2025年1月22日水曜日

癌と肉腫の診断の境目とは

# 癌と肉腫の診断上の境界線

一般的に,癌と肉腫は一応発生起源で分類され,癌は上皮細胞由来,肉腫は間葉系細胞由来の悪性腫瘍だと理解されている.病理診断の立場では,上皮性悪性腫瘍やリンパ腫は発生起源である細胞との類似性に診断的根拠を求めることが多いのに対して,肉腫の診断では細胞由来ではなく分化方向に診断的な根拠を求めている.

これはなぜかというと肉腫の場合は由来臓器自体が不明の腫瘍が多く,細胞の由来を突き詰めても分からない場合が少なくないから.例えば,滑膜肉腫は滑膜細胞由来ではないことが判明しているが,では一体どの細胞由来なのかと言われると現時点では誰にも分からない.

つまり,癌と肉腫では診断の基本的な考え方が真逆であり,結果として癌と肉腫の間で診断根拠が対立軸として存在するようなカテゴリーにはなっておらず,むしろすれ違いに近い.分化方向は原則形態的に(及び免疫系質で)評価を行うが,細胞の由来はしばしば判断しにくく形態的な分化方向と矛盾することもある.

# 癌の診断根拠,肉腫の診断根拠

様々な例外を考慮すると,総論的な癌の診断根拠,肉腫の診断根拠を提示するのは実は難しい.例えば,乳腺の小葉癌や類上皮型血管内皮腫を考えたときに,小葉癌は癌の考え方では TDLU 由来なので,癌と診断する.一方,肉腫の考え方ではケラチンが陽性となるものの,上皮性結合に乏しく形態的な分化方向が不明瞭なので肉腫となる.類上皮型血管内皮腫は形態的には癌に見えるが,上皮細胞に由来を持たず癌とは言えないため,除外的に epithelioid という名称が与えられているのだろう.

シンプルに上皮結合があれば癌で,なければ肉腫とするのがわかりやすくて良い.しかし,そうはなっていない症例があることを考慮すると全般的に通用する法則とはいかに?となってくる.現実的には Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive (MECE) でもなく,どちらとも言えないような症例が存在している.そして,そのような症例は除外診断的に肉腫と診断されることが多い.なので肉腫の診断を勉強をすると原発不明癌などの診断スキルが向上するかも?

# 慣習的な診断

結局のところ,どうしているのか.自分が普段診断するときは,病変の場所からして癌が起こっても良さそうな部分では,まず上皮性結合の有無を根拠に癌を積極的診断している.そして場所が unusual で形態像も典型的な癌ではないというときに始めて肉腫の可能性を考慮する.

癌 vs 肉腫という対立構図ではなく,まずは癌からスタートしてそこに合わないときに始めて肉腫を考慮するという戦略で,むしろこちらのほうが自然のような気がしている.実際治療上の観点からも癌と診断することで選択肢は広がるし,実際骨腫瘍も癌の転移が多い.

2024年11月4日月曜日

2024 年度病理専門医試験の総括(疾患当てクイズ編及び病理解剖)

どどたんせんせは毎年病理専門医試験で公開された問題を集計してデータベースを作成しています.そのデータベースからいくつか抽出して考察をしてみる.まずは疾患あてクイズから.

# 最近の平均点の傾向

平均点は過去 24 年間をたどると多少変動があるものの,おおむね 3.3 - 3.8 点程度を推移している.直近でいうと,少しずつ平均点及び中央値が下がっている.

過去 5 年間での平均点の平均の推移
  • 2020 3.79
  • 2021 3.58
  • 2022 3.73
  • 2023 3.57
  • 2024 3.51

過去 5 年間での平均点の中央値の推移
  • 2020 4.055
  • 2021 3.825
  • 2022 3.925
  • 2023 3.775
  • 2024 3.755

難化傾向とも言えなくはないが,平均点の差は出題内容と併せて見るにほぼ誤差と言える程度であり,良質の問題からなっている.後述するように全体的に安定した問題セットであり,病理診断の実力を測定するに格好の出題である.若干の難問を除いて少なくともここ数年は安定した出題になっており,来年度の受験生はオーソドックスな勉強で全く問題ないと言える.

