# Introduction
- 有害刺激に対して細胞が一時的な機能障害を示すが,刺激の除去により回復可能な段階に対して,可逆性細胞障害と呼ぶ.
- 主な原因は,低酸素,虚血,化学物質,感染,機械的損傷など,細胞内のエネルギー代謝障害,イオン恒常性の破綻,酸化ストレスが中心的役割を担う.
- この段階では,細胞膜の構造と核の完全性は保たれており,ATP 供給が再開すれば機能が正常化する.
- 可逆性障害は,「細胞がまだ戻れる範囲で崩れている」状態であり,その限界を超えたときに不可逆性変化(壊死やアポトーシス)へ移行する.
# Body
可逆性細胞障害の形態学的変化は,障害の原因にかかわらずエネルギー代謝障害と膜機能の変化に集約される.
## 細胞腫脹 hydropic change
- 最も一般的な所見で,イオンポンプ機能の低下により細胞内 Na と水が増加する.
- 細胞質は淡明化し,微細空胞状の変化 vacuolar degeneration として観察される.
- 肝臓や腎臓などで特に顕著であり,可逆性障害の典型像とされる.
## 脂肪変性 fatty change
- 主に肝細胞や心筋など脂質代謝の活発な臓器でみられる.
- ミトコンドリア障害や酸化的リン酸化の低下により脂肪酸の β 酸化が抑制され,細胞質内に中性脂肪が蓄積する.
- 小脂肪滴の集積から大滴性脂肪変性まで多彩な像を呈し,慢性の低酸素状態やアルコール性肝障害でしばしば観察される.
## 細胞膜・小器官の変化
- 形態学的には微絨毛の短縮や脱落,ミトコンドリアの軽度膨化,粗面小胞体の拡張などがみられる.
- いずれも膜透過性とエネルギー生成の低下を反映しており,ATP が再供給されれば構造と機能は回復しうる.
## 生化学的変化
- 初期には乳酸産生の増加,細胞内 pH の低下,Ca2+ の流入がみられるが,この段階では細胞骨格と核構造は保持される.
- これらの変化は顕微鏡的には捉えにくいが,臨床検査値の変動(逸脱酵素の上昇など)として先行的に現れる.
# Practical Approach
- 可逆性障害は「戻れる病理」であり,病変の時間軸を読むための重要な指標となる.
- 可逆性から不可逆性に変わるポイントとして,ミトコンドリア機能不全の回復不能及び細胞膜(およびリソソーム膜)の構造的破綻が重要である.
- しかし,これらの現象を形態的に同定することは難しい
- 細胞腫脹や脂肪変性を観察したときには,その変化が急性か慢性か,そして原因が虚血性か代謝性かを考慮する.
- 可逆性障害の広がりや分布は,障害の初期段階や回復可能性を示唆する.
- 病理診断では厳密な推定は難しいが,「どの時点が細胞の限界か」考えながら診断を進めていくことが重要である.