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2025年3月5日水曜日

対立する所見が見られたときの病理診断の進め方

# Introduction

一般的には,病理診断においては A, B, C, D, ... という所見があって X と診断するというように所見を集めて,通常は一つの診断を目指していく.多くの症例では X に至る A, B, C といった所見は同じ方向を向いており,大抵はストレートに診断をすることができる. 

とはいえ,しばしば対立する所見が見られることがある.

# Conflicts always occur - a majority vote?

A, B, C, D は X を示唆する所見だが,E のみが Y を示唆する所見である場合,どうするか.多数決で X とすべきか?それとも X > Y とすべきか,はたまた大逆転で Y と診断すべきか.実際病理診断の専門家でも悩ましい話題で,症例検討会などでも取り上げられやすい例である.この投稿ではそのような対立する所見を呈する症例でどのように診断を進めていくかを考えていくことにしよう.

予想通り?かもしれないが,多数決で決めるのはあまりおすすめしない.なぜならば各所見の重みや診断の特異性は大きく変わるからである.例えば,扁平上皮癌の診断において,角化の所見はかなり特異性が高い一方で,核腫大は腺癌でも尿路上皮癌でも見られる.核腫大は癌とする根拠としては特異性がやや高いが,扁平上皮への分化という点では特異性はほぼない.

# Breakdown of a diagnosis

X という診断をするために必要な病理学的所見である A, B, C, D, ... はいわば分解した要素といえる.ここでは X という診断名を崩してみよう(できないことも多いが).扁平上皮癌であれば,上皮性+悪性腫瘍+扁平上皮への分化という形に分解できる.

  • 上皮性:細胞接着性がある
  • 悪性腫瘍:核異型が強い
  • 扁平上皮への分化:角化,細胞間橋
というように,それぞれの構成要素に対応した所見を対応させることができる.逆に,所見を分類することで,診断にはどういう要素が含まれているのかを考えることもできる.こういう分解と集結を行うことで診断するために必要なことは?を整理することができ,テキストを読んでいて,診断基準を意識して読むことができるようになる.

蛇足だが,一般的な病理診断のテキストには「X という診断には A, B, C, D, ... という所見がみられる」という記載が多い.しかし,では X と診断するために必要な所見はなにか,すなわち診断基準はなにかについては,WHO bluebook 以外では,はっきりと書いていない.特に非腫瘍性疾患についてはそういう曖昧な記載が多い.意外に思うかもしれないが,ふんわりとした中で病理診断はしていて,みんなそういうもんだと思っている.そういう曖昧さが良さでもあり極端な個人の意見を貫きやすい背景となって結果的にパワハラで多くの病理レジデントが辞めていく原因にもなっている.

# Approach to Conflicting Findings

ここで本題に入るのだが,対立した所見が見られた場合,どのように診断を進めていくのか.一つの解決法としては,想定している診断名に対して,その所見がどの程度特異性があるのかを見ていく.例えば理学的所見はマクギーなどの身体診察の本や文献では各身体所見が実際の診断に対してどの程度の感度・特異度を有しているかデータとして揃っている.本来であれば病理学的所見に対してもそのようなデータが整備されていることが望ましいが,病理診断自体がかなり幅が広く(現時点では)現実的ではない.

ただ,定量化は難しくとも定性的には判断は可能で,標本から読み取れる情報と病理診断のテキストを眺めながら,そして診断基準を分解しながらそれぞれに特異的な所見,感度の高い所見を整理して並べてより特異性が高い方を採用するということを多くの病理医は無意識にやっている.もちろんできていない人もいるにはいるが,そういう人はだいたい「診断のセンスがない」みたいな言われ方をされている.一応重ねて言っておくが診断はセンスではなく基本的事項の積み重ねである.

そしてもう一つ重要な視点として臨床情報がある.直近の投稿で総合的なアプローチをすると言った.その中には臨床経過などの臨床情報を加味することも含まれている.病理組織学的にそれらしいと思っても,臨床情報が否定的であれば少なくとももう一度その診断を考え直すべきである.その過程で特異的な所見がなければ,確定診断を控えたほうが無難.それくらい臨床情報は重要.結局のところ,多少稀なものであってもよくある場所や年齢によくある経過でよくある疾患が発生するのであるから.

# What to do then

結局のところ,壮大なテーマを掲げた割には結論は無難なところに落ち着くのだが,こうすれば解決するという魅力的な解決策というものはなくて,あるのは丁寧に一つ一つ吟味していく作業.その過程でとある疾患に対して特異的な所見を引き出し,鑑別診断と比べてよりどちらがふさわしいかを検討する.そして鑑別ができなければ所見診断に留めるのも一つ.特に情報量が圧倒的に不足しがちな生検検体では確定診断ができなくても仕方ないし,下手に強く言ってしまうと間違えたときに大きな問題になってしまう.




今どきの病理診断の勉強の仕方

# Study surgical pathology in 2025

4 月から専攻医が新しく入ってくるので,専攻医(後期研修医)が病理診断を学習する上でどういう風にすれば良いかなと考えてみる.テキストを中心として,自分が病理診断のトレーニングを始めたときとの違いについても軽く触れながら.それにしても,後期研修医は今は専門医機構扱いになって専攻医と呼ぶのが一般的になったのか.名前がコロコロ変わるなと感じ始めた時点で RG(老害)認定されそうだからリアルでは口には出さないけど.