# 正答率の高かった問題

  • Infective endocarditis
  • Invasive lobular carcinoma
  • Condyloma acuminatum
  • Sebaceous carcinoma
  • IgG4-sclerosing cholangitis
  • Low-grade appendiceal mucinous neoplasm
  • Metastatic carcinoma
  • Adenocarcinoma
  • Cholangiocellular carcinoma
  • Angiosarcoma
  • Splenic infarction
  • Medullary carcinoma
  • Trichilemmal cyst
  • Amebic colitis
  • Solid pseudopapillary neoplasm
  • Salivary duct carcinoma
  • Lichen planus
  • Glioblastoma, IDH-wild type
  • MALT lymphoma

4.5 点以上の得点の問題を取得した問題を提示している.これらは骨髄の癌転移以外は全て過去に出題されている問題であり,その多くは過去数年で出題されている.そして過去に出題されているときよりも正答率が上昇しているものが多い(多くの人が試験対策をしている).もちろんここに掲示されている問題はいずれも基本的かつ重要な疾患であり,過去に出題されているかどうかによらず専門医レベルとしては解答できなくてはいけない.

このように,病理専門医試験では同じ問題が繰り返し出される.もちろん日常の診断を丁寧に行っている人にとっては簡単と感じるかもしれないが,多くの人が取れる問題で取りこぼさないためにも過去問のレビューは必要である.言い換えると,多くの人が「試験対策」を行っている現状での得点率であり,8-9 割程度の得点を取れる人でなければ試験対策は必須と言える.

# 正答率の低かった問題

その中で平均点が 2.0 を切った疾患は以下の通りである.
  • Mixed neuroendocrine-non-neuroendocrine neoplams
  • Ductal hyperplasia
  • Peutz-Jeghers polyp
  • Parosteal osteosarcoma
  • Glomus tumor
  • Small cell carcinoma
  • HSIL
  • Lipoblastoma
  • Endometriosis
  • Follicular hyperplasia
  • Anterior lobe of pituitary gland (normal histology)
  • Inverted papilloma
  • Epidermoid cyst
  • Right lung S6 (normal anatomy)
Ductal hyperplasia は 2001 年を最後に出題されていなかった(その時の平均点は 3.01 点).Glomus tumor のように過去に出題されてはいたが,胃の出題は初めてなど,比較的稀な臓器での出題が見られた.子宮頸部細胞診の HSIL は何度も出題されているが,細胞診として出されると正答率は比較的低めである(気持ちはとても良くわかるが).気管支擦過の Small cell carcinoma も細胞質を少し認識すると腺癌と間違える可能性もある.

これらの疾患について次のような傾向にまとめられる.
  • 新規出題(過去に出題例がない)あるいはかなり昔の出題からのリサイクル
  • 異なる臓器(≒好発ではない臓器)での common な疾患
  • 正常構造,反応性,良性疾患の出題

# 今回新規に出題された問題

  • Anterior lobe of pituitary gland (normal histology)
  • C3 nephritis
  • Endometrial stromal breakdown
  • Intramuscular lipoma
  • Lipoblastoma
  • Myxofibrosarcoma
  • Parosteal osteosarcoma
  • Secretory carcinoma
  • Adenomatoid odontogenic tumor
  • Follicular hyperplasia
  • Intracholecystic papillary neoplasm
  • Thymic cyst

分類の仕方によって多少違いはあるが,2001-2023 までの過去の出題例から見て新規出題と思われる疾患を抽出してみた.唾液腺の secretory carcinoma は 2009 年に乳腺の secretory carcinoma として出題されている.Endometrial stromal breakdown は HE だけで診断するのはちょっと難しいような感じもあるが,正答率はやや高めである.C3 nephritis はかなり難しいとは思うが,蛍光抗体と併せて出題されるとそこまで難しくはない.比較的新しい疾患は組織形態像ではなく特殊検索などにより定義されているため,HE のみでは出題しにくく,免疫染色や FISH などが出されるとすぐわかってしまうという難しさがある.そのため「診断に有用な免疫染色は?」みたいな変化球的な出題になりがちである(例:mantle cell lymphoma -> cyclin D1, Burkitt lymphoma -> MYC, well-differentiated liposarcoma -> MDM2).

今回の問題セットで印象的なこととして,intramuscular lipoma, lipoblastoma, myxofibrosarcoma, parosteal osteosarcoma が出されている.報告書にも記載されているが,骨軟部腫瘍で新規出題がなされている.もちろん正解できたらすごいが,わからなくてもしょうがないと思っている.Intramuscular lipoma は well-differentiated liposarcoma との鑑別が必要になるし,後 3 者は骨軟部腫瘍の専門施設でないとおそらく見ることはないだろう.対策をすること自体は否定しないが,骨軟部腫瘍は放射線画像を含めてある程度読める必要があるのと,組織像が疾患同士で overlap しうるので,研修環境にいなければ無理に勉強しなくてもいいように思う.

