1. 講習会,講演会について
これらは同じようなものとして扱われることが多いような気がするけど,個人的には講習会の方がより実践的な雰囲気のような気がする.実際に調べてみても確固たる違いというものはないようだ.
それはさておき,今回は講習会についてのお話.
2. 何を目的とした,誰を対象にした講習会か
今回東京で受講した希少がん病理診断講習会についての話.この手の講習会は企画がとても難しいと思う.それは普段から診断業務としてほぼ毎日見ている,見させられている先生から,年に数度あるいは数年に一度くらいの頻度で見ている先生,さらには初期研修医上がりのペーペーの先生から,30年選手の大ベテランまで参加者がいて,ある意味病理業界の縮図の様相を呈していた.
今回 4 コマの講習会を聞いていて,一番良くできていたと思うのは脳腫瘍の講義で,ちょっと厳しいなぁと思ったのは小児と骨腫瘍.軟部腫瘍についてはまずまずといったところ.
ここのところの感想は人によって多少違うかもしれないが,少なくとも一緒に受講した先生の感想もだいたい同じ感じであった.その時の結論としては我々が希少がん病理診断講習会の内容と,病理学会が希望している講習会のあり方に齟齬があったんだろうということ.
2'. ちょっと脇にそれる
希少がん病理診断講習会というもの自体は世界的な潮流からすると,ずれているあるいは遅れている.世界基準バンザイとも,世界が正しいとも言うつもりはないけど,今は希少がんは中央診断なりで集約化し,そこで大規模研究をするのが普通.個々の小規模な病院で診断するものではない.実際ヨーロッパなんかはそうやって EU 全体で症例を集約して,アメリカに対抗する新しいデータをコンスタントに出し続けている.Giant cell tumor of bone を数百例集めることなんて,日本では無理.
その観点からすると,比較的狭い,リソースの乏しい日本ではそういう希少がん症例を自施設で診断できるようなトレーニングをすることではなく,集約化するシステムを構築すべきだと思う.はっきり言って集約化するシステムの土台はすでにある.検体検査を含めて検査センターを利用していない病院はほぼないはずで,その検査センターのシステムに乗っかる形で,集約化すれば良いだけの話.色々な柵があるかもしれないけれども,それが一番現実的.
3. さて講習会で何を求めるか
どどたん先生が講義をする場合は,準備するにあたって,どういうタイプのものを求められるかを常に意識している.それはつまり,知識を授けるタイプの講習会か,それとも考え方を授けるタイプの講習会か.両者を混ぜたような講義はしばしば学習者にとって負担が大きく破綻することが多いけれども,そうせざるを得ないこともままある.
知識を授けるタイプの講習会というのは,要するに教科書を読み解くのを一緒にやりましょうということで,教科書に書いてあることを適宜説明を補いながら,背景や周辺知識を交えてなるべく記憶に残りやすいように配慮する.看護学校などで行っている病理学の講義がまさにそれに当たる.
考え方を授けるタイプの講習会というのは,実際にする機会はほとんどないけれども,病理でいうと標本の読み方を教える.野球でいうとバットの振り方みたいなものか.もちろんある程度の知識があることを前提にするけれども,それをもとに実際の標本を目の前にしてどのように考えていくのか.いきあたりばったりな見方ではなく,ある一定の戦略を持って見ていきましょう,というもの.
4. 脳腫瘍の講義は見方に,骨腫瘍は知識に焦点を当てていた
脳腫瘍の講義がわかりやすかったと感じた理由は知識はそこそこにしておいて,どのように見るのか,よく診断で迷う点をピンポイントにスポットを当てて,そこの疑問を解決(あるいは解決できなくとも良いという根拠)を提示していたため,聞いていてなるほどな,と思えることが多かった.
一方で骨腫瘍の講義は学生の講義を聞いているようだ,という感想も聞かれた.つまり知識を与えられることを主目的にしたもの.それはちょっと仕方ない側面もあって,例えば軟骨性腫瘍を知っているだけ答えなさいと言われたら,普段骨腫瘍を見ない人は enchondroma, chondosarcoma ... くらいしか挙げられないし,診断の根拠はと言われたら教科書を見たくなる人が多いと思う(他に clear cell chondrosaroma, mesenchymal chondrosarcoma, dedifferentiated chondrosarcoma, 腫瘍とするか異論はあるが synovial chondromatosis など).レントゲンをほとんど見たことのない人に溶骨性病変で辺縁に骨硬化が見られ,,,などと言っても多分理解できる人はほぼいなくて,ぽかーーんとみんなしていたはず.
もちろんいくら希少がんといってもどこの大学病院でも扱っている脳腫瘍と,大学病院によっては手を出していない骨腫瘍を同列に論じて,講師の批判をするのは粋ではないこと(どちらの先生もとても優秀な人で人間的にも,多分素晴らしい)はわかっているが,満足度と講義の手法というのは関連しているのではないかと思った次第.
5. 講義のやり方を変えられる人は実は少ない
上記のことをわかっていても,実際に講義をする場合は目的別に内容を変更できる,という器用なことができる人はなかなかいない印象.誰を対象にした講義であれ,みんなどことなく知識主体か考え方主体かに偏っている印象.
2018年10月8日月曜日
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