2021年2月13日土曜日

検査と診断の違い

# 検査と診断の違いについて


ここで言う検査は臨床検査を指している.臨床検査の項目のうち,面白いことに画像診断と病理診断のこの 2 つにおいては検査であるにも関わらず診断というキーワードが入っている.ここが検査と診断に関する誤解を生みやすい原因の一つと言えるだろう.
 
画像診断(放射線画像診断)についてはどどたんせんせの専門分野ではないため,ここからは臨床検査,特に病理学的検査と病理診断を中心に話をしていくことにする. 

# 検査とはなにか


漠然としすぎていて説明するのが難しいが,基本的には患者の状態を調べること.国語辞典の言葉を借りするとすれば
[名](スル)ある基準をもとに、異状の有無、適不適などを調べること。「所持品を検査する」「適性検査」
ということになる.臨床検査の信頼度の指標として妥当性と正確性,遺伝子検査関連では ACCE モデル,検査前確率,検査後確率,感度,特異度など様々なキーワードがあるが,とりあえず直感的には次のように言うことが可能.
 
検査の意義は,
その検査を行うことによって治療・予後などを含めた診療に影響を及ぼすものであり,診療に影響を及ぼさないのであればそれは検査としては意味がない
ということになる.検査を出す臨床医は常にその意義を考え,検査を行う我々は常にその意義を汲んで結果を報告している.
 
専門的な用語で言えば検査後確率に影響及ぼさないものはそもそもやる意味がない.一方で,その後の診療に何らかの影響を与えることができるのであれば,陰性であったとしてのその検査は重要な意味を持つ.

検査に対する意識を高める方法の一つは,陰性所見の意味・意義を十分に考えること.日の当たらないところに対して意識を向けられるかがポイント.

# 診断とはなにか


ここも同じように,国語辞典の言葉を借りれば,
診断には価値判断の要素が含まれており,原則的に検査に価値判断の要素は含まれていない
ということになる.価値判断とは究極的には主観のようなもので,私はこう思うというその人の意見や意思が含まれている.人生は価値判断の連続でもあるし,臨床医の行う診断も価値判断で,当然,病理診断も価値判断となる.検査から診断に変わることで,感度・特異度の問題から開放され,その診断は(建前上,少なくともその時点では)確定する.少なくとも保険診療上では何らかの診断を確定しないと治療へ進めない.

臨床検査の結果にはこのような意見や意思は含まれてはいけなくて,そのために臨床検査の品質管理は工業製品と似たような規格 (ISO など) に沿って厳格になされている.裏を返せば,油断していると検査にも価値判断が紛れ込みやすくなってしまう.どどたんせんせは全ての臨床検査を把握しているわけではないが,一般的な検査は少なくともそうなっているハズである.

# 病理学的検査と病理診断の違いはなにか


しばしば病理学的検査≒臨床検査技師の範疇,病理診断≒病理医(医師)の範疇という理解がなされているような風潮もあり,おおむね(少なくとも法律的には)正しいように思うが,本質的には若干違う.

その違いはこれまでの話にあるように,価値判断が含まれているかどうかということに尽きる.病理診断には検査結果の記載のみならず,それに対する判断(治療の推奨や臨床病理相関に関するコメント)が記載されているため,診断となる.だからこそ病理診断は医行為であると認められたという経緯がある(じゃあそれまではなんで認められなかったのか?という疑問は残る).

その境界的な立ち位置にいるのが細胞診断(細胞学的検査)であり,検査とするのか診断とするのか,誰も答えたがらない(どちらかにすると様々な問題が生じてしまうため).診療報酬点数表でもうまく?問題を回避している.

# 検査センターは検査で病院は診断


業界を知らない人にとっては全く意味不明な制度だが,(いくつかの特殊な例外を除き)原則的に検査センターで行われた病理診断は検査という扱いで,病院で行われた病理診断は診断ということになっている.

それは先ほど説明したとおり,

病理診断は価値判断が含まれており,価値判断を行うためには適切な臨床診断及び臨床情報が必要であり,それらを含めて統合的に判断するという建前がある.

検査センターでは検体が病院・クリニックと切り離された場所にあり,そのような統合的な判断が難しいだろうという理屈が存在しうる.もっとも丁寧な診断をしている検査センターもある一方,これが診断?!と言いたくなるような雑な診断しかしていない病院もあることを理解しているが,原則的にはそう.

# 完全的防御的病理学的検査


ここからは特になんの根拠もない,単なる個人的な考えのお話.どどたんせんせは常日頃から病理診断は病理検査(病理学的検査)であるべきと主張しており,アカウント名も「場末の病理検査」となっている(が,中身の人はそんなことはリアルでは口に出せない).その理由は次の通り
  1. 皮膚科や腎臓内科などは自分たちで標本を見ており,そもそも病理診断を当てにされていない.病理診断で良性と判断しても,こちらに対して相談なしに臨床的に悪性とみなされ手術されてくることもある
  2. 病理診断を行うためには適切な臨床情報が必要なのにも関わらずしばしば隠されていることがある.特に脳神経外科,迅速診断で結果報告をするときに実はこうでしたーというネタバラしにあう
  3. 病理診断はその根拠の多くを臨床診断に依存しており,臨床所見に熟知した臨床医の責任のもとに最終判断をするのが適切だと考えているから.病理が誤診した非難された事例を知っているが,それは明らかに臨床情報が不足していたことに起因するもの
我々は病理学的検査として臨床医のサポートに徹することで,誤診から精度管理の問題へ移行することができ,現状で誤診と言われるような問題点を回避することができる.


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