1. 皮膚生検,腎生検,あと骨腫瘍はなるべく所見診断を心がける
皮膚生検で特に非腫瘍性疾患,腎生検は病理組織ではなくて臨床所見(身体所見だったり,血液検査結果だったり)が根拠になっていることが多い.その診断過程の中で組織診断というのはあくまで付随所見であって,これを根拠に特異的な疾患名をつけると結構やけどする.
皮膚生検,腎生検で確定診断のレポートを書いている人は,臨床情報(経過や血液検査所見,画像所見など)を読み込んでいるか,臨床医ときちんとディスカッションしている場合に限る.逆に言うとそこまでするつもりがなければ,おとなしく所見診断にしておいたほうが無難.どうせ臨床医も標本見てるし.もちろん非腫瘍性疾患だから間違えても方向性はそんなに変わらないのでまぁまずくはないけど.
骨腫瘍は事情が少し難しくて,benign から intermediate malignancy までの病変を診断しようとすると画像所見も含めた臨床情報が必要不可欠.申込書に書いてある年齢,性別,病変の部位が診断しようとしている組織型の典型像と少しでも違うようなら,確定診断を書かずに臨床医あるいは専門家に丸投げしてしまうのがおすすめ.専門家でもたまに間違えてあちゃーみたいなことをしている状況を考えると,組織所見だけで戦うのはとても危険.
タイトルには書いていないけど,リンパ腫の場合は,微妙に微妙.リンパ腫の診断で良悪性が大きく変わることはないけど,悪性のなかで亜分類が難しいときもある.Flowcytometry と合わせての評価になる.たまに分類によって治療方法が変わったりすることもあるから,B or T だけ示してあとは所見的な診断もありか.それにしても WHO 分類は細かすぎてちょっと実務からかけ離れ始めている印象.
2. 学会発表の写真撮影依頼はほどほどで対応しておく
臨床医の行う学会発表は我々病理医からすると,かなりひどい,言い方を変えれば無茶苦茶な発表が多い.これは別に臨床医が悪いわけではなくて,病理診断の報告と比較すると,臨床診断や治療というのは不確定要素があまりに強くて,いわゆるきれいな病歴というのはそうそうない.その中でなにか neues を見つけて発表しようとするのだから,必然的にやるべき検査が抜けていたり,適応外の変な治療をしていたりする.
まぁそういう前置きはおいて,臨床医の発表に病理診断が必要と言われることがあり,写真の撮影を依頼されることがある.こういう場合,一番良いのは写真だけを渡す方法.たまに CT や MRI を貰いに来る感覚で,とりあえず画像ください!という先生がいるが,これは一番楽である.渡すだけで終了になるので.
ちゃんと説明しないとわからないでしょ?と文句を言う人がいるかもしれないが,たかだか 10-15 分話しをして彼らが理解できるか.いままでの経験では 20 分くらい熱心に教えても肉芽腫と肉芽組織の違いをきちんと理解できる人はいなかった.教え方が悪いと言われればそれまでだが.
要するに効率が悪いし,結局彼らは理解できていないしで臨床医に組織学的所見を丁寧に教えることにあまり意味はない.なので,教えるにしても,細かい用語は抜きにしてここが癌です,ここが炎症です程度にしておいたほうが無難.
別に適当にあしらえではない.クオリティを上げても無駄だ,ということ.愛想よくはいはい!いいですよといって写真を渡しておけば臨床医からの評価も上がるだろう.詳細な組織学的所見の需要というのはそんなにない.
3. 組織学的所見についてディスカッションする際に異型の有無については時間の無駄
腫瘍の病理診断の場合に異型の有無について議論の的になることはしばしばある.どどたん先生の長年の経験によると,異型の有無のディスカッションは大抵意味がない.ただの意見の押しつけでしかない.今風にいうと観察者間の一致率であるκ係数が低いということになる.
はっきりいうと,異型の定義自体があいまいで,核の大小不同とか明瞭な核小体とか極めて主観的.そんな主観的な評価の積み重ねで腫瘍の診断をしているわけで,意見の相違が生じることは十分有り得る.しかも,異型のあるなしについてはある種の先入観もあり(手の cartilaginous tumor では異型は積極的に評価しない,など)clear cut に割り切れない.
異型の評価をするなと言っているのではない.Controversial な場合に細かく議論をしても無駄だということ.10 人中 10 人が異型ありと判定しているものについて,自分が異型なしと判断したのなら確かにずれているという点で問題があるけど,そうでなければ,つまり異型なしと判断してくれる人が他に誰かいたらそこまで気にする必要はないということ.はいはい,ととりあえず従っておいて責任をとってもらえば良い.
2018年8月24日金曜日
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