2018年9月21日金曜日

病理医は実は余っているのではないか問題〜補足

昨日一通り書いていくつか気づいた点があったので補足説明.

最初の記事
http://dodompa3.blogspot.com/2018/09/blog-post_20.html

1. 管理加算は誰のためにあるもの?

病理医が必要と主張する根拠として管理加算 2 がある.極論を言えば常勤病理医 2 名いればオッケー,自動的に 1 症例あたり 320 点(= 3200 円)が加算されるというしろもの.

https://clinicalsup.jp/contentlist/shinryo/ika_2_13_2/n006.html

例えば年間 5000 件の組織件数及び 6000 件の細胞診の病院であればなにもしなくても 2500 万円の収入増になるわけで,これだけ美味しい話はない.

ここで,と続くわけで,実際自分の知っている病院でも起こったことなんだけど,管理加算 2 がつくまでは常勤病理医を探そうとする.探してようやく見つかったら +2500 万円.職員が増えて(その人の給与などの経費を差し引いても)黒字になるというかなり美味しい話.

しかし,次に病院幹部が考えることは,「常勤 2 名になったら非常勤減らせるんじゃね?」ということ.病理医側からしたら楽に仕事できるに越したことはないわけで,収支を考えてもむしろ一人くらい増えても大丈夫なんじゃね?といいたいところだが,利益を最大限にするには収入を増やして経費を削減するわけで,削れそうなところはとことん削っていくことになる.

そういうわけで,実際にその病院では常勤が一人増えて管理加算 2 が取れてしばらくして非常勤を一人切られてしまった.

2. Single sign out か double sign out かは実は臨床医はそんなに気にしていない

これはみんな薄々気づいているとは思う.我々からすると single sign out か double で sign out するかは質的に結構な大きな違いが生じるのではないかと思っている.

しかし,臨床医の視点ではあまりそこらへんを気をつけてみている人は少なくて,どちからというと早く結果を知りたいという要因が大きい印象(ただし,病理のことをよくわかっている臨床医は「誰が診断したのか」について注意を払うことは多い).
臨床医の要望:早い,安い,うまい ≫ 遅い,高い,美味
病理医の要望: 早い,安い,うまい ≪ 遅い,高い,美味
という現実がある.その点においては管理加算の下駄で魅力を作るのではない,本質的な魅力を作る必要がある.

3. 需要の増加<供給の増加

現在は明らかに「需要>供給」であるが,医学部も新設され,それ以上に病理診断に対する脚光(歳をとっても仕事がしやすい?子育てと両立しやすい?患者さんのクレームに付き合わなくて良い?)が集まった結果,
d(需要)/dt ≦ d(供給)/dt
になっており,これを積分すると,将来的には
需要 ≦ 供給
になってしまうのではと危惧しているわけである.もっというと病理が増えていく中でさらに AI の診断によりアシストされると
需要 < 供給 + AI のアシスト
になるのかもしれない.(もっともこの式については若干疑義的なところがあって)もしかしたら,
需要 + AI や分子生物学的な進歩による治療の個別化のための細かい診断 > 供給 + AI のアシスト
という構図も出来上がりかねないし,実際これまでの歴史もそう語っている.

2018年9月20日木曜日

病理医は実は余っているのではないか問題


年月日 専門医人数 前年度からの増加分 その年の病理専門医の合格者数
2005 年 1647 N/A 52
2011年9月1日 2128 N/A 73
2012年9月1日 2188 60 72
2013年9月1日 2232 44 56
2015年2月1日 2276 44 74
2015年9月1日 2319 43 61
2016年8月18日 2362 43 74
2017年10月1日 2405 43 71
2018年9月10日 2483 78 N/A yet
355  (2011-2018) 481
期間中に retire したであろう人数 126

(http://pathology.or.jp/senmoni/board-certified.html より wayback を用いて過去のデータをさかのぼって収集)
(2005 年分については https://www.medis.or.jp/8_hpki/pdf/150124sawai.pdf より)

1. 実は病理医は余っているんじゃないか問題

ちょっと机上の空論で考えてみた.データは上記の要領で収集した.データ自体の日付がバラバラで本当の意味での統一性は乏しいが,参考程度に.さてここから少し遊んでみる.