# テキスト

基本となるテキストはやはり外科病理学一択になるかな,ちょっと古くなってきたけど,それでも 2020 年発行でまだ新しい情報が多くてしばらくは基本書として十分使える.その前の版から 14 年かかっているので,次の改訂までは更に 5 年以上の時間がかかるだろう.残念ながら今の病理学会にはこの本を 5 年程度ごとに改訂するほどの体力は残っていないし,商業的にもこの販売ペースだと難しいだろうか.

外科病理学に加えて,最新の情報は WHO 及び AFIP で十分,というか特に WHO の充実っぷりが半端ない.今はある程度診断基準が整備されていて,昔のような「〇〇先生が言ったからこれはがん」という状況は少なくなった.もっとも遺伝子異常に基づいて定義された疾患が多くなって,一般病院どころか大学病院ですら診断できないという誰得??という状況になってしまったのだが.

# 講習会

講習会の数は 10 年前と比べて格段に多くなった.昔は IAP のセミナーくらいしかなかったが,今では病理学会の希少がん講習会を始めた多くの講習会,パスポートなどの講習会,さらにはコンパニオン診断関連での製薬会社主催の講演会,といった具合に様々な講習会が開催されている.頑張ればほぼ毎週何かしら日本語で講習会が開催されている.昔は自分も講習会的なことをしていたことがあったが,これだけ講習会が多いと「講習会疲れ」を起こすので,やっていないし,多分今後もやらないだろうな.

ちなみにだが,講習会が増えたのは COVID-19 の蔓延が原因なのでは?と考えている.現地での講習会ができない+オンライン「のみ」の配信は意外とコストが安く済むのと品質自体は変わらないので今後もスタンダードであり続けそう.正直講習会をオンラインでするのは寝てしまう以外のデメリットが思いつかないわ.

# トレーニング

結局技術が進んでもやるべきことはあまり変わらない.固定→切り出し→診断というプロセスは同じ.コンパニオンや遺伝子診断といった付加的な検索は増えた,というかむしろそれが主流になっている.興味深いこととして,自分が病理を始めた頃は免疫染色が主流になっていて,免疫染色だけで良悪性や組織型を決定する病理医を Brown Pathologist なんて揶揄していたが,最近は Brown どころか遺伝子異常の検索で形そのものがなくなってきている.まぁ要するに molecular pathologist になるのだが.

一般的に言えることだが,技術が進歩すればするほど基本的なことが重要になってくる.病理でいうと固定がきちんとできているか,形態的に良性悪性をきちんと判定できているか,遺伝子検索をするにあたって腫瘍を含む領域を正確に認識できているか.高度な技術や知識は代替ができやすいが,基本的な技術を塗り替えるのは難しい.ホルマリンや HE 染色が長年にわたって使われ続けているという事実を見るだけでも説明は不要.

# 病理解剖をなんとかしたい

病理解剖の診断基準の不透明さは今に始まったことではないが,臨床診断と病理解剖診断の乖離が著しくなってきている.というか非腫瘍性疾患については,病理解剖学的に発信することは限定的で,多くは臨床経過をなぞるような記載になりがち.多くの非腫瘍性疾患は病理学的に定義されたものではないからしょうがないのだが,それでもガイドラインみたいなのがほしい.例えば臨床的に敗血症と診断されていれば病理学的にも敗血症があったという前提で議論を進めて良いとか(本当はどうかはわからないけど).

# AI との関わり

現在,病理診断において自分はだいぶ AI に頼っている.2025 年 3 月現在では,頼っているというよりもどうやって頼ったら効率のよい結果が生まれるかと試行錯誤をしていると言ったほうがよいか.現時点では,google 検索を大幅にアップデートしたような使い方になっている.実際あまり馴染みのない疾患の概要を掴むには非常に良い.自分が十分知っているテーマについては深みが足りないかな,ちょっとずれているかなという印象を持っている.

AI の技術自体は文字通り日進月歩で進んでいるので,AI-based の診断が来る時代は決してそう遠くない.この流れを否定しても何も始まることはなくむしろどう取り込むかが課題になる.あと数年くらいで generic な病理診断アプリが開発されるのでは?という雑感.

ただ,課題点として,病理診断の専門家であるためには AI が吐き出している情報をある程度合理的に理解し判断できる必要があり,相当な勉強量が求められる.固定ができているかとか基本的なことと,最終的なアウトプットに関する理解,これらの両極端を専門家として実践できる必要があるため,勉強しなくて良いとかではなくて,(多少の方向性は変われど)常に勉強が必要になるだろうと思うとちょっと憂鬱かしらね.

実際に AI を User のレベルでどう活用できるか考えながら仕事をしていると,技術の進歩は結構ゆっくりだなと思いがちだが,外野からすると多分光の速さで物事が変わっていっているように見えるんだろうな.

# 結局のところ,,,

そんなに変わらないかなというのが現時点での感想.結局やらないといけないことは同じで,それに新しいことが加わっている.しばらくは大変だろうが,できることが増えるということで喜ばしい変化と考えるよいかしらね.

