2017年6月21日水曜日

皮膚生検のやっつけ方〜皮膚病理総論

   改訂履歴    
2017/06/21 初版  
【はじめに】
○ 皮膚病理は難しい
・皮膚病理は臨床所見と合わせ判断する必要があって,病理組織単独で病名を確定すること自体が困難
・腫瘍性疾患は病理のみでの比較的評価しやすいが,炎症性皮膚疾患は臨床的な背景がなければかなり厳しい
・なぜ難しいのかというと,ある組織像を呈する臨床病型が複数あって,逆にある臨床病型が複数の特徴的な組織像を呈することが往々にしてあるため,一対一対応ができない
・多対多対応というのは炎症性皮膚疾患はもとより,腫瘍性疾患でも Bowen 病 vs Bowenoid papulosis などあり,注意が必要

○ 実は病理医にとって皮膚病理を評価することはそこまで求められていない
・皮膚科医は基本的に自分たちだけで標本を見ている
・皮膚科医は病理医の書く病理診断のレポートを参考程度にしか見ていない
・たまに「生検→切除」の流れで,切除検体の病理検査の申込書で,生検診断とは違った診断名で出てくることがある
・そういう不一致例でも特に病理側に話が来ることはない

○ 病理と皮膚科とのコミュニケーション
・皮膚科医との密なコミュニケーションが取れていない環境下では踏み込んだ診断はやめた方がよい
・皮膚科医は病理医の診断が自分たちとの診断が異なっていて自分たちの診断に自信があれば,その診断で通し,もし自信がない or 分からなければ,病理医の診断を採用する
・病理診断は臨床診断に依存していることが多いのだが,生検時点で検体申込書に適切な情報が記載されているとは限らず,我々としてもその情報だけで適切な診断ができるとは限らない(もっというと明後日の意味不明な臨床診断で生検してくる皮膚科医もいる)
・そして,最終的に間違っていた場合にはカルテに「病理検査では●●であったためこうしたが…」という風に病理があたかも誤診したかのような書き方をされる
・他にも学会発表とかでも彼らは勝手に発表していてこっちには一切話しが来ないとか,どどんぱせんせは皮膚科医に対してはとても否定的なイメージを持っているのだが,まぁ愚痴はこれくらいにしておいて要点を次で述べる

○ 炎症性皮膚疾患は所見診断が基本,腫瘍性病変でも書き過ぎは注意
・皮膚生検のやっつけ方では基本的に臨床診断をあまり重視せず,所見診断を基本にする
・ある種の比較的特異的な所見については他に疑うものがほぼないような状況下ではない限り suggestive of, compatible with などを用いるが,臨床医にとってはこれらの表現もいつの間にか取りされてしまうので仕様にあたっては細心の注意が必要
・炎症性皮膚疾患は疾患特異的といえる所見がないことが多く,所見診断で今病変がどのような状態にあるのかについて言及
・腫瘍性病変もある程度臨床像(年齢,性別・部位)が合えば,はっきりと書いても良い

【皮膚病理を学ぶ前の段階】
 ○ 湿疹三角は一応大切な考え方
 ・湿疹 eczema = 皮膚炎 dermatitis でかなり広い概念で,どどんぱせんせいも正直どこからどこまでが湿疹として扱ってよいのか悩む
 ・湿疹三角は一応基本と言われているが,あまり皮膚病理を読む時に重視されていない気がする
 ・別に皮膚科診療をするわけではないので特に知る必要はないが,湿疹というものが「紅斑」から始まって「膿疱」で極まり,治癒あるいは「苔癬化」(≒皮膚の肥厚,いわゆる扁平苔癬とは別物)で慢性化するという流れは知っておくと色々と便利

 ○ 皮膚科で使われる言葉を知るべし
・皮膚科の言葉遣いはとても独特で,初学者が覚えるのは結構辛い
・もっと簡単な言葉遣いにしてほしいけど,もうそうなっている以上はどうしようもない
・全てを最初から覚えるのは無理で,出てきた時に逐一確認するのが現実的

○ 皮膚科で使われる用語〜平坦な病変
・斑:皮膚面と同じ高さの病変
・紅斑:血管拡張による.圧迫により色が消退
・紫斑:出血による.圧迫により色が消退しない
・色素斑:赤血球以外により色が濃くなる(多くはメラニン色素)
・白斑:メラニンの減少により色が薄くなる

○ 皮膚科で使われる用語〜隆起性病変
・充実性:丘疹(<0.5 cm),結節(≧ 0.5 cm, < 3 cm),腫瘤(≧ 3 cm)
・非充実性:
  表皮下までの液体を入れる腔:水疱(Cf. 0.5 cm未満は小水疱),血疱(含む血液),膿疱(含む膿)
  真皮内で液体を入れる腔:嚢腫(=嚢胞だが膿疱と混同しやすい),膿瘍(含む膿)
・局面:径 2 cm以上の扁平隆起性病変(Cf. 0.5-2 cm 小局面, <0.5 cmは丘疹)
・苔癬:丘疹が集簇(Cf. 苔癬化局面とも言える)終始その形を保持して他の発疹に変わらないもの
・疱疹:小水疱あるいは小膿疱の集簇
・膨疹:24時間以内に消失.ほぼイコールでじんま疹を指す用語
・瘢痕:皮膚損傷後 → 線維化で正常皮膚と置き換わったもの

○ 皮膚科で使われる用語〜陥凹性病変
・皮膚欠損:びらん(表皮・粘膜上皮まで)の欠損,潰瘍(真皮・粘膜固有層以深)の欠損.Cf. 外傷によるものは表皮剥離
・亀裂:真皮に及ぶ線状の裂隙(組織欠損を伴わない)
・萎縮:皮膚の退行性変化,菲薄化により陥凹

○ 皮膚科で使われる用語〜その他
・痂皮:滲出液や血液がびらん・潰瘍面に付着し乾固したもの(血液性のものは特に血痂という)
・鱗屑:堆積した角層が大小の薄板となって付着するもの
・掻痒症:掻痒のみで他の症状がないもの
・紅皮症:紅斑と鱗屑が皮膚の90%以上に及ぶ状態

○ 人名の付いた,比較的特徴的な徴候名
・皮膚描記症:皮膚を擦った後,皮膚を擦った通りに出現するじんま疹様の膨疹.物理的じんま疹の一型(正常人の5%程度が示すこともある)
・ダリエ Darier 徴候:病変を擦ったときに,その部分が膨れる現象.例 色素性じんま疹すなわち肥満細胞症
・ニコルスキー徴候:中毒性表皮壊死剥離症およびある種の自己免疫性水疱性疾患の患者で皮膚を優しくずらすように圧迫するときに生じる表皮の剥離
・アウスピッツ徴候:乾癬の局面から鱗屑を剥がした後に点状の出血を生じる現象
・ケブネル現象:外傷(例,引っかく,擦る,損傷)を受けた部位に病変が生じる現象.例 乾癬(+扁平苔癬)で見られる現象

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