481 人の新規参入者中 355 人 (2011-2018) が純粋に増加した人数になるので,retire した人を考慮し計算すると,毎年,新規合格者数の 73% が増加し,27% 分は retire している.つまり合格者数の 7 がけが全体の増加数に近い.

これまでの病理専門医試験の合格率は回によってばらつきがあるものの,概ね 8 割程度を推移している.2018 年度の病理の専攻医登録数は 114 人(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000199728.pdf)だから,毎年この程度の人数が応募すると仮定するならば 114*0.8*0.73 = 66 人が毎年増加する見込みとなる(ちなみに専門医試験自体の合格者の見込みは 91 人).

すると,めでたく 3000 人を超えるのは 2026 年で,そのときに 3011 人になるだろう.もちろんこの中にはいわゆる団塊の世代交代や病理人気?が功を奏する場合などは全く考慮していない.単に数字の計算.

2. 需要は果たして増えるのか?

これは少し難しくて,需要は確実に増えている.自分の病院でも前任地の病院でも確実に毎年右肩上がりで増えている.

https://sites.google.com/site/kawagoepath/byouri-i-boshuu

親切に多年度に渡って提供してくれている埼玉医科大学総合医療センター病理診断科のデータを例に考えると,20 年で組織診及び細胞診の検体数が倍になっている.免疫染色の件数も倍どころではないくらいに増加し明らかに業務量の増加が見られ,需要は確実に増えていると断言できる.そのかわり,剖検例が如実に減少しているのも手に取るようにわかる.日本の実情を表した,典型的なデータと言えるだろう.

3. 需要の増加 ≒ 収入の増加 ≠ 雇用の増加

ここから少し暗い話をすると,検体の需要の増加はほぼ直結して医業収入の増加につながる.特殊なリンパ腫以外は原則的に持ち出しはほとんどないし,そもそも病理診断に関するコストはかなり低い.

ところが雇用の増加につながるかというと,そこは実は難しい.パソ太郎先生が指摘しているように(https://twitter.com/pathotaro/status/1042539766103732224),病院の収入上は管理加算 2 を目指すのが目標で,その目標を達成するために,常勤病理医 2 名確保までは積極的に動くだろう.

2 名が充足したらどうなるか.充足してしまえばそれ以降は追加のコストでしかない.病理なんて加算がとれる 2 人で十分でしょ?それ以上必要なの?と首元まで出かかっている病院幹部は少なからずいると思う.

例えば臨床科の場合は人数の多寡がかなりダイレクトに病院収入に関係する.なぜならばある程度の手術や検査は人数が揃わないとそもそもできない,ということがあるから.一人しか外科医がいない状況下では緊急手術の対応は難しいかもしれないし,PD なんてできやしない.しかし,ある程度までは人数が増えれば増えるほど高難易度(≒高収入)の手技ができる可能性が高くなり,それが病院収入へと貢献する.

しかし,病理の場合は何人増えようとも減ろうとも,やっていること自体は変わらない.検体数が増えたとしても 2 人でできればそれに越したことはない.追加で人を雇うよりも時間外を含めて頑張ってもらったほうが割がいいという判断になりうる(多少の時間外手当を払っても,あるいは医者だから払う必要がないか!?).

4. ちょっと特殊な事情

少し話がずれる.臨床医からすると,病理医の数が増えたら結果がより正確に,より早く返ってくるのではという期待を込めていることがあるかもしれない.しかしそれは間違い.

病理医側からすると,多くの場合人数が増えれば double check をより厳格にしたりとかして single sign out に比べて時間がかかるようになる,確実に.確かにより正確になるかもしれないけれども,それは臨床医からしたらはっきり言ってどうでも良い細かい所見が詳しくなる程度で,「癌ですか!良性ですか!」レベルを志向する臨床医からするとはっきり言ってどうでもよい.

5. 病理診断のあり方は

ここではあまり言及しなかったけれども AI の発展(https://twitter.com/sugikota/status/1042658637619945473 すごいね,これ)より,病理診断のあり方が根本的に変わる可能性もあるけれども,免疫染色みたいに根本は変わらず,積み上げみたいに変わる可能性もある.ただ,AI 自体は病理医不足を解消するために動いている感があるので,若干は危機感を抱いたほうが良いと思う.人手不足だから職にあぶれないから将来性があるという言い方をする人もいるけど,そもそもなんで人手不足なんだとか,人手不足が解消されたらもう需要は開拓できないかのかとかいろいろ考えると,闇フレーズではある.