2023年12月31日日曜日

カンボジアでの病理診断 2023

# 今年の総括

今年はカンボジアの病理診断界隈で個人的には大きな動きはなかったように思う.とはいえ,着実に一歩一歩良くなっている最中ではあるのと,経過をどこかで記録しないと多分埋もれてしまうような気がして備忘録も兼ねて記載している.

# 検査センター周りの環境

自分の指導をしている検査センターの指導は現在に至るまで続いていて,コンサルテーションもだいたい週に 1-2 例くらいの割合で今も受け続けている.コンサルテーションの内容はもっぱら確認の要素や箔をつけるような感じで,大幅に書き直すことは殆どなくなった.診断が異なることはたまにあるけど,そのほとんどが見解の違い程度の些細な違いと言える.中には見立てが大きく異なるものもなくはない.ただ,他のコンサルテーション症例と併せて考えると,全体的な診断能力は確実に高くなっている.多分数年以内には自分と診断能力的にはほぼ同程度になると予想している.

上記の通り,診断内容に関してはある程度満足の行く状況になったことから,次第に診断周辺について手を出し始めた.本来は,標本作製や標本管理は検査としては根幹をなす重要な要素ではあるのだが,実際に検査センターとして運営している以上顧客に対して目のつくところを何とかするのが先.その上でじゃあ取り組もうかという話になる.

そして,標本作製は外勤先の技師の協力を得てなんとか改善する目処が立ったし,検体のマクロ写真をすべて撮影するという目的もかなった.切り出し図をすべて作製するというのはまだ到達できていないが,この問題も近いうちになんとかしたいところ.診断入力システムのバグというか雑な管理は自分がだいぶ吠えたが,紆余曲折を経てようやく満足の行くシステムになってきた.正直こんなことをしなくても別に業務自体は回るし,臓器の分類が狂っていても最終的な報告書には関係ないのであまりコストパフォーマンスはよろしくないかもしれない.でも,これは「精度管理のできているきちんとした検査センターであるため」には避けて通れない道と考えている.

# 某 NGO の先生からのコメントで印象に残ったこと

某 NGO に検体取扱いについて講演に行ったときのこと.若い先生なのにすごくしっかりしているとか,いくつかお褒めの言葉を頂いたが,それよりも依頼した当初よりも診断の文面が少し良くなった気がする,というコメントが一番自分的には刺さった.

邪推するとこれの意味するところは「当初から診断の品質はあまり変わっていない」と解釈でき,そして正直 HE 染色での診断の限界に近いところで仕事をしている.検査センターとしては徐々に品質が改善することは重要なことではあるが,最初だから品質が悪くても仕方ないは基本的に許されない.最初からある一定以上の品質で診断を提供できていたという証左でもあるので,これは正直嬉しいところ.

# 他の病院病理部・検査センターの動向

カンボジアの検査センターでここまできちんとしているところは他にあるのだろうか?自分の知る限りは標本作製環境でここまで丁寧に検体を扱っているところは他にはない(正確には他の検査センターに行っていないのでよくわからないが).本当は他の病院に行って直接指導したいところもあるのだが,現実的には難しい.少ない病理医とはいえ,それぞれの病院で長年やってきた先生ばかりでどこの馬の骨か分からない病理医が上から指導をしても聞いてくれそうにもない.実際に壁にあたった訳では無いが,話をした感じからするとひしひしと伝わってくる.もちろん,アプローチをする方法を考えていないわけでないが.

もう一つ根本的な問題点としてカンボジアの病理医の横のつながりが希薄であることが挙げられる.これは某日系病院の先生と話をして共感してもらえたのだが,仲間で一緒に盛り上げて何かをしようという意識が希薄過ぎる.その証拠にカンボジアの病理の先生に他の病院や検査センターのことを聞いてもよくわからないという返事が返ってくる.みんな忙しいからということだそうだが,流石にちょっとどうにかならないかと思っている.多分国民性なのか歴史なのか,自分たちのことが第一という考え方が根強い.それは後半の内容に関わってくる.

ちなみに今年別府でカンボジアの病理学会(病理医協会?)が一応設立された模様.

# Leading pathology laboratory として君臨すること

上記の事情があることから,他の病院病理部や検査センターに対して直接的な干渉はかなり難しいか現実的に不可能に近い.そうすると現状できることはただ一つで,自分たちがトップに君臨して他の病理部や検査センターに対して間接的に見習ってもらうしかない.偉そうなことをと言われるかもしれないが,それが現実的に可能性のある解決策と考えている.

正直,現時点でもカンボジア国内で我々以上の品質の病理診断を提供できている検査センターは他にないと思う.免疫染色が外注検査で,しかも患者負担になるため行いにくいという制約はあるものの,HE 染色で出せる診断としては日本にも劣らない高い水準でできている.

ただ,懸念点としては他の病理部や検査センターとの差が広がってきている可能性が挙げられる.もちろん杞憂であってほしいのだが,毎週のように難しい症例のディスカッションをしながら診断をしているところと,一人でほとんど相談もせずに(できずに)サインアウトする環境では必然的に差が広がってもおかしくない.HE での診断しかできない環境であっても分子生物学的な理解が HE 診断の品質を高めることと,近い将来遺伝子異常の検索が可能になる可能性が高いので,なるべくそういうディスカッションも組み込んでいる.こういう指導をするためにはある程度の経験が必要なのだが,どうなんだろうか.

