# Introduction
「コンフィデンスマンJP」で紹介された言葉の引用から始める.
> 目に見えるものが真実とは限らない。何が本当で何が嘘か。
これの意味するところは,
- 目に見えるものだけが真実ではない
- 目に見えない部分に真実が隠れている場合がある
そして,究極的な真実は誰にも完全には分からない.病理診断において, 「真実は闇の中」では済まされないため、診断基準を設け線引きを行っている.そして,真実は簡単には姿を現さず、病理医は必死にその兆候を探している.
以前のブログ投稿([参考](https://dodompa3.blogspot.com/2023/03/1.html))で「病理診断は数学の証明に近い」と述べた.前立腺癌を帰納法的パターン(経験則に基づく診断)で診断をする.実際は、帰納法的アプローチを拡張した「総合的なアプローチ」で診断を行う.具体例で見ていく.
# Diagnostic Criteria for H. pylori
病理組織において,H. pylori 陽性の判断は、標本上で H. pylori の菌体を探し出すことに基づく.ここに検出の難しさがある.H. pylori は小型の螺旋状桿菌で形態的に特異な特徴が少なく,数が少ない場合、単独での検出は困難である.よって,年間何千件と提出されて来る検体から H. pylori をもれなく適切に探し出すためには前提条件を絞らざるを得ない.言い換えると,「いそうな文脈」 つまり H. pylori 自体の特徴だけではなく、臨床情報や好発部位といった背景も診断の判断材料が重要と言える.
まず病変の局在部位から考える.基本的には「胃粘膜に存在する」と考えられており,大腸などの他の腸管粘膜には H. pylori は存在しない(ただし、十二指腸までは議論の余地あり).よって,大腸生検では H. pylori 陽性と判断されず、通常は言及すらしない(※大腸癌との関連性についての一部報告も存在:[PubMed](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38427927/).
次に,組織学的文脈について考える.H. pylori が存在しやすい文脈としては,好中球を含む炎症細胞の浸潤及び腺窩上皮の再生性変化(慢性活動性胃炎)が挙げられる.逆にいなさそうな文脈としては腸上皮化生が認められる胃粘膜であり,腸上皮化生粘膜で H. pylori を見たことはほぼない.ただし,再生粘膜と腸上皮化生が混在しているときに,再生粘膜の方だけに H. pylori が見られることがあるので,腸上皮化生の存在自体が H. pylori 検出できないと判断してはいけない.
究極的には H. pylori の菌体を確認することが決定打になるのだが,周辺情報を適宜裏読みしながら検索することで,効率的かつ間違いにくく診断をすることが可能となる.もう一つ,以前にも出した前立腺癌を例にとって考えてみよう.
# Prostate Carcinoma Diagnosis
前立腺癌の診断のアプローチは弱拡大での評価が重要であった.「癌は騒々しく、良性腺管は穏やか」という格言が示すように、腺管の集合体としての挙動に注目する必要がある.一方で,個々の腺管で癌かどうかを判断するのは非常に難しく,1~2 個程度の腺管からなる癌は見逃されるリスクが高い.これらの非常に小さな腫瘍でもある程度経験を積めば個々の腺管での診断も可能だが,その有用性は限定的で実際には腺管群全体の評価が実用的である.
一般的に,評価単位の視点でいうと,個々の細胞よりも、組織単位や臓器単位での評価が、悪性度の把握において明確となる.小さい検体が多い生検検体であっても,一個の腺管よりも周囲の状況を踏まえてなるべく組織構築として評価をしていくことで,情報量を増やし,診断精度を挙げていくことが可能となる.これは特に前立腺癌のような異型の弱い腺癌に対して有効なアプローチと言えよう.
# Total Approach
総合的アプローチの概念の導入する.単一の所見だけでなく、周辺情報も含めた多角的な評価が病理診断において非常に有用.総合的な判断はここの情報をどの程度重視するかで主観が入りやすいことが欠点で,結局わからないということになりがちだが,それでも「間違えにくい」という観点からは有用.正解を出すことも大切だけれども,間違えないことも同じくらい,いやそれ以上に重要といえよう.
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