2021年2月20日土曜日

胆嚢腺筋症 adenomyomatosis

調べたことのまとめ.胆嚢腺筋症ってなかなか病理診断のテキストに詳細に記載がなく,かつ非腫瘍性疾患なのであまり pick up されることが少ない.

メインの参照文献はここ.あとは適宜資料を漁ったり.

特になければ,このテンプレートをもとにする(産業医科大学の久岡先生が講義でよく使用するテンプレートをもとにちょっと改変したもの,いろいろなものに応用でき知識が整理されるので個人的には最近愛用している).

【臨床情報(年齢・性別・部位等)】

  • 50 代以上の成人に多いが,小児例の報告もある
    • 英文では adenomyomatous hyperplasia の記載が多い(英文ではこちらで検索をかけると引っかかりやすい)
  • [病因・病態] 後天的な胆嚢の形成異常で,胆嚢内圧の上昇,慢性炎症によるもの,加齢・性ホルモン分泌・代謝などによる増殖性変化という説
  • 約 9 割に胆石を合併
【肉眼所見
  • 全般型 diffuse/generalized, 分節型 segmental, 限局型 localized type に分類し,分節型+底部型は combined ともいう
  • 限局型は底部が多い.病変部では筋層の肥厚及び狭窄を認める
    • RAS が十分に拡張していると肉眼的にも確認可能
【組織学的所見
  • [疾患定義] 胆嚢壁 1 cm 以内に RAS が 5 個以上存在し,壁が 3 mm 以上に肥厚したものという定義が存在するらしい(武藤の定義
    • 正直,この診断基準を意識したことはないが...
  • Rokitansky-Aschoff 洞 (RAS) の増殖・拡張+固有筋層肥大,壁の線維化による胆嚢壁の限局性 or びまん性肥厚
    • 筋層内を種々の程度に拡張した腺管が増生し,腺管の異型は乏しい
    • 神経周囲侵襲のような像がある,,,らしいが元文献を見ると末梢神経自体の侵襲ではなさそう
  • 鑑別診断でも述べるが,筋層の肥厚や RAS の拡張をどの程度拾うかで胆嚢腺筋症と診断するか否かが変わってくるが,厳密な基準はないようだ
【鑑別診断
  • 腺癌:腺管の異型は乏しい,間質の desmoplastic reaction が見られない
  • Rokitansky-Aschoff 洞形成:筋層の肥厚があるかどうかだが,厳密な区別は難しい.程度問題?
【免疫組織化学染色・分子病理】
  • 特になし(調べても見つからなかった)
【治療・予後】
  • 胆嚢腺筋症自体は予後良好
  • 胆嚢癌発生のリスク因子であることを示唆する報告はいくつかあるが,コンセンサスには至っていない(分節型がリスク因子かも?とのこと


2021年2月14日日曜日

はじめての病理部ローテ診断中 その 2

前回の続きです.長くなってきたので分けました.

4. 定時より早めに帰宅


研修医の皆さんは,臨床各科をローテートしているときに定時で上がることはできましたか?多分ほとんどできていませんでしたよね?病理部はチャンスです!定時あるいは定時より早く上がるチャンスです!定時より早く上がっていいのかという疑問はありますよね?

多くの病院では医師の残業代は支給されておらず,労働裁量制が敷かれており定時より早く終わることについては問題はありません.最近では研修医の労働時間は厳密に守られており,時間外を積極的に支給している病院もあります.

しかし,そういう病院であっても原則的に時間外労働をさせないということに焦点を置いているので,そもそも定時よりも早く帰る研修医は想定していないことが多いです.

でも理由もなしに定時より早く上がるのはちょっと気が引けると思います.ここではいくつか事例を紹介します.これらをローテートさせたり,また複合させたりしてうまく言い訳してみてください.
  • 宅配物が届くから(冷凍ものなどというとより切迫感が出て good)
  • 親が来て迎えに行かないといけないから
  • 役所や銀行で手続きをする(引っ越しや結婚に関するものでも構いません,積極的に平日にぶち込みましょう)
  • 病院受診をする
に親戚が死んだことにする人がいますが,流石にやりすぎです.もし本当に亡くなったのであれば病院から弔電を出す出さないの話になるので,ややこしくなります.また危篤状態もちょっと微妙で,繰り返すと信憑性に疑問を持たれやすくなります.

初期研修医が終わる,2-3 月頃には手続き関係が多くなることは我々も承知しているので,上記理由をうまく使いまわして半日勤務にしてみたり,有給消化をしたりと有意義に過ごしてください

間違えてもこの時期に発熱や腹痛等の症状で早退するのは慎みましょう.話がややこしくなるので.ただし,微熱や体がダルイと言った COVID-19 を思わせなくはないけど,でも微妙で多分違うだろう程度の症状であれば積極的に休みを取りましょう.今の時期限定の裏技ですが.

