2025年11月11日火曜日

2025 年度病理専門医試験の総括(疾患当てクイズ編及び病理解剖)

 はじめに

  • どどたんせんせは毎年病理専門医試験で公開された問題を集計して,病理専門医試験の傾向を分析しています.

  • 今年も,公開された問題及び過去のデータベースからいくつか抽出して考察をしてみます.

合格率及び全体の傾向

  • 今年の合格率は 80.2% であった.2020 年は 93% というかなり高い合格率であったことや医師国家試験の合格率を考慮すると,やや渋い.

    • 落とすべき人をきちんと落としている試験といえる.

  • すでに定着した新傾向の問題とさらに新しい傾向の問題と合わせると,今後数年で出題内容が様変わりするポテンシャルを感じる.

  • 今回の出題内容(I, II 型問題の疾患クイズ)からは 74% の疾患は過去 20 年に少なくとも 1 回は出題されていた.

    • 既出問題割合は徐々に低下しているが,60% は確実に超えている

  • ここの出題では新しい傾向やごく少数の難問を見るが,全体的に安定した,良質の問題からなっている.

I, II 型問題(○?問題を除く)最近の平均点の傾向

  • 平均点は過去 25 年間をたどると多少変動があるものの,おおむね 3.3 - 3.8 点程度を推移している.
  • 直近でいうと,少しずつ平均点及び中央値は低下傾向だが,今年はやや上昇した.

  • 2021 3.58

  • 2022 3.73

  • 2023 3.57

  • 2024 3.51

  • 2025 3.59

I, II 型問題と合格率との関係

  • 昔は III 型問題(剖検問題)が合格できるかを左右すると言われていた.

    • III 型問題の点数は面接点との合計点で,基本的に面接は拾うためのものなので,今回の解析からは除外している.

  • 以下のデータは試験年度ごとの I, II 型問題(○?問題を除く)の平均点の合計と合格率を提示した表である.

  • ピアソンの相関係数 r = 0.31 で p = 0.132 で,弱い相関は示唆されるが,統計学的に有意とは言い難い.

  • つまり,合格するかについては従来通り III 型問題の解答が重要と考えられるが,III 型問題は面接と合わせた点数計算であり,面接で挽回する前提で試験問題の解答や受験設計をする必要がある.



試験年度 平均点の合計 合格率

  • 2020 341 93.4

  • 2011 337.76 88

  • 2003 350.4 87.3

  • 2005 338.63 86.7

  • 2016 321.82 86

  • 2002 300.9 85.1

  • 2004 308.99 84.7

  • 2023 321.46 84.1

  • 2021 322.17 83.8

  • 2024 315.59 83.3

  • 2017 331.4 82.6

  • 2014 313.64 82.2

  • 2018 300.21 82

  • 2001 279.89 81.3

  • 2012 349.72 80.9

  • 2022 335.81 80.2

  • 2025 323.34 80.2

  • 2019 343.77 80

  • 2013 290.26 80

  • 2009 286.86 80

  • 2015 315.95 78.2

  • 2010 322.71 76.5

  • 2006 313.05 75.4

  • 2007 311.33 75

  • 2008 323.58 73.3

I, II 型問題で正答率の高かった問題

  • 胃 Anisakis infection

  • 十二指腸 Adenoma, intestinal type

  • 血管 Cystic medial necrosis

  • 顎骨 Osteomyelitis

  • 食道 Carcinosarcoma

  • 膵臓 Solid pseudopapillary neoplasm

  • リンパ節 Lymphoblastic leukemia/lymphoma

  • 胃 Gastric carcinoma with lymphoid stroma

  • 膀胱 Urachal carcinoma

  • 結腸・直腸 Peutz-Jeghers polyp

  • 外陰部 Condyloma acuminatum

  • 腎臓 Chromophobe renal cell carcinoma

  • 乳腺 Paget disease

  • 皮膚 Glomus tumor

  • 副腎 Myelolipoma

  • 食道 Herpes virus infection

  • 4.5 点以上の得点の問題を取得した問題を提示している.

  • これらのうち,胃のアニサキスと十二指腸の腺腫以外は以外は全て過去に出題されている問題である.

  • そして,多くは過去数年で出題されている.

  • いずれの疾患も総合病院であれば一度は見ていてもおかしくはない症例であるし,病理診断クイックリファレンスなどの定番受験対策本でも頻出する疾患である.

