○ 肝臓の基本的な組織構築
・意外と言われていないことだけれども初学者は肝生検を見てどこを見たらいいのかがよくわかっていない
・次の門脈と中心静脈を認識することがとても重要
・まず門脈域を認識すること.門脈(静脈),肝動脈(筋性動脈),細胆管が膠原線維に囲まれて存在している
・次に中心静脈を認識すること.肝細胞の類洞から集約するように連続して見られる 1 本の静脈性の血管
・これらの特徴的な構造物から肝小葉を意識すること.ブタなどと違ってヒトの肝小葉はかなり不揃いなのが普通(組織学のアトラスを見てみると分かるが,きれいな六角形の肝小葉はヒトカラ採取された検体ではないはず)
・そして zone を意識すること.zone 1 は中心静脈の周りの領域で,そこから同心円状に zone 2, zone 3 と拡がる(zone 3 は門脈域に近いが,門脈域の周りではない)
○ 若干どうでもいいこと
・血流は肝動脈,門脈→中心静脈へ流れていき,胆汁は肝細胞で排泄され,門脈域の胆管へ流れていく(血流と胆汁は流れが逆)
・「中心静脈カテーテル挿入」という手技とこの肝臓の中心静脈は別物.勘違いする人はいないと思うけど一応
・細胆管が増生する von Meyenburg complex という像が見られる(たまに試験に出る,それだけ)
○ なんで肝生検をするのか,どんな検体が出てくるのか
・昔は慢性ウイルス性肝炎の炎症や線維化の評価のために生検されることが多かった(らしい)
・しかし,現在ではウイルス性肝炎はほぼ治癒する病気になってしまった(特に HCV の根治が期待できる治療薬が登場したときのどどたん先生の衝撃はすごかった,正直あと 10 年は無理だと思っていたから)
・現在では肝生検をする頻度はだいぶ少なくなってきて,自己免疫性肝炎を疑うが検査所見などから確定が持てない,とか自己免疫性肝炎と原発性単純性胆管炎との overlap を疑うとか,薬剤性肝炎を疑うとか,そういうそもそも込み入った文脈が多い
・肝腫瘍生検はめったに行われず,切除されることが多い.幸いなことに,早期の肝細胞癌の生検が提出されることは滅多になく,あまり悩むことがなくて済んでいる
・そのためにこのマニュアルでも実際に提出されうる検体を重きを置いており,腫瘍性病変の扱いは軽めになっている
○ 何を染めるのか
・さすがに HE だけという猛者はおるまい.どどたん先生のいたところでは HE + EVG + Azan (or Masson Trichrome) + Ag + Berlin Blue + Diastase (Amylase) PAS が基本で,加えて通常の PAS, Orcein 染色を加えているところまであった.なるべくたくさんの染色でみると心強いが,そこらへんは施設の検体の頻度や臨床検査技師との兼ね合いになるだろう
・HE 染色:とりあえず生ビールみたいな感じ
・EVG 染色:血管の同定に有用.肝動脈は平滑筋と内弾性板が見えるはず
・Azan 染色:線維化の評価に.膠原線維と肝細胞の細胞質のコントラストが明瞭な染色にしてもらおう.線維化は EVG ではなく Azan (or Masson Trichrome) で評価をすること
・Ag 染色:肝の類洞構築の評価に.肝細胞が潰れているように見えた時に,細網線維が残っているかを見る
・Berlin Blue 染色:鉄沈着の評価に.うっ血が強ければ,中心静脈周囲に鉄沈着が見られやすい
・Diastase (Amylase) PAS 染色:PAS 染色では肝細胞内の glycogen も染まってしまうが,消化酵素で消化することで,消化酵素抵抗性の沈着物(セロイド ceroid という)が浮き彫りになってくる.背ロイド沈着は肝障害を示唆する
・Orcein 染色:ルーチンで染めていないところが多いかも.HBV のウイルスを同定できたり,銅(正確には銅結合蛋白)が陽性となる.ただいずれもまず滅多に見ないものなので,全例で染めるのは…というところ
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