apapapa 先生からの "interface dermatitis" がなぜそう分類されているのか,病態生理学的な理由を含めて教えてほしい,というお題.答えるが,とても難問かつそもそも 1 - 2 回の投稿で解決できる問題でもないので少し分けて説明する.
まずは炎症性皮膚疾患の皮膚生検を評価するときの根本的な問題点から.
1. 皮膚生検の謎
多くの病理医は皮膚生検は苦手で,特に炎症性皮膚疾患は苦手という人は多い.わかりやすい説明がウリのみき先生の本ですら読んでいてよくわからないという人は少なくないはず.どどたん先生もそんなに得意という訳ではないが,なるべくわかりやすく考えてみる.
わかりにくいとされる一番の原因は炎症性皮膚疾患そのものが遺伝子変異が主体である腫瘍性疾患と異なり,はっきりとした原因は不明,あるいは組織像との対比がしにくく,病態生理学的な機序に基づいた説明が難しいと言うことだろう(みき先生の本ですら病態生理学的な記載は乏しい).実際多くの教科書は組織パターンと鑑別診断に終始している.読者としてはなぜそれが起こるのかという本質を知りたいのに,そうじゃないよくわからない?組織学的所見に振り回されている.
ここは炎症性疾患の宿命とも言える.例えば,肺病理でも器質化肺炎の器質化と細菌性肺炎の慢性化した器質化は同じであり,生検だとしばしば区別がつかない.なぜこういう変化が起こるかということを完璧に説明できないのは,研究会などでも意見が完全に異なってくるといったことにつながってくる.
もう一つ原因として考えられるのが用語や分類が混沌としていること.Civatte body は colloid body やアポトーシスなどの別名があって教科書によって書き方が微妙に違う.しかも分類自体も Ackerman の分類をベースにしているのはみんな同じだけれども,WHO 分類などの統一した分類があるわけでもなく,それ自体も混沌としている.
さらに炎症性疾患の疾患の entity の多くは臨床的な所見を中心にまとめ上げられており,組織学的所見が overlap することはしばしばある.そのためにそもそも我々病理医が診断をつけること自体が困難なことも多い.
と悩ましい要因がつまりまくっているのが現状.それでも皮膚科医は生検をしてくる...
2. では炎症性皮膚疾患の皮膚生検に対して,病理医はどのような態度で考えたらよいのか
以上から皮膚疾患の診断には
a. 組織学的所見だけで診断がつくもの(腫瘍の多くはそう)
b. 組織学的所見と臨床像を足して診断するもの
c. 組織学的所見が確かに有用ではあるが,確定診断自体は別の検査が必要なもの
があり,その中で,炎症性皮膚疾患はほぼ b or c に属すると言える.例えば接触性皮膚炎は時期にもよるが,組織学的には spongiotic dermatitis であり,何かに対する接触歴があるという情報を得て初めて接触性皮膚炎という診断が確定する.我々がすべきことは spongiotic dermatitis の所見を記載することで,あとは臨床医が考えること.
そしてなぜだかはわからないのだが,皮膚疾患を来す原因はたくさんあるのに対して,皮膚自体は限られたパターンで対応しようとしている.裏を返せばパターンを認識できさえすれば,臨床像と照らし合わせ,それなりの妥当な答えが出てくる,かもしれないが,我々がすべきことは少なくとも要求されていることは皮膚検体をきちんと評価して拾うべき情報をもれなく拾い上げて,臨床医が提示した鑑別診断に対してコメントすること.
ちなみに皮膚病理で病態生理学的な所見が日本語で比較的しっかり記載されているのは
皮膚病理のみかた(表皮)
皮膚病理のみかた(皮膚の炎症・膠原病・血管炎)
なんだけど,この本はおそらく中古ぐらいでしか手に入らない上に,編集が雑で写真と本文が離れていたりして読みやすいとは言い難い.しかし,この二冊でこれから述べることもこの本を大いに参考にしている.本当は三部冊の本だったはずだが,Ken Hashimoto 先生が書かずに?そのまま亡くなってしまい,おそらく出ることはないと思う.とても残念.
2018年9月25日火曜日
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