  • このように,病理専門医試験では同じ問題が繰り返し出される.

  • 去年と繰り返しになるが,多くの人が取れる問題で取りこぼさないためにも過去問のレビューは必要である.

  • この試験は言わずもがな,多くの人が「試験対策」を行っている現状での得点率であり,8-9 割程度の得点を取れる人でなければ試験対策は必須と言える.

I, II 型問題で正答率の低かった問題

その中で平均点が 2.0 を切った疾患は以下の通りである.

  • 骨髄 Lymphoplasmacytic lymphoma

  • 虫垂 Acute appendicitis + carcinoid tumor

  • 皮膚 Necrobiosis lipoidica

  • これらの疾患はいずれも過去 25 年間で出題されていなかった.

  • 今年は正答率が特に低い問題は少なかった.

  • Lymphoplasmacytic lymphoma は MYD88 L265P などが想定されるが,MALT リンパ腫との鑑別はかなり難しいか.

  • 虫垂炎を見たときには,虫垂炎以外の疾患,例えばカルチノイドや goblet cell adenocarcinoma などがないかを慎重に探すべきというのは,難しく感じるかもしれないが,かなり実際の診断に即した出題と言える.

  • Necrobiosis lipoidica は特徴的だが,ぱっとみて診断するのはかなり厳しいだろう.

今回新規に出題された問題

  • 骨髄 Lymphoplasmacytic lymphoma

  • 唾液腺 NOS Adenocarcinoma

  • 唾液腺 NOS Carcinoma ex pleomorphic adenoma

  • 後腹膜 Dedifferentiated liposarcoma

  • 口腔 Adenomatoid odontogenic tumor

  • 卵巣 Benign Brenner tumor + Mucinous cystadenoma

  • 十二指腸 Adenoma, intestinal type

  • 腹水 Squamous cell carcinoma

  • 軟部 Mesenchymal chondrosarcoma

  • 虫垂 Acute appendicitis + carcinoid tumor

  • 肺 Interstitial pneumonia + invasive mucinous adenocarcinoma

  • 肺 Fibrotic NSIP

  • 心臓 Acute myocarditis

  • 皮膚 Necrobiosis lipoidica

  • 肝臓 Bile duct hamartoma

  • 膣 Trichomonas infection

  • 皮膚 Graft versus host disease

  • 軟部 Traumatic neuroma

  • 骨髄 Colloid degeneration

  • 胃 Anisakis infection

  • 後腹膜 Adrenal remnants

  • 精巣 Pyogenic epididymitis

  • 新規出題疾患をまとめてみた.明らかに非腫瘍性病変や,病的意義があまりはっきりしない背景病変の出題が目立っている.

  • 後腹膜の adrenal remnant などはある程度丁寧に見ている病理部ではそこそこの頻度で遭遇しうる.

  • アニサキスが今まで出題されてことがなかったことが意外ではあるが,国家試験レベルで有名な疾患なのでおそらく多くの人が回答できたであろう.

  • 毎年繰り返しになるが,ルーチンの病理診断を担当していればおそらく一度は遭遇する有名な疾患ばかりだが,研究主体でやっている人が試験対策として勉強するには範囲が広くてきついかもしれない.

III 型(病理解剖)問題は合せ技の出題

  • 今年の病理解剖の問題は,肺癌(小細胞癌)+急性心筋梗塞+びまん性肺胞傷害の,いわば合せ技のような出題であった.

  • おそらくだが,肺癌 → 凝固能異常 and DAD → 急性心筋梗塞 and 種々の臓器の虚血 というストーリーで良さそうに思われる.

  • 昔と違って一人の患者に複数の病態が存在するような解剖例は少なからずあるので時代を反映した問題

  • 答え自体は割れそうだが,病態をきちんと考察しがいのある(ここを考察せよ!という指示がわかりやすい)問題で,解答はしやすかったと推測される.

  • 特に,複数の主要な病態が相互にどのように関連するかは究極的には誰にもわからないので,病態生理学的に適切な解答をしている限り正解になるし,模範解答と異なっていたとしても大幅な減点にはなり得ない.

  • 公式のコメントにもあったのだが,試験対策として,病理解剖のリード文に記載のあるフレーズは基本的に絶対と考えたほうが良い.

