2025年1月22日水曜日

癌と肉腫の診断の境目とは

# 癌と肉腫の診断上の境界線

一般的に,癌と肉腫は一応発生起源で分類され,癌は上皮細胞由来,肉腫は間葉系細胞由来の悪性腫瘍だと理解されている.病理診断の立場では,上皮性悪性腫瘍やリンパ腫は発生起源である細胞との類似性に診断的根拠を求めることが多いのに対して,肉腫の診断では細胞由来ではなく分化方向に診断的な根拠を求めている.

これはなぜかというと肉腫の場合は由来臓器自体が不明の腫瘍が多く,細胞の由来を突き詰めても分からない場合が少なくないから.例えば,滑膜肉腫は滑膜細胞由来ではないことが判明しているが,では一体どの細胞由来なのかと言われると現時点では誰にも分からない.

つまり,癌と肉腫では診断の基本的な考え方が真逆であり,結果として癌と肉腫の間で診断根拠が対立軸として存在するようなカテゴリーにはなっておらず,むしろすれ違いに近い.分化方向は原則形態的に(及び免疫系質で)評価を行うが,細胞の由来はしばしば判断しにくく形態的な分化方向と矛盾することもある.

# 癌の診断根拠,肉腫の診断根拠

様々な例外を考慮すると,総論的な癌の診断根拠,肉腫の診断根拠を提示するのは実は難しい.例えば,乳腺の小葉癌や類上皮型血管内皮腫を考えたときに,小葉癌は癌の考え方では TDLU 由来なので,癌と診断する.一方,肉腫の考え方ではケラチンが陽性となるものの,上皮性結合に乏しく形態的な分化方向が不明瞭なので肉腫となる.類上皮型血管内皮腫は形態的には癌に見えるが,上皮細胞に由来を持たず癌とは言えないため,除外的に epithelioid という名称が与えられているのだろう.

シンプルに上皮結合があれば癌で,なければ肉腫とするのがわかりやすくて良い.しかし,そうはなっていない症例があることを考慮すると全般的に通用する法則とはいかに?となってくる.現実的には Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive (MECE) でもなく,どちらとも言えないような症例が存在している.そして,そのような症例は除外診断的に肉腫と診断されることが多い.なので肉腫の診断を勉強をすると原発不明癌などの診断スキルが向上するかも?

# 慣習的な診断

結局のところ,どうしているのか.自分が普段診断するときは,病変の場所からして癌が起こっても良さそうな部分では,まず上皮性結合の有無を根拠に癌を積極的診断している.そして場所が unusual で形態像も典型的な癌ではないというときに始めて肉腫の可能性を考慮する.

癌 vs 肉腫という対立構図ではなく,まずは癌からスタートしてそこに合わないときに始めて肉腫を考慮するという戦略で,むしろこちらのほうが自然のような気がしている.実際治療上の観点からも癌と診断することで選択肢は広がるし,実際骨腫瘍も癌の転移が多い.

0 件のコメント:

コメントを投稿

癌と肉腫の診断の境目とは

# 癌と肉腫の診断上の境界線 一般的に,癌と肉腫は一応発生起源で分類され,癌は上皮細胞由来,肉腫は間葉系細胞由来の悪性腫瘍だと理解されている.病理診断の立場では,上皮性悪性腫瘍やリンパ腫は発生起源である細胞との類似性に診断的根拠を求めることが多いのに対して,肉腫の診断では細胞由来...