おそらく微妙に職にあぶれる人が出てくることはないとは思うけれども,皮膚科や眼科みたいに微妙に就職しづらいという可能性は十分にある.

ちなみに病理がなくなるなくならない(https://twitter.com/Edoshino26/status/1042359392098648066)という話ではなくて,需要と供給の関係の是非についてのお話.市場を大きくするのは我々にとってもとても重要なこと.供給を増やす努力はそこそこうまくいきかけていて,病理専攻医が順調に増えている.しかし,検査センターや管理加算の足かせ,病院収入への貢献問題があって需要の開拓は意外と思うように進んでいないかもと考えると,結構道のりは険しい.


2018年9月18日火曜日

剖検のまとめについて

1. 剖検のまとめ方にそもそもルールは存在しない

ちょうどいま病理解剖のまとめをしようとしているところで,いつものごとく壁にぶち当たっている.これは何年やっても,何回やってもおなじことであり,ある種の様式美に近い.

理由は単純で,病理解剖をまとめるのにルールが存在しないから.腫瘍であれば癌取扱い規約があり,非腫瘍性病変でも,腎生検や皮膚生検などはテキストがある.しかし病理解剖に至ってはまともなテキストと呼べるものが清水道生先生が出している本かあるいは病理と臨床の増刊号くらいしかなくて,それもどちらかというと病理解剖の手技に特化したものであり,病理組織学的な所見のまとめ方についての記載はあまり手厚くない.

また病理学会が独自に剖検のまとめ方についての細かいルールを規定しておらず,ある程度 official と言えるものは病理専門医試験の模範解答くらいである.その解答ですら年によってばらつきがある始末.何をどのようにまとめるかについては,和食から洋食,中華料理くらいの差があると言っても過言ではない.

2. ルールのない世界での discussion はルールのない格闘技と一緒

外科病理検体の病理診断は規約や文献的な記載をもとにした,ある程度建設的な議論は可能.あるていど,だが.しかし,病理解剖の報告書のまとめについては上記の通りルールがない.ルールがない中での discussion はしばしば不毛で,私はこう思うがまかり通る世界.ルールのない格闘技はただの喧嘩と一緒で大きな声の意見が勝ってしまう.

もちろん明らかな急性心筋梗塞を覆すのは難しいけど,炎症の程度や粥状動脈硬化症の程度の判定を軽度から高度にひっくり返すことは簡単.例えば 80 歳の老人の腹部大動脈に粥状動脈硬化が見られるが,自分の経験した症例の中で比較的軽いためそのように書いても「いや,ここにもそこにも粥腫を形成しているので高度である」と言われると反論する余地がない.なぜならばすべての根拠は自身の経験によるから.

3. それでもなんとなくのルールはある

とはいうものの,大筋についてはゆるやかな決まりがあってそこらへんは全員で共有している.例えば臨床診断については(右心不全)など括弧書きでする,とか敗血症は 3 臓器以上の炎症で脾炎を含む,癌については必ず主病変に含めるなど.これは剖検週報のルールと一部かぶっている.

でもそれはルールの中でもとても基本的なもので,ストレートな症例だったときの話になる.それ以外の困った事例(はっきりとした死因がない,肺炎はあるけどどの程度ひどければ死因として提示すればいいのか)については細かい決まりがなく,人によって意見が違う.人によって意見が違うだけではなく,そもそも患者さんによってはよくこの肺で生きていられるな!と思わざるを得ないこともしばしばあるので,規定しにくい.

3' 剖検のフローチャートについて

とある優秀な先生が言ったこと.フローチャートの矢印の確からしさが 80% だとすると,矢印 5 本を連ねると,0.8^5 で 32% の正答率になってしまう.だからこんなフローチャートは意味がないと.

フローチャートは思考の整理には有用かもしれないけれども,これが正しいという保証はどこにもない.

4. 上級医と戦うためには

病理解剖報告書の上級医のチェックについては完全に相手次第で,相手が悪ければ何を書いても文句を言われる始末.そもそも勝てるような試合ではないので,最初から戦わないのが本来の正解.指導医との相性が悪ければ,もうそこで諦めるしかない.