    • 例えば,血液培養で陰性とあったら細菌感染はない,脾臓重量が正常であれば脾腫はない,などである.

    • 実臨床では全く当てはまらないが,その試験特有の考え方を理解していないと,ドツボにはまってしまう.

    • 出題側に立ってみるとわかるが,そうしないと出題に批判が来る可能性がある

フローチャートの課題

  • 繰り返し強調しているが,病理専門医試験の出題委員は試験の専門家ではないし,どうやら病理専門医試験自体は統括されていない.

  • それは特に病理解剖問題の出題や模範解答に年ごとのばらつきが強いところに見られる.

  • 今年の問題で言うと,フローチャートにサイトメガロウイルス感染症がいきなり登場しているが,昔であれば,例えばその前提として腫瘍の多臓器転移による悪液質みたいなものを記載しても良さそうに思う.

  • 病理解剖の主病変・副病変,及びフローチャートについては何をどのように書くべきかについてはきちんとした公式の定義自体は存在していない.

  • 病理剖検輯報の記載方法が唯一のルールであるが,これも網羅的とは言い難い.この問題については何年も前から様々な人が声を上げているが多分解決されないだろう(病理解剖に本質的な意味での再現性や客観性を求めると,病理解剖自体が成立しなくなるか,非常に限定的な意味合いしかもたなくなってしまうので).

  • というように,フローチャートに対して批判的なコメントを書いているが,受験者の思考過程を見るには非常に有用であるため,今後も求められるだろう.

今後の対策

  • 今回の分析では過去問を完璧にすることで 74% の問題は正答を得られる可能性があることが分かった.

    • 残念ながらこの比率は今年は少なくとも低下していたし,今後も低下する可能性がある.

  • 最近新規に出題されている問題の傾向として,次のような特徴が挙げられる.

    • 疾患に関連した遺伝子異常を答える問題

    • 正常構造や良性疾患等

    • 切り出しや迅速診断

    • 分子病理専門医の橋渡しとなるような問題

  • そして,単に疾患名を答えるだけではなく,遺伝子異常を含めた病態をきちんと理解しているかを問うような傾向にある.

  • つまり,腫瘍であれば,遺伝子異常を含めた統合的な診断を,非腫瘍であれば,診断報告書には記載されにくい正常構造や遺残物などが出題対象となる

  • 当座は,疾患当クイズ (I+II 型) については現行の過去問やクイックレファレンスなどの勉強方法で十分である.

  • ただ,今後は上記を踏まえて,疾患の特徴的な遺伝子異常にも配慮した学習が絶対的に必要となるであろう.

  • また,正常構造を問う傾向は今後も続くと思われ「病理と臨床 2017年臨時増刊号 病理診断に直結した組織学」などで知識の補強を行うことが望まれる.

  • I 型の○?問題については,過去問+αで新しい問題が出題されている.法律関係や保険診療関係は学習をしようとしても幅が広くなるかつルールが変更されるので,過去問をカバーする程度にしたほうがコストパフォーマンスの観点からは必要十分である.

  • 病理解剖問題はさすがにリード文だけでは確定ができない出題になっている(本来そうあるべき!)が,おそらくスライド自体は典型的で専門医受験クラスであれば余裕で認識できるレベルと思われる.

  • 病理専門医試験の中で,臨床的な知識と経験が要求される問題であるため,日頃から臨床病理相関をつける癖をつける必要がある.

  • もし内科的知識が足りないという自覚があるのであれば,シンプル内科学や国試対策の内科学のあんちょこテキストレベルでもよいので,網羅的な内科の教科書を通読することをおすすめする.


2025年3月5日水曜日

対立する所見が見られたときの病理診断の進め方

# Introduction

一般的には,病理診断においては A, B, C, D, ... という所見があって X と診断するというように所見を集めて,通常は一つの診断を目指していく.多くの症例では X に至る A, B, C といった所見は同じ方向を向いており,大抵はストレートに診断をすることができる. 

とはいえ,しばしば対立する所見が見られることがある.

# Conflicts always occur - a majority vote?

A, B, C, D は X を示唆する所見だが,E のみが Y を示唆する所見である場合,どうするか.多数決で X とすべきか?それとも X > Y とすべきか,はたまた大逆転で Y と診断すべきか.実際病理診断の専門家でも悩ましい話題で,症例検討会などでも取り上げられやすい例である.この投稿ではそのような対立する所見を呈する症例でどのように診断を進めていくかを考えていくことにしよう.

