2017年6月25日日曜日

結腸・直腸生検のやっつけかた【7. 明らかな悪性・腫瘍性病変のみかた】

2017/06/25 1st edition.
2017/07/07 Last updated. 

○ 管状腺腫(低異型度・高異型度) とは
・典型的には核腫大(紡錘状,あるいは棍棒状と称されることが多い)し,極性の乱れを有する腺管が密に増殖すること(背景の腺管の分布よりも密度が高い)
・異型が強くなると腺管構造の不整も出現してくる
・昔は細胞異型・構造異型を合わせて判定し,異型の程度を 3 段階:軽度異型 (mild atypia),中等度異型 (moderate atypia),高度異型に分類していたが,現在では低異型度 (low grade) = 軽度・中等度異型,高異型度 (high grade) = 高度異型 の 2 分類だが,3 分類が好きな先生は未だに多い

○ 管状腺腫(低異型度・高異型度) の異型度の判断は人によって違いが大きすぎる
・軽度,中等度,高度異型の判断は人によって実に様々
・本当は取扱い規約に明示してほしいところだが,そういう肝心なところが抜けている...どどんぱ先生はこう考えている,という参考例を提示する(もちろん人によって程度の差はとても異なっている)
・軽度異型 細胞異型:核が軽度腫大,均一 構造異型:なし
・中等度異型 細胞異型:核が腫大,やや不均一,極性の乱れあり 構造異型:腺管の大小不同が見られ始める
・高度異型 細胞異型:核の腫大が強い(腫大が強くなると丸く見える),極性の乱れが強く核が表層まで及ぶ 構造異型:腺管構造の不整が強いが癌とするほどの異型はない

○ 管状腺腫 (tubualr adenoma) → 管状絨毛腺腫 (tubulovillous adenoma) → 絨毛腺腫 (villous adenoma)
・絨毛状=乳頭状で,なぜか腺腫の文脈では絨毛状という用語を用いる(これが癌になると突然乳頭状という言い方になる)
・管状腺腫+絨毛腺腫の両方の成分が見られる場合は管状絨毛腺腫とする
・絨毛構造を取っている事自体が悪性度が強いという考えの人は tubulovillous/villous adenoma というだけで high grade にしている

○ 腺癌 adenocarcinoma
・細胞異型,構造異型から診断
 細胞異型は核が腫大し,大小不同,クロマチン濃染,極性の乱れが強い(± 核小体明瞭,核分裂像)があり,
 腺管構造の不整については,胃生検においける乳頭状構造は癌が示唆されやすく,また少なくとも切れ方による変化ではない「癒合腺管」については腺癌(中分化)としてよい
・腺腫との区別は時として難しい(次項を参照)
・細かい組織型については本をよむこと.大体は読めば分かる

○ 低分化腺癌は意外と少ない
・結腸で signet ring cell carcinoma はないわけではないが少ない.
・por1, por2 もほとんどが腺癌が崩れてできたものの結果
・もし signet ring cell carcinoma がメインで出てきた場合は,他の腫瘍の転移の可能性も一応念頭に置く

○ 腺腫と腺癌の違いについて  
・腺腫 adenoma とされている病変は実は少ない.結腸直腸癌では adenoma-carcinoma sequence があることになっているので基本的に腺腫と癌が混在しても良い
・ココらへんが解釈が難しくて,特に高異型度管状腺腫と腺癌 (tub1) でどっちにふるかで悩むことが多い(というかそんなことで悩むくらいなら今晩のご飯を何にするかで悩むほうがよっぽど建設的である)
・悩むような場合は,はっきり言ってどっちもで良いが,保険診療上は腺癌にすると好まれやすい(これもどーでもいい話)
・どどんぱせんせい的には「核が(紡錘形ではなく)丸く腫大し,大小不同が強い」「腺管構造の不整が強い(癒合腺管が出現あるいは出現しそう)」なときに腺癌と解釈している
・ただ,腺腫 vs 腺癌は施設間の差もあるため,上記を念頭において上司に従うのが無難

○ Carcinoma in adenoma vs carcinoma with adenoma component
・腺腫<腺癌の場合 carcinoma with adenoma component
・腺腫>腺癌の場合 carcinoma in adenoma
・とする.ただそれだけの話.

○ 潰瘍性大腸炎関連の異形成の評価はほんとつらい
→ 潰瘍性大腸炎のところで続けて話してしまった.あーもう潰瘍性大腸炎の標本見たくない!

○ GIST vs 平滑筋腫 (vs 神経鞘腫)
・消化管の筋層内にできる紡錘形細胞腫瘍の筆頭格が GIST
・食道は平滑筋腫,胃は GIST が圧倒的に多い.結腸直腸は GIST が多いけど,平滑筋腫や神経鞘腫も起こりうる
・EUS-FNA みたいな小さい組織で採取されていることも多い.HE 染色で分かるという人もいるけどやっぱり免疫染色は必須(提出するもの→ AE1/AE3, CD34, S100, αSMA, Desmin, c-kit, Ki67)
・GIST をより疑う免疫染色の結果:c-kit 陽性,CD34 はたまに陽性,ほかは基本陰性
・平滑筋腫の免疫染色の結果:αSMA, Desmin 陽性(2 種類以上の筋系マーカーが陽性となることが大切!)
・神経鞘腫の免疫染色の結果:S100 陽性
・c-kit 陰性の場合は DOG1 (DOG: discovered on GIST という再帰的な名称) や PDGFRα があれば試してみる

○ リンパ腫にも注意せよ
・結腸直腸のリンパ腫自体は結構頻度は少ない
・やっぱり diffuse large B cell lymphoma, MALT lymphoma (MALT lymphoma は意外と少ない...)が有名だが, Burkitt lymphoma も結構多い(あとこまかいことをいうと,CLL/SLL の結腸浸潤とか,腸管リンパ節で言うと follicular lymphoma とか)
・ちなみに小腸腫瘍自体が少ないが,その中でも lymphoma は比較的多い印象
・診断は通常のリンパ腫に準じるけど,もし迅速診断とかでリンパ腫と分かれば flowcytometry はいかがですかー?と声を掛けてあげると親切

○ 他の癌の結腸への転移は頻度が少ないが,直接浸潤については注意が必要
・普通の腺癌じゃないなと思ったら必ず既往を確認
・膀胱癌や男性ならば前立腺癌の直接浸潤というのもありうる(広範に進展しており,さ〜原発はどれでしょクイズみたいなとき)

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