その前提で話を進めると,(試験対策ではない!)病理解剖のレポートのまとめ方の原則は客観的事実をきちんと列挙することと,それをグルーピングしてなるべく無難な結論に持っていくこと.臨床病理相関の意義付けについてはとりあえず,可もなく不可もなくなことを書いて,上級医に任せてしまうのも一つ.

(ちなみに専門医試験対策は簡単で必ずわかりやすい,致死的な主病変が出てくるのでそれに従って要素を拾い出せばたいてい答案は書ける.)


2018年8月24日金曜日

逃げの病理診断 その 2

1. 細胞診専門医はとりあえず取っておいたほうが無難

細胞診専門医制度はかなり迷走している.結構古くからある専門医制度で実務的にも比較的大きな役割を果たしている割に新しい専門医制度の二階にすら入れなかった.学会員の中で臨床検査技師の割合が多く,学会もアカデミックな学会というよりも,実質的にはただの症例報告会に成り下がっている.

しかも,学会のメインを婦人科医が握っていて,実際の業務は臨床検査技師がやっている.歴史的な経緯(もともと細胞診は病理診断ではないという意見があり,病理医は細胞診に対して積極的ではなかった)もあるにせよ,色んな意味で中途半端な学会になってしまった.

しかし,今は病理医で細胞診専門医を持っていない人はかなり少なくて,それなりの立場になったときに,細胞診のスクリーナーのパートナーになれなくなってしまう.大学などの大きな病院や研究で一生を過ごすのならまだしも,市中病院に行く可能性があるのなら比較的早い段階で取るに越したことはない.

2. 自分の診断する標本の切り出しはしっかりやる

いつも不思議でならないのだが,顕微鏡観察での所見の見落としは結構シビアに言われるのに,肉眼所見,特に切り出しでの所見の見落としや整合性のなさはあまり細かく言われないことが多い.

その証拠に,組織診断で顕微鏡観察は病理医がやっているところが大半だけど(名目上はすべてそうなっているはず),切り出しは臨床検査技師にさせているところも少なからずある.別に臨床検査技師の切り出しがイマイチと言っているわけではなくて,潜在的にそういう認識があるという具体例.

切り出しがどの程度重要かというのは検体の種類は癌かどうかによるが,非腫瘍性疾患は切り出しそのものが診断に直結することがしばしばあって,切り出しが不十分であればそもそも診断ができないこともある.腫瘍性疾患でもどこが原発かわかりにくい場合は,この部分を集中的に切り出すなど,ある程度組織診断における鑑別診断を念頭においた切り出しが必要.そうでなくてもきちんと切り出しをされた標本は orientation がつけやすく,診断するときに楽.

とはいえ,一から十まで気を使ってられやしないのも事実.だから自分の診断する症例は丁寧期に切り出しをし,そうでない症例は適度に力を抜くのがベスト.組織診断の所見に手を抜くと怒られやすいけど,肉眼所見は意外とそこまで怒られないので.

3. 臨床医と喧嘩しない

臨床医との良好な関係を築くことはとても重要でなるべく喧嘩をしないこと.あと簡単に人のことを馬鹿にしないこと.これはとても重要なこと.

我々病理側の人間はどうしてもコンサルトされる側に位置するので,臨床医の落ち度が目に付きやすい.あれも書いてない,これも書いてないとバカにしがちだが,多分逆の立場になると恐らく同じことをするはず.だからなるべくおおらかな広い心で接する必要がある.別に愛想を振りまかなくても良いけど,本当の意味で病理に対して理解してくれる真摯な姿勢の臨床医は必ずや味方になってくれるので丁重に対応すること.

ただ,約束を守らないのは別で,時間を守らないとか(遅れそうなら一本電話すれば済むはず),入れるべきところに入れていないなどは簡単に許さずに,淡々とルールに従って処理する.場合によってはペナルティを課す.

病理と言うのはコンサルテーションサービスの中でも若干特殊で,顧客からの信頼が多少落ちても検体はちゃんと出してもらえるし,よっぽどじゃないと首にならない.多少誤診したくらいですべてが終わるわけでもない.

逃げの病理診断

1. 皮膚生検,腎生検,あと骨腫瘍はなるべく所見診断を心がける

皮膚生検で特に非腫瘍性疾患,腎生検は病理組織ではなくて臨床所見(身体所見だったり,血液検査結果だったり)が根拠になっていることが多い.その診断過程の中で組織診断というのはあくまで付随所見であって,これを根拠に特異的な疾患名をつけると結構やけどする.

