# Study surgical pathology in 2025
4 月から専攻医が新しく入ってくるので,専攻医(後期研修医)が病理診断を学習する上でどういう風にすれば良いかなと考えてみる.テキストを中心として,自分が病理診断のトレーニングを始めたときとの違いについても軽く触れながら.それにしても,後期研修医は今は専門医機構扱いになって専攻医と呼ぶのが一般的になったのか.名前がコロコロ変わるなと感じ始めた時点で RG(老害)認定されそうだからリアルでは口には出さないけど.
# テキスト
基本となるテキストはやはり外科病理学一択になるかな,ちょっと古くなってきたけど,それでも 2020 年発行でまだ新しい情報が多くてしばらくは基本書として十分使える.その前の版から 14 年かかっているので,次の改訂までは更に 5 年以上の時間がかかるだろう.残念ながら今の病理学会にはこの本を 5 年程度ごとに改訂するほどの体力は残っていないし,商業的にもこの販売ペースだと難しいだろうか.
外科病理学に加えて,最新の情報は WHO 及び AFIP で十分,というか特に WHO の充実っぷりが半端ない.今はある程度診断基準が整備されていて,昔のような「〇〇先生が言ったからこれはがん」という状況は少なくなった.もっとも遺伝子異常に基づいて定義された疾患が多くなって,一般病院どころか大学病院ですら診断できないという誰得??という状況になってしまったのだが.
# 講習会
講習会の数は 10 年前と比べて格段に多くなった.昔は IAP のセミナーくらいしかなかったが,今では病理学会の希少がん講習会を始めた多くの講習会,パスポートなどの講習会,さらにはコンパニオン診断関連での製薬会社主催の講演会,といった具合に様々な講習会が開催されている.頑張ればほぼ毎週何かしら日本語で講習会が開催されている.昔は自分も講習会的なことをしていたことがあったが,これだけ講習会が多いと「講習会疲れ」を起こすので,やっていないし,多分今後もやらないだろうな.
ちなみにだが,講習会が増えたのは COVID-19 の蔓延が原因なのでは?と考えている.現地での講習会ができない+オンライン「のみ」の配信は意外とコストが安く済むのと品質自体は変わらないので今後もスタンダードであり続けそう.正直講習会をオンラインでするのは寝てしまう以外のデメリットが思いつかないわ.
# トレーニング
結局技術が進んでもやるべきことはあまり変わらない.固定→切り出し→診断というプロセスは同じ.コンパニオンや遺伝子診断といった付加的な検索は増えた,というかむしろそれが主流になっている.興味深いこととして,自分が病理を始めた頃は免疫染色が主流になっていて,免疫染色だけで良悪性や組織型を決定する病理医を Brown Pathologist なんて揶揄していたが,最近は Brown どころか遺伝子異常の検索で形そのものがなくなってきている.まぁ要するに molecular pathologist になるのだが.
一般的に言えることだが,技術が進歩すればするほど基本的なことが重要になってくる.病理でいうと固定がきちんとできているか,形態的に良性悪性をきちんと判定できているか,遺伝子検索をするにあたって腫瘍を含む領域を正確に認識できているか.高度な技術や知識は代替ができやすいが,基本的な技術を塗り替えるのは難しい.ホルマリンや HE 染色が長年にわたって使われ続けているという事実を見るだけでも説明は不要.
# 病理解剖をなんとかしたい
病理解剖の診断基準の不透明さは今に始まったことではないが,臨床診断と病理解剖診断の乖離が著しくなってきている.というか非腫瘍性疾患については,病理解剖学的に発信することは限定的で,多くは臨床経過をなぞるような記載になりがち.多くの非腫瘍性疾患は病理学的に定義されたものではないからしょうがないのだが,それでもガイドラインみたいなのがほしい.例えば臨床的に敗血症と診断されていれば病理学的にも敗血症があったという前提で議論を進めて良いとか(本当はどうかはわからないけど).
# AI との関わり
現在,病理診断において自分はだいぶ AI に頼っている.2025 年 3 月現在では,頼っているというよりもどうやって頼ったら効率のよい結果が生まれるかと試行錯誤をしていると言ったほうがよいか.現時点では,google 検索を大幅にアップデートしたような使い方になっている.実際あまり馴染みのない疾患の概要を掴むには非常に良い.自分が十分知っているテーマについては深みが足りないかな,ちょっとずれているかなという印象を持っている.
AI の技術自体は文字通り日進月歩で進んでいるので,AI-based の診断が来る時代は決してそう遠くない.この流れを否定しても何も始まることはなくむしろどう取り込むかが課題になる.あと数年くらいで generic な病理診断アプリが開発されるのでは?という雑感.
ただ,課題点として,病理診断の専門家であるためには AI が吐き出している情報をある程度合理的に理解し判断できる必要があり,相当な勉強量が求められる.固定ができているかとか基本的なことと,最終的なアウトプットに関する理解,これらの両極端を専門家として実践できる必要があるため,勉強しなくて良いとかではなくて,(多少の方向性は変われど)常に勉強が必要になるだろうと思うとちょっと憂鬱かしらね.
実際に AI を User のレベルでどう活用できるか考えながら仕事をしていると,技術の進歩は結構ゆっくりだなと思いがちだが,外野からすると多分光の速さで物事が変わっていっているように見えるんだろうな.
# 結局のところ,,,
そんなに変わらないかなというのが現時点での感想.結局やらないといけないことは同じで,それに新しいことが加わっている.しばらくは大変だろうが,できることが増えるということで喜ばしい変化と考えるよいかしらね.
0 件のコメント:
コメントを投稿