予想通り?かもしれないが,多数決で決めるのはあまりおすすめしない.なぜならば各所見の重みや診断の特異性は大きく変わるからである.例えば,扁平上皮癌の診断において,角化の所見はかなり特異性が高い一方で,核腫大は腺癌でも尿路上皮癌でも見られる.核腫大は癌とする根拠としては特異性がやや高いが,扁平上皮への分化という点では特異性はほぼない.

# Breakdown of a diagnosis

X という診断をするために必要な病理学的所見である A, B, C, D, ... はいわば分解した要素といえる.ここでは X という診断名を崩してみよう(できないことも多いが).扁平上皮癌であれば,上皮性+悪性腫瘍+扁平上皮への分化という形に分解できる.

  • 上皮性:細胞接着性がある
  • 悪性腫瘍:核異型が強い
  • 扁平上皮への分化:角化,細胞間橋
というように,それぞれの構成要素に対応した所見を対応させることができる.逆に,所見を分類することで,診断にはどういう要素が含まれているのかを考えることもできる.こういう分解と集結を行うことで診断するために必要なことは?を整理することができ,テキストを読んでいて,診断基準を意識して読むことができるようになる.

蛇足だが,一般的な病理診断のテキストには「X という診断には A, B, C, D, ... という所見がみられる」という記載が多い.しかし,では X と診断するために必要な所見はなにか,すなわち診断基準はなにかについては,WHO bluebook 以外では,はっきりと書いていない.特に非腫瘍性疾患についてはそういう曖昧な記載が多い.意外に思うかもしれないが,ふんわりとした中で病理診断はしていて,みんなそういうもんだと思っている.そういう曖昧さが良さでもあり極端な個人の意見を貫きやすい背景となって結果的にパワハラで多くの病理レジデントが辞めていく原因にもなっている.

# Approach to Conflicting Findings

ここで本題に入るのだが,対立した所見が見られた場合,どのように診断を進めていくのか.一つの解決法としては,想定している診断名に対して,その所見がどの程度特異性があるのかを見ていく.例えば理学的所見はマクギーなどの身体診察の本や文献では各身体所見が実際の診断に対してどの程度の感度・特異度を有しているかデータとして揃っている.本来であれば病理学的所見に対してもそのようなデータが整備されていることが望ましいが,病理診断自体がかなり幅が広く(現時点では)現実的ではない.

ただ,定量化は難しくとも定性的には判断は可能で,標本から読み取れる情報と病理診断のテキストを眺めながら,そして診断基準を分解しながらそれぞれに特異的な所見,感度の高い所見を整理して並べてより特異性が高い方を採用するということを多くの病理医は無意識にやっている.もちろんできていない人もいるにはいるが,そういう人はだいたい「診断のセンスがない」みたいな言われ方をされている.一応重ねて言っておくが診断はセンスではなく基本的事項の積み重ねである.

そしてもう一つ重要な視点として臨床情報がある.直近の投稿で総合的なアプローチをすると言った.その中には臨床経過などの臨床情報を加味することも含まれている.病理組織学的にそれらしいと思っても,臨床情報が否定的であれば少なくとももう一度その診断を考え直すべきである.その過程で特異的な所見がなければ,確定診断を控えたほうが無難.それくらい臨床情報は重要.結局のところ,多少稀なものであってもよくある場所や年齢によくある経過でよくある疾患が発生するのであるから.

# What to do then

結局のところ,壮大なテーマを掲げた割には結論は無難なところに落ち着くのだが,こうすれば解決するという魅力的な解決策というものはなくて,あるのは丁寧に一つ一つ吟味していく作業.その過程でとある疾患に対して特異的な所見を引き出し,鑑別診断と比べてよりどちらがふさわしいかを検討する.そして鑑別ができなければ所見診断に留めるのも一つ.特に情報量が圧倒的に不足しがちな生検検体では確定診断ができなくても仕方ないし,下手に強く言ってしまうと間違えたときに大きな問題になってしまう.