# 病理解剖問題は安定した定番の出題

多発性骨髄腫 → アミロイドーシス → 心不全及び多臓器不全 → 死亡というシンプルな出題であった.病理解剖で経験しなくとも,骨髄生検や胃生検などで類似した経過をよく経験するので,自験例の病理解剖としてみたことがなくてもおそらく解答自体は可能なはず.

骨髄腫とアミロイドーシスの関連を言及できていない受験生がいたと報告書に記載があるが,それは流石にまずい...

強いて言うなら,アミロイドーシスの 5 亜型を全て完璧に述べるのは難しいかもしれないが,少なくとも 2-3 種類は答えられるはずで,部分点を狙いに行くことで十分合格点に達せられるようにできているはずである.

# フローチャートの問題

何度も言っているが,病理専門医試験の出題委員は試験の専門家ではないし,どうやら病理専門医試験自体は統括されていないように見える.それは特に病理解剖問題の出題や模範解答に年ごとのばらつきが強いところに見られる.従来であれば多発性骨髄腫 → アミロイドーシスというシンプルな矢印になっていたし,アミロイド生成・沈着という過程を示すような項目が中心に来ることは稀である.

病理解剖の主病変・副病変,及びフローチャートについては何をどのように書くべきかについてはきちんとした公式の定義自体は存在していないように見える.病理剖検輯報の記載方法が唯一のルールであるが,これも網羅的とは言い難い.この問題については何年も前から様々な人が声を上げているが多分解決されないだろう(病理解剖に本質的な意味での再現性や客観性を求めると,病理解剖自体が成立しなくなるか,非常に限定的な意味合いしかもたなくなってしまうので).

# 今後の対策

今回の分析では過去問を完璧にすることで 86% の問題は正答を得られる可能性があることが分かり,疾患当クイズ (I+II 型) については現行の過去問やクイックレファレンスなどの勉強方法で十分である(2023 年は 82%).ただ,懸念される点としては,試験対策としての完成度が上がるほど出題する側としては対策をせざるを得なくなり難化傾向に繋がりがちである.

さらに近年では疾患概念の変遷に伴って,従来の疾患名を答える問題だけではなく遺伝子異常を答える問題や,正常構造や良性疾患等の従来あまり出題されなかった疾患,切り出しや迅速診断などより実務に即した問題が出題される傾向にある.病院で病理診断のトレーニングをしている人にとっては通常業務を聞かれていることになり,より有利になるが,研究と同時にトレーニングをしている人には少し厳しいかもしれない.

正常構造を問う傾向は今後も続くと思われ「病理と臨床 2017年臨時増刊号 病理診断に直結した組織学」などで知識の補強を行うことが望まれる.

なお,I 型の○✗問題については,過去問+αで新しい問題が出題されている.法律関係や保険診療関係は学習をしようとしても幅が広くなるかつルールが変更されるので,深入りはおすすめしない.トレンドはあるにはあるが,せめて過去問をカバーする程度にしたほうがコストパフォーマンスの観点からは必要十分である.

病理解剖についても近年は比較的素直な(言い換えれば臨床情報を読めば主病変・副病変の大方が判明するような)出題になっている.病理専門医試験の中で,臨床的な知識と経験が要求される問題であるため,日頃から臨床病理相関をつける癖をつけることと,もし内科的知識が足りないという自覚があるのであれば,シンプル内科学など,網羅的な内科の教科書を通読することをおすすめする.

2024年6月28日金曜日

ちょっとした話題

 # Stay away from SNS

最近は少し SNS から遠ざかっていて,要するに研究をしろということでもある.別に SNS をやりながら研究をすることも全く問題なくできるのだけれども,気合を入れましょうということと,もう一つはブログを充実させたいという意向も若干はある.

病気のことを綴ると身バレするかもとか色々考えていたが,まぁどうせ同業者にはバレているところもあるので,表面的な匿名性があればよいということにしようかと若干舵取りを変えつつはある.

# Effect of SNS / Recruiting

2017 年あたりから峰先生とほぼ同時期に(正確には誘われて?)Twitter/X を始めたときには,まだそんなに Twitter をやっている病理の先生はいなかったように思う.いや,いたけど,今ほど多くはなさそう.今は Twitter/X をやって情報を得るという雰囲気がある.

