# Introduction
- 虚血性壊死 ischemic necrosis は,循環障害により組織への酸素と栄養の供給が途絶し,細胞が不可逆的に死に至る過程を指す.
- 閉塞性動脈硬化や血栓・塞栓などによる血流遮断によって,エネルギー代謝の停止と膜構造の崩壊をきたす.
- 心筋梗塞はその典型例であり,虚血性細胞障害が時間依存的に不可逆化していく過程を示す.
- 可逆的障害では ATP 再合成によって回復可能だが,虚血が 20 - 30 分以上持続すると細胞死が不可避となり,凝固壊死として形態化する.
- 心肺蘇生は大体 30 分くらいで戻らなければ中止をすることが多い
# Body
虚血性壊死の発生と進行は,時間・部位・循環代替の有無により大きく異なる.
## 機序
- 虚血により酸化的リン酸化が停止し,ATP 産生が枯渇する.
- これにより Na+/K+ ポンプが失調し,細胞内 Na+・Ca2+ の蓄積と水の流入が起こる.
- 続いて乳酸産生による pH 低下,リソソーム酵素の活性化,細胞骨格の崩壊が進行し,最終的に細胞膜の不可逆的損傷に至る.
## 形態学的変化(心筋梗塞を例に)
- 0 - 6 時間:光顕的変化は乏しい.電子顕微鏡レベルでミトコンドリア膨化やクロマチン凝集を認める.
- 6 - 24 時間:好酸性化した細胞質,核の凝縮・消失(核濃縮 → 核崩壊 → 核融解)が出現.好中球浸潤が始まる.
- 1 - 3 日:凝固壊死が明瞭となり,好中球が壊死組織を取り囲む.
- 3 - 7 日:マクロファージが壊死組織を除去し,肉芽組織形成が開始.
- 1 - 2 週間以降:線維芽細胞の増生と膠原線維沈着が進み,線維性瘢痕として修復される.
- 線維性瘢痕となったら,それ以降は形態的に変化しない
- 時間経過とともに「壊死 → 炎症 → 修復」の一連の過程が明瞭に区別できる.
## 形態学的特徴
- 凝固壊死では,細胞構築が一時的に保持されたまま蛋白が変性し,好酸性に染まる.
- 心筋では核が消失し,横紋が不明瞭化するが,全体の輪郭は残存する.
- これが壊死組織の影 ghost appearance である.
# Practical Approach
- 虚血性壊死は単なる細胞死ではなく,循環障害という系統的破綻が形として現れたものである.
- 病理診断では壊死の広がりを見るだけでなく,それがどのように始まり,終息したかを読み解く姿勢が求められる.
- 心筋梗塞を病理学的に評価する際は,虚血の持続時間と再灌流の有無を念頭に置く.
- 急性期の好中球反応と出血性変化は再灌流の指標となる.
- 壊死巣の境界部では可逆性障害と不可逆性障害が混在しており,「どこまで戻れたか」を読むことが重要である.
- 光顕的所見に加え,臨床経過(心電図変化やトロポニン上昇)を含めて評価することで,病変の時間経過を重層的に理解できる.
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