最近,有名どころの有名な先生とちょっと話をする機会があり色々と考えさせられることがあったので少し.診断についての話だったのだが,病理診断学の方向性と世界の動向を併せるとなかなか難しいなと感じた話.
まどろっこしい前置きはこれくらいにしておいて,早速本題から.
# おそらく日本以外では特殊染色は,免疫染色よりハードルが高い
その先生曰く,アメリカに留学に行ったときに特殊染色を依頼しようとすると,結構ハードルが高いことにびっくりしたそう.特殊染色は kit を使うような感じになっていてルーチンで出される染色はかなり限られていたとのこと(もちろん全てではないのだろうが..).その点免疫染色はルーチンで回していて出しやすかったと.
日本でも聞いたことのある施設では,特殊染色に対して毎日は染めておらずまとめて染めるというところもあるようだ.
どどたんせんせが研修あるいは働いていたところは,特殊染色に対する敷居が非常に低くて,しかも染色に造詣の深い技師がいることが多く免疫染色よりも手が出しやすいという印象が強かった.
そういう自分の背景からするとかなり意外な気がして,そういう病院もあるのかと新しい発見であった.
# 発展途上国でも実は免疫染色の方がハードルが低い
昔から病理をやっているものの感覚としてはもともとは HE から始まり,特殊染色が広がりさらに最近では免疫染色が加わり,そこに FISH, RT-PCR 等と併せさらには NGS が入り込みそう,という流れがある.
我々の望みとしては?発展途上国も同じような経路を辿ってほしいという感覚があり,つい,まずは特殊染色からでしょ!と言いがちなのだが,技術がどのように入ってくるかというのは誰にも予想が出来ず,最先端だけそのまま持ってくることだって可能だったりする.
例えば,彼の国ではリゾート地の管理にドローンを使っているようで,遅れてるけど最先端という面白い現状がある.
もっともそういう導入の仕方は基礎がない分しばしば脆弱である(技術だけではなくそれをコントロールするノウハウ,そしてその技術を受け入れる土壌も大切だから).
さて,そんな途上国でも特殊染色よりも免疫染色の方が導入しやすいようで,細い話は聞いておらず詳細はわからないのだが,おそらく治療に直結するからと思われる.EVG 染色で脈管侵襲をいくら丁寧に評価したところで,TNM 分類には何ら寄与しない(そういう考え方に立脚すれば EMR 及び精巣,甲状腺腫瘍以外では弾性線維染色は不要かもしれない)が,ER, PgR, HER2 は治療の選択に非常に有用である.
資源が少ないあるいは効率を求める状況下では,我々が普段行っている特殊染色の多くは無駄と判断されてしまうだろう.
# WHO 分類は 2 極的な傾向
WHO 分類は組織型の分類・紹介である一番最初の "Histological Typing" から経て,現在では腫瘍診断あるいは研究のガイドラインとなるような monograph のようなものへと進化している.
その根底思想には,どの病理検査室でも高い再現性をもって診断ができることと,出版時点での当該腫瘍に対してどこまで理解がなされているかを簡潔に記載することがある.
「どこでもだれでも」は HE 染色がベースになるだろうし,「最先端」は遺伝子変異の検索が必要でその surrogate marker として続々と登場する免疫染色がその役割を果たしてくれだろう.
すると,結局感度も特異性もいまいちな特殊染色は腫瘍診断においてかなり置いてけぼりを食らってしまう.正直,ぶっちゃけていうと腫瘍診断で,今オーダーしている特殊染色の 9 割くらいはなくても TNM, staging には全く問題ない.こんなことはリアルではぶっちゃけられないけど.
もちろん Congo red / DFS 染色で染めるアミロイドのように非常に重要な非腫瘍性疾患もなくはないが,概して腫瘍性疾患に比べると優先順位が比較的下がる.
情勢が安定してきて高齢者や富裕者が増えつつある国では腫瘍性疾患(+心血管系もあるが病理診断にはあまり検体が供されない)の重要性が増してきている.
# 結局必要なのは HE 染色だったのかもしれない...
自分は別に古いものを大切にするような,あるいは伝統を重んじるような人間ではない.しかし,このような現状及び展望を見たり,エキスパートパネルに参加して,HE 染色で適切な評価することの重要さを再確認することが少なくない.
今あるがん遺伝子検査パネルなんかも,組織学的に悪性腫瘍という診断がついていることが(言うまでもない)大前提で,例えば HBOC の症例だと多分正常組織をとってきても BRCA1/2 の遺伝子変異があったりしてじゃあそれが治療ターゲットになるのか?という議論になりかねない(ならないとは思うけど).
どれだけ高度な discussion がなされていても,その前に前提として診断が違うでしょ!とちゃぶ台がひっくり返ることも何例か経験している.大人だからオブラートに包んで言うけれども.
もちろん形態診断以外は勉強する必要がないというメッセージではなく,それぞれの立ち位置を意識しながら勉強をする必要がありそう,ということ.
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