SNS には Facebook, Instagram, Twitter/X, Threads などがあるが,Facebook は中高年,Instagram は若年向けで,いわゆる若手と称される年代の病理医には Twitter/X が相性が良さそう.ただ,流行り廃りは当然あるので次の platform を探していかないといけないのかもしれない.

Twitter/X は recruiting の platform としても秀逸で,転職をしたい病理医の動向を探るのに非常に良い.これまでもそこそこの人数の転職について相談に乗ってきた.ただ,何人かは病理医としての転職ではなく転科という決断をしてしまったのが非常に残念なところ.色々提案をしても諸事情でその地域から動けない,でもその地域で病理医を続けていくことが実質的に難しいということで転科してしまう.これは自分一人で解決できる問題でもないし,仕方ない側面もあるけどあまり気分の良いものではない.

# Diagnostic Criteria

ここで病理らしい話題を一つ.このブログを始めた当初からそういう傾向があったが,やはり近年は遺伝子異常が病理診断の重要な要素を占めるようになってきている.あーそれで難しい症例も細かく分類しなくても良くなったから良いね,といいたいところだが,そうはうまくはいかないようだ.

例えば,現在は MDM2 遺伝子の増幅のない脂肪肉腫を高分化・脱分化型脂肪肉腫と診断する人は多分ほとんどいない.これは少なくとも典型例のほぼ全てと非典型例でも大部分が MDM2, CDK4 染色陽性かつ当該遺伝子の増幅が見られているからであって,現在では実質的な定義になっている.これだけ一般的になってしまうと,逆に陰性だったあるいは増幅が見られなかった場合はどのように解釈すればよいか迷ってしまう.教科書には書いていないので,エキスパートに尋ねるか,エイヤと診断するか.

もっというと,MDM2 遺伝子の増幅は脂肪肉腫だけではなく癌腫などでも見られる.だから MDM2 遺伝子の増幅を高分化・脱分化型脂肪肉腫の定義にしてしまうと,またそれはそれで齟齬が生じてしまう.最近では MDM2 Amplified Sarcoma という概念もあるが,それはあくまで sarcoma に限定している.

現時点では形態像及び臨床像(部位や年齢など)を元にして,それに見合うような典型的な molecular findings が得られた場合に definite と診断をする.これは異論はないだろう.これらの所見にずれが生じた場合は unusual な臨床像・形態像を示す腫瘍とするか,unusual な molecular findings を示す腫瘍とするかは見解の差になる.どちらも unusual だとそもそも当該腫瘍を考えないか.

ただ,将来的には腫瘍の診断が molecular findings で再編成されて,脂肪肉腫も例えば MDM2 amplified liposarcoma, DDIT3-rearranged liposarcoma, Rb1-dedificient liposarcoma, liposarcoma NOS みたいな感じになるのかもしれないな.まぁそれはそれでスッキリしていて良さそうだけどね笑 Rb1-deficient は lipoma もあるから注意が必要か.


2024年6月6日木曜日

病理診断のスタンスの変化

 # 仕事終わりの 22:30

バドミントンが終わって,仕事の(病院業務ではない)メールを返し終えて,ガストで一息つきながら,臨床細胞学会に行こうか行くまいか悩み中のところ.もう前日まで差し掛かっているのにね.

病理診断の専攻医の先生たちにそこそこ読んでもらっているようだが,最近は病理診断自体に対して興味が尽きたのか?笑あまりネタとして投稿することは少ない.専攻医の先生たちとの interaction を通してブログや記事のネタを書いていたというのもあって,今は専攻医の先生の指導から離れており,それも記事を更新するというモチベーションが少なくなった理由かもしれない.

# 病理診断のトレンドの変化

病理診断にもトレンドの変化はある.自分は卒後 15 年以上経ってしまった.未だにわからないことや誤診をすることもちょこちょこあり,良く言えば進歩なのかもしれないが,15 年もやってそれかよ,と言われそうで怖い.さすがに他の診療科に転科する気力はないので今の状況で定年まで惰性で続けるしかないのだが.

さて,前置きが長くなったが,病理診断のトレンドの変化について概説してみようかしらね.

  • 「病理解剖→手術材料診断→生検診断」
  • 「免疫染色,FISH, PCR → CDx → CGP, methylation profile etc」
  • 「3 段階分類 → 2 段階分類」
  • 「良悪性 → 境界悪性・リスク分類」
  • 「形態ベースの疾患単位 → 遺伝子変異ベースの疾患単位」
書こうと思ったけど,手も疲れて眠くなってきたので,とりあえずトピックだけ書いておこう.他にあるかしらね.病理診断が進化するのはしょうがないというかそういうもんなんだけど,自分がいつまで追いついけるのかだんだん自信がなくなってくるよね.