5. ひたすら教科書を読む,臨床の


ここでは病理医になる気はない人を対象にしています.病理診断は少し特殊でおそらく何冊教科書を読んでも,実際の標本を見て診断を書いて指導医の feedback を受けないと実力をつけるのは難しいと思います.

一見すると知識で食っている診療科のように見えるのですが,やっていることは意外と体育会系です.

ここで言いたいのは,病理診断に関する本を読む暇があるくらいならば,行きたい診療科に関する本を読んでおいたほうが数倍有意義だよという話です.

実際,病理部をローテートしている研修医の先生たちは病理診断に関する本を読んでいる人はほとんどいなくて,感染症の本だったり輸液の本などを読んで有意義に過ごされています.病理診断に関する本を読んでいる先生も,自分の行きたい診療科の病理診断の本を読んで,実際の標本と照らし合わせて勉強されています.
(まぁ病理総論の基本がなっていないといくら照らし合わせて勉強しても,ただ目の前を通り過ぎるだけなんですけどね)

というわけで,皆さん有意義に過ごされているようですが,どどたんせんせのおすすめとしては病理の次にローテートする診療科の本を読んでおき予習しておくことです.そうすると次の診療科を回ったときにスムーズに溶け込むことができると思います.

番外編〜

ここからはきこりんせんせ @kiko12139 のおすすめの番外編です.

1. これだけは!依頼書の書き方


皆さん,依頼書ってどう書いていますか?本当に各科の先生方は思い思いで書いてくださっていて, 一言程度の「病理診断お願いします」から病歴サマリーを転記した,無駄だらけの超長文まで様々あります.

病理診断の依頼書の書き方については,おそらく研修医の最初のオリエンテーションで習うことがあるかもしれませんが,まぁ皆さん当然覚えてないですよね?そして病理部をローテートするとわかると思いますが,病理医はいつも依頼書の項目が不足していると文句を言っています.
はいはいといって受け流しましょう.
まともにやりあっても時間の無駄です.「そうですねー」「自分も臨床各科に進んだから気をつけますねー」程度で軽くやり過ごしましょう.

一般的にいかなる検体であっても必要な情報というものはあります.
  • ID (臨床 ID 及び病理 ID)
  • 年齢,性別
  • 採取部位,検体個数
この要素が抜けていると,そもそも病理診断自体が出来ません.でもこれらは検体を出す段階でほぼ自動的登録されるもので,臨床医が気にすることはありません.

そして一般的にこれらに加えて,次の要素を書くことが求められています.
  • 臨床診断
  • 現病歴(治療歴・既往歴を含む)
  • 画像所見,その他の検査所見
  • 臨床的な鑑別診断
  • 特殊な検索要望項目(例:好酸球数カウント,ピロリ感染の有無)
でも何が必要で何が必要でないかというのはある程度病理診断自体に精通しないとわかりませんし,必要な情報というのは鏡検してそれから判明することもあります

つまり,完璧な依頼書の記載ということ自体が無理ゲーなのです!かといって,病理医に対して「書けるわけ無いだろー」って真正面から文句を言うのもあまり大人げないので,はいはい,と適当に受け流しましょう.

ちなみにですが,病理部の業務は病院内ではありますが,どちらかというと B to B 的な業務です.臨床医は顧客ですので,顧客に対して怒るのはあまり適切とは言えません.もし診断が難しいと思われたら,その旨を診断文面に記載をして臨床医からのアクションを待つべきだと思っています.

若干似たような理由にはなりますが,最近は学会発表をするから写真が欲しいと言われ,かつ発表者に自分(病理医)の名前が載っていないときは,なるべく具体的な話をせず要求された写真をメールで送る(納品)ようにしています.たまに組織像を教えてほしいという依頼もありますが,その場合は写真に annotation をつけることによって可及的に回避しています.

ちなみに誤診疑いの案件の場合は積極的に一緒に標本を見て納得してもらうようにしていることが多いです.

2. 生食はダメ!検体提出

病理の検体提出方法はそんなに種類は多くはないのですが,病理検体の提出は臨床業務からすると端の中の端なので,臨床の先生が多くのことを覚えるのは難しいと思います.

原則的にはホルマリンで良いのですが,例外としては迅速診断用は乾燥を防ぐためフィルムなどでくるむ(なるべく生理食塩水にはつけない),電顕用にはグルタールアルデヒド,蛍光抗体法には OCT compound による凍結,フローサイトメトリーや染色体検査には生検体などと,目的によって微妙に異なります.

