまり難しくない.しかしこの結論へ至った経路に関する説明を求められるのが特徴的で,結論を求められる組織診断や細胞診断とは対照的である.この経路を求められる,という点が決定的な違いで研修医の先生たちが苦しんでいる点と思われる.

しかし,例えばだが,誰かが大阪から東京へ行くとして,東京にたどり着いた本人の見た目と途中の経過スポットで撮影された写真や目撃者の証言から,経路を割り出せというようなもので,常識的に考えると無理である.そういうはなから無理なことを要求されているため,研修医のみならず我々も苦労しているのである.

途中の名古屋あたりで撮影された写真では新幹線のホームが写っていたとすると「新幹線で来たのか」と思うだろうが,もしかしたら自転車で行って名古屋駅で入場券を買ってホームで記念撮影,かもしれない.そんなことされたら絶対にわかるはずもない.

# 文脈に沿った診断・解釈

上記事情から剖検例の病理解剖学的診断は臨床的な文脈を強く意識している.名古屋駅の前後で新幹線の画像があれば名古屋駅は途中下車したのだろうと推測をするし,前後が自転車の写真であれば名古屋駅は入場券を買って入ったのだろうと推測をする.見えている事実は「名古屋駅にいた」だけなのだが,その解釈は文脈に強く依存する.

とはいえ,どんな解釈もありというわけではなく,例えば飛行機に乗っていて途中で名古屋で降りることは(よっぽど特殊な事情がない限りは)合理的ではないので多分違うだろうといった判断をしている.

しかしだ.死亡している以上検証のしようがないということは様々な想像を生み出すことがある.

この人は名古屋のコンサートがあってそこに行きたくて急いでいたはずだ.ちょうど関西国際空港にいてしかもコンサート会場が中部国際空港の近くだったから飛行機で行って,その後新幹線で東京駅に向かったはずだ.

といった妄想に近い文脈の構成も可能であり,そして一番の問題は

誰もその文脈の仮説を否定できない

私はこう思う,ということ自体は自由であり,何人たりともそれを否定することは出来ない.すると優先順位は立場の順になり,平たく言えば部長が A と言ったら A ということになる.

# 総合的判断という究極の主観的診断

結局のところ,総合的判断は究極的に主観的診断ということになる.もちろん主観が悪いわけではない.その人の経験に裏打ちされた主観はしばしば真実に近い.しかし,その主観を否定することは困難でかつ検証が不可能である.

剖検例を中心に話を展開したが,実際のところ組織診断や細胞診断でも診断基準があるにも関わらず,主観による部分が少なからずある.結局主観的な評価からは逃れらない運命にあり,これを一言でまとめると

部長の言うことは常に正しい,あるいは偉い人の言うことが常に正しい

という結論になる.言い換えると正しい病理診断をしたければ偉くなれということになるし,裏を返すと偉くない人の病理診断は必ずしも正しいとは限らない.

2021年3月10日水曜日

症例テンプレートの運用について

  【臨床情報(年齢・性別・部位等)】

[頻度] 

[年齢・性差] 

[病因・病態] 

[臨床的特徴] 

[症状] 

[画像所見] 

【肉眼所見】

【組織学的所見】

【鑑別診断】

【免疫組織化学染色・分子病理】

【治療・予後】

【実際に症例を経験した感想】


大体こんな感じでテンプレートが出来上がりそう.試行錯誤をしていくうちに,だんだん WHO bluebook に近づいている感じがするけれども,結局そういうことだったのかと改めて納得笑

実際に経験した感想はあったほうがいいのかなと思い始めた.そうしないと結局論文読んでまとめました以上の広がりがないので.

2021年2月20日土曜日

胆嚢腺筋症 adenomyomatosis

調べたことのまとめ.胆嚢腺筋症ってなかなか病理診断のテキストに詳細に記載がなく,かつ非腫瘍性疾患なのであまり pick up されることが少ない.

メインの参照文献はここ.あとは適宜資料を漁ったり.

特になければ,このテンプレートをもとにする(産業医科大学の久岡先生が講義でよく使用するテンプレートをもとにちょっと改変したもの,いろいろなものに応用でき知識が整理されるので個人的には最近愛用している).

【臨床情報(年齢・性別・部位等)】

  • 50 代以上の成人に多いが,小児例の報告もある
    • 英文では adenomyomatous hyperplasia の記載が多い(英文ではこちらで検索をかけると引っかかりやすい)
  • [病因・病態] 後天的な胆嚢の形成異常で,胆嚢内圧の上昇,慢性炎症によるもの,加齢・性ホルモン分泌・代謝などによる増殖性変化という説
  • 約 9 割に胆石を合併
【肉眼所見
  • 全般型 diffuse/generalized, 分節型 segmental, 限局型 localized type に分類し,分節型+底部型は combined ともいう
  • 限局型は底部が多い.病変部では筋層の肥厚及び狭窄を認める
    • RAS が十分に拡張していると肉眼的にも確認可能
【組織学的所見
  • [疾患定義] 胆嚢壁 1 cm 以内に RAS が 5 個以上存在し,壁が 3 mm 以上に肥厚したものという定義が存在するらしい(武藤の定義
    • 正直,この診断基準を意識したことはないが...
  • Rokitansky-Aschoff 洞 (RAS) の増殖・拡張+固有筋層肥大,壁の線維化による胆嚢壁の限局性 or びまん性肥厚
    • 筋層内を種々の程度に拡張した腺管が増生し,腺管の異型は乏しい
    • 神経周囲侵襲のような像がある,,,らしいが元文献を見ると末梢神経自体の侵襲ではなさそう
  • 鑑別診断でも述べるが,筋層の肥厚や RAS の拡張をどの程度拾うかで胆嚢腺筋症と診断するか否かが変わってくるが,厳密な基準はないようだ
【鑑別診断
  • 腺癌:腺管の異型は乏しい,間質の desmoplastic reaction が見られない
  • Rokitansky-Aschoff 洞形成:筋層の肥厚があるかどうかだが,厳密な区別は難しい.程度問題?
【免疫組織化学染色・分子病理】
  • 特になし(調べても見つからなかった)
【治療・予後】
  • 胆嚢腺筋症自体は予後良好
  • 胆嚢癌発生のリスク因子であることを示唆する報告はいくつかあるが,コンセンサスには至っていない(分節型がリスク因子かも?とのこと


2021年2月14日日曜日

はじめての病理部ローテ診断中 その 2

前回の続きです.長くなってきたので分けました.