なんとかその落差を縮めたいという意図はあるが,現状有効な手立てがなく,自分たちのスキルを高めるのが暫定的な正解になってしまっている.

# アウトリーチ活動

病理診断の水準を高めるのと同時に,病理診断の考え自体を一般の人たちにより理解してもらう活動も重要と考えていて,今年からアウトリーチ活動について意識をするようになった.ただ,そもそもの前提として患者の前に医療従事者(医師・看護師・リハビリ・事務 etc)が病理診断を理解する必要があって,その調査も兼ねて,某 NGO 病院に病理検体の提出方法のレクチャーをさせてもらった.

質問のほとんどが日本人のスタッフからで,ちょうどお祭りと重なっていたこともあってか一番届けたい層には届かなかったが,反応はまずまずといったところで,こういう活動は継続して行っていったほうが良さそう.来年は患者や一般の人向けに病理診断とはなにかという講演ができたら良いと考えている.

もちろんアウトリーチ活動は自分が中心となってやるというよりも一度お手本を見せて,それを改変しながらカンボジアの先生たちの手で広めてもらってほしいという意図がある.

# 後進の育成

最近まで知らなかったのだが,今カンボジアの病理専門医育成の第 4 世代が始まっているようだ.第 2 世代が最近卒業して,第 3 世代が頑張っているかと思っていたら,いつのまにか更に次の世代が始まっていた(レジデントの育成には全く関与していないので知らなくても当然とは言えば当然).

ただ,懸念点というかやはりと思っていたのが,結局 2 世代も半分しか残らないそうで,もう半分は卒業後にフランスに行くとのこと.第 1 世代の先生も何人かフランスに行ったっきり帰って来ていない.この点について,カンボジアの病理診断支援をしている日本臨床細胞学会や国立国際医療研究センターの先生方がどう考えているのか知りたい点の一つで,頑張って育てても残ってくれなければ意味がない,とまでは言わないにしても,意義は減るだろう.そして残っている先生が,あれからどの程度成長したかちゃんと評価していますか?

先程も述べたように病理医の育成は自分の仕事ではないが,後進が出てこないことにはカンボジアの病理診断自体に発展のしようがない.ほかとの比較対象がないので,なんとも言えないが育てた病理医の半分が国内で業務に従事しないのはそれは大きな問題ではないだろうか.

# なぜ育成した病理医が外国に出ていくのか

究極的にはよくわからなくて,彼らに聞いてみたいところではある.間接的に聞いてみたところ,「彼らは病理診断に自信がないから外国に行ってさらに研鑽を積みたいと考えているのではないか?」とのこと.この意見が本当だとしても本当ではなかったとしても,カンボジアの病理診断体制に疑義を投げかける重要な指摘と言わざるを得ない.

仮に本当に自信がないのだとしたら,カンボジア国内でそれを自信に変えられるだけの研修環境を提供できていないことになる.1 期生が卒業して数年経つが彼らが戻ってくるという話は聞いたことがない.多分ずっと戻ってこないだろうし,戻ってきても仕事環境が違いすぎて多分働く気力がなくなるかもしれない.

自信があるにもかかわらず外国に行きたいというのであれば,それはすなわち彼らが活躍できるような職場環境を提供できていないということになる.つまりどちらの意味だったとしてもカンボジアの病理診断体制に魅力を感じていないということになる.

もちろん残ってくれる人も当然いるわけで彼らに対して他の欧米諸国に劣らない・あるいはそれを上回るような職場環境を提供する必要がある.

そうそう,いい忘れていたことだが,レジデント期間に授業料を払うシステムは改善したほうが良いと思っている.30 歳近くまで学生であることを許されるのはお金持ちか苦学生くらいで,前者はそもそも頑張って働く必要はないし,後者は投資の回収に走らざるを得なくなるわけで,普通に働く人が残りにくいシステムと言える.

# 来年にやりたいこと

アウトリーチ活動を続けること,そして FISH 検査を導入すること.これは数年来の悲願でもある.免疫染色は Calmette 病院他複数の病院で現在ある程度広範囲の抗体が利用可能になっている.そして迅速診断は Calmette 病院や KSF 病院(予定)でできるそうだ.免疫染色はある程度稼働しているようだが,迅速診断は依頼が少なくあまり稼働していないと聞く.

検査センターなので,迅速診断は(依頼件数が少ないことも手伝って)少し現実的ではない.免疫染色も考えたが,揃える抗体の種類や期限,管理の煩雑さとすでに複数の施設で実施可能であることを考慮し,カンボジア国内で未導入の FISH に目をつけたところ.直接的な契機は某 NGO からの相談で,依頼件数の見込みが立ったことから,検査センターとして pay しうると考え導入の説得ができたところ.トータルのコストの回収は恐らく 4-5 年はかかるだろうが,一度樹立すれば,単に probe を変えるだけで,検査の幅が非常に広がることからなんとしても実現したいところではある.