でもそんな細かいことを覚える余裕はないと思います.ここでは「どうしても分からない!!」となったときの対策として次の 3 点を覚えておきましょう.
  1. まず病理部へ電話をして相談
  2. 夜間などで病理部がつながらなければ,ホルマリンにつける,もしホルマリンがなければ冷蔵庫 (4 ℃) で保管して明日朝病理部へ相談
  3. 細胞診の検体はとりあえず冷蔵庫 (4 ℃) で保管して明日朝病理部へ相談
もちろん,これはベストではありません.でも,最悪の状態は回避できるはずです.

はじめての病理部ローテ診断中 その 1

本編~


はじめての病理部・病理診断科ローテーション.病理部って普段行かないからどういうところか分かりにくいですよね?病理の先生って気難しそうだし...ここではどどたんせんせのところへかつてやってきた初期研修医(一部後期研修医)の先生たちの行動パターンを元にして,病理部のローテーションを成功させるための秘訣を紹介しましょう.キーワードは

頑張らない

です.では早速行きましょう.

1. 挨拶 


まず初日.あなたは初研修中に病理部でのローテーションをすることに決めました.目的はだいたい次の 3 つに分けられることが多いです.
  1. 病理医になりたい!病理診断が好き!
  2. 行きたい診療科は決まっていてそれに関連する病理診断について勉強したい!
  3. 夏休み・春休みを気兼ねなく取りたい(特に 2 年目の 2-3 月あたり)
あなたはどれですか?どどたんせんせの印象としては,2 > 3 > 1 の順に多いです.ここで重要なポイントです.
いかなる事情があったとしても病理医になりたいなどと口に出さないこと
病理医になりたいなどというと,相手に変な期待をさせてしまう恐れがあり,もし何らかの事情で違う進路を選んだら,かなり恨まれます.止めておきましょう.

じゃあ本当に病理医になりたい人はどうしたらいいのかって?そもそも病理医になること自体はあまりおすすめはしていないのですが,どうしてもっていう人は 2 年目の 7-8 月頃に相談してみましょう.そうすると我々としては「あのときはそっけなかったのになんだやる気じゃん」と評価が急上昇します.また我々の教育により行動変容を促せたという自己肯定感でいっぱいになります

一般的に病理医になると早く宣言して得られるメリットは初期から手厚い指導を受けられる,定員に制限があっても優先的に入れるという程度ですが,そもそも手厚い指導をしているところなんてほとんどない上に,定員をフルで満たせるような超人気病院は数えるほどしかなくほぼ気にする必要はありません

後期研修でゼロから病理診断のトレーニングを始めても全く問題ありません.どどたんせんせもそうでしたし.

2. 早速の有給消化,春夏休み


さて,早速の挨拶も終わり,病理部の一員として無事迎えられることが出来ました.どのように挨拶をしましたか?まさか病理医になりたいだなんて言ってないですよね?

そしてすぐ取り掛かることは何でしょうか?教科書を読む?切り出しの見学をする?診断端末の使い方を習う?全て違います.有給消化のスケジュールを組むことです.

皆さんは,臨床各科をローテートしたときに自由に有給を消化できましたか?やれ手術だのやれ検査だので思ったように取れなかったと思います.でも病理は違います.完全有給取り放題です!それはなぜでしょうか?少し詳しく説明してみますね.

そもそも病理診断というスキル自体が一定以上の経験が必要で,1-2 ヶ月ローテートするくらいでは全く戦力にはなりません.もちろんカセットを書いてもらったり,といった補助的な作業はできるかもしれませんが,多くの場合は教えるコストが大幅に上回ってしまいめんどくさいから自分でやるとなりがちです.

研修医の先生がいて仕事が片付いて助かったよ,ということをいう病理の先生はほとんどいませんし,もしいたとすれば
  1. ただのお世辞(勧誘)
  2. その先生が超絶優秀すぎ
のどちらかに限ります.自他共認める超絶優秀研修医でなければ,暫定的に 1. と解釈したほうが無難です.

以上の理由から病理部のローテートにおける研修医は「別にいても(にぎやかになるし空気が変わるから)いいけど,いなくてもいいかな」みたいな絶妙な立ち位置にいることになり,有給取得で嫌な顔をされることはほぼありません.

実際どどたんせんせも嫌な顔は一切しませんし,むしろ「夏休み(春休み)取りたくない?2 週間くらいとったらどう?」とか「病院見学行かなくていいの?」とか有給を取得するように積極的に促しています.とても良好な職場環境だと思います.

3. 業務時間中に調べ物と称して研修医室に籠る


一度来てみればわかると思いますが,病理部はとても閉鎖的な環境です.どどたんせんせも会話する相手はほぼ病理部の中の人達だけで,実際は 1 日 10 人以上の人と話すことはそんなにありません.小さい病理部であれば 1 日数人と 30 分程度話をするだけ,ということも十分ありえます.