2024年5月15日水曜日

カンボジアの病理診断(終わりの始まり編 2)

 # 続きの話

カンボジアに到着した翌日に,懇意にしていただいている,とある日系の病院に見学をさせてもらって色々とお話をしたところ,前回ブログに書いたようなことはだいたいあっていたみたい.でもこれを改善するのはなかなか難しい,というか個人で改善するとかそういうレベルではない.

# マクロ図の作成

分かる人には分かってもらえるカンボジア病理あるあるの一つに,写真撮影あまりしない・マクロの切り出し図を作らないというのがある.すべての病院・検査センターで確認した訳では無いが,これは面倒を見ていた検査センターだけではなく多分カンボジアの病理一般に言えるのではないか?という気がする.彼ら,彼女らが研修に行った国は恐らくどこでもマクロ写真に線を入れて切り出しをしていたはずのように思う.写真だけ撮って(あるいは写真すら撮らずに)組織像だけで判断するのはとても危険なことであると,何度言ったことか.

なぜ彼らがマクロ図の作成をこれほどまでに拒むのかよくわかない.一つ言えるのはきちんとしたシステムを作らない限り結構面倒な作業で,さらにはぱっと目に見える結果に対するインパクトが弱い.切り出し図がなくてもある程度は憶測で診断できてしまう.しかも切り出しをした本人であれば,切り出し直後はある程度覚えているはずだろうから何ら問題はない.でも数ヶ月後,半年後に覚えていますか?と言いたくなる(実際何度も言った).

# この環境下で自分にできることとは

もっと厳密に言うと,そもそも自分がする必要があることなのか,というかなり根本的な疑問に突き当たる.個人でできることなんてたかが知れているし,全体に対するインパクトを残すことは難しい.本来はチームあるいはもっと大きな規模で取り組んでようやく結果が出せるか否か,ということになる.まぁせっかく関わりだしたんだし,というすごくゆるいモチベーションであることは認める.

前回の投稿でカンボジアには病理診断は不要,ということを言ったが,それは病理診断の前に解決巣べきことが山積みでそれらを無視あるいは軽視して病理診断の向上を図っても,インパクトが弱いあるいは空回りをするだけのように見えるからである.これで飯を食っている側からすると,必要に決まっているでしょ!とすごく言いたいのだが,彼らの目前のニーズを満たした上でさらに,という話になる.アウトリーチもぱっと病理診断の話をするのではなく,数段階に掘り下げた形で行わないと多分意味がない.自分にできることはとりあえずはなさそう,という否定的な印象.

# 最高水準の病院を作り上げること

今回,見て回った中で,カルメット病院は他の病院と違ってかなり近代的な建物ですごく良さそうに見えた(多分中身も充実しているものと期待したい).他の病院は,,,,悪くはないのだが少し厳しい印象.

日系の某先生曰く(かつ自分の見聞きした経験からも)クメール・ルージュ前後を生き抜いた人たちのカンボジアの医療に対する不信感は非常に根強い.実際自分が 5 年前にタイ経由で訪れた時に隣りに座っていたカンボジア人の老婦人と少し話をしたのだが,彼女は高血圧と糖尿病の経過観察のために定期的にタイに行っていると,しかも飛行機で.自分からしたらそんなのどこで経過を見ても変わらないでしょと思ったのだが,その後色々経験する中でカンボジアの医療は信用されていないことがわかった.病理診断も同じくで保健省の某幹部は「カンボジア国内での病理診断の信頼性が低いため,検体が海外に流出することを黙認せざるを得ない」と言っていたとか.確かに 2019 年時点は質が高いとは言い難かった.でも 2024 年の今は違う!昔と違う!確実に良くなって来ていてかなり高い水準にある!と声を上げて言いたいのだが,多分誰も聞いてくれない.

何でもそうだけど,質を評価するには評価する側にもある程度の素養が求められる.素養がない中での高評価はただの盲信である.日本製だからいいに違いないとかね.そして,もう一つ,日本の質と同等だと認めてもらうためには,日本の質を超える必要がある.同等では決して認めてもらえなくて,日本の質を超える非常に高い品質を打ち出せて初めてその価値を認められる.それまではただの劣化コピーという認識でしかない.