4. 定時より早めに帰宅


研修医の皆さんは,臨床各科をローテートしているときに定時で上がることはできましたか?多分ほとんどできていませんでしたよね?病理部はチャンスです!定時あるいは定時より早く上がるチャンスです!定時より早く上がっていいのかという疑問はありますよね?

多くの病院では医師の残業代は支給されておらず,労働裁量制が敷かれており定時より早く終わることについては問題はありません.最近では研修医の労働時間は厳密に守られており,時間外を積極的に支給している病院もあります.

しかし,そういう病院であっても原則的に時間外労働をさせないということに焦点を置いているので,そもそも定時よりも早く帰る研修医は想定していないことが多いです.

でも理由もなしに定時より早く上がるのはちょっと気が引けると思います.ここではいくつか事例を紹介します.これらをローテートさせたり,また複合させたりしてうまく言い訳してみてください.
  • 宅配物が届くから(冷凍ものなどというとより切迫感が出て good)
  • 親が来て迎えに行かないといけないから
  • 役所や銀行で手続きをする(引っ越しや結婚に関するものでも構いません,積極的に平日にぶち込みましょう)
  • 病院受診をする
に親戚が死んだことにする人がいますが,流石にやりすぎです.もし本当に亡くなったのであれば病院から弔電を出す出さないの話になるので,ややこしくなります.また危篤状態もちょっと微妙で,繰り返すと信憑性に疑問を持たれやすくなります.

初期研修医が終わる,2-3 月頃には手続き関係が多くなることは我々も承知しているので,上記理由をうまく使いまわして半日勤務にしてみたり,有給消化をしたりと有意義に過ごしてください

間違えてもこの時期に発熱や腹痛等の症状で早退するのは慎みましょう.話がややこしくなるので.ただし,微熱や体がダルイと言った COVID-19 を思わせなくはないけど,でも微妙で多分違うだろう程度の症状であれば積極的に休みを取りましょう.今の時期限定の裏技ですが.

5. ひたすら教科書を読む,臨床の


ここでは病理医になる気はない人を対象にしています.病理診断は少し特殊でおそらく何冊教科書を読んでも,実際の標本を見て診断を書いて指導医の feedback を受けないと実力をつけるのは難しいと思います.

一見すると知識で食っている診療科のように見えるのですが,やっていることは意外と体育会系です.

ここで言いたいのは,病理診断に関する本を読む暇があるくらいならば,行きたい診療科に関する本を読んでおいたほうが数倍有意義だよという話です.

実際,病理部をローテートしている研修医の先生たちは病理診断に関する本を読んでいる人はほとんどいなくて,感染症の本だったり輸液の本などを読んで有意義に過ごされています.病理診断に関する本を読んでいる先生も,自分の行きたい診療科の病理診断の本を読んで,実際の標本と照らし合わせて勉強されています.
(まぁ病理総論の基本がなっていないといくら照らし合わせて勉強しても,ただ目の前を通り過ぎるだけなんですけどね)

というわけで,皆さん有意義に過ごされているようですが,どどたんせんせのおすすめとしては病理の次にローテートする診療科の本を読んでおき予習しておくことです.そうすると次の診療科を回ったときにスムーズに溶け込むことができると思います.

番外編〜

ここからはきこりんせんせ @kiko12139 のおすすめの番外編です.

1. これだけは!依頼書の書き方


皆さん,依頼書ってどう書いていますか?本当に各科の先生方は思い思いで書いてくださっていて, 一言程度の「病理診断お願いします」から病歴サマリーを転記した,無駄だらけの超長文まで様々あります.

病理診断の依頼書の書き方については,おそらく研修医の最初のオリエンテーションで習うことがあるかもしれませんが,まぁ皆さん当然覚えてないですよね?そして病理部をローテートするとわかると思いますが,病理医はいつも依頼書の項目が不足していると文句を言っています.
はいはいといって受け流しましょう.
まともにやりあっても時間の無駄です.「そうですねー」「自分も臨床各科に進んだから気をつけますねー」程度で軽くやり過ごしましょう.

一般的にいかなる検体であっても必要な情報というものはあります.
  • ID (臨床 ID 及び病理 ID)
  • 年齢,性別
  • 採取部位,検体個数
この要素が抜けていると,そもそも病理診断自体が出来ません.でもこれらは検体を出す段階でほぼ自動的登録されるもので,臨床医が気にすることはありません.

そして一般的にこれらに加えて,次の要素を書くことが求められています.
  • 臨床診断
  • 現病歴(治療歴・既往歴を含む)
  • 画像所見,その他の検査所見
  • 臨床的な鑑別診断
  • 特殊な検索要望項目(例:好酸球数カウント,ピロリ感染の有無)
でも何が必要で何が必要でないかというのはある程度病理診断自体に精通しないとわかりませんし,必要な情報というのは鏡検してそれから判明することもあります

つまり,完璧な依頼書の記載ということ自体が無理ゲーなのです!かといって,病理医に対して「書けるわけ無いだろー」って真正面から文句を言うのもあまり大人げないので,はいはい,と適当に受け流しましょう.

ちなみにですが,病理部の業務は病院内ではありますが,どちらかというと B to B 的な業務です.臨床医は顧客ですので,顧客に対して怒るのはあまり適切とは言えません.もし診断が難しいと思われたら,その旨を診断文面に記載をして臨床医からのアクションを待つべきだと思っています.

若干似たような理由にはなりますが,最近は学会発表をするから写真が欲しいと言われ,かつ発表者に自分(病理医)の名前が載っていないときは,なるべく具体的な話をせず要求された写真をメールで送る(納品)ようにしています.たまに組織像を教えてほしいという依頼もありますが,その場合は写真に annotation をつけることによって可及的に回避しています.

