2021/02/02 1st edition. 2021/02/02 Last updated.
子宮内膜増殖症の組織学的診断
- 現行では子宮内膜増殖症及び癌は次の 3 つに分かれている
- Endometrial hyperplasia without atypia
- Atypical endometrial hyperplasia / Endometrial intraepithelial neoplasia
- Endometrioid carcinoma (G1-G3)
- 以前は endometrial hyperplasia に対して atypical / (non-atypical) 及び simple / complex で 4 つの分類に分かれていたことを考えると,かなりシンプルになってきている
- 最近の流行りとして,治療への影響及び診断の再現性が重視されており,無意味に細かい分類はなくなってきた
- simple, complex の何がどうかについては古い規約なので語ってもしょうがないかもしれないが,おそらく次項以降の説明に含まれるだろう
- 明らかな類内膜癌はいいとして,採取された検体が上記のどれに該当するのかを考えるのがポイント
子宮内膜増殖症における異型とは
- without atypia / atypical - とあるように異型があるかないかは診断上重要であるが,困ったことに異型に関する cut off はなさそうで,結構経験的な判断に頼らざるを得ない
- 理由の一つとして,子宮内膜増殖症は基本的に「増殖期」の子宮内膜が増殖する病変である(性周期から逸脱して自律的に増殖している)
- 正常でも増殖期の内膜腺は義重層化や核分裂像が散見され,病理総論でいう細胞異型のみを根拠にすると腫瘍性の異型との区別がつきにくい
- 一応 N/C 比の増加,核クロマチンの増加,円形核・多形性核,明瞭な核小体あたりが教科書的には異型の指標として記載されているが,一般的すぎて分かりにくい
- 初学者がアトラスを見ても増殖症の異型を捉えにくい理由の一つかと
- 究極的な解決方法はないが,個人的には核が類円形のものや,細胞が横同士で核が重なっているように見えるもの(偽重層化ではない!)は少なくとも異型として判断している
- ちなみに WHO 2020 では without atypia / atypical - の鑑別において,細胞異型と構築の乱れをもとに診断せよと書いてあるが,正直見てもよくわからない
- PTEN, PAX2, mismatch repair protein の免疫染色が有用だとも記載があるが,免疫染色を使っているのを見たことがない(ちなみに類内膜癌は MSI-High の腫瘍の中で圧倒的に頻度が高い;とはいっても 20% を切るくらいだが)
- 以上の議論からは異型に関する診断者間の差はある程度想定され,施設ごと(上司の方針)に従った方が無難と言える
- 裏を返せば多少間違えてもあまりインパクトは少ないとも言えるが...
腺間質比の増加
- 増殖症というからには腺間質比も増加している.このとき腺間質比を評価するにあたっては拡張した腺管の腔も腺管成分としてカウントすることが重要
- 昔の endometrial hyperplasia, simple はスイスチーズ様とも言われ,腺上皮自体はそこまで多くはないが,腔が広くなっておりそれにより腺間質比の増加になっている
- どれくらいで腺間質比の増加と判断するかという基準もないが(WHO 2020 においても特に記載がない),とりあえず 1:1 を超えるようなときは腺間質比の増加と判断することが多い
- 分泌期での腺間質比の増加の評価は慎重になったほうが良い
- そもそも増殖症がホルモンに反応すること自体が定型的ではない上に,分泌期では腺管が拡張し腺間質比が増加しているように見えやすいため
- 腺管同士が接して見える back to back の構造があれば,腺間質比が増加していると積極的に取りやすい
- もし背景の正常の子宮内膜が採取されていれば比較の材料となりうるが残念ながら病変部分しか見えないことも少なくない
癌(類内膜癌)の診断
- 現行の分類では Atypical endometrial hyperplasia / Endometrial intraepithelial neoplasia というように,異型内膜増殖症と内膜内癌 (carcinoma in situ) が同じスペクトラムの病変と位置づけられてしまい,癌(類内膜癌)は原則的に浸潤癌という立ち位置になってしまったため,癌と診断するためには浸潤を証明することが必要になってしまっている
- よって明らかなものはさておき,生検やキュレットで癌と診断することはかなり難しくなってきた
- 古典的には腺管同士が癒合していれば,間に存在する間質が消失しているはずだから,腺管の癒合→浸潤である(逆は必ずしも成り立たない)という理屈があったし,WHO 2020 でもそのように記載されている
- たまに婦人科病理の専門の先生にコンサルトをしてみると癒合腺管が見えても atypical endometrial hyperplasia として帰ってくることがあり,正直基準は曖昧だなと感じている
- 腺管の周りに内膜間質とは異なるような線維芽細胞が見られれば浸潤と積極的に判断しやすいが,実際はそんなわかりやすいことは珍しく難しい
- 結局増殖症と癌と迷う文脈ではしばらく時間の猶予があるので,あまり無理せず難しいと記載するのが現実的(妊孕性温存という観点からも G1 の類内膜癌までは MPA 療法がしばしばなさている)
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