遺伝子検査の導入のもう一つの目的は病理医の教育及び魅力的な労働環境の整備とも言える.自分が大学病院などの大きな病院で仕事をすることにこだわり続けている理由の一つが必要な検索ができる,ことがある.病理診断に従事している人は誰しも病気の原因を調べたいと考えていると信じていて,検索の手法が大いに越したことはない.HE だけで診断するのも格好いいけど,免疫染色や FISH を使いこなして診断を詰めていくのも格好いい.結局それが魅力的な職場になるのではと考えてる.給料については正直自分のコントロール外だし,上記のように実家が太い先生たちが多いわけで,彼らの知識欲を満たすことが結果的にカンボジアの病理診断,ひいては医療全体の向上につながると考えている.

そしてその答えは来年の年末に.


2022年12月7日水曜日

病理専門医試験の総括(疾患当てクイズ編)

どどたんせんせは毎年病理専門医試験で公開された問題を集計してデータベースを作成している.そのデータベースからいくつか抽出して考察をしてみる.

# 全体的には正答率は上昇する傾向

言うまでもなく,病理専門医試験では同じ問題が繰り返し出される.そのため過去問を丁寧にレビューすることが点数を上乗せするために必要になる.

多くの疾患では過去に出題されたときよりも正答率は上昇している.正答率が 4 点を超えるようなもともと正答率が高めの疾患は多少変動する程度である.そのため,究極的にはよくある疾患は全員が応えられるために出題しにくくなるが,それでも全員解答できる事を考えると,学習の基本は過去問によるべきである.


# 過去に出題されたものの今回正答率を下げた問題

その中で正答率が明らかに下がった疾患は以下の通りである.

  • Adenomatous goiter
  • Amyloidosis
  • Asbestosis
  • Endometrial stromal sarcoma, low grade
  • Langerhans cell histiocytosis

問題の問われ方も多様化しており,疾患自体は知っていても設問に答えられなかった可能性がある.これらの疾患の共通点を指摘することは難しいが,例えば endometrial stromal sarcoma, low grade は leiomyoma/leiomyosarcoma との鑑別が難しくなることもあるし,Langerhans cell histiocytosis はある程度 working knowledge として鑑別診断に加えておかないと診断自体が難しい.教科書を参照できない状況下で診断を下すためにはある程度の経験を要する.


# 今回新規に出題された問題

分類の仕方によってだいぶ異なるが,2001-2021 までの過去の出題例から見て新規出題と思われる疾患を抽出してみた(亜型等での新規出題は除く).

  • # Mucous cyst
  • # Spirochete
  • # IgG4-related sclerosing cholangitis
  • # IgA nephropathy
  • # Granulomatous orchitis
  • # Adenomyosis
  • Serous tubal intraepithelial carcinoma
  • # Extramedullary hematopoiesis
  • Osteochondroma
  • # Toxoplasma infection
  • # Eosinophilic esophagitis
  • Metastatic clear cell carcinoma
  • # Lactating mammary gland
  • # Gynecomastia
  • T-lymphoblastic lymphoma
  • # Atrophic vaginitis

T-lymphoblastic lymphoma は ALL としては過去に出題されている.今まで(過去 20 年間に) IgA 腎症が出題されていなかったこと自体もびっくりだが,見てわかるように新規に出題される疾患の多くは非腫瘍性・良性疾患である.しかも日常診療で遭遇しうる絶妙なラインを問うている.特に今年はこの傾向が目立っている.

これは単に試験勉強ができているだけではなく,日常診断をきちんと行っているか,そして正常構造をきちんと把握しているかどうかという基本的な実力を問うている.あとは,腫瘍は遺伝子異常で診断される頻度が増えたため,古典的な HE 染色で診断というパターンが減っていることも考慮される.

特に細胞診の atrophic vaginitis は陰性症例として流され普段病理医の診断の場に登ってこない施設もあるかもしれない.病理専門医である以上は陰性症例であってもきちんと把握してその責任を果たしてほしい,というメッセージなのかもしれない.

# 今後の対策

今回の分析では過去問を完璧にすることで 82% の問題は正答を得られる可能性があることが分かり,疾患当クイズ (I+II 型) については現行の過去問やクイックレファレンスなどの勉強方法で十分である.

高得点を望む人や余裕のある人は「病理と臨床 2017年臨時増刊号 病理診断に直結した組織学」などの正常組織の復習するとさらに点数が上乗せされるであろう.

本記事ではあまり言及をしなかったが,I 型の○✕問題ではがんゲノム医療関連の出題も増えている.○✕問題は配点が少なくコストパフォーマンスが極端に悪いのだが,分子病理専門医を見据える意味でも勉強して損はないので,腰を据えてじっくり学習するのも良いと思われる.

法律関係や保険診療関係は学習をしようとしても幅が広くなるかつルールが変更されるので,深入りはおすすめしない.

2022年7月19日火曜日

国際協力とは~ その 2

 # 当時のカンボジアの病理診断体制

話題が豊富でどこから話をしたら良いか難しいが,2018 年頃の話だと病理医は 10 人くらいだったと記憶している(詳細は臨床細胞学会の専門医部会の記事を参照のこと).その中でいわゆる first generation と呼ばれる病理専門医の研修医が 5 人いた(多分資料を参照すれば分かるがまぁいい).