ちなみに誤診疑いの案件の場合は積極的に一緒に標本を見て納得してもらうようにしていることが多いです.

2. 生食はダメ!検体提出

病理の検体提出方法はそんなに種類は多くはないのですが,病理検体の提出は臨床業務からすると端の中の端なので,臨床の先生が多くのことを覚えるのは難しいと思います.

原則的にはホルマリンで良いのですが,例外としては迅速診断用は乾燥を防ぐためフィルムなどでくるむ(なるべく生理食塩水にはつけない),電顕用にはグルタールアルデヒド,蛍光抗体法には OCT compound による凍結,フローサイトメトリーや染色体検査には生検体などと,目的によって微妙に異なります.

でもそんな細かいことを覚える余裕はないと思います.ここでは「どうしても分からない!!」となったときの対策として次の 3 点を覚えておきましょう.
  1. まず病理部へ電話をして相談
  2. 夜間などで病理部がつながらなければ,ホルマリンにつける,もしホルマリンがなければ冷蔵庫 (4 ℃) で保管して明日朝病理部へ相談
  3. 細胞診の検体はとりあえず冷蔵庫 (4 ℃) で保管して明日朝病理部へ相談
もちろん,これはベストではありません.でも,最悪の状態は回避できるはずです.

はじめての病理部ローテ診断中 その 1

本編~


はじめての病理部・病理診断科ローテーション.病理部って普段行かないからどういうところか分かりにくいですよね?病理の先生って気難しそうだし...ここではどどたんせんせのところへかつてやってきた初期研修医(一部後期研修医)の先生たちの行動パターンを元にして,病理部のローテーションを成功させるための秘訣を紹介しましょう.キーワードは

頑張らない

です.では早速行きましょう.

1. 挨拶 


まず初日.あなたは初研修中に病理部でのローテーションをすることに決めました.目的はだいたい次の 3 つに分けられることが多いです.
  1. 病理医になりたい!病理診断が好き!
  2. 行きたい診療科は決まっていてそれに関連する病理診断について勉強したい!
  3. 夏休み・春休みを気兼ねなく取りたい(特に 2 年目の 2-3 月あたり)
あなたはどれですか?どどたんせんせの印象としては,2 > 3 > 1 の順に多いです.ここで重要なポイントです.
いかなる事情があったとしても病理医になりたいなどと口に出さないこと
病理医になりたいなどというと,相手に変な期待をさせてしまう恐れがあり,もし何らかの事情で違う進路を選んだら,かなり恨まれます.止めておきましょう.

じゃあ本当に病理医になりたい人はどうしたらいいのかって?そもそも病理医になること自体はあまりおすすめはしていないのですが,どうしてもっていう人は 2 年目の 7-8 月頃に相談してみましょう.そうすると我々としては「あのときはそっけなかったのになんだやる気じゃん」と評価が急上昇します.また我々の教育により行動変容を促せたという自己肯定感でいっぱいになります

一般的に病理医になると早く宣言して得られるメリットは初期から手厚い指導を受けられる,定員に制限があっても優先的に入れるという程度ですが,そもそも手厚い指導をしているところなんてほとんどない上に,定員をフルで満たせるような超人気病院は数えるほどしかなくほぼ気にする必要はありません

後期研修でゼロから病理診断のトレーニングを始めても全く問題ありません.どどたんせんせもそうでしたし.

2. 早速の有給消化,春夏休み


さて,早速の挨拶も終わり,病理部の一員として無事迎えられることが出来ました.どのように挨拶をしましたか?まさか病理医になりたいだなんて言ってないですよね?

そしてすぐ取り掛かることは何でしょうか?教科書を読む?切り出しの見学をする?診断端末の使い方を習う?全て違います.有給消化のスケジュールを組むことです.

皆さんは,臨床各科をローテートしたときに自由に有給を消化できましたか?やれ手術だのやれ検査だので思ったように取れなかったと思います.でも病理は違います.完全有給取り放題です!それはなぜでしょうか?少し詳しく説明してみますね.

そもそも病理診断というスキル自体が一定以上の経験が必要で,1-2 ヶ月ローテートするくらいでは全く戦力にはなりません.もちろんカセットを書いてもらったり,といった補助的な作業はできるかもしれませんが,多くの場合は教えるコストが大幅に上回ってしまいめんどくさいから自分でやるとなりがちです.

研修医の先生がいて仕事が片付いて助かったよ,ということをいう病理の先生はほとんどいませんし,もしいたとすれば
  1. ただのお世辞(勧誘)
  2. その先生が超絶優秀すぎ
のどちらかに限ります.自他共認める超絶優秀研修医でなければ,暫定的に 1. と解釈したほうが無難です.

以上の理由から病理部のローテートにおける研修医は「別にいても(にぎやかになるし空気が変わるから)いいけど,いなくてもいいかな」みたいな絶妙な立ち位置にいることになり,有給取得で嫌な顔をされることはほぼありません.

実際どどたんせんせも嫌な顔は一切しませんし,むしろ「夏休み(春休み)取りたくない?2 週間くらいとったらどう?」とか「病院見学行かなくていいの?」とか有給を取得するように積極的に促しています.とても良好な職場環境だと思います.

3. 業務時間中に調べ物と称して研修医室に籠る


一度来てみればわかると思いますが,病理部はとても閉鎖的な環境です.どどたんせんせも会話する相手はほぼ病理部の中の人達だけで,実際は 1 日 10 人以上の人と話すことはそんなにありません.小さい病理部であれば 1 日数人と 30 分程度話をするだけ,ということも十分ありえます.

さて,病理部での研修医の業務とはなんでしょうか?これは厳密な定義やルールといったものはないと思います.しかしながら上述したように,なんの知識もない研修医が頑張れば頑張るほど指導医の仕事が増えていく傾向にあります(途中から指導医の仕事が減るのですが,大体多くは減り始めたときに研修が終わり,また 1 からのスタートになります).

すると,仕事を振ること自体が面倒になり,多くの病理部では研修医は興味のある症例について自分で勉強をすることが仕事,となりがちです.勉強が仕事ってまるで学生みたいですが,唯一学生と異なっているのが給料をもらえるという点ですね.