今どきの病理診断の勉強の仕方

# Study surgical pathology in 2025

4 月から専攻医が新しく入ってくるので,専攻医(後期研修医)が病理診断を学習する上でどういう風にすれば良いかなと考えてみる.テキストを中心として,自分が病理診断のトレーニングを始めたときとの違いについても軽く触れながら.それにしても,後期研修医は今は専門医機構扱いになって専攻医と呼ぶのが一般的になったのか.名前がコロコロ変わるなと感じ始めた時点で RG(老害)認定されそうだからリアルでは口には出さないけど.

# テキスト

基本となるテキストはやはり外科病理学一択になるかな,ちょっと古くなってきたけど,それでも 2020 年発行でまだ新しい情報が多くてしばらくは基本書として十分使える.その前の版から 14 年かかっているので,次の改訂までは更に 5 年以上の時間がかかるだろう.残念ながら今の病理学会にはこの本を 5 年程度ごとに改訂するほどの体力は残っていないし,商業的にもこの販売ペースだと難しいだろうか.

外科病理学に加えて,最新の情報は WHO 及び AFIP で十分,というか特に WHO の充実っぷりが半端ない.今はある程度診断基準が整備されていて,昔のような「〇〇先生が言ったからこれはがん」という状況は少なくなった.もっとも遺伝子異常に基づいて定義された疾患が多くなって,一般病院どころか大学病院ですら診断できないという誰得??という状況になってしまったのだが.

# 講習会

講習会の数は 10 年前と比べて格段に多くなった.昔は IAP のセミナーくらいしかなかったが,今では病理学会の希少がん講習会を始めた多くの講習会,パスポートなどの講習会,さらにはコンパニオン診断関連での製薬会社主催の講演会,といった具合に様々な講習会が開催されている.頑張ればほぼ毎週何かしら日本語で講習会が開催されている.昔は自分も講習会的なことをしていたことがあったが,これだけ講習会が多いと「講習会疲れ」を起こすので,やっていないし,多分今後もやらないだろうな.

ちなみにだが,講習会が増えたのは COVID-19 の蔓延が原因なのでは?と考えている.現地での講習会ができない+オンライン「のみ」の配信は意外とコストが安く済むのと品質自体は変わらないので今後もスタンダードであり続けそう.正直講習会をオンラインでするのは寝てしまう以外のデメリットが思いつかないわ.

# トレーニング

結局技術が進んでもやるべきことはあまり変わらない.固定→切り出し→診断というプロセスは同じ.コンパニオンや遺伝子診断といった付加的な検索は増えた,というかむしろそれが主流になっている.興味深いこととして,自分が病理を始めた頃は免疫染色が主流になっていて,免疫染色だけで良悪性や組織型を決定する病理医を Brown Pathologist なんて揶揄していたが,最近は Brown どころか遺伝子異常の検索で形そのものがなくなってきている.まぁ要するに molecular pathologist になるのだが.

一般的に言えることだが,技術が進歩すればするほど基本的なことが重要になってくる.病理でいうと固定がきちんとできているか,形態的に良性悪性をきちんと判定できているか,遺伝子検索をするにあたって腫瘍を含む領域を正確に認識できているか.高度な技術や知識は代替ができやすいが,基本的な技術を塗り替えるのは難しい.ホルマリンや HE 染色が長年にわたって使われ続けているという事実を見るだけでも説明は不要.

# 病理解剖をなんとかしたい

病理解剖の診断基準の不透明さは今に始まったことではないが,臨床診断と病理解剖診断の乖離が著しくなってきている.というか非腫瘍性疾患については,病理解剖学的に発信することは限定的で,多くは臨床経過をなぞるような記載になりがち.多くの非腫瘍性疾患は病理学的に定義されたものではないからしょうがないのだが,それでもガイドラインみたいなのがほしい.例えば臨床的に敗血症と診断されていれば病理学的にも敗血症があったという前提で議論を進めて良いとか(本当はどうかはわからないけど).

# AI との関わり

現在,病理診断において自分はだいぶ AI に頼っている.2025 年 3 月現在では,頼っているというよりもどうやって頼ったら効率のよい結果が生まれるかと試行錯誤をしていると言ったほうがよいか.現時点では,google 検索を大幅にアップデートしたような使い方になっている.実際あまり馴染みのない疾患の概要を掴むには非常に良い.自分が十分知っているテーマについては深みが足りないかな,ちょっとずれているかなという印象を持っている.

