2018年9月23日日曜日

軟部腫瘍の考え方

そういえば,そろそろ学生に対する講義を頼まれそうな気がしてきたので,ちょっと予習を兼ねて,まずは軟部腫瘍に対するみかたから始めて見る

1. 軟部腫瘍に対するみかた

とある腫瘍整形専門の臨床医いわく「僕たちは特別なことを求めているわけじゃないのです.Round cell か spindle か,良性か悪性か(あるいは中間悪性か)の 4 つあるいは 6 つの matrix のどれに入るかを教えてくれたらそれでいいんです.」という.

まさにそのとおりなのだが,それが難しいという話.そして結構な割合で間違える.実際この腫瘍細胞が紡錘形なのか,円形なのかの判断ですら迷うことがしばしばあるので.

2. それでも円形・紡錘形からスタートする

やはり,軟部肉腫を考える上で,円形なのか,紡錘形なのかというのははじめの分岐点としては有用だと考えている.あまりにも広い鑑別診断の中でどのように泳いでいくかというかと考えるとはじめの第1歩として大きく分ける必要がある.

円形か紡錘形かどちらにも見える場合,楕円形などは,自分はとりあえず紡錘形細胞に分類した上で,鑑別診断に合わなければもとに戻ってまた考え直す.

3. どういう構築を作っているのか,及びどういう基質を産生しているのか

これは普通の上皮性腫瘍の診断と同じことなのだが,腫瘍細胞がどのような構築を作っているのか及び,産生している基質の種類で腫瘍の組織型はだいたい決まる.

基本的なことなんだけど,おそらく軟部腫瘍のすべての組織型を熟知している人はほとんどいないはずで,多くは組織像を見てからテキストを見ながらそれっぽい組織型を判定していくというプロセスを経ているはず.そのときに構築,産生する基質をきちんと整理しておかないと見た目だけでとんでもないところにたどり着いてしまう.

4. 類骨?膠原線維?

日本の骨軟部腫瘍研究会は確か類骨を考える会みたいな名前だったように,類骨と膠原繊維の鑑別は難しい.いずれも軟部肉腫の作る基質だけど,どちらももとは同じ物質なので,見た目だけで判断することになる.

肉腫で類骨と判断すれば osteosarcoma になるし,膠原線維と判断すれば(他にはっきりとした分化がなければ) undifferentiated pleormophic sarcoma になる.しかし,ここらへんは専門家でも意見が分かれることがしばしばあるので,あまり気にする必要はない.

基本的な考え方は腫瘍細胞の周りを取り囲むように骨のような領域性の構築を作っていれば類骨と判断するが,微妙な症例が多くて,結局判断が迷っていることが多い.

5. 臨床情報はとても重要

腫瘍によっては好発年齢,部位が決まっている.もちろん例外もあるが,好発年齢,部位から外れたものについては診断を今一度考え直した方が無難.

例えば low grade fibromyxoid sarcoma は若年に起こりやすいし,myxofibrosarcomaは高齢者に起こりやすい.年齢の感覚を持てればよいのだが,そうでなくともテキストを振り返る際に必ず臨床情報はチェックしたほうがよい.

6. あまり深いことを考えずにとりあえず免疫染色を出す

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24111893

ミエッティネン先生が言っているように,軟部腫瘍の免疫染色はある程度網羅的に出すべきである.よく,HE 染色だけを見てこうだろうという目星をつけて限られた項目だけを出して診断している人もいるけど,pertinent negative な所見も含めて診断する必要がある.

つまり,AE1/AE3, EMA, Desmin, αSMA, CD34, S100 の 6 項目を提出すると,多くの軟部腫瘍は何かしらかかってくると言われている(いくつか組織型を思い浮かべてみるとわかるけど,大体網羅されている).

例えば synovial sarcoma は AE1/AE3 が陽性になることが想定されるし,melanoma や MPNST は S100 がひっかっかる可能性がある.

軟部腫瘍は組織型自体が多い上にバリエーションも多いので,ある程度網羅的な検索を心がける.

7. 分子生物学的な手法は専門施設に任せるしかないあるいは諦める

ある程度は免疫染色で戦えるようになってきたが,それでも免疫染色の抗体をすべて持っているわけではない.さらに FISH や PCR となると,現実的にできないことが多い.

軟部腫瘍が多い施設はそうだが,少ない施設ではこれらのプローベを揃えることすら難しいわけで,そういうときはあまり無理をしない.そのためにコンサルテーションシステムがあるわけでそこに頼るのも一つ.

そして,もう一つ重要なこととして,臨床医がどの程度必要しているかということ.軟部腫瘍で化学療法のメニューが決まっているのは rhabdomyosarcoma, Ewing sarcoma だけで,それ以外は(現時点では!)どのような組織型であろうと化学療法のメニューはだいたい一緒(最近は特定の遺伝子の転座あるいは増幅に対して特異的な治療法が開発され始めているので,今後はわからない).

なので,最初の臨床医の話に戻るけれども,明らかな悪性とみなされる(atypical mitosis があるなど)ものであれば,その情報を伝えて終わりにするのも一つ.

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