繰り返しになりますが,病理部は閉鎖的な空間なので,狭いところで指導医と一緒にいるのが辛いことが多いと思います.そういうときは「図書室(図書館)に調べ物をしに行ってきます」や「研修医室で調べ物をしてきます」と言って,そこから抜け出しましょう.

もちろん迅速診断や剖検に入れない可能性はありますが,別に入れなくてもその後には全く影響ありませんし,迅速診断はしょっちゅう抜け出すのでなければ研修期間中に 1 回は見ることができるはずです.やっていることは基本的に同じことの繰り返しなので,1 回見れば十分です.

* たまに勘違いしている研修医がいますが,内科専門医に使う剖検症例は病理側で入ってもだめです.あくまで臨床医として参加する必要があり,病理部のローテーションでは要件を満たせません.

2021年2月9日火曜日

病理診断の方向性

# この前の話

最近,有名どころの有名な先生とちょっと話をする機会があり色々と考えさせられることがあったので少し.診断についての話だったのだが,病理診断学の方向性と世界の動向を併せるとなかなか難しいなと感じた話.

まどろっこしい前置きはこれくらいにしておいて,早速本題から.

# おそらく日本以外では特殊染色は,免疫染色よりハードルが高い

その先生曰く,アメリカに留学に行ったときに特殊染色を依頼しようとすると,結構ハードルが高いことにびっくりしたそう.特殊染色は kit を使うような感じになっていてルーチンで出される染色はかなり限られていたとのこと(もちろん全てではないのだろうが..).その点免疫染色はルーチンで回していて出しやすかったと.

日本でも聞いたことのある施設では,特殊染色に対して毎日は染めておらずまとめて染めるというところもあるようだ.

どどたんせんせが研修あるいは働いていたところは,特殊染色に対する敷居が非常に低くて,しかも染色に造詣の深い技師がいることが多く免疫染色よりも手が出しやすいという印象が強かった.

そういう自分の背景からするとかなり意外な気がして,そういう病院もあるのかと新しい発見であった.

# 発展途上国でも実は免疫染色の方がハードルが低い

昔から病理をやっているものの感覚としてはもともとは HE から始まり,特殊染色が広がりさらに最近では免疫染色が加わり,そこに FISH, RT-PCR 等と併せさらには NGS が入り込みそう,という流れがある.

我々の望みとしては?発展途上国も同じような経路を辿ってほしいという感覚があり,つい,まずは特殊染色からでしょ!と言いがちなのだが,技術がどのように入ってくるかというのは誰にも予想が出来ず,最先端だけそのまま持ってくることだって可能だったりする.

例えば,彼の国ではリゾート地の管理にドローンを使っているようで,遅れてるけど最先端という面白い現状がある.

もっともそういう導入の仕方は基礎がない分しばしば脆弱である(技術だけではなくそれをコントロールするノウハウ,そしてその技術を受け入れる土壌も大切だから)

さて,そんな途上国でも特殊染色よりも免疫染色の方が導入しやすいようで,細い話は聞いておらず詳細はわからないのだが,おそらく治療に直結するからと思われる.EVG 染色で脈管侵襲をいくら丁寧に評価したところで,TNM 分類には何ら寄与しない(そういう考え方に立脚すれば EMR 及び精巣,甲状腺腫瘍以外では弾性線維染色は不要かもしれない)が,ER, PgR, HER2 は治療の選択に非常に有用である.

資源が少ないあるいは効率を求める状況下では,我々が普段行っている特殊染色の多くは無駄と判断されてしまうだろう.

# WHO 分類は 2 極的な傾向

WHO 分類は組織型の分類・紹介である一番最初の "Histological Typing" から経て,現在では腫瘍診断あるいは研究のガイドラインとなるような monograph のようなものへと進化している.

その根底思想には,どの病理検査室でも高い再現性をもって診断ができることと,出版時点での当該腫瘍に対してどこまで理解がなされているかを簡潔に記載することがある.

「どこでもだれでも」は HE 染色がベースになるだろうし,「最先端」は遺伝子変異の検索が必要でその surrogate marker として続々と登場する免疫染色がその役割を果たしてくれだろう.

すると,結局感度も特異性もいまいちな特殊染色は腫瘍診断においてかなり置いてけぼりを食らってしまう.正直,ぶっちゃけていうと腫瘍診断で,今オーダーしている特殊染色の 9 割くらいはなくても TNM, staging には全く問題ない.こんなことはリアルではぶっちゃけられないけど.

もちろん Congo red / DFS 染色で染めるアミロイドのように非常に重要な非腫瘍性疾患もなくはないが,概して腫瘍性疾患に比べると優先順位が比較的下がる.

情勢が安定してきて高齢者や富裕者が増えつつある国では腫瘍性疾患(+心血管系もあるが病理診断にはあまり検体が供されない)の重要性が増してきている.

# 結局必要なのは HE 染色だったのかもしれない...

自分は別に古いものを大切にするような,あるいは伝統を重んじるような人間ではない.しかし,このような現状及び展望を見たり,エキスパートパネルに参加して,HE 染色で適切な評価することの重要さを再確認することが少なくない.

今あるがん遺伝子検査パネルなんかも,組織学的に悪性腫瘍という診断がついていることが(言うまでもない)大前提で,例えば HBOC の症例だと多分正常組織をとってきても BRCA1/2 の遺伝子変異があったりしてじゃあそれが治療ターゲットになるのか?という議論になりかねない(ならないとは思うけど).

どれだけ高度な discussion がなされていても,その前に前提として診断が違うでしょ!とちゃぶ台がひっくり返ることも何例か経験している.大人だからオブラートに包んで言うけれども.

もちろん形態診断以外は勉強する必要がないというメッセージではなく,それぞれの立ち位置を意識しながら勉強をする必要がありそう,ということ.