AI の技術自体は文字通り日進月歩で進んでいるので,AI-based の診断が来る時代は決してそう遠くない.この流れを否定しても何も始まることはなくむしろどう取り込むかが課題になる.あと数年くらいで generic な病理診断アプリが開発されるのでは?という雑感.

ただ,課題点として,病理診断の専門家であるためには AI が吐き出している情報をある程度合理的に理解し判断できる必要があり,相当な勉強量が求められる.固定ができているかとか基本的なことと,最終的なアウトプットに関する理解,これらの両極端を専門家として実践できる必要があるため,勉強しなくて良いとかではなくて,(多少の方向性は変われど)常に勉強が必要になるだろうと思うとちょっと憂鬱かしらね.

実際に AI を User のレベルでどう活用できるか考えながら仕事をしていると,技術の進歩は結構ゆっくりだなと思いがちだが,外野からすると多分光の速さで物事が変わっていっているように見えるんだろうな.

# 結局のところ,,,

そんなに変わらないかなというのが現時点での感想.結局やらないといけないことは同じで,それに新しいことが加わっている.しばらくは大変だろうが,できることが増えるということで喜ばしい変化と考えるよいかしらね.

2025年3月4日火曜日

病理診断における周辺状況からの総合的アプローチ

 # Introduction

 「コンフィデンスマンJP」で紹介された言葉の引用から始める.

 > 目に見えるものが真実とは限らない。何が本当で何が嘘か。

これの意味するところは,

  • 目に見えるものだけが真実ではない
  • 目に見えない部分に真実が隠れている場合がある

そして,究極的な真実は誰にも完全には分からない.病理診断において, 「真実は闇の中」では済まされないため、診断基準を設け線引きを行っている.そして,真実は簡単には姿を現さず、病理医は必死にその兆候を探している.

以前のブログ投稿([参考](https://dodompa3.blogspot.com/2023/03/1.html))で「病理診断は数学の証明に近い」と述べた.前立腺癌を帰納法的パターン(経験則に基づく診断)で診断をする.実際は、帰納法的アプローチを拡張した「総合的なアプローチ」で診断を行う.具体例で見ていく.

# Diagnostic Criteria for H. pylori

病理組織において,H. pylori 陽性の判断は、標本上で H. pylori の菌体を探し出すことに基づく.ここに検出の難しさがある.H. pylori は小型の螺旋状桿菌で形態的に特異な特徴が少なく,数が少ない場合、単独での検出は困難である.よって,年間何千件と提出されて来る検体から H. pylori をもれなく適切に探し出すためには前提条件を絞らざるを得ない.言い換えると,「いそうな文脈」 つまり H. pylori 自体の特徴だけではなく、臨床情報や好発部位といった背景も診断の判断材料が重要と言える.

まず病変の局在部位から考える.基本的には「胃粘膜に存在する」と考えられており,大腸などの他の腸管粘膜には H. pylori は存在しない(ただし、十二指腸までは議論の余地あり).よって,大腸生検では H. pylori 陽性と判断されず、通常は言及すらしない(※大腸癌との関連性についての一部報告も存在:[PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38427927/).

次に,組織学的文脈について考える.H. pylori が存在しやすい文脈としては,好中球を含む炎症細胞の浸潤及び腺窩上皮の再生性変化(慢性活動性胃炎)が挙げられる.逆にいなさそうな文脈としては腸上皮化生が認められる胃粘膜であり,腸上皮化生粘膜で H. pylori を見たことはほぼない.ただし,再生粘膜と腸上皮化生が混在しているときに,再生粘膜の方だけに H. pylori が見られることがあるので,腸上皮化生の存在自体が H. pylori 検出できないと判断してはいけない.

究極的には H. pylori の菌体を確認することが決定打になるのだが,周辺情報を適宜裏読みしながら検索することで,効率的かつ間違いにくく診断をすることが可能となる.もう一つ,以前にも出した前立腺癌を例にとって考えてみよう.

# Prostate Carcinoma Diagnosis

前立腺癌の診断のアプローチは弱拡大での評価が重要であった.「癌は騒々しく、良性腺管は穏やか」という格言が示すように、腺管の集合体としての挙動に注目する必要がある.一方で,個々の腺管で癌かどうかを判断するのは非常に難しく,1~2 個程度の腺管からなる癌は見逃されるリスクが高い.これらの非常に小さな腫瘍でもある程度経験を積めば個々の腺管での診断も可能だが,その有用性は限定的で実際には腺管群全体の評価が実用的である.