タイやベトナムに流出してしまう人たちをもとに戻すためには,一つでもいいからカンボジア国内で世界と同等の最高水準の病院を作って,そこをフラグシップモデルとして確立し,いわゆる富裕層の人たちが「カンボジア国内でここの病院で治療を受けて駄目なら諦められる」と思えるような状況を作り出すこと.もちろん貧しい人たちは受診できないかもしれない.でもそうやって最高水準の病院が要となって医療水準全体の引き上げに貢献する.その際に病理診断のパートとして,自分はその最高水準を提供するための少なくとも人的リソースとして提供する準備はできているのだが,恐らく声をかかることはなさそうだろうな.自分は好き勝手にやりたがるから.

そして最高水準の病院であるためには,カンボジア国内から何かしら世界に対して something new を出す必要がある.先ほども言ったが,悲しい現実として,同等はただの劣化コピーとみなされる.競合を超えるあるいは違う新しい価値を提供したときに初めて同等以上の存在としてみなされる.同等というのはお互いが切磋琢磨して拮抗している状況で初めて認識されるもので,「追いついた」状態ではない.

# Think globally, act locally

非常に有名な話で,確か地球環境問題が origin だったような記憶だが,結局何でもそうと言える.仮に検査センターのラインが潰れたとしても,他のラインはないのか,どこかに解決の糸口が見つかるのでは?個人でやっている以上はある意味完全に自由なわけで,それを常に考えているところ.

論理的に考えて見つからない解決方法も時間が経てば向こうからやってくる可能性もある.来たるべきチャンスを確実に逃さないために,情報収集と準備は常に怠らないこと.とりあえずは表面的に終わりになりそうだが,いわゆる commencement で終わりの先には新しい何かが始まるはず,である.

# ついでに

自分はカンボジアで自分のことを話をするにあたって,日本の病理医(日本での病理専門医,細胞診専門医,分子病理専門医)であることを比較的強調をしている.それはカンボジア人に対してもだし,カンボジアで働いている日本人に対してもである.特にカンボジアで働いている日本の臨床医に対しては,某有名病院でも勤務していることをちらつかせながら(安い給料で働いている分を取り戻すために?),こんなすごいところで働いている自分はとても優秀な病理医なんですよ!ということを暗に示し泊をつけている.

はっきり言って,同業者に対してこんなことをしてもただのナンセンスなのだが,カンボジア人や日本の臨床医には自分の実力がどうかなんてはっきり言ってわからないわけで,結局盲信的ではあるが,専門医だったり日本で仕事しているといった周辺的な情報で判断せざるを得ない.こういう売り方はあまり好きではないのだが,目的を達成するためには多少の味付けも許容されよう.そして多分しばらく一緒に仕事をしてもらえると,ちゃんと中身を伴っているのだということが次第に理解される.

某有名病院での勤務とか分子病理専門医とかマジでいらねーと思っていたが,今になって体外的な泊をつけるためには確かに必要なのかなとも思ってきた.だからといって維持したいかと言われると微妙だけどね.

2024年5月13日月曜日

カンボジアの病理診断(終わりの始まり編)

 # 終わりなんてものはそもそもないが,,,

ひょんなことから自分のカンボジア病理診断の個人的な支援が終わり近付こうとしている.これが本当に終わりになるかどうかは自分にも(誰にもわからないし)もしかしたら新しい形で違う取り組みが始まるかもしれない.いずれにせよ,これまでのような支援の形は一度終わりにするということ.

今回はわずか滞在2日間という強行スケジュールで来てみて,最初から最後まで自力で旅行を終えようという試み.もしさらに言いたいことがあれば違う記事で追加するかも.

はじめに言っておくけど,今回は病理診断に関する話題はほとんど出ません.

# 羽田空港から北京空港,プノンペン空港まで

今回は中国国際航空を trip.com でチケットを発券.決して評判がすごくいい組み合わせではないのだが,チケットが非常に安くてこれならいいかなと思ってポチってしまった.チェックインが 36 時間前ということで羽田→北京行きは簡単にチェックインできただが,北京→プノンペン行きはチェックインできなかった.普通乗り継ぎ便の場合は一緒にできることが多いが,中国国際航空はチェックイン時刻がそれぞれ違うらしい.

結局,羽田→北京だけしたのだが,そのあと時間が来て北京→プノンペンのチェックインをしようとしてもエラーが出て全然進めなかった.10 回くらい時間をおいて試したがだめで結局諦めて空港でチェックインすることにした.