2019年10月24日木曜日

静脈瘤 varicose vein (ただし食道静脈瘤は除く)

診断にあたって参考となるサイト・本:

臨床所見:
  • Chronic venous disease の一連のスペクトラムの疾患群で,米国では 23% が静脈瘤を有している
  • 女性,高齢者に多い
  • 静脈内圧の上昇,静脈弁機能不全,静脈壁の構造変化,炎症細胞浸潤,ずり応力の変化が静脈瘤の主因と考えられている
  • 静脈内圧の上昇は便機能不全や静脈血流の循環障害,腓腹筋の機能不全による
  • 静脈逆流は表在あるいは深部のいずれでも起こりうる
  • 弁機能不全は変形,断裂,菲薄化,弁尖の癒着で起こりうる
組織学的所見:【血管生検】
  • 膠原線維の増生を伴う血管内膜の肥厚及び平滑筋,弾性線維の配列の乱れ
  • (伏在静脈から採取した平滑筋細胞を培養したところ, I 型コラーゲン(堅牢さに関与)の過剰産生と III 型コラーゲンの減少(組織の伸展性に関与)が見られ,全体として脆弱性が増す結果となることが知られている)
  • 部位により内膜が肥厚する部分と菲薄化する部分が見られる
  • matrix metalloproteinases (MMPs) 及び tissue inhibitors of MMPs (TIMPs) の比率の変化により,壁に myxoid な変化が見られる
鑑別診断:
  • Arteriovenous malformation あたりなんだろうけど,教科書的には特に書いていないし,正直難しい感じがする(症例によっては overlap しそう).臨床的にはだいたい外れることはないから compatible with と書くしかない模様
  • 基本的に静脈瘤は静脈内圧の上昇が病変の本質でそれによる「静脈硬化」などの静脈の変性が主たる像だと考えると,AVM や血管腫との鑑別はつくか
診断をする上での雑感:
  • 鑑別診断で述べたとおりで,組織像の記述がなくて,論文から探さないと行けないような感じ.まぁ臨床医も特に病理診断に求めていないんだろうけど
  • なかなか検体として提出されることはないので,あまり典型的な像を記憶するのは難しいかもしれない
  • 食道静脈瘤も本来は同じものなんだろうけど,剖検例でよく見る静脈瘤と表在静脈の静脈瘤の組織像はかなり異なっているのであまり参考にならない

2018年10月3日水曜日

特殊染色のオーダーについて

よく,臨床検査技師の学生と話をしていると,なんでこういう染色をする必要があるのかよくわかっていないことが多い.と思っていたのだけれども,最近色々な人と話をしていて,学生だけじゃなくて実際に病理部で仕事をしている臨床検査技師も完全には理解しているわけでないのでは,という疑問を抱くようになった.

教科書には特殊染色の手法とともに,何がどのように染まるのか,ということがある程度書いてはいるけれども,それだけでは不十分で,なぜこの病変の場合にこの染色を用いる必要があるのかまである程度踏み込んで考えて行かないといけない.例えば線維化をみるには Ag, EVG, Azan 染色のどれでも良さそうだが,なぜこの染色を選んでいるのか,など.

その前にまず HE 染色でわかることとわからないことについて簡単に整理をした上で,本題に入ることとしよう(今回は免疫染色については敢えて取り上げない).

1. HE 染色で何がどこまでわかって何がわからないのか
HE 染色は全ての基本であるとされる.主にはヘマトキシリン染色で核を染色し,エオジン染色で細胞質を染色する.色々な構造物が適度に染め分けられるため,まず最初に選択する染色になっている.多くの組織学的な形態像の描写や診断基準というのは HE 染色をベースにしている.また画像処理も HE 染色を基準にしていることが多い.それは人間の目から見たら僅かな違いでも画像処理をすれば確定的な差として検出できるから.

究極的に眼を凝らしてみれば,特殊染色はほぼ不要,という結論になってしまうが,実際には鑑別が難しい場合は多々ある.その区別を簡便にするため種々の特殊染色が用いられている.例えば弾性線維は HE 染色では染まらないことになっている(見る人が見れば染まらない繊維状構造物として認識できる)ため特殊染色で確認する.またアミロイドなどの沈着物も硝子化の区別が難しく,ここは Congo red 染色の得意とするところ.

感覚としては HE 染色で 7-8 割くらいの精度で診断をし,残りを特殊染色で確認あるいは補足するというのが古典的な病理診断のやり方である.現在ではそれに免疫染色や FISH, PCR などが加わっており,比率に関しては症例ごとに異なっていているが,とりあえず HE 染色で方向づけをするという姿勢は今も同じである(今後どうなるかはちょっとお楽しみなところ).

染色のオーダーは少なくとも日本でよく使うと思われるものをあげ,特によくオーダーするものについて,目的別に総論的なまとめ方をしてみた.化学的な背景知識的なものは京都大学や武藤化学あたりに詳しく書いてあるし,そもそも自分もそこまで詳しくないので,ユーザー側の視点で論じていく.

2. 線維化をどのように見るか
線維化というのは基本的に膠原線維の増生(種々のタイプがある)を指していることが多いが,細網線維も III 型コラーゲンなので,実はものとしては同じグループに入る.線維化を見る場合によく使う染色は EVG, Azan (or Masson Trichrome),Ag 染色で,Azan と Masson Trichrome は線維組織は同じように染色されるため,ここではまとめて,Azan 染色で代表させる.

線維化の程度を評価する際に最も簡便で汎用性が高いのは EVG 染色で,膠原線維が赤色に染まるだけでなく,平滑筋や骨格筋が茶褐色に染まり,しかも弾性線維が紫色に染まるので,非常に情報量が多い.この染色だけで線維化の程度に加えて動脈か静脈かの判定が比較的容易になり,また膠原線維なのか平滑筋組織なのかという HE 染色ではわかりにくい意外としょーもない悩みも解決できる.

ではなぜ Azan 染色も使うのかというと,(感覚的な問題でもあるのだけれども)Azan 染色は線維化を検出する上で,EVG 染色よりも感度が高い.これは見る側の感覚の問題でもあるのだけれども,Azan 染色は EVG 染色に比べて膠原線維と背景の構造物とで色のコントラストが付きやすいので,細かい線維化もわかりやすい.だから,肝臓や心臓の線維化で早期あるいは細かい病変を検出するときに向いている.裏返せば,バリバリの肝硬変やどかっと来ている陳旧性心筋梗塞をわざわざ Azan 染色で評価する必要がなく,EVG 染色(もっといえば HE 染色)でも可能だということ.

