2017年5月30日火曜日

胃生検のやっつけかた【3. 明らかな良性・反応性病変のみかた】

2017/05/30 1st edition.
2017/07/07 Last updated. 
○ 良性病変のほとんどが非特異的かつ所見診断
・疾患特異的な所見はないことが多い
・いろいろ考えた方はあるけれども,基本的には臨床診断に無理に合わせる必要はない
・具体的には内視鏡診断でポリープと書いてあっても,特徴的な所見がなければ必ずしもポリープと書く必要はない
・逆にポリープのように見えても,内視鏡診断でポリープとして採取されていなければ所見記載に留めるのが無難

○ 炎症の程度を評価
・炎症細胞の種類は重要:リンパ球,形質細胞は普通,好酸球も少量はいる.好中球,好酸球が含まれているのか,どの程度?
・好中球が含まれていると,なんからの急性炎症が示唆される(ピロリの検索を!)
・軽度,中等度,高度と半定量的に表現されるが,いまいちピンとこない場合は「シドニー分類」を眺めながら書くと良い

○ よく使うキーワード
・以下のキーワードはどれも疾患特異的とは言い難い.所見のボリュームを増していかにも的なレポートを仕上げるために必要なもの.以下の変化が混在して見られることはとてもよくある

・再生性変化 regenerative change
 腺窩上皮の核が,「一様に腫大,核小体明瞭,クロマチンの濃染はあまりない,極性の乱れは目立たない」のがポイント
 そのような変化が見られる場合に再生性変化という
 びらんからの再生だけでなく,炎症による反応性変化に対して使っても良い
 Cf. 再生異型:再生性変化の中で核の腫大が強くて,異型があるようにみえるものをいう.矛盾しているように見える用語だが,再生異型といった場合は「良性だ」と主張していることになる

・過形成性変化 hyperplastic change
 腺窩上皮の細胞質の丈が長くなっている様を見て,過形成性変化という
 過形成性ポリープの部分像としても見られる
 それ以外にも再生性変化,腸上皮化生と合わせて出てきても良い

・腸上皮化生 intestinal metaplasia
 杯細胞が出現.+ Paneth 細胞まで出現したら完全型腸上皮化生と呼ぶこともある
 余談だが学生実習では腸上皮化生を見てみんな「小腸」あるいは「大腸」と答えてしまう

・浮腫状変化 edematous change
 どうでも良い変化なのだが,見られれば記載したほうが良い

・線維筋症 fibromusculosis
 間質内を膠原線維+平滑筋細胞が増生するもの
 結腸なんかだと粘膜脱症候群で有名な所見.もちろん胃生検でも見られても良い

・毛細血管の拡張 ectatic capillaries
 内視鏡的に発赤が見られて生検と合った場合に書いてあげると親切
 よく採取時の artifact で血管が拡張しているという意見もある
 (どちらが正しいとも言えないので,とりあえず上司に従うこと)

・間質の肉芽組織様変化 granulation like change
 間質が肉芽組織(小血管の増生+線維芽細胞の増生±炎症細胞浸潤)様に変化したもの
 過形成性ポリープの部分像としても出てくることはありうる

○ よく見るポリープ
・まだまだたくさんあるだろうけど,どどんぱせんせいがここ一週間で見たものを掲げる

・腺窩上皮型過形成性ポリープ hyperplastic polyp, foveolar type
 教科書的には「腺窩上皮の過形成+間質の肉芽組織様変化」と書いてある
 どどんぱせんせいがある病変を腺窩上皮型の過形成性ポリープだと診断するためには
 「まず臨床的にポリープとし認識していること,
  腺窩上皮が過形成性変化±再生性変化±腸上皮化生があること,
  間質が浮腫状変化を示している±肉芽組織様変化を呈していること」
 を基準にしている.
 臨床的にポリープとして認識していない場合は所見記載に留める

