どどたんせんせは毎年病理専門医試験で公開された問題を集計してデータベースを作成している.そのデータベースからいくつか抽出して考察をしてみる.
# 全体的には正答率は上昇する傾向
言うまでもなく,病理専門医試験では同じ問題が繰り返し出される.そのため過去問を丁寧にレビューすることが点数を上乗せするために必要になる.
多くの疾患では過去に出題されたときよりも正答率は上昇している.正答率が 4 点を超えるようなもともと正答率が高めの疾患は多少変動する程度である.そのため,究極的にはよくある疾患は全員が応えられるために出題しにくくなるが,それでも全員解答できる事を考えると,学習の基本は過去問によるべきである.
# 過去に出題されたものの今回正答率を下げた問題
その中で正答率が明らかに下がった疾患は以下の通りである.
- Adenomatous goiter
- Amyloidosis
- Asbestosis
- Endometrial stromal sarcoma, low grade
- Langerhans cell histiocytosis
問題の問われ方も多様化しており,疾患自体は知っていても設問に答えられなかった可能性がある.これらの疾患の共通点を指摘することは難しいが,例えば endometrial stromal sarcoma, low grade は leiomyoma/leiomyosarcoma との鑑別が難しくなることもあるし,Langerhans cell histiocytosis はある程度 working knowledge として鑑別診断に加えておかないと診断自体が難しい.教科書を参照できない状況下で診断を下すためにはある程度の経験を要する.
# 今回新規に出題された問題
分類の仕方によってだいぶ異なるが,2001-2021 までの過去の出題例から見て新規出題と思われる疾患を抽出してみた(亜型等での新規出題は除く).
- # Mucous cyst
- # Spirochete
- # IgG4-related sclerosing cholangitis
- # IgA nephropathy
- # Granulomatous orchitis
- # Adenomyosis
- Serous tubal intraepithelial carcinoma
- # Extramedullary hematopoiesis
- Osteochondroma
- # Toxoplasma infection
- # Eosinophilic esophagitis
- Metastatic clear cell carcinoma
- # Lactating mammary gland
- # Gynecomastia
- T-lymphoblastic lymphoma
- # Atrophic vaginitis
T-lymphoblastic lymphoma は ALL としては過去に出題されている.今まで(過去 20 年間に) IgA 腎症が出題されていなかったこと自体もびっくりだが,見てわかるように新規に出題される疾患の多くは非腫瘍性・良性疾患である.しかも日常診療で遭遇しうる絶妙なラインを問うている.特に今年はこの傾向が目立っている.
これは単に試験勉強ができているだけではなく,日常診断をきちんと行っているか,そして正常構造をきちんと把握しているかどうかという基本的な実力を問うている.あとは,腫瘍は遺伝子異常で診断される頻度が増えたため,古典的な HE 染色で診断というパターンが減っていることも考慮される.
特に細胞診の atrophic vaginitis は陰性症例として流され普段病理医の診断の場に登ってこない施設もあるかもしれない.病理専門医である以上は陰性症例であってもきちんと把握してその責任を果たしてほしい,というメッセージなのかもしれない.
# 今後の対策
今回の分析では過去問を完璧にすることで 82% の問題は正答を得られる可能性があることが分かり,疾患当クイズ (I+II 型) については現行の過去問やクイックレファレンスなどの勉強方法で十分である.
高得点を望む人や余裕のある人は「病理と臨床 2017年臨時増刊号 病理診断に直結した組織学」などの正常組織の復習するとさらに点数が上乗せされるであろう.
本記事ではあまり言及をしなかったが,I 型の○✕問題ではがんゲノム医療関連の出題も増えている.○✕問題は配点が少なくコストパフォーマンスが極端に悪いのだが,分子病理専門医を見据える意味でも勉強して損はないので,腰を据えてじっくり学習するのも良いと思われる.
法律関係や保険診療関係は学習をしようとしても幅が広くなるかつルールが変更されるので,深入りはおすすめしない.
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