細網線維はとても細かいので,HE 染色で認識するのはほぼ不可能.だから Ag 染色を使うのだけれども,細網線維の評価が必要なのは現時点では脾臓と骨髄で,特に骨髄は線維化の評価をする際には Ag 染色が必須である(線維化の程度が強ければ Azan 染色でも評価せよとなっている).肝臓でも肝細胞索に沿って分布しているので,変性が強いときなどに染めるとわかりやすい(肝細胞が急に脱落しても細網線維は残っていることが多いため).

こうやってなぜ必要なのかということを考えると,自然と臓器ごとにオーダーされるセットが決まってくる.すごく細かくなるけど,左心室の染色で EVG 染色をオーダーする場合と,Azan 染色をする場合では何を見たいかというスタンスが変わってくる.EVG 染色だと心筋の線維化ざーっと見るのに加えて,一緒に入っている冠動脈も評価しようと考えるかもしれないし,Azan 染色の場合は線維化を重点的に評価しようと考えるかもしれない.

3. 粘液をどのように見るか
粘液の分類は結構難しくて,上皮性の粘液は酸性粘液と,中性粘液に分かれて,さらに酸性粘液は sialomucin と sulfamucin に分かれてそれぞれ分布が違って,,,間質粘液は,,,というのが教科書的な区分だけど,最近は MUC シリーズの免疫染色が簡単にできるようになってきて,あまり細かい分類を特殊染色ですることはなくなった.

現在では我々病理医が特殊染色に求める粘液の評価というのは,ほぼ粘液を有しているかどうかの一点と言っても過言ではない.つまり粘液のように見える別のもの(グリコ-ゲンや脂肪)ではないことを確認する意味合いが強い.あとは胃生検でルーチンに PAS 染色をしていることがあるがあれは sig や por といった低分化腺癌の見落としを防ぐため.染まれば色にコントラストがつくので,ぱっと目に入りやすい.染まるか染まらないかという視点だけで考えていると,胃生検に PAS 染色は不要だという考えに至り,実際に染めてない施設も少なからずある(ココらへんは理念の問題).

また,要するに粘液があるかみたいんでしょ!的な視点に立つと,Alb+PAS 染色という選択肢も出てくるし,肺生検だとそういうオーダーの仕方をしていることもある.

一つ注意点としては,間質粘液(例えば皮膚の mucinosis や大動脈の myxoid degeneration)を見るときは Alb 染色しか染まらないので,PAS 染色を出しているときにはあれおかしいと思うのが無難.ただし,皮膚の場合は PAS 染色で基底膜を見たり,角層内の真菌を見たりしている可能性があるから間違いと決めつけられない.

4. 菌体をどのように見るか
細菌や真菌に対して,基本的に病理診断のスタンスは菌の有無については判定するけど,同定は原則しない.ただし,合理的にそれしか考えられない場合(例:胃のピロリ菌や大腸のスピロヘータなど)はそのように記載している.

細菌を見るときには Gram 染色でブラウンホップス法が見やすいが,正直言うと球菌か杆菌かで勘弁してほしいのが本音.真菌については Grocott 染色か PAS 染色を行ってだいたい Aspergillus か Candida かまれだけど Mucor についてコメントをするくらい.PAS 染色だと死菌は染まりにくいあるいは染まらない傾向にあるので,Grocott 染色を出すあるいは併用している(通常見る範囲内であれば極論 Grocott 染色だけでいいはずだけど,なぜか PAS もだしていて,ついでに他のものも見ている).

ピロリやスピロヘータについては,Warthin-Starry 染色が綺麗にできれば言うことはないけれども,だいたい Giemsa 染色で見ている.染まる!だけならトルイジンブルー染色でもいけるはず.お金が潤沢にある施設は免疫染色でやっているらしい.

梅毒は最近少ないながらも増えてきている印象.正直抗体を買ってほしい.Warthin-Starry ぐらいしか有効に染める手立てがないので.

抗酸菌については Ziehl-Neelsen 染色一択.これ染まらないことのほうが多いと考えた方がよい.我々は乾酪壊死を伴う類上皮肉芽腫や臨床的に結核感染を疑っているキーワードがあればオーダーする(HIV 感染などで,リンパ球が極端に減少している場合は組織反応が起こりえなくて肉芽腫を作ることができないこともあるから).経験上は否定のために出すことが多い.そしてもう一つ結果の解釈で問題となるのがコンタミ.極めて少ない数でも陽性と判定していることが多いため,陽性コントロールで結核菌がうじゃうじゃしている場合,それがちょっと標本上に乗っかってしまっただけでも陽性となってしまうので,菌の集まり方など,陽性コントロールと比べて慎重に判断する必要がある.

5. 沈着物をどのように見るか
沈着物の代表格はアミロイドで,現在 Congo red 染色と Direct Fast Scarlet 染色の2つが代表格.一応 DFS 染色の方がよく染まるなんて言っていることもあるが,これらの染料自体が purified されていないのでロットによって染まり方が違うなどとも言われている(ロットによる違いは免疫染色の抗体なんかでも言われているが).これだけ技術が進歩した現在でもアミロイドの存在証明をする第1歩が Congo red 染色であるのは若干びっくりだが,これは仕方ない.偏光下での観察では apple green などとも言われているが,結構光り方は微妙で,きれいな apple green にならないこともしばしばある.あと膠原線維がよく共染しやすいので,Azan 染色や EVG 染色と合わせてオーダーすることもある(アミロイドは Azan, EVG 染色でそれぞれくすんだ青色,くすんだ茶褐色を呈する).

他のカルシウムは von Kossa 染色,ビリルビンは Hall 法(EVG 染色でも結果は同じ),などの特異的な染色はここではとりあえず省略する.