さて,病理部での研修医の業務とはなんでしょうか?これは厳密な定義やルールといったものはないと思います.しかしながら上述したように,なんの知識もない研修医が頑張れば頑張るほど指導医の仕事が増えていく傾向にあります(途中から指導医の仕事が減るのですが,大体多くは減り始めたときに研修が終わり,また 1 からのスタートになります).

すると,仕事を振ること自体が面倒になり,多くの病理部では研修医は興味のある症例について自分で勉強をすることが仕事,となりがちです.勉強が仕事ってまるで学生みたいですが,唯一学生と異なっているのが給料をもらえるという点ですね.

繰り返しになりますが,病理部は閉鎖的な空間なので,狭いところで指導医と一緒にいるのが辛いことが多いと思います.そういうときは「図書室(図書館)に調べ物をしに行ってきます」や「研修医室で調べ物をしてきます」と言って,そこから抜け出しましょう.

もちろん迅速診断や剖検に入れない可能性はありますが,別に入れなくてもその後には全く影響ありませんし,迅速診断はしょっちゅう抜け出すのでなければ研修期間中に 1 回は見ることができるはずです.やっていることは基本的に同じことの繰り返しなので,1 回見れば十分です.

* たまに勘違いしている研修医がいますが,内科専門医に使う剖検症例は病理側で入ってもだめです.あくまで臨床医として参加する必要があり,病理部のローテーションでは要件を満たせません.

2021年2月13日土曜日

検査と診断の違い

# 検査と診断の違いについて


ここで言う検査は臨床検査を指している.臨床検査の項目のうち,面白いことに画像診断と病理診断のこの 2 つにおいては検査であるにも関わらず診断というキーワードが入っている.ここが検査と診断に関する誤解を生みやすい原因の一つと言えるだろう.
 
画像診断(放射線画像診断)についてはどどたんせんせの専門分野ではないため,ここからは臨床検査,特に病理学的検査と病理診断を中心に話をしていくことにする. 

# 検査とはなにか


漠然としすぎていて説明するのが難しいが,基本的には患者の状態を調べること.国語辞典の言葉を借りするとすれば
[名](スル)ある基準をもとに、異状の有無、適不適などを調べること。「所持品を検査する」「適性検査」
ということになる.臨床検査の信頼度の指標として妥当性と正確性,遺伝子検査関連では ACCE モデル,検査前確率,検査後確率,感度,特異度など様々なキーワードがあるが,とりあえず直感的には次のように言うことが可能.
 
検査の意義は,
その検査を行うことによって治療・予後などを含めた診療に影響を及ぼすものであり,診療に影響を及ぼさないのであればそれは検査としては意味がない
ということになる.検査を出す臨床医は常にその意義を考え,検査を行う我々は常にその意義を汲んで結果を報告している.
 
専門的な用語で言えば検査後確率に影響及ぼさないものはそもそもやる意味がない.一方で,その後の診療に何らかの影響を与えることができるのであれば,陰性であったとしてのその検査は重要な意味を持つ.

検査に対する意識を高める方法の一つは,陰性所見の意味・意義を十分に考えること.日の当たらないところに対して意識を向けられるかがポイント.

# 診断とはなにか


ここも同じように,国語辞典の言葉を借りれば,
診断には価値判断の要素が含まれており,原則的に検査に価値判断の要素は含まれていない
ということになる.価値判断とは究極的には主観のようなもので,私はこう思うというその人の意見や意思が含まれている.人生は価値判断の連続でもあるし,臨床医の行う診断も価値判断で,当然,病理診断も価値判断となる.検査から診断に変わることで,感度・特異度の問題から開放され,その診断は(建前上,少なくともその時点では)確定する.少なくとも保険診療上では何らかの診断を確定しないと治療へ進めない.

臨床検査の結果にはこのような意見や意思は含まれてはいけなくて,そのために臨床検査の品質管理は工業製品と似たような規格 (ISO など) に沿って厳格になされている.裏を返せば,油断していると検査にも価値判断が紛れ込みやすくなってしまう.どどたんせんせは全ての臨床検査を把握しているわけではないが,一般的な検査は少なくともそうなっているハズである.

# 病理学的検査と病理診断の違いはなにか


しばしば病理学的検査≒臨床検査技師の範疇,病理診断≒病理医(医師)の範疇という理解がなされているような風潮もあり,おおむね(少なくとも法律的には)正しいように思うが,本質的には若干違う.

その違いはこれまでの話にあるように,価値判断が含まれているかどうかということに尽きる.病理診断には検査結果の記載のみならず,それに対する判断(治療の推奨や臨床病理相関に関するコメント)が記載されているため,診断となる.だからこそ病理診断は医行為であると認められたという経緯がある(じゃあそれまではなんで認められなかったのか?という疑問は残る).

その境界的な立ち位置にいるのが細胞診断(細胞学的検査)であり,検査とするのか診断とするのか,誰も答えたがらない(どちらかにすると様々な問題が生じてしまうため).診療報酬点数表でもうまく?問題を回避している.