皮膚生検,腎生検で確定診断のレポートを書いている人は,臨床情報(経過や血液検査所見,画像所見など)を読み込んでいるか,臨床医ときちんとディスカッションしている場合に限る.逆に言うとそこまでするつもりがなければ,おとなしく所見診断にしておいたほうが無難.どうせ臨床医も標本見てるし.もちろん非腫瘍性疾患だから間違えても方向性はそんなに変わらないのでまぁまずくはないけど.

骨腫瘍は事情が少し難しくて,benign から intermediate malignancy までの病変を診断しようとすると画像所見も含めた臨床情報が必要不可欠.申込書に書いてある年齢,性別,病変の部位が診断しようとしている組織型の典型像と少しでも違うようなら,確定診断を書かずに臨床医あるいは専門家に丸投げしてしまうのがおすすめ.専門家でもたまに間違えてあちゃーみたいなことをしている状況を考えると,組織所見だけで戦うのはとても危険.

タイトルには書いていないけど,リンパ腫の場合は,微妙に微妙.リンパ腫の診断で良悪性が大きく変わることはないけど,悪性のなかで亜分類が難しいときもある.Flowcytometry と合わせての評価になる.たまに分類によって治療方法が変わったりすることもあるから,B or T だけ示してあとは所見的な診断もありか.それにしても WHO 分類は細かすぎてちょっと実務からかけ離れ始めている印象.

2. 学会発表の写真撮影依頼はほどほどで対応しておく

臨床医の行う学会発表は我々病理医からすると,かなりひどい,言い方を変えれば無茶苦茶な発表が多い.これは別に臨床医が悪いわけではなくて,病理診断の報告と比較すると,臨床診断や治療というのは不確定要素があまりに強くて,いわゆるきれいな病歴というのはそうそうない.その中でなにか neues を見つけて発表しようとするのだから,必然的にやるべき検査が抜けていたり,適応外の変な治療をしていたりする.

まぁそういう前置きはおいて,臨床医の発表に病理診断が必要と言われることがあり,写真の撮影を依頼されることがある.こういう場合,一番良いのは写真だけを渡す方法.たまに CT や MRI を貰いに来る感覚で,とりあえず画像ください!という先生がいるが,これは一番楽である.渡すだけで終了になるので.

ちゃんと説明しないとわからないでしょ?と文句を言う人がいるかもしれないが,たかだか 10-15 分話しをして彼らが理解できるか.いままでの経験では 20 分くらい熱心に教えても肉芽腫と肉芽組織の違いをきちんと理解できる人はいなかった.教え方が悪いと言われればそれまでだが.

要するに効率が悪いし,結局彼らは理解できていないしで臨床医に組織学的所見を丁寧に教えることにあまり意味はない.なので,教えるにしても,細かい用語は抜きにしてここが癌です,ここが炎症です程度にしておいたほうが無難.

別に適当にあしらえではない.クオリティを上げても無駄だ,ということ.愛想よくはいはい!いいですよといって写真を渡しておけば臨床医からの評価も上がるだろう.詳細な組織学的所見の需要というのはそんなにない.

3. 組織学的所見についてディスカッションする際に異型の有無については時間の無駄

腫瘍の病理診断の場合に異型の有無について議論の的になることはしばしばある.どどたん先生の長年の経験によると,異型の有無のディスカッションは大抵意味がない.ただの意見の押しつけでしかない.今風にいうと観察者間の一致率であるκ係数が低いということになる.

はっきりいうと,異型の定義自体があいまいで,核の大小不同とか明瞭な核小体とか極めて主観的.そんな主観的な評価の積み重ねで腫瘍の診断をしているわけで,意見の相違が生じることは十分有り得る.しかも,異型のあるなしについてはある種の先入観もあり(手の cartilaginous tumor では異型は積極的に評価しない,など)clear cut に割り切れない.

異型の評価をするなと言っているのではない.Controversial な場合に細かく議論をしても無駄だということ.10 人中 10 人が異型ありと判定しているものについて,自分が異型なしと判断したのなら確かにずれているという点で問題があるけど,そうでなければ,つまり異型なしと判断してくれる人が他に誰かいたらそこまで気にする必要はないということ.はいはい,ととりあえず従っておいて責任をとってもらえば良い.