・胃底腺ポリープ fundic gland polyp
 教科書的には「腺窩上皮の短縮+拡張した胃底腺の増生」と書いてある.
 どどんぱせんせいがある病変を胃底腺ポリープと診断するためには
 「まず臨床的にポリープとし認識していること,腺窩上皮の変化は問わない
 (過形成でも再生性変化でも,腸上皮化生でもよい),
 胃底腺が部分的にでも拡張し,不規則に増生していること」
 を基準にしている.
 弱拡大で見たときに胃底腺の分布が正常とは異なるという印象(不規則な増生)があれば小さい検体でも積極的に診断している
 多発した胃底腺ポリープを見ることがある.その際は家族性腺腫性ポリポーシス (FAP) や PPI 内服の既往を確認すべし

・キサントーマ xanthoma
 泡沫状細胞が間質内に浸潤していること.
 キサントーマとするかどうかについては程度問題のこともあるので,臨床的にキサントーマとして診断されていなければ,とりあえず所見記載にして可能性を言及する程度が無難かと
 月並みな表現だが,印環細胞癌と間違えないこと

○ 胃潰瘍を生検してきました,という場合のポイント
・生検で胃潰瘍と言い切るために必要な要素
 「壊死滲出物,肉芽組織,再生上皮」の 3 つ
・胃潰瘍として採取されてきた検体の多くは非特異的な所見で,上記 3 要素を満たしていないことが多い
・臨床的には癌かどうかが全てなのでこだわる必要はない
・悪性所見がないことを書いた上で,上記 3 要素を満たしていないが,潰瘍辺縁組織としても了解可能,程度の記載がベター

○ ピロリを探せ
・Helicobacter pylori は HE 染色よりも Giemsa, Warthin Starry 染色あたりの感度,特異度が高いようだが,Warthin-Starry 染色を出そうものなら臨床検査技師から大クレームがやってくる
・よって通常は HE 染色± Giemsa 染色で評価している.細かい説明よりも実物を見たほうが早い
・ピロリ菌がいやすい環境を熟知(腺窩上皮に過形成性変化,腸上皮化生が乏しいこと,好中球浸潤が強く,上皮内浸潤も見られること → chronic active gastritis)すること,ただし,そうでないところにもいることはある
・基本的には腺上皮内にいるpyloriだけを検出し,粘液中のピロリ菌は拾わないほうがいい(呼気試験や血中・尿中ピロリ抗体の検査結果と不一致が生じやすい)
・健診で行われた胃生検や検査センターでは言及されない限り,ピロリ菌の有無についてはコメントしない(大人の事情「胃生検でピロリがいるってわかっているのになんで,追加でピロリの検査をするのか!」とか「生検組織でのピロリ菌の検査お金かかるの?」といったたぐいのクレームがくるため)

○ クローン病
・クローン病で胃生検をされることがたまにあるけど,なかなか特異的な所見は乏しい
・肉芽腫が検出できればそれでいいけど,出てこない場合は悩む.そんなときに以下の所見があれば比較的いいやすい(確定的ではない!)
・Focal enhanced gastritis:比較的きれいな胃粘膜内にぽつんと好中球浸潤からなる炎症の focus が存在すること.他には炎症がないのにぽつんとあるため違和感をいだきやすい

○ ランタン沈着症
・病気自体は恐らく前からあるが,ここ最近論文を含めて流行った病気(?)
・透析患者でホスレノール(炭酸ランタン)を内服している人の胃生検で好酸性の沈着物が見られることがある
・とりあえず病的意義はないみたい,いまのところは
・質量分析までする必要はない.ホスレノール内服の既往があればランタン沈着症とすればよいし,なければ,可能性について言及する程度

○ Endocrine cell nest
・内分泌細胞が集簇して粘膜固有層内に胞巣を形成することがある
・A 型(自己免疫性)胃炎で出やすいとされるが,もちろんそれ以外でも出うる
・Endocrine cell nest が多い文脈だと,腺頚部の内分泌細胞も増えていることが多い

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