# 検査センターは検査で病院は診断


業界を知らない人にとっては全く意味不明な制度だが,(いくつかの特殊な例外を除き)原則的に検査センターで行われた病理診断は検査という扱いで,病院で行われた病理診断は診断ということになっている.

それは先ほど説明したとおり,

病理診断は価値判断が含まれており,価値判断を行うためには適切な臨床診断及び臨床情報が必要であり,それらを含めて統合的に判断するという建前がある.

検査センターでは検体が病院・クリニックと切り離された場所にあり,そのような統合的な判断が難しいだろうという理屈が存在しうる.もっとも丁寧な診断をしている検査センターもある一方,これが診断?!と言いたくなるような雑な診断しかしていない病院もあることを理解しているが,原則的にはそう.

# 完全的防御的病理学的検査


ここからは特になんの根拠もない,単なる個人的な考えのお話.どどたんせんせは常日頃から病理診断は病理検査(病理学的検査)であるべきと主張しており,アカウント名も「場末の病理検査」となっている(が,中身の人はそんなことはリアルでは口に出せない).その理由は次の通り
  1. 皮膚科や腎臓内科などは自分たちで標本を見ており,そもそも病理診断を当てにされていない.病理診断で良性と判断しても,こちらに対して相談なしに臨床的に悪性とみなされ手術されてくることもある
  2. 病理診断を行うためには適切な臨床情報が必要なのにも関わらずしばしば隠されていることがある.特に脳神経外科,迅速診断で結果報告をするときに実はこうでしたーというネタバラしにあう
  3. 病理診断はその根拠の多くを臨床診断に依存しており,臨床所見に熟知した臨床医の責任のもとに最終判断をするのが適切だと考えているから.病理が誤診した非難された事例を知っているが,それは明らかに臨床情報が不足していたことに起因するもの
我々は病理学的検査として臨床医のサポートに徹することで,誤診から精度管理の問題へ移行することができ,現状で誤診と言われるような問題点を回避することができる.


2021年2月9日火曜日

病理診断の方向性

# この前の話

最近,有名どころの有名な先生とちょっと話をする機会があり色々と考えさせられることがあったので少し.診断についての話だったのだが,病理診断学の方向性と世界の動向を併せるとなかなか難しいなと感じた話.

まどろっこしい前置きはこれくらいにしておいて,早速本題から.

# おそらく日本以外では特殊染色は,免疫染色よりハードルが高い

その先生曰く,アメリカに留学に行ったときに特殊染色を依頼しようとすると,結構ハードルが高いことにびっくりしたそう.特殊染色は kit を使うような感じになっていてルーチンで出される染色はかなり限られていたとのこと(もちろん全てではないのだろうが..).その点免疫染色はルーチンで回していて出しやすかったと.

日本でも聞いたことのある施設では,特殊染色に対して毎日は染めておらずまとめて染めるというところもあるようだ.

どどたんせんせが研修あるいは働いていたところは,特殊染色に対する敷居が非常に低くて,しかも染色に造詣の深い技師がいることが多く免疫染色よりも手が出しやすいという印象が強かった.

そういう自分の背景からするとかなり意外な気がして,そういう病院もあるのかと新しい発見であった.

# 発展途上国でも実は免疫染色の方がハードルが低い

昔から病理をやっているものの感覚としてはもともとは HE から始まり,特殊染色が広がりさらに最近では免疫染色が加わり,そこに FISH, RT-PCR 等と併せさらには NGS が入り込みそう,という流れがある.

我々の望みとしては?発展途上国も同じような経路を辿ってほしいという感覚があり,つい,まずは特殊染色からでしょ!と言いがちなのだが,技術がどのように入ってくるかというのは誰にも予想が出来ず,最先端だけそのまま持ってくることだって可能だったりする.

例えば,彼の国ではリゾート地の管理にドローンを使っているようで,遅れてるけど最先端という面白い現状がある.

もっともそういう導入の仕方は基礎がない分しばしば脆弱である(技術だけではなくそれをコントロールするノウハウ,そしてその技術を受け入れる土壌も大切だから)

さて,そんな途上国でも特殊染色よりも免疫染色の方が導入しやすいようで,細い話は聞いておらず詳細はわからないのだが,おそらく治療に直結するからと思われる.EVG 染色で脈管侵襲をいくら丁寧に評価したところで,TNM 分類には何ら寄与しない(そういう考え方に立脚すれば EMR 及び精巣,甲状腺腫瘍以外では弾性線維染色は不要かもしれない)が,ER, PgR, HER2 は治療の選択に非常に有用である.

資源が少ないあるいは効率を求める状況下では,我々が普段行っている特殊染色の多くは無駄と判断されてしまうだろう.

