# 結局まともな病理検査依頼書なんてかける人なんてこの世には存在しない
これが結論.病理医も臨床医もその点は間違えている.昔は「病理診断をするときに,臨床情報が不足しているのは臨床医の quality が低いかトレーニングが足りないからだ」と思っていたが,米国やその他でも似たような状況なんだなと理解してもう一度考え直した結果たどりついた結論.
# 病理診断をするときに依頼書のどこに着目しているのか
病理検査(診断)依頼書の書き方の講義をする病理医はたまにいる.そこでは大抵の場合は「〇〇や△△の情報を記載してほしい」という話し方がなされる.それは間違っていないのだが,そのなぜが伝わりにくくインパクトとしては弱い.
そこで,依頼書のどこに着目して書いているのかについて少し例を挙げて書いてみる.これを読んでもらえたら依頼書の書き方のイメージが少し湧くのでは?と期待している.
胃生検,60 歳女性.これくらいは書かなくても依頼を出す時点で自動的に付与されている.それを確認して標本を見る(臨床情報をあとから見る,という病理医もいる).胃底腺領域の胃粘膜内に癌があるな.しかも低分化.粘膜内だけど,いわゆる carcinoma in situ と呼べる部分がなく,腺癌の有り様としてはやや不自然.辺縁から採取したのであれば粘膜内進展として acceptable か.でももし中心部から採取されたのであればやはりおかしく癌の転移についてはどうなのか気になる.
と,ここで病理診断に必要な情報が出てくる.
- 採取部位:胃底腺領域であることはよいとして,病変の中心なのか辺縁なのか
- 他の原発性癌の可能性:既往歴があるのか,なければ全身検索はされているのか
ここでもし直近で乳癌の既往があるとなると,乳癌の転移の可能性はということで ER, PgR, GCDFP15, GATA3 などが施行される.肺癌があれば TTF1, etc という風に何を原発と考えるかで次の action がダイナミックに変わってしまう.女性だし乳癌の可能性も考慮しないと考え,免疫染色を行っている最中に,「結果どうですか?あっ癌の可能性がある?ちなみに右肺上葉に 5 cm 大の腫瘤が上部消化管内視鏡検査前に見つかっていて,こちらは別の肺癌かと考えています!」なんて言われた日にはなんで別って言い切れるんだよ!みたいな気持ちになってしまう.
でももし癌がなくて慢性胃炎であった場合には詳細な既往歴や臨床経過も無駄になってしまう.そうすると「要領悪く臨床経過をだらだら書きやがって!」という感想になる.さらにピロリっぽい菌をごく少数見つけたときに除菌後かいなかという情報がないとはっきりとものを言いたくなくなる.ピロリ菌は癌であれば(あれば記載をするが)ほぼ問題ない.
どこに着目しているのか,という答えは難しく,組織像によって必要な情報は変わるので本質的には難しい.答えがわかっているとそりゃたしかに必要だよなということになるのだが,答えが見えないのに解答に必要な補足情報を過不足なく提供するのは不可能で,病理検査依頼書がきちんとかけている先生は病理に出す前から病理診断の予測がついている事が多い.
# カルテを見ればいいじゃないか
たまにこういう臨床医がいる.カルテに詳細に記載しているのでそちらをご参照くださいと言われる.やってみればわかるがカルテを開くのは結構面倒.贅沢な病院では病理診断システムと電子カルテが相乗りしているところもあるが,電子カルテを別の端末で参照するところも少なくない.
たとえとして適切ではないかもしれないが,気持ち的には外来で患者を一人見て,すぐに処置室に様子を見に向かう感じ.施設によるが往復するのにも結構時間がかかる.それを患者一人に対して全てしろというのはあまりにも酷である.
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