2018年6月11日月曜日

病理診断を学ぶ 〜 細胞診

2021/05/05 掲載されている本について情報をアップデートしました.
特に変更はない.細胞診は洋書もあるにはあるのだが,洋書は動きが悪い.個々の領域で本が出版されたりはしているのだが,まとまった教科書的な本は近年はほとんど出ていない.その一方でミラノシステムやパリシステムなど,各領域のガイドライン的な本が精力的に出版されている.細胞診は頭を使って診断を推定していくというよりももしかしたら,検査に移行しているのかもしれない.

2021/05/05 掲載されている本について情報をアップデートしました.

細胞診の本は昔から結構様々な種類の本が出ていて,古典的な本を含めると結構な冊数に渡る.ここでは主に細胞診専門医を取得しようとしている病理医を焦点に,臨床検査技師,婦人科など臨床医にも対応できるような,本を紹介していく.

ちなみに細胞診とは言っても基本は病理学なので,病理学の本も参照のこと.特に細胞診専門医を取ろうとする臨床医は自分の科以外の知識はかなり少ないはずなので,これらの本を読んで難しいと感じたら,シンプル病理学などを通読して通り一遍の知識を軽く頭に入れておくと良い.

読む・解く・学ぶ 細胞診Quiz50 ベーシック篇 (2014)
読む・解く・学ぶ 細胞診Quiz50 アドバンス篇 (2014)

おすすめ度:★★★★★

この本ははっきり言ってアンチョコ本の部類に入る.この本を読んだからと言って,細胞診ができますなどと言える代物でもない.しかし,それでもこの本をおすすめするのは,おそらく細胞診の勉強をしている人は(養成所の学生を除けば)病理部でルーチンワークをこなしながら仕事をしている人か,あるいは普段細胞診に接することのない臨床医のはず.

そのような人に「細胞診を学ぶ人のために」を渡してこれを読めというのははっきり言って酷な話.細胞検査士や細胞診専門医を受験しようとしている人はなるべく細切れの時間を活用して勉強しないないといけなくて,そういうニーズに沿っている.

ポケット細胞診アトラス (2013)
おすすめ度:★★★★★

この本の良いところは,写真が豊富,写真がきれいなところ.写真がきれいというのは当たり前のようでとても重要で,汚い写真をいくら睨んでもポイントはつかめない.解説もそこまで長くなくてサラッと読める.

もちろん解説の深さは若干足りないし,これ一冊,そもそもこの本だけで勉強する人はいないだろうから,何度も何度も繰り返しめくって output と復習をすると画像のイメージが定着する.

細胞診アトラス (2021)
おすすめ度:★★★★☆

比較的新しい細胞診のアトラスで,組織と対比して参照できる.確かに悪くはないのだが,写真が少し小さめであることと,1:1 の対比で少し広がりに欠ける.総じて悪くはない.


改訂新版 臨床検査技師を目指す学生のための細胞診 (2013)
おすすめ度:★★★★☆

この本は臨床検査技師の学生向けの本だが,どちらかというと病理医あるいは臨床医向け.病理のトレーニングを始めたレジデントが細胞診の標本の作り方や極めて基本的なことを学習する機会は実はそんなになくて,かといって当たり前過ぎて意外とスクリーナーに聞けない.この本で大まかな知識を入れてスクリーナーに質問するとよい.臨床医もなおさらで,おそらく標本作製の過程など見たことない先生も多いだろうから,この本はわかりやすく書かれている.薄いのですぐ読める.

サイトスクリーナーを目指す臨床検査技師はこの程度の内容は学習済みなはずなので,基本不要のはず.

細胞診ワンポイント講座―知っていれば役立つ細胞所見 (2017)
おすすめ度:★★★★☆

細胞診はキーワード(あるいはクルー)が結構多く,その意味を理解していないと何を言っているのか,どういうニュアンスなのかがわからないことがままある.そんなときに役立つ本.通読するというより調べ物的な立ち位置.

アトラス細胞診と病理診断 (2010)
おすすめ度:★★★☆☆

この本は内容が若干古くなってはいるが,一冊で大まかに網羅できるためとても便利.細胞診と組織診を対して提示しているので,比較して勉強できる.ただ,言うまでもないが写真が少ないため,知識を入れ込むための本と割り切って使うと良い.