# WHO 分類は 2 極的な傾向

WHO 分類は組織型の分類・紹介である一番最初の "Histological Typing" から経て,現在では腫瘍診断あるいは研究のガイドラインとなるような monograph のようなものへと進化している.

その根底思想には,どの病理検査室でも高い再現性をもって診断ができることと,出版時点での当該腫瘍に対してどこまで理解がなされているかを簡潔に記載することがある.

「どこでもだれでも」は HE 染色がベースになるだろうし,「最先端」は遺伝子変異の検索が必要でその surrogate marker として続々と登場する免疫染色がその役割を果たしてくれだろう.

すると,結局感度も特異性もいまいちな特殊染色は腫瘍診断においてかなり置いてけぼりを食らってしまう.正直,ぶっちゃけていうと腫瘍診断で,今オーダーしている特殊染色の 9 割くらいはなくても TNM, staging には全く問題ない.こんなことはリアルではぶっちゃけられないけど.

もちろん Congo red / DFS 染色で染めるアミロイドのように非常に重要な非腫瘍性疾患もなくはないが,概して腫瘍性疾患に比べると優先順位が比較的下がる.

情勢が安定してきて高齢者や富裕者が増えつつある国では腫瘍性疾患(+心血管系もあるが病理診断にはあまり検体が供されない)の重要性が増してきている.

# 結局必要なのは HE 染色だったのかもしれない...

自分は別に古いものを大切にするような,あるいは伝統を重んじるような人間ではない.しかし,このような現状及び展望を見たり,エキスパートパネルに参加して,HE 染色で適切な評価することの重要さを再確認することが少なくない.

今あるがん遺伝子検査パネルなんかも,組織学的に悪性腫瘍という診断がついていることが(言うまでもない)大前提で,例えば HBOC の症例だと多分正常組織をとってきても BRCA1/2 の遺伝子変異があったりしてじゃあそれが治療ターゲットになるのか?という議論になりかねない(ならないとは思うけど).

どれだけ高度な discussion がなされていても,その前に前提として診断が違うでしょ!とちゃぶ台がひっくり返ることも何例か経験している.大人だからオブラートに包んで言うけれども.

もちろん形態診断以外は勉強する必要がないというメッセージではなく,それぞれの立ち位置を意識しながら勉強をする必要がありそう,ということ.

2021年2月2日火曜日

子宮内膜生検のみかた:落ち葉拾い(治療後の修飾,頚管腺との区別,内膜ポリープの診断,内膜への転移)

2021/02/02 1st edition. 2021/02/02 Last updated.

落ち葉拾い.ここでは前項までに説明しなかった細かい話を拾い上げていく.

治療後の修飾


  • 妊孕性温存のために,G1 までの類内膜癌ではしばしば MPA 療法がなされる
  • 結論的には MPA 療法がなされている子宮内膜では内膜が一斉に分泌期相当へ変化してしまうため,異型といった指標がわかりにくくなる
    • あと何故か参考となる本が日本語の本以外になかったりする,なぜ??
  • 正直言うと結果的によくわからないことが多く,atypical glands だったりなんだったりでお茶を濁して返すことが多い
  • 結局のところ,明らかな癌が出てしかも浸潤が疑われれば妊孕性云々の前に子宮全摘にいかなくちゃいけなくなるし,微妙なものは微妙と書いていい気がする(極めて私見)

内膜腺と頚管腺との区別


  • レジデントの先生でこの区別がついていない人が意外と多い気がするし,注意されたことがある人はままいるのでは?
  • 頚管腺は原則的に細胞質が明るい円柱状の細胞で核は基底部に留まっている.これが分泌期の子宮内膜腺のように見えてしまうことがあり注意が必要(その目で見ればだいたい分かることが多い)
  • 特に高齢者で子宮口が狭くなっている人で無理やり採取してきた検体には頚管腺がまま含まれていることもある

内膜ポリープの診断


  • 正直言うと内膜ポリープの診断はあまり好きではない
  • 典型的には種々の程度に拡張した増殖期相当の内膜腺と螺旋動脈レベルを超えた大型の血管からなる病変で全体的にポリープ状構造を呈している
    • ことになっている
  • 上記の典型的な所見が見られれば診断自体は難しくないのだが,低乳頭状に見えるポリープだったり,断片化しているもの,大型の血管の介在が乏しいときなど判断が非常に困ることがある
  • もし内膜ポリープではなかったら子宮内膜増殖症とせざるを得ない症例もあり(どちらも限局性に出現してよく病変の局在は診断根拠にはならない),正直診断自体に限界を感じているところ
  • もう考えてもしょうがないので,臨床的にポリープとされ,上記典型的な所見がなければ,compatible with endometrial polyp としていることが多い
    • 今までそれで大きな問題になったことはないが,,,
  • WHO 2020 によれば内膜ポリープを見たときに同時・その後に増殖症や癌が発生する確率はそれぞれ 11-30%・0.5-3% であるため,そもそも論として良性でも要注意の病変である.多分臨床医はわかってくれているはず