基本的なトレーニングはレクチャーが中心とのことで,日本以外だとヨーロッパ,特にドイツからの支援が多いみたい.旧宗主国はフランスのはずで支援はあるにはあるようなのだ(免疫染色の試薬や機械など)が,ドイツは iPath Telepathology network というシステムを構築しており,カンボジア(+それ以外の途上国?)に対して,組織像をアップロードをするとドイツの専門医がコメントをする体制を提供している.

日本の学会に掲載される記事は主に日本がどういうことをしたかということに焦点を当てて記事を書くが,実際には他の国も支援をしており,全て日本がやっているわけではない.

一般的にカンボジアで医師になるには確か 6 年間の医学部のトレーニングを受け,病理専門医の場合はさらに 5 年間のトレーニングが必要で,その 11 年間は学生という扱いで,授業料を支払うようだ.そりゃ金持ちじゃない限り無理ではある.ちなみにカンボジアの医学部で 1 回だけオンラインで病理学の授業を行ったことがある.まぁそれはいいけど.

病理専門医のコースも毎年開講というわけではなく,2018 年に first generation が卒業をして 2019 年から second generation が入学して来るという,感じで現在第 2 世代がトレーニング中である.時間はかかるだろうが,おそらく数年後には一気に増えていることだろう.

カンボジアの病理医はほぼ全員(全員?)が首都のプノンペンにいるようだ.プノンペン以外には病理医はいないので,そこで病理検体が発生した場合はどうするのか?一つは病理検査を行わない,もう一つは首都のプノンペンにある検査センターに検体を送る.

そう,カンボジアにも検査センターがある.ちょうど日本の病理医が病院で病理診断をしながら,検査センターでアルバイトをするような構図がある.

# カンボジアの医師の働き方

カンボジアの医師の給料は安い.大体月 150 - 200 ドル程度.カンボジアに行ってみると分かるが,カフェに入るとコーヒーが(サイズにもよるが) 3-4 ドルくらいするので,当然それだけでは生活できない.よって多くの医師は自分でクリニックを持つ.午前中は病院で働いて,午後は自分のクリニックで診療をするというダブルワークをするようだ.

病理の場合はそれが検査センターになる.正確な統計はないが,カンボジアには古くからいる教授が自前で検査センターを持っており,月 1000 件程度の結構大量の検体を診断しているそうだ.プノンペンにはそのような検査センターが複数ある.

ちなみに組織診 1 件あたり 30-50 USD 程度で,免疫染色は 1 枚あたり 50 USD 程度.相場を知らない人が多いとは思うが,日本のほうが安いと思う(日本の検査センターの場合は利益率の高い血液検査と抱き合わせて受託するケースも多く,病理検査単価は結構変わるので単純な比較が難しい).2022 年 7 月現在はさらに円安なので圧倒的に日本の方が安い.日本にブロックを送って日本で免疫染色を受託すると儲けられるのでは?という気もする.

# 自分が関わっていること

基本的には first generation の先生のうちの一人がやっている検査センターの顧問として診断のアドバイスをしている.最初は怪しい診断でのコンサルテーションが多かったが,現在ではほぼ外すことはなくなってきた.本質をついたかなり鋭い診断をしてくることもあり,数年間自分が費やした時間は無駄ではなかったのかな?と感慨深く思っているところではある.

文章が長くなってきたのでそろそろここで次の項にする.

2022年7月18日月曜日

国際協力とは~ その 1

 # 国際協力は簡単ではない

かなり具体的になるから書くかどうか迷ったけど,多分今書かないとおそらく記憶の何処かに埋もれてしまうのかなとも思ったのでとりあえず書いてみることにする.まぁ悪いことをしているわけではないのでよいでしょう.

ここまで約 3 年間くらい個人的な規模でカンボジアの病理診断の支援をしており,総括的なことを書いてみよう.

# カンボジアの病理診断支援

もともとは産婦人科学会?がカンボジアの子宮頸癌のスクリーニング支援を行う一貫で,重要な検査の一つである細胞診に問題があることが判明した.

そもそも細胞診がきちんと診断が出来ていないとスクリーニング自体が意味をなさないということで,臨床細胞学会が参画してカンボジアの病理診断の技術発展の支援をしていると聞いている(伝聞による記載なのでたぶん若干不正確であることに注意).

その中で臨床細胞学会から日本の病理医が派遣され,またカンボジアから病理医や臨床検査技師を招聘して細胞診断を中心としたトレーニングをして,また現在では zoom などでオンラインレクチャーをしながら教育をしているということ.

ちなみに自分は臨床細胞学会の会員(信者?)で専門医・指導医を持っているし,集会には熱心に参加しているが,特に臨床細胞学会から派遣されてはいない.

カンボジアの病理診断は当時はたしかにひどかったような気もするが,少なくとも 2022 年現在では自分の感覚ではそこまで悪くはない.HE 染色が主体だが,形態診断レベルでは日本の一般病院以上の水準は確保されていると信じている.

# カンボジアから日本へ研修

確か 2018 年頃だったと思うが,カンボジアの病理医と臨床検査技師が日本に研修に来た.その時に当時在籍していた病院が受け入れ病院の一つとなっており,そこで仲良くなり,じゃあと一肌脱いて色々と相談に乗るようになった.それがはじまり.