一般的に,評価単位の視点でいうと,個々の細胞よりも、組織単位や臓器単位での評価が、悪性度の把握において明確となる.小さい検体が多い生検検体であっても,一個の腺管よりも周囲の状況を踏まえてなるべく組織構築として評価をしていくことで,情報量を増やし,診断精度を挙げていくことが可能となる.これは特に前立腺癌のような異型の弱い腺癌に対して有効なアプローチと言えよう.

# Total Approach

総合的アプローチの概念の導入する.単一の所見だけでなく、周辺情報も含めた多角的な評価が病理診断において非常に有用.総合的な判断はここの情報をどの程度重視するかで主観が入りやすいことが欠点で,結局わからないということになりがちだが,それでも「間違えにくい」という観点からは有用.正解を出すことも大切だけれども,間違えないことも同じくらい,いやそれ以上に重要といえよう.


2025年1月22日水曜日

癌と肉腫の診断の境目とは

# 癌と肉腫の診断上の境界線

一般的に,癌と肉腫は一応発生起源で分類され,癌は上皮細胞由来,肉腫は間葉系細胞由来の悪性腫瘍だと理解されている.病理診断の立場では,上皮性悪性腫瘍やリンパ腫は発生起源である細胞との類似性に診断的根拠を求めることが多いのに対して,肉腫の診断では細胞由来ではなく分化方向に診断的な根拠を求めている.

これはなぜかというと肉腫の場合は由来臓器自体が不明の腫瘍が多く,細胞の由来を突き詰めても分からない場合が少なくないから.例えば,滑膜肉腫は滑膜細胞由来ではないことが判明しているが,では一体どの細胞由来なのかと言われると現時点では誰にも分からない.

つまり,癌と肉腫では診断の基本的な考え方が真逆であり,結果として癌と肉腫の間で診断根拠が対立軸として存在するようなカテゴリーにはなっておらず,むしろすれ違いに近い.分化方向は原則形態的に(及び免疫系質で)評価を行うが,細胞の由来はしばしば判断しにくく形態的な分化方向と矛盾することもある.

# 癌の診断根拠,肉腫の診断根拠

様々な例外を考慮すると,総論的な癌の診断根拠,肉腫の診断根拠を提示するのは実は難しい.例えば,乳腺の小葉癌や類上皮型血管内皮腫を考えたときに,小葉癌は癌の考え方では TDLU 由来なので,癌と診断する.一方,肉腫の考え方ではケラチンが陽性となるものの,上皮性結合に乏しく形態的な分化方向が不明瞭なので肉腫となる.類上皮型血管内皮腫は形態的には癌に見えるが,上皮細胞に由来を持たず癌とは言えないため,除外的に epithelioid という名称が与えられているのだろう.

シンプルに上皮結合があれば癌で,なければ肉腫とするのがわかりやすくて良い.しかし,そうはなっていない症例があることを考慮すると全般的に通用する法則とはいかに?となってくる.現実的には Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive (MECE) でもなく,どちらとも言えないような症例が存在している.そして,そのような症例は除外診断的に肉腫と診断されることが多い.なので肉腫の診断を勉強をすると原発不明癌などの診断スキルが向上するかも?

# 慣習的な診断

結局のところ,どうしているのか.自分が普段診断するときは,病変の場所からして癌が起こっても良さそうな部分では,まず上皮性結合の有無を根拠に癌を積極的診断している.そして場所が unusual で形態像も典型的な癌ではないというときに始めて肉腫の可能性を考慮する.

癌 vs 肉腫という対立構図ではなく,まずは癌からスタートしてそこに合わないときに始めて肉腫を考慮するという戦略で,むしろこちらのほうが自然のような気がしている.実際治療上の観点からも癌と診断することで選択肢は広がるし,実際骨腫瘍も癌の転移が多い.

15 年目の悲劇

# 卒後は 17 年目,病理は 15 年目 自分は 2009 年に大学を卒業しているので,2026 年 4/1 現在だと,卒後 17 年目になる.卒後 15 年目のとか,20 年目の,みたいなタイトルの本を見るが,その節目を超えてさらなる大台に突入してしまった感じはある. 初期研...