子宮内膜への転移


  • まれに癌が子宮内膜へ転移をすることがある(内膜癌の他臓器転移ではない)
  • 個人的には乳癌の内膜転移をみてびっくりしたことがある
  • 内膜単独で転移をすることは多分稀で,普通の癌とは違うなと思ったときにはカルテを参照すればだいたいそれなりの臨床経過(なにかのがんの術後であったり,原発不明癌多臓器転移だったり)がすでにあることが多い
  • 引っ掛けられなくてもよいが,気になったらなるべくカルテを参照してみるとよいことがあるかも
他にも APAM だったり,化生だったりいろいろなイベントが内膜には起こるけれども,長くなるのでとりあえずこれくらいで.

子宮内膜生検のみかた:子宮内膜増殖症における異型

2021/02/02 1st edition. 2021/02/02 Last updated.


子宮内膜増殖症の組織学的診断


  • 現行では子宮内膜増殖症及び癌は次の 3 つに分かれている
    • Endometrial hyperplasia without atypia
    • Atypical endometrial hyperplasia / Endometrial intraepithelial neoplasia
    • Endometrioid carcinoma (G1-G3)
  • 以前は endometrial hyperplasia に対して atypical / (non-atypical) 及び simple / complex で 4 つの分類に分かれていたことを考えると,かなりシンプルになってきている
    • 最近の流行りとして,治療への影響及び診断の再現性が重視されており,無意味に細かい分類はなくなってきた
    • simple, complex の何がどうかについては古い規約なので語ってもしょうがないかもしれないが,おそらく次項以降の説明に含まれるだろう
  • 明らかな類内膜癌はいいとして,採取された検体が上記のどれに該当するのかを考えるのがポイント

子宮内膜増殖症における異型とは


  • without atypia / atypical - とあるように異型があるかないかは診断上重要であるが,困ったことに異型に関する cut off はなさそうで,結構経験的な判断に頼らざるを得ない
    • 理由の一つとして,子宮内膜増殖症は基本的に「増殖期」の子宮内膜が増殖する病変である(性周期から逸脱して自律的に増殖している)
    • 正常でも増殖期の内膜腺は義重層化や核分裂像が散見され,病理総論でいう細胞異型のみを根拠にすると腫瘍性の異型との区別がつきにくい
  • 一応 N/C 比の増加,核クロマチンの増加,円形核・多形性核,明瞭な核小体あたりが教科書的には異型の指標として記載されているが,一般的すぎて分かりにくい
    • 初学者がアトラスを見ても増殖症の異型を捉えにくい理由の一つかと
  • 究極的な解決方法はないが,個人的には核が類円形のものや,細胞が横同士で核が重なっているように見えるもの(偽重層化ではない!)は少なくとも異型として判断している
  • ちなみに WHO 2020 では without atypia / atypical - の鑑別において,細胞異型と構築の乱れをもとに診断せよと書いてあるが,正直見てもよくわからない
    • PTEN, PAX2, mismatch repair protein の免疫染色が有用だとも記載があるが,免疫染色を使っているのを見たことがない(ちなみに類内膜癌は MSI-High の腫瘍の中で圧倒的に頻度が高い;とはいっても 20% を切るくらいだが)
  • 以上の議論からは異型に関する診断者間の差はある程度想定され,施設ごと(上司の方針)に従った方が無難と言える
    • 裏を返せば多少間違えてもあまりインパクトは少ないとも言えるが...


腺間質比の増加


  • 増殖症というからには腺間質比も増加している.このとき腺間質比を評価するにあたっては拡張した腺管の腔も腺管成分としてカウントすることが重要
    • 昔の endometrial hyperplasia, simple はスイスチーズ様とも言われ,腺上皮自体はそこまで多くはないが,腔が広くなっておりそれにより腺間質比の増加になっている
  • どれくらいで腺間質比の増加と判断するかという基準もないが(WHO 2020 においても特に記載がない),とりあえず 1:1 を超えるようなときは腺間質比の増加と判断することが多い
    • 分泌期での腺間質比の増加の評価は慎重になったほうが良い
    • そもそも増殖症がホルモンに反応すること自体が定型的ではない上に,分泌期では腺管が拡張し腺間質比が増加しているように見えやすいため
  • 腺管同士が接して見える back to back の構造があれば,腺間質比が増加していると積極的に取りやすい
  • もし背景の正常の子宮内膜が採取されていれば比較の材料となりうるが残念ながら病変部分しか見えないことも少なくない