細胞診を学ぶ人のために (2019)
スタンダード細胞診テキスト (2019)
おすすめ度:★★★☆☆

どちらも細胞診の伝統的な本で,一般的には一応買うことが勧められる.と言っておく.確かに細胞診の網羅的な resource としてはとても有用.サイトスクリーナーを目指す臨床検査技師はこの本を通読することが求められるが,細胞診専門医を目指す病理医や臨床医はそこまでの知識は求められない.

学会が出版しているガイドライン

意外とよくまとまっている.できれば定期的に改訂してほしいが,著者が多いと難しいのかもしれない.

細胞診のスキルを磨くためには問題演習が必要で,問題集は比較的数多く出版されている.


他の明らかに難問すぎる問題集は意図的に省いている.

2018年6月2日土曜日

病理診断を学ぶ 〜 乳腺

2022/01/01 掲載されている本について情報をアップデートしました.
特に大きな変更はない.結局のところ,WHO 分類が基本にあってあとはそれを補うような位置付けになりがちである.乳腺疾患は非腫瘍性疾患も含まれているが,結局臨床的には癌か癌じゃないかの二択で十分であることが多いのと,免疫染色を行えばある程度蹴りがつくのでバリエーションとしてはそこまで多くはない.

2021/05/05 掲載されている本について情報をアップデートしました.
* 特に大きな変更はありません.
乳腺の本を参照することって実際問題あんまりなくて,なんといっても取扱い規約と WHO,あとは AFIP といったところ.

こういうことを言うと乳腺を専門とする先生には失礼かもしれないけれども,乳腺病理における疾患のバラエティは少なくて,鑑別診断でポイントとなることは限られている.難しい病変でも免疫染色を行うことである程度は決着がつくこともある.

現実的には WHO 分類及び規約,及び鑑別診断アトラスを見ながら診断をすることが多い.規約と WHO 分類に乖離が生じており悩ましい.

Breast Tumours (World Health Organization Classification of Tumours) (2019)

WHO bluebook はもはや,乳腺腫瘍(のみならず)全領域の基本的な本と言える.今回の改定ではそこまで大きくは変わっていないが,髄様癌が消えてしまい,invasive breast carcinoma の一亜型になっている.Rosen や AFIP もあるにはあるが,少なくとも腫瘍については WHO に従っておけば問題ない.5th series に入ってから,定義や診断に必要な要件などの記載がより鮮明になっている.

Rosen's Breast Pathology (2020)

これも言わずと知れた Rosen の教科書.大したこだわりはないのだが,まぁ細かいことも含めてよく載っている.腫瘍性病変については定義などの問題もあり WHO に軍配があがるが,特に非腫瘍性の病変で悩んだときに使う本ではある.

Biopsy Interpretation of the Breast (2017)

洋書で比較的新しく,かつそこそこ安い本としておすすめ.特にこれと言ってすごいというわけではないのだが,一通り揃っている.洋書でなにか一冊といったとき,ハンディなので専門にするのでなければはじめの一冊としてよいかも.

臨床・病理 乳癌取扱い規約 第18版 (2018)

だいたい,大して内容が変わっていないのに,18 版も重ねて何しているの?という批判はさておき,まぁ実際問題取扱い規約に書かれている内容で十分日常業務は事足りる,という意味では個人的に気に入っている.

浸潤性乳管癌の亜型の変更も結局何が言いたいのかよくわからないし.まぁともかく,個人持ちする必要はないけれども,日本で病理をやっていく上ではやはりこれが基本.しかし,稀な組織型については,WHO 分類を参照してくれというのは投げやりすぎないか?

乳癌 (腫瘍病理鑑別診断アトラス) (2016)

日本語の本としては,結局のところ,規約とこのアトラスで 9 割程度は網羅されている印象.これで書いていないあるいは不十分な記載があれば,腫瘍であれば WHO, 腫瘍あるいは非腫瘍であれば Rosen を参照するというのが大体のルーチン.しかし,規約の前に規約に改訂してしまってどうするんだろうか.また改訂するの?という感じ.




15 年目の悲劇

# 卒後は 17 年目,病理は 15 年目 自分は 2009 年に大学を卒業しているので,2026 年 4/1 現在だと,卒後 17 年目になる.卒後 15 年目のとか,20 年目の,みたいなタイトルの本を見るが,その節目を超えてさらなる大台に突入してしまった感じはある. 初期研...