○ 自己免疫性肝炎 autoimmune hepatitis (AIH)
・自己免疫性の肝炎で,特徴的な血清学的な所見を呈する病気
・自己免疫性肝炎の組織診断は難しい割に臨床の先生は「自己免疫性肝炎の可能性はどうでしょうか?」って何食わぬ顔で聞いてくる.というかいまだに診断基準が古いままで,特異的な所見がないので,病理学的に「それっぽい」ことは言えても確定的なことは言いにくい
・ここでは自己免疫性肝炎は抗核抗体や抗平滑筋抗体が陽性となる中年女性に多い疾患という程度に認識し,あくまで臨床診断が重要だという認識をした上で特徴的な所見を述べていく
・典型的には門脈域の単核球,特に形質細胞浸潤が特徴的(ウイルス性肝炎よりも自己免疫性肝炎を考える)で,門脈域を越えて周囲の肝実質まで広がっていく(これを古い言い方では piecemeal necrosis, 最近では interface hepatitis という)
・単核球というのは病理診断の文脈でよく出てくる表現だが,ほぼイコールでリンパ球及び形質細胞と読み替えてよい(リンパ球も形質細胞も核は基本的に 1 つで).なぜかたまにこういう表現が好まれることがある
・他に肝細胞が集まって小胞巣構造を作るロゼット構造(ロゼットとは何かって結構飛ばされているけど,おそらく肝細胞が集まって小腺腔様構造を作るものを言っているらしい;結構微妙な写真が載っていたりする)や,肝細胞が単核球を取り込む emperipolesis が見られることがある(emperipolesis は何かがリンパ球を取り込むような像を指す表現で,hemophagocytosis と同じ文脈で使われる場合と分けて使われる場合がある)
・胆管病変があると,どちらかというと AIH から遠ざかる印象だが,overlap 症候群のこともあり,言い切らないほうがいい
・一番重要なこと:AIH かどうかは病理組織診断で決めるものではない(病理診断報告書で AIH と言い切るつもりならば,カルテを参照して血液検査データをレビューして自分で診断をするくらいの覚悟が必要!)
○ 原発性単純性胆管炎 primary biliary cholangitis (PBC)
・自己免疫性疾患で胆管障害を主とした病変を形成する病気
・昔は原発性単純性肝硬変 primary biliary cirrhosis (PBC) と呼ばれていたが,最近では比較的早期に発見されて全例肝硬変に進むわけではないので,cholangitis に名前が変更された(略称は変わらず)
・これも自己免疫性肝炎と同様に組織学的な診断基準もあまりはっきりとしない
・ここでは抗ミトコンドリア抗体が陽性となる中年女性に多い疾患という程度に認識し,自己免疫性肝炎と同様にあくまで臨床診断が重要だという認識をした上で特徴的な所見を述べていく
・小葉間胆管に起こる慢性非化膿性破壊性胆管炎が特徴とされる.胆管周囲の炎症細胞浸潤と胆管上皮は再生性変化をきたす.そして,病変が進行すると小葉間胆管が消失し,門脈周囲に細胆管の増生が見られ,肝硬変へ.まぁ肉芽腫はなかなか見られないし,胆汁うっ滞もそんなに目立つことはない印象
・結論:そんなにきれいな症例はめったに見ない
○ 原発性硬化性胆管炎 primary sclerosing cholangitis (PSC)
・これもなかなか見ない病気ではある.男性に比較的多くて,40 歳代を中心に年齢層は結構広い.潰瘍性大腸炎(まれにクローン病)に併発することがあるのは資格試験的にはよくある話で,遺伝的要因と自己免疫性の要因があると言われている
・胆管造影で bead appearance を呈するのが特徴とされるがまぁなかなかみない
・はっきり言って病理組織学的所見では決着はつかない.典型的には 胆管周囲に同心円状に線維化が見られ (onin skin fibrosis) 慢性炎症細胞浸潤と胆汁うっ滞が見られる.病変が進行すれば胆管も消失し細胆管の増生が見られる(胆管狭窄→反応性に細胆管増生はよくある文脈)
○ 結局よくわからない overlap 症候群
・AIH + PBC or PSC の overlap 症候群があり,臨床的に overlap が疑われることがある(肝生検について参照することの多い外科病理学にはあっさりと書いてあって心もとない)
・AIH + PBC:典型的な AIH の所見に加えて,PBC 様の胆管炎の像を伴っている
・AIH + PSC:典型的な AIH の所見に加えて,PSC 様の胆管周囲の線維化を伴っている.特に小児の AIH を見たら overlap を疑った方が良いとされる
・結論:overlap 症候群かどうかについては言い切らないほうが無難
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