癌(類内膜癌)の診断


  • 現行の分類では Atypical endometrial hyperplasia / Endometrial intraepithelial neoplasia というように,異型内膜増殖症と内膜内癌 (carcinoma in situ) が同じスペクトラムの病変と位置づけられてしまい,癌(類内膜癌)は原則的に浸潤癌という立ち位置になってしまったため,癌と診断するためには浸潤を証明することが必要になってしまっている
  • よって明らかなものはさておき,生検やキュレットで癌と診断することはかなり難しくなってきた
  • 古典的には腺管同士が癒合していれば,間に存在する間質が消失しているはずだから,腺管の癒合→浸潤である(逆は必ずしも成り立たない)という理屈があったし,WHO 2020 でもそのように記載されている
    • たまに婦人科病理の専門の先生にコンサルトをしてみると癒合腺管が見えても atypical endometrial hyperplasia として帰ってくることがあり,正直基準は曖昧だなと感じている
  • 腺管の周りに内膜間質とは異なるような線維芽細胞が見られれば浸潤と積極的に判断しやすいが,実際はそんなわかりやすいことは珍しく難しい
  • 結局増殖症と癌と迷う文脈ではしばらく時間の猶予があるので,あまり無理せず難しいと記載するのが現実的(妊孕性温存という観点からも G1 の類内膜癌までは MPA 療法がしばしばなさている)

子宮内膜生検のみかた:はじめに(子宮内膜生検を見る前に理解しておくこと)

2021/02/02 1st edition. 2021/02/02 Last updated.


子宮内膜生検のみかた.はじめのはじめ


  • 自分も含めて子宮内膜生検を見るのは結構苦手な人が多いと思う
  • 明らかな癌と明らかな良性病変はさておいて,増殖症あたりでどのように判断をするのか一定した基準があるようでなく分かりにくい
  • ここでは癌と増殖症及び鑑別疾患に絞って子宮内膜生検で提出されにくい肉腫や間質性の病変は割愛する

子宮内膜生検で採取される検体


  • 我々は何を見ているのかというのは意外と重要で,標本上に何が含まれうるのかを明確に意識しておかないと変な方向に進んでしまう
  • ごくごく当たり前の話だが,いかなる方法であれ,内膜を採取するためには膣から挿入し子宮頚部を経由しないと到達できない
    • 子宮頚部の組織が混入する可能性は常にある.特に体頚部の境界領域の病変を採取するときにはそう
  • 多分後でも触れるけれども,意外と頚管腺上皮と内膜腺上皮は油断していると混同しやすい
  • 子宮内膜は内膜腺と間質からなるが,その見え方で様々な像を呈する

子宮内膜の性周期診断はなされなくなってきた


  • 昔は日付診なるものがよくなされていて,組織学的所見と臨床的な日付とどれくらい乖離があるのかないのかを調べられていた.細胞診においても同様の試みがなされていた
  • でも自分が病理医として働き始めてからは日付診をしたことはないし,だんだん話を聞かなくなってきた
  • しかし,性周期によって子宮内膜がどのような変化を遂げるのかについて,大まかな理解は必要
    • 実際自分も大まかな理解しかしていないが

おおまかな性周期診断のポイント


  • 増殖期:この期間は原則的に日付診は出来ない.間質はコンパクトから浮腫状で,内膜腺はおおむね小型で偽重層化が見られる
  • 分泌期初期:内膜腺は偽重層化がなくなり核下空胞(→次第に核上も見られるようになる)を形成するのが特徴.間質は浮腫状である
  • 分泌期中期から後期:内膜腺は空胞がなくなり乳頭状,絨毛状になってくる.間質は次第に浮腫状から細胞質が好酸性でやや広い脱落膜様変化を呈してくる.また螺旋動脈が発達してくる
  • 月経期の内膜が採取されることは経験上ほぼない.一応増殖症や内膜ポリープは性周期から外れているということで,増殖期様の変化を呈することになっている(例外は当然あるけれども)

断片化しすぎている検体に注意


  • (個人的な見解として)断片化しすぎている検体では診断自体を躊躇した方が良いかもしれない
  • 細胞異型が強ければ atypical endometrial hyperplasia 以上の診断が可能かもしれないが,腺間質比も重要で,断片化しすぎている検体ではこの情報が本質的に抜けている
  • 臨床的に内膜の肥厚があるなしも含めて,場合によっては再生検してもらっても良いかもしれない.胃生検で por, sig を見逃したときに診断の delay により治療が手遅れになったという話はたまに聞くけれども,子宮内膜生検では同様の話はあまり聞かない

対立する所見が見られたときの病理診断の進め方

# Introduction 一般的には,病理診断においては A, B, C, D, ... という所見があって X と診断するというように所見を集めて,通常は一つの診断を目指していく.多くの症例では X に至る A, B, C といった所見は同じ方向を向いており,大抵はストレー...