2017年6月25日日曜日

結腸・直腸生検のやっつけかた【4. 潰瘍性大腸炎・クローン・アメーバ・サイトメガロウイルス】

2017/06/25 1st edition.
2017/07/07 Last updated.  

○ 潰瘍性大腸炎の評価のポイント
・潰瘍性大腸炎の生検診断はとてつもなく面倒くさい.どどんぱ先生は潰瘍性大腸炎の生検が回ってくるたびにうんざり
・しかもラボの標本だと時間がかかってコスパが悪いのであんまり好きではない...愚痴はそれくらいにしておいて..
・潰瘍性大腸炎であることの担保は何はともあれ慢性炎症 chronicity があること
 腺管の配列の異常や杯細胞の減少は慢性的な炎症による腺管の変化・改築を示唆している
 あれば,腺底部の慢性炎症細胞浸潤は basal plasmacytosis と言って潰瘍性大腸炎に比較的特徴的である
 あれば,左半の結腸における Paneth 細胞化生は慢性炎症を示唆する(右半結腸では正常でも見られる)

・潰瘍性大腸炎に特異的な所見はないとされるが,上記を念頭に慢性炎症及びその痕跡を記述して,かつ急性期の変化の有無について言及,さらに dysplasia を含めた悪性所見の有無を記載し終わる
・活動期の所見
 粘膜全層にびまん性炎症性細胞浸潤:小さい生検で語るのは難しいが「びまん性」であることがポイント.小さい生検の中においてすら場所により粗密がみられるようであればびまん性とは判定し難い
 陰窩膿瘍:腺管の中に好中球浸潤があれば言う.腺上皮内への浸潤であれば陰窩炎となる
 高度な杯細胞減少:何を持って高度とするのか不明だが,正常の腺管に比して明らかに減少している場合はありと判定
・寛解期の所見:別に寛解期のみの所見ではなく,急性期に見られても良い.寛解期はこれくらいしか見られませんよ,という意味
 腺の配列異常(蛇行・分岐),萎縮:強拡大では評価しにくく,弱拡大で評価を.そもそも正常では腺管は底部が密度が高く表層に行くにしたがって腺管密度が低くなる.そして腺管構造は基本的に丸あるいは楕円形である.その正常構造から外れているのかどうかを判定する

・Matts grade を記載(http://immuno2.med.kobe-u.ac.jp/20060605-3485/ より)
 Grade 1: 正常
 Grade 2: 円形細胞,多核白血球の粘膜・粘膜固有への浸潤
 Grade 3: より多くの細胞浸潤,一部粘膜下層
 Grade 4: 陰窩膿瘍,粘膜全層の著明な細胞浸潤
 Grade 5: びらん・潰瘍・粘膜壊死,著明な細胞浸潤
 ここでいう円形細胞は恐らくリンパ球,形質細胞を指し,細胞浸潤というのは広く白血球を指すと思われる.ちょっとでも炎症があれば Grade 2 になるし,陰窩膿瘍がなくても炎症細胞浸潤が高度のときは Grade 3-4 にせざるを得ないなど使い勝手が悪い

・潰瘍性大腸炎を起源とした異形成,癌の判定は難しい
 腫瘍性変化を示す場合,通常の管状腺腫とは振る舞いが違うことが多い
 比較的フォローアップされる頻度が多いので臨床的にもなるべく早期で見つけたほうがよい(何度も生検されているにも関わらずスルーされ続けて進行癌になったというケースも少なからずある....)
 わかりにくい理由はすでに腺管の改築が起こっており,腺管の密な増殖,腺管構造の不整といった構造異型が乏しいケースが多く,サーっと見てしまうと腫瘍性変化に気づきにくい
 よってぱっとみ悪くなさそうでも,核異型(核クロマチンの増加,極性の乱れ)に着目し,他の部位の検体と比べて明らかにおかしいと判定すれば積極的に Ki67, p53 染色を行う.それで有意な陽性所見があれば最低でも dysplasia として,次回の生検に注意してもらう(内視鏡的に dysplasia を判定するのは多分無理)
 → 厚生省分類を記載.古いし写真もわかりにくいし,誰か新しい分類を作るべきだと思うが,仕方ない.UC-I(明らかな炎症性変化), IIa(鑑別難しい:炎症より), IIb(鑑別難しい:腫瘍より), III (明らかに腫瘍:腺腫以上),IV(癌)で分類 
 → 潰瘍性大腸炎の際は規約上 Group 分類は基本用いない(が!検査センターでは要求されることが多いので注意!)

○ クローン病の評価のポイント
・クローン病は潰瘍性大腸炎と違って肉芽腫があるかないかがポイントなので比較的簡単
・潰瘍性大腸炎との鑑別が難しい(中間型?)みたいな臨床診断のときはとても残念だが,潰瘍性大腸炎に準じて記載をして,肉芽腫の有無について判定する
・クローン病でみられる肉芽腫は結構小型で不明瞭で,サーッとみてしまうと見逃してしまうのでその目で見る
・こういうと元も子もないけど,肉芽腫の存在自体がクローン病の確定診断の根拠ではない(なくてもよい)し,潰瘍性大腸炎に肉芽腫があってもよい.あくまで内視鏡診断が元になる
・クローン病由来の癌はないわけではないが,かなりまれなので,異型があって迷う場合以外は基本ないものとして進める

○ よくある感染症は見つける努力を(Spirochete, Amoeba, CMV)それ以外は培養に丸投げを
・腸管の感染症はよくあるが,実際に同定するのは難しい
・スピロヘータ spirochete とアメーバ amoeba は見つける努力を.特にアメーバは重要
・CMV は疑ったら必ず免疫染色をすること

○ スピロヘータは見逃しやすいがダメージも少ない
・スピロヘータ感染症は結構頻度としては多い(腺腫の背景にくっついてきたりする)
・臨床的にはあってもなくても特に問題ない(原因不明の下痢でスピロヘータ感染症があればメトロニダゾール内服を考慮,する程度)
・表層の腺上皮につく,紫色のケバケバ.線毛と紛らわしいが,スピロヘータが全体的に付着することは少なくて,どこか正常の部分があることが多いからそこと比較する
・特殊染色はワルチンスターリー染色,ギムザ染色あたりが有名だけど,ワルチンスターリー染色を出すと技師さんにとても嫌がられる.免疫染色だと Treponema(梅毒)の抗体が交叉反応をして陽性になる

Point: スピロヘータ疑いの症例に対してワルチンスターリー染色をオーダーしてみると,臨床検査技師から自分がどの程度信頼されているか,好かれているかが分かる

○ アメーバは常に頭に入れておく
・アメーバにかかるは特殊な事情の大人だけではない.一般人も海外旅行に行くなどで普通にかかる
・びらん状の炎症の強い粘膜に表層よりに丸くて小型の核を有する細胞がぱらぱらあって,細胞内には赤血球を含む
・PAS 染色で陽性になる

○ CMV (cytomegalovirus) は免疫染色を是非とも行う
 ・潰瘍性大腸炎などの文脈で「臨床的に CMV 感染を疑います」という一文があれば必ず免疫染色を行う
 ・典型的には核内に紫色の塊の封入体が見られるのが特徴だが,早期の感染では証明されないこともしばしばある
 ・免疫抑制をかけるべきなのか,抗ウイルス薬を投与すべきなのか,大きな分かれ道になるので重要

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