というわけで,チェックインのためにかなり早めに空港についたのだが,案の定チェックインカウンターは空いておらず,機械でもできない仕様のよう.こればかりはしょうがないので,時間を潰して待ってチェックイン.それからぶらぶら散歩やアイスを食べながら待って制限エリア内へ.

機内は普通で可もなく不可もなく.ただ,羽田→北京便なのに日本語が全く通じないのはちょっと不満.しかも自分の見た目が中国人と大差ないせいか中国語で聞いてこられるけど,当然返答できないため??となる.まあ聞かれることなんてビーフかポークかチキンかフィッシュかと飲み物くらいだからなんとかなるんだけどね.

うとうとして本を読んでいたら,北京へ到着.北京首都空港は広いけど,閑散としている.最近あたらしい空港に大半の飛行機が移ったみたいで?人通りも少ないし,お店もちょこちょこ閉まっている.大丈夫か?とちょっと思ってしまうけど,まぁ心配するほどのことでもないでしょう.トランジットまで暇だからベンチで寝転がっていると,なんか中国語で何やらアナウンスがあって,よく聞き取れないけど E58 という自分の搭乗ゲートの番号だった.しかも二回アナウンスされているので,いやーまだ搭乗時刻の 20 分前なはずなんだけどなぁと思い行くと普通に搭乗が終わろうとしていたわ.乗り遅れて北京で一晩過ごすのもどうしようもないので,とりあえずよかった.

# プノンペン空港からホテルへ

プノンペン行きの機内は特に大きな問題はなく,比較的空いていた.着陸してから以前ダウンロードしてアクティベートしていた grab を試しに使ってみようと配車ボタンを押したら本当に配車されてしまった.まだ機内にいるのに,あと 5 分で到着とか無理ゲーでしょと.

慌てて待ってもらうかキャンセルするかできるかと聞いたが返事がなく,うーんどうしようと思っていた.ビザは以前取得した 3 年マルチプルがまだ有効で,入国や税関の申告書はすでに書き終えているので,プノンペン空港の小ささからすると入国審査も含めて全力で走ればなんとか行けなくもない距離.しかもなぜか荷物が最優先で降ろされており(あるいはもしかしたら自分は後ろの方だったか?),荷物のピックアップもスムーズで,結局 5 - 6 分程度で grab の meeting point に到着することができた.

とはいえ,ドライバーのお兄さんは自分を探すために出歩いたり,クソ重たい荷物を持ってくれたりもしたので,最後に少しチップを弾んでおいた.ホテルについたのは結局飛行機から降りて 30 分程度という,無駄に爆速で,シャワーを浴びて速攻寝た.

# プノンペン市内を散歩

機内でまあまあ寝ていたのでそんなに眠くもなく,プノンペン市内を散歩しながらどうしようかなと考えていた.今までは送迎から食事の手配まですべてやってもらっていたので,全然気づかなかったが,いざ自分で歩いてみるといろいろなことがわかった.残念なこともわかった.

  • 誰も歩かない:基本車かバイクでの移動が前提になっていて歩道があまり整備されていないし,横断歩道も飾りだけ.歩いて移動している人は自分以外に一人しか見つけられなかった.そして車も交通ルールを遵守するという感覚が乏しく,隙あらば赤でも突っ込め!みたいなのが多い
  • 薬局が異様に多い:クリニックはそこそこあるが,それ以上に薬局が非常に多い.恐らくカンボジアの人たちは具合が悪くなると病院に行くのではなくまず薬局に行くのだろう.それでもだめなら病院に行くという感じなのだろう
  • 生活水準のアンバランスさ:薬局の人が朝に洗濯板で洗濯物を洗っていた.多分そこの薬局で売っている薬を買えるような水準であれば洗濯機を余裕で購入できるはずである.スマホもそうだけどあるものは最先端で高価,あるものは廉価あるいは古い物を使うなど,生活水準のバランスの悪さが目立つ
  • 目立つもの好き:これは今朝見て気づいたというよりも以前からだが,家や車,あとコスメなど表面的なものを好む傾向がある.レクサスの販売代理店?のようなものを 2 件見つけた
この事実から推測できることとして,今後高齢者が増える状況の中で,心血管イベントが確実に増える.現在は食事もそこまで栄養価の高いものがあるわけではないので,ぱっと見の肥満者は多くはないが,今後は経済成長とともに摂取カロリーも確実に増えるし,このような生活習慣をしていると確実に心血管イベントが増える(そうでなくても高齢化という点で増えるけど).あとは高齢化の中で担癌患者も確実に増えるだろう.その時に薬局の存在が早期癌の発見を遅らせる大きな要因となる.