6. 特殊染色のオーダーはなるべく最小のオーダーで最大の情報量を得るように組み合わせる
特殊染色のオーダーの組み合わせというのはある程度型みたいなのが先人の知恵で決まっていて,この臓器はこれ,〇〇を疑ったらあれとあれ!みたいに大体決まったものを出す.それ以外にも確実にするために同じ染色を複数出したり,例えば皮膚生検なんかで真菌を見たい,基底膜の肥厚の程度を見たいなど複数の目的をもって PAS 染色にしたりと,考えながら出している.

ルーチンで異なるオーダーをしている場合は是非オーダーした人に聞いてみると思わぬ発見があるかもしれないし,ないかもしれない.

転職の悩み

1. 病理特有の状況

医師に転職はほぼつきもので,同じところに定年までとどまっている,ということは昔からほぼなかったし,恐らくこれからもない.時代のトレンドとしてこれからも活発化していく流れになるであろうというのは想像に難くない.

臨床の先生の転職と病理医の転職というのは若干事情が異なる.その一番大きな要因は,病理医の業界自体が非常に狭くて知り合いの知り合いでほぼすべての人に到達できるということ(実際に試みたことはないけど,2 人くらいかいせば確実にたどり着けるという確信はある).そのため身分を隠したり,ほんとうの意味で新規に行くということは結構難しい.はじめまして!でも,実は裏で身辺調査が行われていたりする.

なので,変な噂を立てられたりしたら途端に転職先が狭まってしまう.これは特に地方で顕著であり,地方では病理医を必要としている病院はほぼ中規模以上で,大学病院などの関連病院になっている.なので,そういうところに就職する際には必ずと言っていいほど医局に対して配慮が必要となるし,医局の意向が無視できなくなる.

2. 関東地方は比較的気が楽

自分は関東といくつかの地方しか知らないけれども,関東のほうが動きやすいと言える.

よく言うのはなにか犯罪を犯して逃げるのならば東京や大阪のほうが見つかりにくいと言われている.言い換えれば,木を隠すなら森という発想で,関東,特には病理医が一番多くいるから,関東にいるほうが一番目立たなくていい.

もちろん東大や慶應など伝統のある医局制度も残っているが,そうでない病院や大学もたくさんあり,ある意味選択肢は多い.地方から東京に出てきたけれども戻りたくないとういのは,ある種の居心地の良さがあるのかもしれない.もちろん居心地が良いかはいる病院次第というところが非常に大きいが.

3. 辞める,辞めないのジレンマ

転職を考えたときに,必ず問題となるのが,残ることのメリット,デメリット,そして転職することのメリット,デメリット.残るメリットがなく,転職することのデメリットがなければ基本的には異動を妨げることは何一つない.

しかしながら,多くはメリット,デメリットが錯綜しており,ときに判断を鈍らせる.判断を鈍らせる要因というのはたくさんあって,その多くは未知なるものに対して過大あるいは過小評価をしてしまうこと.それによって,評価が大きく歪んでしまう.

また自分では対処しにくい問題(上司が怒るかもしれない)に対しては過大評価してしまいがちで,変な脅しが来るかもしれないと考えると慎重にならざるを得ない.先程述べたように狭い病理の業界ではトラブルを起こすと敬遠されるかもと考えると結構二の足を踏む.

4. Think simply.

しかし,だ.実際にどどたん先生が見た,結構あれーーという辞め方をした人でも,人格的にちょっとヤヴァいかも,という人でも結構普通に仕事をしているし,そこそこの病院のそこそこのポジションにいたりする.多くの場合,そのようなトラブルは昔話になって美化されることが多い.変な話だけど.

でも多分それは「木を森に隠せているから」で,もっと black なことを言うと,隠しきれなかった人は多分違う診療科で頑張っているからだろうか.

2018年8月24日金曜日

逃げの病理診断 その 2

1. 細胞診専門医はとりあえず取っておいたほうが無難

細胞診専門医制度はかなり迷走している.結構古くからある専門医制度で実務的にも比較的大きな役割を果たしている割に新しい専門医制度の二階にすら入れなかった.学会員の中で臨床検査技師の割合が多く,学会もアカデミックな学会というよりも,実質的にはただの症例報告会に成り下がっている.

しかも,学会のメインを婦人科医が握っていて,実際の業務は臨床検査技師がやっている.歴史的な経緯(もともと細胞診は病理診断ではないという意見があり,病理医は細胞診に対して積極的ではなかった)もあるにせよ,色んな意味で中途半端な学会になってしまった.

しかし,今は病理医で細胞診専門医を持っていない人はかなり少なくて,それなりの立場になったときに,細胞診のスクリーナーのパートナーになれなくなってしまう.大学などの大きな病院や研究で一生を過ごすのならまだしも,市中病院に行く可能性があるのなら比較的早い段階で取るに越したことはない.

2. 自分の診断する標本の切り出しはしっかりやる

いつも不思議でならないのだが,顕微鏡観察での所見の見落としは結構シビアに言われるのに,肉眼所見,特に切り出しでの所見の見落としや整合性のなさはあまり細かく言われないことが多い.

その証拠に,組織診断で顕微鏡観察は病理医がやっているところが大半だけど(名目上はすべてそうなっているはず),切り出しは臨床検査技師にさせているところも少なからずある.別に臨床検査技師の切り出しがイマイチと言っているわけではなくて,潜在的にそういう認識があるという具体例.

切り出しがどの程度重要かというのは検体の種類は癌かどうかによるが,非腫瘍性疾患は切り出しそのものが診断に直結することがしばしばあって,切り出しが不十分であればそもそも診断ができないこともある.腫瘍性疾患でもどこが原発かわかりにくい場合は,この部分を集中的に切り出すなど,ある程度組織診断における鑑別診断を念頭においた切り出しが必要.そうでなくてもきちんと切り出しをされた標本は orientation がつけやすく,診断するときに楽.

とはいえ,一から十まで気を使ってられやしないのも事実.だから自分の診断する症例は丁寧期に切り出しをし,そうでない症例は適度に力を抜くのがベスト.組織診断の所見に手を抜くと怒られやすいけど,肉眼所見は意外とそこまで怒られないので.