2022年4月4日月曜日

病理診断をしている時に考えていること

# ちょっと面白そうな話題

病理診断をしている時に何を考えているのか,その思考回路を明らかにするのは意外と難しいのと,恐らくどこかで似たような話題について触れた気もする.しかし大切なことではあるので少し書き連ねてみよう.

https://twitter.com/ddtns/status/1510104439318716425

この投稿の内容をまとめ直して brush up させたものである.

# 病理診断も臨床診断も基本的なところは変わらない

診断学という本を参照してもらえると分かるが,基本的には検査前確率(≒有病率)があって,そこに種々の検査を行っていく過程でその疾患に対して陽性(=診断確定)か陰性(診断の除外)を行っていく.その検査の感度・特異度により陽性的中率,陰性的中率が計算され,当該検査を行うことで検査後確率がどの様に変化するかを見ていくことになる.

病理診断もおおむね同じで,いくつかの鑑別診断を考えたらあとはそれぞれの疾患に対して肯定あるいは否定するような所見を丁寧に集めていき最終的に病理学的診断を決定する.診断によっては(例えば神経内分泌腫瘍のグレーディング)かなり厳密に決まっているものもあれば,腺癌や扁平上皮癌等厳密には決まっていないものもある.

異なることとしては,臨床推論のように身体診察や検査の感度特異度がまだ完全には整備されていないため,個々人の感覚や経験に依存しているところがある(これも時代が進めば整備されてくるのでは?と思っている).

# 病理学的所見と免疫染色や FISH, PCR が病理で言う検査に相当する

臨床診断(臨床推論)を進めていく上で病歴聴取,診察や検査を適宜行うわけだが,病歴聴取や診察に相当するものがだいたい肉眼所見だったり組織学的所見だったりする.多くはそれで診断がつき,さらに追加で「検査」を行いたいときには,我々でいう特殊染色や免疫染色,FISH, PCR+NGS? などが該当する.検査まで行くと全般的に特異性が高くなるが,範囲が狭まるので陰性だった時に検査後確率の変動が乏しい.

言い換えると,肉眼所見や HE 染色での観察が不十分だと免疫染色を下手に出しても陰性ばかり(あるいは retained)で結局診断には結びつかないよ,ということである.耳が痛い読者も少なからずいるのでは?

# 病理学的所見は比較的ゆるく考えている

○藤誠先生とか臨床医からたまに言われることとして,

病理診断って気分で診断しているんでしょ?

というのがある. これは最初の項目で述べたように所見自体の感度・特異度,疾患定義が若干不明瞭であることに起因する.どこまでの異型が腺腫でどこからの異型が腺癌とするのかについても大腸腫瘍でよく議論になる.正直なところ,最近では一致率の低さから議論にすらならないが.最近の診断基準ではこのような気分や知識,経験の揺れに起因する診断の不一致を防ぐような診断基準が採用されてきており,実際は問題なくなってきている.例えば子宮頸部の carcinoma in situ と severe dysplasia は昔から人によって診断が異なっていたが,今では CIN3 として区別しなくてもよくなっている.

また同じ様に見えるものでも文脈によって解釈が異なることもある.例えば分厚い膠原線維束は文脈によっては ropey collagen と判断するが,これが真皮内にあればケロイド線維と解釈する.見えているものは膠原線維でその部分のみは同じものなのだが,文脈によって解釈が変わりうる.

# 文脈とは何か?

例えば桃太郎のお話で,桃太郎がスマホを取り出して鬼を倒したところの写真を撮ってみたりおじいさんに報告したり,お宝をメルカリで売ったりしていたらおかしいな?と疑問に思うはずである.桃太郎がいつの時代の話か書いていないが,話の中に鬼がいたり川で洗濯をしたりすることから現代ではないことが容易に推測されスマホやメルカリがあるのは不自然だということになる.

一方同じお話でも,名探偵コナンやこちら葛飾区亀有公園前派出所などは登場人物や彼ら彼女らの行動,風景を変化させることで文脈を変化(進化)させており,携帯電話やパソコンが登場しても違和感がなくなっている.つまり桃太郎のお話も鬼 → 悪徳業者に変え,川で洗濯 → ドラム式洗濯機で洗濯とするとスマホやメルカリが登場する文脈が出来上がる.まぁではどうやって川を流れてくる桃と出会うのかという新しい問題が発生するが.

それはさておき,病理診断のたとえで考えてみる.皮下に付属腺との関係性の乏しい腺癌NOS としか言えないような病変が二か所出てきたとする.そんな稀な病変が二か所も同時に出てくるのはおかしいと気づく.それらを説明できる文脈を探さざるをえないわけで,原発巣二箇所よりも転移の可能性が考慮され,頻度や既往歴を勘案し,乳癌、肺癌、膵癌、前立腺癌などの存在はどうか?と疑うわけである.

# 文脈を読む力

いわゆる病理診断の能力をどう定義づけるかは難しいが,その漠然としたものを認めて話を進めると,何年かやればある程度は標本を読み解く力はついてくる.所見は一応取れているんだけど,診断がどこか変,という先生がたまにいて,そういう先生はその文脈を把握する力というか臨床知識が少ないことが多い.所見は大体合っているのに,その所見を統合した解釈で間違えるという残念な結果になる.