そもそも薬局が多いのは昔の人口は若く,多くは急性期の疾患で安静にしていれば治るものが多かったということなのだろう.対症療法や感染症治療薬くらいであれば(本当は「くらい」では決してないのだが),薬局でなんとかなっていたのだろう.でも人口構成,社会的な要因の変化及び市民の要求水準が高まるに従い,なんとかならなくなる時期が来そうだ.そう遠くない未来に.

病院という存在は一般市民からするとなるべくお世話になりたくない,生活の中心からすると端っこの位置している.もちろん,病気になればその端っこが一気に中心にやってくるのだが.病理診断も同じで,普段は病院業務の中で端っこに位置しているがいざとなれば主役になる.

今自分がやっていることは端っこの端っこ(一体どこ?笑)の仕事であって,カンボジア国内では正直自分が活動をして大きく貢献できるかと言われると厳しい.他の優先度を考慮すると現在のカンボジア国内には病理診断は別になくてもいいんじゃないか?という極論すら実は完全に否定することは難しい.

今後どのように関わっていくかは難しいが,チャンスがあれば病理診断以外の別の専門領域を持って対峙するなどが必要かもしれない(あくまで現時点での考えだが).

2024年3月17日日曜日

病理医としてのキャリアパス:中間点

# 次はいずこへ

どどたんせんせはいわゆる around 40 で,この職場で留まるべきか次にどこかに行くべきかをそろそろ悩まなくてはいけない感じなっている.ある程度 public なこういうブログで書くべきかは悩ましい感じもするが,ごく普通の人の普通のキャリアパスについての具体例があってもいいかなと思っている.

初期研修が終わってから大学病院を転々として,その間に学位を取らずにのほほんとしてきているが,流石にそれはまずい?ということで大学院に入りおなして,学位を取ろうとしているところ.正直言って学位に興味があるわけでもないのだが,ここまでやっておいて取らないというのも変な話なので一応終わりに向けた活動に舵を切ろうと考えているところ.

# モラトリアム

大学の中では多分学位を取らずにいるということはモラトリアムに近いとも言える.まあ診断業務+他の雑務が忙しければモラトリアムどころじゃないかもしれないけど,アカデミックに上にいかなければ免除されている雑務も少なくない.上に行ったところで大学だと給料の上昇もたかが知れているので,昇進をするモチベーションはあまりないというのが正直なところ.

よってある程度合理的な範疇でモラトリアムを謳歌しているところで,でも多分それもそろそろ終わりにしないといけない.

# 晩年助教は迷惑?

最近切に感じることとして,歳を取った状態で昇進せずにとどまり続けるのは他の先生に対して迷惑なのでは?と感じている.他に昇進する要件を満たしている先生がいるけど,自分がいる中で昇進をするとバランスが悪くなる.大学は診断能力ではなく,研究実績で昇進するところなので後者がなければいくら診断ができても昇進はできない.当然のことではある.

なので,ある程度実績を積んで自分自身が昇進していく他はないのだろうな,という感じで,そうでなければ去るのが他の人にとっても良いのだろうという結論.

ちなみに筆頭は少ないけれども,大学病院にいる特権?でなぜだが共著はそこそこある.全く知らないわけではないけど,アドバイスやコメントをしたものがいつの間にか論文になっている.

# 他の人達の就職先

気になるのが同年代で他の病理医はどういうところに就職しているのかということ.サンプル数は多くないし,バイアスだらけだけれども,大体の先生は市中病院に就職し一人あるいは複数人の病理医として活躍している.

話を聞いていると,結構それはそれで大変そうだが,あまり悪くはなさそう.自分は市中病院で部長をできなくはないだろうけど,自由度が低くなりそうな気配はある.基本的にやっていること自体はどこであっても大きくは変わらない.

# 自分の思う市中病院での働き方

管理職になるのか,一スタッフとして働くのかによるけど,組織診が年間 4000 - 5000 件程度の「ごく普通の」病院だと,多分半日で仕事を終えて,外来やってみたりとかエコーやったりとか変なことをしてそうな自信はあるな.多分スタッフははらはらどきどきするだろう.

15 年目の悲劇

# 卒後は 17 年目,病理は 15 年目 自分は 2009 年に大学を卒業しているので,2026 年 4/1 現在だと,卒後 17 年目になる.卒後 15 年目のとか,20 年目の,みたいなタイトルの本を見るが,その節目を超えてさらなる大台に突入してしまった感じはある. 初期研...