3. 臨床医と喧嘩しない

臨床医との良好な関係を築くことはとても重要でなるべく喧嘩をしないこと.あと簡単に人のことを馬鹿にしないこと.これはとても重要なこと.

我々病理側の人間はどうしてもコンサルトされる側に位置するので,臨床医の落ち度が目に付きやすい.あれも書いてない,これも書いてないとバカにしがちだが,多分逆の立場になると恐らく同じことをするはず.だからなるべくおおらかな広い心で接する必要がある.別に愛想を振りまかなくても良いけど,本当の意味で病理に対して理解してくれる真摯な姿勢の臨床医は必ずや味方になってくれるので丁重に対応すること.

ただ,約束を守らないのは別で,時間を守らないとか(遅れそうなら一本電話すれば済むはず),入れるべきところに入れていないなどは簡単に許さずに,淡々とルールに従って処理する.場合によってはペナルティを課す.

病理と言うのはコンサルテーションサービスの中でも若干特殊で,顧客からの信頼が多少落ちても検体はちゃんと出してもらえるし,よっぽどじゃないと首にならない.多少誤診したくらいですべてが終わるわけでもない.

逃げの病理診断

1. 皮膚生検,腎生検,あと骨腫瘍はなるべく所見診断を心がける

皮膚生検で特に非腫瘍性疾患,腎生検は病理組織ではなくて臨床所見(身体所見だったり,血液検査結果だったり)が根拠になっていることが多い.その診断過程の中で組織診断というのはあくまで付随所見であって,これを根拠に特異的な疾患名をつけると結構やけどする.

皮膚生検,腎生検で確定診断のレポートを書いている人は,臨床情報(経過や血液検査所見,画像所見など)を読み込んでいるか,臨床医ときちんとディスカッションしている場合に限る.逆に言うとそこまでするつもりがなければ,おとなしく所見診断にしておいたほうが無難.どうせ臨床医も標本見てるし.もちろん非腫瘍性疾患だから間違えても方向性はそんなに変わらないのでまぁまずくはないけど.

骨腫瘍は事情が少し難しくて,benign から intermediate malignancy までの病変を診断しようとすると画像所見も含めた臨床情報が必要不可欠.申込書に書いてある年齢,性別,病変の部位が診断しようとしている組織型の典型像と少しでも違うようなら,確定診断を書かずに臨床医あるいは専門家に丸投げしてしまうのがおすすめ.専門家でもたまに間違えてあちゃーみたいなことをしている状況を考えると,組織所見だけで戦うのはとても危険.

タイトルには書いていないけど,リンパ腫の場合は,微妙に微妙.リンパ腫の診断で良悪性が大きく変わることはないけど,悪性のなかで亜分類が難しいときもある.Flowcytometry と合わせての評価になる.たまに分類によって治療方法が変わったりすることもあるから,B or T だけ示してあとは所見的な診断もありか.それにしても WHO 分類は細かすぎてちょっと実務からかけ離れ始めている印象.

2. 学会発表の写真撮影依頼はほどほどで対応しておく

臨床医の行う学会発表は我々病理医からすると,かなりひどい,言い方を変えれば無茶苦茶な発表が多い.これは別に臨床医が悪いわけではなくて,病理診断の報告と比較すると,臨床診断や治療というのは不確定要素があまりに強くて,いわゆるきれいな病歴というのはそうそうない.その中でなにか neues を見つけて発表しようとするのだから,必然的にやるべき検査が抜けていたり,適応外の変な治療をしていたりする.

まぁそういう前置きはおいて,臨床医の発表に病理診断が必要と言われることがあり,写真の撮影を依頼されることがある.こういう場合,一番良いのは写真だけを渡す方法.たまに CT や MRI を貰いに来る感覚で,とりあえず画像ください!という先生がいるが,これは一番楽である.渡すだけで終了になるので.

ちゃんと説明しないとわからないでしょ?と文句を言う人がいるかもしれないが,たかだか 10-15 分話しをして彼らが理解できるか.いままでの経験では 20 分くらい熱心に教えても肉芽腫と肉芽組織の違いをきちんと理解できる人はいなかった.教え方が悪いと言われればそれまでだが.

要するに効率が悪いし,結局彼らは理解できていないしで臨床医に組織学的所見を丁寧に教えることにあまり意味はない.なので,教えるにしても,細かい用語は抜きにしてここが癌です,ここが炎症です程度にしておいたほうが無難.

別に適当にあしらえではない.クオリティを上げても無駄だ,ということ.愛想よくはいはい!いいですよといって写真を渡しておけば臨床医からの評価も上がるだろう.詳細な組織学的所見の需要というのはそんなにない.

3. 組織学的所見についてディスカッションする際に異型の有無については時間の無駄

腫瘍の病理診断の場合に異型の有無について議論の的になることはしばしばある.どどたん先生の長年の経験によると,異型の有無のディスカッションは大抵意味がない.ただの意見の押しつけでしかない.今風にいうと観察者間の一致率であるκ係数が低いということになる.

はっきりいうと,異型の定義自体があいまいで,核の大小不同とか明瞭な核小体とか極めて主観的.そんな主観的な評価の積み重ねで腫瘍の診断をしているわけで,意見の相違が生じることは十分有り得る.しかも,異型のあるなしについてはある種の先入観もあり(手の cartilaginous tumor では異型は積極的に評価しない,など)clear cut に割り切れない.

異型の評価をするなと言っているのではない.Controversial な場合に細かく議論をしても無駄だということ.10 人中 10 人が異型ありと判定しているものについて,自分が異型なしと判断したのなら確かにずれているという点で問題があるけど,そうでなければ,つまり異型なしと判断してくれる人が他に誰かいたらそこまで気にする必要はないということ.はいはい,ととりあえず従っておいて責任をとってもらえば良い.

15 年目の悲劇

# 卒後は 17 年目,病理は 15 年目 自分は 2009 年に大学を卒業しているので,2026 年 4/1 現在だと,卒後 17 年目になる.卒後 15 年目のとか,20 年目の,みたいなタイトルの本を見るが,その節目を超えてさらなる大台に突入してしまった感じはある. 初期研...