2018年9月24日月曜日

病理医と細胞診 ~補足

1. 病理医にとって細胞診は少なくとも最優先事項ではない

先程の記事で,病理医にしてみれば細胞診は業務のはしっこで,現実的に重きを置いている人は少ないといった.

それは違うよ,という病理医は自分が一週間で細胞診に割いている時間を計算してみるといい.迅速診断と同等あるいはそれより多く時間をかけていたとしたらすごいと思うし,特殊なポジションでなければ少なくとも組織診より割いている時間が多いということはない.

一方臨床検査技師にしてみれば,細胞診断は(スクリーニングという本来の立ち位置はさておき),「診断的な」ことができる,ある種資格の最高到達点のようなものであり,底を目指して日々研鑽を積んでいる.

すると業務に対する意識や技術に差ができてしまうのも仕方なく,実力の点で病理医とスクリーナーの逆転現象があちらこちらで起こっている.

2. それでも病理医が細胞診の総括をすることが必要

昔から細胞診は婦人科の先生が積極的にやっていて,細胞診専門医の比率も婦人科の先生がそこそこ多い.歴史的な経緯もあり,また病理について造詣の深い臨床医がいることは我々にとっても存在価値が高まるためとてもよいことであり,婦人科の細胞診専門医自体は否定はしないのだが,病院で行われる細胞診を婦人科の先生たちだけで sign out されると,病院の中でひずみが起きてしまう.

いうまでもなく,細胞診も(重きをおいているかどうかはさておき)病理診断の重要な柱であり,組織診と合わせて,総合的に管理される必要がある(別々に管理していると精度管理の問題や診断基準のぶれなどが発生してしまうため).

自分の知っている病院では,病理部門のサイトスクリーナーが検鏡したものを細胞診専門医資格を持っている婦人科医が sign out している.これはその婦人科医と病理医のコミュニケーションが密に行われているから可能なのであって,そうじゃなければ臨床的な bias によって結構ずれた sign out がなされる可能性がある.

3. 細胞診断の文献的考察の乏しさ

最後に少し話題が変わるが,細胞診の sign out をするときに,教科書や論文を引いている人は一体どれだけいるだろうか.いたら教えてほしいくらいだけど,多分多くの人(病理医及びサイトスクリーナー)は英語のテキストはおろか,日本語の教科書すら見ていないのではないだろうか.

というか細胞診の本自体が,日本語の本は極端に少ない印象.数年前に臨床細胞学会から本格的な本が登場したけど,それ以外はぱっとしないし,特に臓器別の本自体が少ない印象.

症例検討会を積極的にやっている割に意外とテキストを参照することが少ないのは結構前から謎な事象ではある.厳密な理由は不明だが,理由の一つとしては求められていることが,良性・悪性・不明の 3 つのカテゴリで,検体不良などを理由に「不明」に落とし込みやすいから?と思っている.

そこらへんの逃げ(これはサイトスクリーナーだけではなく病理医も!)が,テキストの少なさにつながっている気がする(もっと言えば不明をとことん突き詰めればいわゆる neues につながるかもしれない).




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