どどたん先生は病理医を志望している初期研修医が病理を回ることに対して比較的否定的である.病理診断の多くはこの分文脈に依存していると考えており,その文脈を身につけらるのは臨床医としての経験が非常に効率的だからである.もちろん単なる経験だけではなく臨床推論の過程自体も病理診断のロジックに類似性がある.病理医の記載する報告書をもとに臨床医が診断や治療を決定するように基本的に向かっている方向性は同じである.そういう意味では初期研修で全てを身につける必要はなくて臨床推論にどっぷり浸かるだけでも文脈を読む力は十分つけられる.

# よくある普通の疾患を丁寧に見ることが大切

文脈というのは文の前後の関係性を指す言葉であり,文脈が適切であれば文章を読んでいても引っかからない.これを病理診断に置き換えると,臨床的に胃癌を疑って生検された検体の病理診断が腺癌だったといった具合になる.このように,日々の診断ではごくごくよくある症例のよくある診断がほとんどで,珍しいものは少ないし珍しくてもそのほとんどは教科書に書いてある.

こういうありふれた普通の疾患や経過のどこが普通なのかを常に疑いながら診断をすることが大切である.なぜか.稀な病変や間違えやすい(間違えた)病変というのは,経験的に振り返ると,どこかで普通と異なる所見や臨床経過を呈していたことが多く,その違いはしばしば軽微である.些細な違いを見出すには普段から普通がどういうものかをある程度明瞭に認識する必要がある.

〇〇さんが髪の毛を 1 cm 切ったことを気づくためには普段から〇〇さんの髪の長さがどれくらいかを認識しておく必要があるのと同じことである.

# また稀なものに飛びつきすぎないこと

文脈を理解できていない先生がよくやる間違いとしては,世界に数例しかない稀な疾患をバンバン診断してしまうことがある.これも本質的には稀なものを見逃すのと同じことであり,そんなものが出てくる文脈ではないということが理解できていれば診断自体に慎重になる.よくある疾患のちょっと変わったバリエーションの可能性はどうか.

もし稀なものだと診断をしようとすると,その文脈を突き破るくらい高い特異性のある所見が必要になる.

# 結局は病理診断は操作的

結局のところ,病理診断は誰がどう書いてもある程度の範疇に収まるようにルールが設計されており,機械的,操作的とも言える.

2022年1月1日土曜日

病理診断を学ぶ 〜 泌尿器

 泌尿器領域の病理診断に関する本は多岐にわたる.個別の本もあるにはあるが,ここでは総論的に全体がまとまっている本を中心に紹介し,和書について個々の臓器の本を参照してみる.たくさん本があるので見たことのあるものを中心にある程度取捨選択をしていることに留意を.

まず WHO bluebook から

WHO Classification of Tumours of the Urinary System and Male Genital Organs (2016)

これは 4th edition の本.恐らく今後数年以内に 5th edition が出版されると思われるので急いでいるあるいは今後泌尿器領域を専門とするのでなければ敢えて購入する必要はない.しかしながら疾患分類の基本の本と言える.

Urologic Surgical Pathology (2019)

泌尿器領域における中心的なテキスト(乳腺でいう Rosen, 軟部でいう Enzinger etc 的な位置付け).ちなみにどうでもよいが,泌尿器領域の病理診断の本を検索するときには uropathology あるいは genitourinary pathology というキーワードで検索をするとある程度網羅的である.

泌尿器病理診断アトラス: 臨床と病理の対話で学ぶ (2021)

検索をしているとこういう本も見つかった.まだ読んでいないが,都築豊徳先生は泌尿器病理では世界的に有名で恐らく間違いはないのだろう.

Uropathology: A Volume in the High Yield Pathology Series (2012)

だいぶ古い本で正直購入はおすすめしないが,かつて自分が愛用していた本で今でもたまに見る.High Yield Pathology Series は箇条書きでとても参照しやすい.皮膚と合わせて愛用している.


腎生検についても言及をしないわけにはいかないのだが,腎生検自体は不得手.腎病理の先生たちがよく使っている,あるいは読みやすそうな本を数冊挙げる.

Diagnostic Pathology: Kidney Diseases (2019)

Colvin の本として有名.箇条書きで読みやすく,情報量が多いとのこと.

Heptinstall's Pathology of the Kidney (2014)

いわゆる大御所的な本.そろそろ改訂が望まれる.

腎生検病理診断取扱い規約 (2019)

日本腎病理協会が腎生検病理アトラス改訂版を出しているのに,なぜここで規約を発行する必要があるのかという本質的な問いはさておき,簡潔にまとまっており,参照するのには便利.

ジョーシキ!腎病理診断エッセンシャル (2020)

腎病理のみかたについて,基本的なところから丁寧に解説されている.きちんとやるならとても良い本.

腎生検診断Navi (2016)

腎生検を始めた人あるいは腎生検なんぞ見る必要がないという人向け.人間に理解可能な言葉で記載されている.


15 年目の悲劇

# 卒後は 17 年目,病理は 15 年目 自分は 2009 年に大学を卒業しているので,2026 年 4/1 現在だと,卒後 17 年目になる.卒後 15 年目のとか,20 年目の,みたいなタイトルの本を見るが,その節目を超えてさらなる大台に突入してしまった感じはある. 初期研...